ノックアウトマウスを作っても、表現型が出ないことはある。そう自分に言い聞かせながら次のステップ、タンパク(この場合はNfatc1 short form)が作られていないことをWestern blottingで確認してみました。すると、

「野生型と同じ位置にバンドがある!?」つまりshort formができている??

これはあまりにも衝撃でした。しかも野生型と同じレベル(≒量)で、一見どちらが野生型か分かりません。これは衝撃でした。遺伝子を壊したはずなのに、遺伝子産物であるタンパクができているなどということはありえません。

 

 思わず2度見する、という表現がありますが2度と言わず何度もデータを見てしまいました。やっぱりバンドがある・・・。他に樹立した系統でも同様の結果が得られたため再現性があります。これは一体どうしたことか。short formはプロモーター1(P1)が働いて、エクソン1からmRNAの転写がはじまります。今回エクソン1を「壊した」わけです。無刺激の状態だとP2プロモーターが働いており、エクソン2からmRNAの転写が始まります。通常これはshort formよりも長いタンパクになるはずですが、それが何故かshort formと同様の短いタンパクになってしまうのでしょうか。しかしP2プロモーターにそんな複雑な作用があるとも思えません。そもそもRANKLで刺激した時にP2プロモーターが活性するのは考えづらいことです。

 外注した某社にメールで相談しましたが「そんなことありえませんね、何か間違っているんでしょう、Westernとか」みたいな冷笑的な返事が返ってきて、正直傷つきました。確かにWestern blottingというのは関係ない(≒非特異的)バンドが検出されやすかったり、解釈が難しいこともある手法です。しかしそれは目的とするタンパクを検出するための適切な抗体が手に入らないなどの場合であって、今回は非特異的なバンドが全然なく、RANKL刺激によってドカンとshort form(的な何か)が誘導されているのです。他の解釈はできません。

 実際、やはり間違っていたのはWesternではありませんでした。ごく早期に私が重大な思い違いをしていたのです。これは基礎の研究室だったらありえなかったミスのはずです。正に徒然草第52段、「先達はあらまほしき事なり」。吉田さん、良いこと言っているとしみじみ思います。

佐藤 浩二郎

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