徒然草第52段は仁和寺のお坊さんが初めて石清水八幡宮に参拝しようとして、一人で行ったために山の上の本殿まで行くことなく、その前で参拝終了、と勘違いして引き返してしまったという逸話ですが、仁和寺というのは当時も勢力のある寺だったようなので、からかいの対象になりやすかったのかもしれません。作り話ではないかという気がします。

閑話休題、謎はあっさり解けました(前回の本ブログを読んでいた人の中には予想がついていた人も多いと思います)。もう忘れたいと思っていることだからか、気づいた前後の記憶があやふやなのですが・・・。第1エキソンでタンパクをコードしているのはわずかに126塩基対、42アミノ酸の長さです。先頭は当然開始コドンであるatgであり、メチオニンをコードしています。しかしその下流にもう一つatgがあり、「読み枠がずれていない」のです(つまり、2つのatgの間の塩基対の数が3の倍数)。これに気づいた時には椅子から崩れ落ちそうになりました。何という基本的な間違いでしょうか。この37番目のメチオニン、第1エキソンのギリギリ末端のところにあるメチオニンから翻訳が始まったとしても、その下流のアミノ酸配列は当初考えていたタンパクの配列と同一になるのです。そのケースだと、上流の遺伝子にいくら変異が入っていたとしても影響はないでしょう。当然36アミノ酸分短くなりますが、Western blottingでその差を見分けるのは難しい程度です。もしatg間の塩基対の数が「3の倍数でなければ」読み枠がずれて似ても似つかぬタンパクになるため、当初の目的通りタンパクは完全にノックアウトされていたでしょう。

Nfatc1 short formの配列は公的なデータベースに載っています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NM_001164109.1

アミノ酸配列も載っています。しかし、載っているアミノ酸配列「以外は存在しない」なんてことを保証してくれるものでは全くありません。mRNAからタンパクが翻訳される際の、「翻訳開始点」を同定するのはそんなに簡単な作業ではないのです。

ほとんど人に相談することなく一人でプロジェクトを進めていたためにこんな初歩的な誤りを犯してしまったのですが、1回だけ、間違いに気づくチャンスらしいものがありました。それはコザック配列(Kozak sequence)と呼ばれる配列に関わる疑問点です。

佐藤 浩二郎

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