ヒトサイトカイン・ケモカインの話は前回までで一段落として、破骨細胞の話に戻ります。医科歯科時代(2006年)にTh17細胞が破骨細胞分化を促進するということを報告し、そのメカニズムはIL-17が骨芽細胞に作用して、破骨細胞分化因子(RANKL)を誘導することだと考えていました。関節リウマチの、骨破壊が起きている関節局所では、骨芽細胞の代わりに滑膜線維芽細胞がその役割を果たしていると予想していました。滑膜線維芽細胞はプレート内で培養できるので、そこにIL-17を加えてやればRANKLの誘導が観察されるはずです。その実験は埼玉医大にいる時に行いました。IL-17をふりかけたサンプルとふりかけていないサンプルを回収してRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を行うだけの簡単な実験です。トランスクリプトーム解析も実用化された直後に比べると費用が相当下がり、手が出しやすくなっていました。その結果を見ると・・・何と、RANKLのmRNAレベルの発現は”absent”と評価されていました。IL-17の有無に関わらず、です(図)。

Affymetrix社のGeneChipは独特のアルゴリズムでmRNAが発現しているかどうかを統計的に判断しているようです。皮肉なことに、RANKLの囮受容体でありRANKLのシグナルを遮断する分子のOPGは”present”と評価され、しかもIL-17で誘導されるようでした。RANKLとOPGはGeneChip上にそれぞれ2つずつプローブが乗っているようで、どちらも同じようなパターンを示しました。またもや自分の仮説を否定する羽目になったようです。

他にも色々なケモカイン、特に好中球の遊走に関わるケモカインや、炎症性サイトカインであるIL-6はかなり誘導されていました(表)。培養上清を用いてELISAにより定量を行うとやはりそれらのケモカインやIL-6はタンパクレベルで増えていることが確認できました(Ota M et al., J Bone Miner Metab. 2015)。Th17細胞は好中球応答に重要なT細胞と考えられているので、この結果は妥当なものです。しかし、そうするとTh17細胞が破骨細胞分化を促進するという現象のメカニズムについては振り出しに戻った格好です。

佐藤 浩二郎

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