サブスペシャリティ領域の専門医を取るのを急ぐ必要がない、というのは私の立場上は不穏当な発言かもしれません。しかし私自身、認定医には割とすぐになっていますが(卒後3年弱くらい)、総合内科専門医を取ったのは卒後10年目で、リウマチ学会の専門医を取ったのは更にその5年後のことです。埼玉医大に異動した当時はまだリウマチ専門医ですらありませんでした。しかし、そのために困った覚えは皆無です。少なくともリウマチ膠原病領域において重要なことは症例の経験を積み重ねることであって、試験勉強をすることではないと思います。座学が役に立たないとは言いませんが、臨床経験が伴っていなければほとんど意味がないとは言えるでしょう。実際、総合内科専門医の方が試験はずっと難しいと思いましたし、準備もそれなりにしました。

少々我田引水的な所がありますが、臨床医であっても博士課程に進学するのは悪くないと思います。私は3年間研修をしてその後すぐ博士課程に入りましたが、かなり視点が変わって良い経験になったと思っています。(苦労もたくさんあったはずですが、時間が経って忘れている可能性があります。)そして私自身も10人の大学院生を指導して来ました。彼らの多くは当初mRNAとタンパク質の区別もおぼつかない(!)レベルでした。全員博士号は取れたので、流石に今は両者の違いが理解できているはずと信じていますが・・・。

視点が拡がるのは間違いなく良いことだと思います。博士号を取ろうという人はどんどん減っているように見えるので、逆張りのメリットもあるかもしれません。海外に比べて医学レベルが低下することを懸念して、最近は色々な大学で「臨床研究医コース」というのがあるようです。ただし臨床研修と研究を並行で進めるというのは、そんな簡単なことではないような気がします。どちらも中途半端になることが一番まずいと思います。

自治医大には修士課程もあって、今年度当科にも一人参加してくれました。しかも破骨細胞研究がしたい、というピンポイントの志望動機です。考えてみると、私は修士課程の学生さんを担当したことがこれまでありませんでした。2年間しかないのであっという間ですね。もう論文をまとめ始めたほうが良さそうです。

さて、今年も終わりに近づいていますが、今年は長年のプロジェクトが一段落してホッとしました。2014年には着手しているので、論文発表までに少なくとも9年間かかっています(構想も含めるともっと長いことになります)。失敗に失敗を繰り返したこのプロジェクトについて、次回以降で紹介したいと思います。

佐藤 浩二郎

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