コザック配列(Kozak sequence)というのはウィキペディアによると「真核生物のmRNAに出現する共通配列であり、主に翻訳の開始に関与している」配列です。mRNAにリボソームが取り付いてアミノ酸をつなぐ作業を始める際に、このコザック配列が目印になっているのです。「なかでも開始コドンの3塩基上流のアデニン(A)またはグアニン(G)と開始コドンの次のGが重要な役割を果たすと考えられている」とのことで、元々信じていた翻訳開始点周囲の配列は
catgg atg ccaa となっており開始コドンの3塩基上流はT、開始コドンの次はCです。つまり全然一致していません。一方で、2番目のATG周囲の配列は
gcacc atg aagg であり、開始コドンの3塩基上流はAなので一致、開始コドンの次もAで、これは不一致 となります。
2番目のATG周囲の方がよりコザック配列と一致しているわけです。

ただ、ウィキペディアにも書いてあるように「厳密な共通配列ではなく、不一致のあることも非常に多い」ところがポイントです。上記下線部を2つとも満たすのが「強い」コザック配列であり、どちらか一方のみを満たすのが「妥当な」配列、両方とも満たさないのが「弱い」配列です。
想定していた翻訳開始点が弱いコザック配列だということには元々気づいていましたが、そこで「より妥当な翻訳開始点」を探すという発想には至りませんでした。弱いな、と思っただけでした。

もしかすると2番目の翻訳開始点「だけ」が重要で、最初のATGは全然開始コドンとして機能していないのかもしれません。それを確認する手段として、東大農学部の高橋伸一郎教授のアドバイスを頂きました。質量分析を使うのが良いだろう、ということです。島津製作所の田中耕一さんがこの技術の改良で2002年にノーベル化学賞を受賞しています。タンパク質を質量分析にかけるとき、レーザーでうまく気化させないと資料が分解されるだけに終わってしまうのですが、その「うまく気化させる」方法(=ソフトレーザー脱離イオン化法)を田中さんは開発したそうです。
それにしても質量分析なんてやったこともない・・・埼玉医大には機器らしいものがあるけれど、動作しているのかも不明、ということで、神戸の理化学研究所に資料を送付して解析してもらうことにしました(お金はちゃんと払いました)。

佐藤 浩二郎

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