これは以前書いたことの繰り返しになる部分が多いと思いますが、高柳先生が破骨細胞のトランスクリプトーム解析に基づいて転写因子Nfatc1が分化の過程で著増することを見出し、報告したのが2002年のことです(Takayanagi et al., Dev Cell)。トランスクリプトーム解析の威力が強く印象に残りました。また、Nfatc1の増え方のレベルが凄まじく、数十倍(実験によっては数百倍)という増え方でした。これだけ増えるのだから当然重要な役割を担っているはず、と思うのが人情(?)です。しかしNfatc1のノックアウト(KO)マウスは胎性致死であったため、生体レベルでNfatc1の必須性を証明することは容易ではありませんでした。私の盟友(=くされ縁)だった朝霧先生がその壁を乗り越えるべく、高柳研(当時医科歯科大学)でNfatc1KO(-/-)およびヘテロ(+/-)マウスの造血幹細胞を、破骨細胞を持たず大理石骨病を呈するFos KOマウスに移入するという実験で、「Nfatc1+/-細胞を移入されたマウスは破骨細胞が分化して大理石骨病にならなくなる(レスキューされる)が、Nfatc1-/-細胞を移入されたマウスは破骨細胞が分化できないために大理石骨病が治癒しない(レスキューされない)」ことを示しました(J Exp Med 2005)。

この時とても面白い現象が確認されました。Nfatc1はタンパクレベルでは少なくとも3つの長さのアイソフォームがありそうなのです。大量に誘導されているNfatc1は一番短いアイソフォームでした。RANKLで刺激される前は長いものと中間の長さのものが検出されます。これは実はT細胞ですでに見つかっていた現象で、2005年の論文の共著者でもあるEdgar Serfling博士が詳細に解析していました(Chuvpilo et al., Immunity 2002)。そもそもNFATファミリー転写因子はT細胞で見つかった転写因子であり、その名も”Nuclear factor of activated T-cells”です(直訳すると「活性化T細胞の核内因子」くらいの意味)。そしてこのNfatc1にはプロモーターが2つあり、ふだんはP2というプロモーターが働いて、2番目のexonから転写が始まり、上記の長いタンパクや中間の長さのタンパクができます。しかしT細胞が活性化したり、破骨細胞前駆細胞がRANKLによる刺激を受けたりするとP1プロモーターが活性化して1番目のexonから転写が開始されます。つまり同じNfatc1と言っても頭の部分は異なります。それだけではなく、尻尾の部分も実は短くなります。遺伝子(DNA)は紐のような構造のイメージがありますが、実際にはプロモーターは先頭部分だけではなく尻尾の部分の転写も制御していることが分かります。DNAの3次元構造が重要であることが強く示唆されます。いずれにしろその結果、最も短いNfatc1のアイソフォームが産生されます。

佐藤 浩二郎

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