新しい遺伝子改変マウス(ヘテロ)と野生型(wild type, WT)のマウスを交配すると、仔は1:1の割合でWTとヘテロマウスになりました。これは想定通りです。そしてヘテロマウス同士を交配するとその仔は・・・1:2でWTとヘテロマウスです。これは・・・前回の遺伝子改変マウスと明らかに異なります。ノックアウト(KO)マウスが胎性致死であることが強く示唆されます。

この結果のほうが当初の予想と合っています。以前報告されたNfatc1全体のKOマウスも胎性致死でした。Nfatc1の短いアイソフォーム(short form)だけをKOしても、やはり産まれてくることはできないようです。調べてみたところ13.5日くらいまでしか生きられていないようでした。Nfatc1全体のKOマウスとほぼ同じタイミングで(あるいはむしろ少し早く)死んでしまうのです。より長いNfatc1アイソフォームの遺伝子は潰れていないはずですが、それでは生存には全く不十分だということになります。

さて、そうするとKOマウスが大理石骨病になるのか、などは検証が難しいことになります。試験管内(in vitro)の解析が中心になりそうです。まあ11.5日くらいまで生きていてくれるのであれば、胎仔の造血の場である肝臓を取ってくれば破骨細胞分化の解析はできるでしょう。

・・・と楽観的に考えていたのですが、そうは問屋が卸しませんでした。WTやヘテロの胎仔の肝臓の細胞からは破骨細胞を分化させることが可能だったのですが、KOマウスからは分化させられない、というより細胞自体が育たなかったので分化しているかどうかの判断はできなかったのです。

通常の実験はこうです。(1)肝臓の細胞をM-CSFの存在化で培養する->(2)すると単球系の細胞だけが生き残る->(3)そこにM-CSF+RANKLを加えるとTRAP陽性破骨細胞が分化する。

(2)のステップが上手く行っていないようで、ステップ(3)の検証ができていません。肝臓に単球系の「前駆細胞」が存在していないということかもしれません。はたと困りました。

T細胞やB細胞であればこのような場合の解決策は、KO胎仔由来の造血幹細胞をRag2KOなどのT, B細胞のいないマウスに移植するというやり方が考えられます。私自身昔c-Maf KOマウスの解析などでやったことがあります。

佐藤 浩二郎

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