イベント開催報告(2022/10/29)

報告

2022年10月29日(土)、リベラルアーツカフェVol.114『エイジング・イン・プレイス~住み慣れた地域で暮らし続けること~』が、栃木県下野市内の介護付有料老人ホーム 新(あらた)カフェ「くりの実」と、オンラインのハイブリッドにより開催されました。本イベントは、当研究室(講師:渡部麻衣子)とリベラルアーツとちぎ(代表:藤平昌寿)との共催により実施されています。

話題提供者は公認心理師で、慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室ベネッセスタイルケア ベネッセ シニア・介護研究所にも所属されている江口洋子さん。江口さんと数名の参加者による現地参加と、全国各地(北海道から中国地方までいらっしゃいました)からのオンライン参加により、和やかに行われました。
はじめに、会場を提供いただいている新の施設長や介護クリエーターの皆さんから施設の概要等をご説明いただき、参加者全員の自己紹介を経て、江口さんからの話題提供へと進みます。


(写真中央が江口さん)

江口さんご自身は神経心理学がご専門で、記憶や思考、判断などといった高次脳機能についての研究をされています。その過程で、85歳以上の「超高齢者」、100歳以上の「百寿者」といった方々の生活に触れることも多く、そこから今回のテーマへと繋がっていきます。
今回のテーマでもある「エイジング・イン・プレイス」(AIP)とは、1980年代末にアメリカで生まれた「住み慣れた地域で暮らし続けること」といった概念を指すそうです。主に超高齢者が住み慣れた地域で暮らしていく実態調査などもされているとのことです。江口さんが調査を続けている東京都荒川区での事例などもご紹介いただきました。
江口さんから参加者の皆さんへ「AIPを実現している超高齢者が、地域で生活しやすいと感じる要素が不足していた場合、どうやって乗り越えるか? あるいは、乗り越えられなかった場合は不幸と感じるか?」という問いが提示されます。ここでいう要素とは、例えば「土地が平坦で移動がしやすい」「交通の便が良い」「買い物がしやすい」といといった地理的特性や、「ご近所さんと話がしやすい」「いつも気にかけてくれる」といった近隣住民との関係性などを指します。

江口さんの問いから対話をスタートします。参加者の発言またはオンラインチャットから、問いや返答、新たな考えなどが次々と繰り出されます。詳しいレポートはリベラルアーツとちぎ公式サイトに掲載されますが、対話で出てきた主なトピックは次の通りです。

  • •近所の独居老人に手を差し伸べる方法やタイミングなどが難しいと感じる。地域包括ケアなども存在するが、他地域での状況などを知りたい。
  • 田舎だと人口密度が低く、「スーパーで会う人がご近所さん」という感覚は薄い。手を差し伸べるという所に繋がらない気がする。
  • 高齢者の記憶障害について話があったが、好奇心も重要な役割があると思う。AIPではどのように位置づけられるか?
  • 母が寒冷地の一軒家で一人暮らし。昨年は大雪で行政の除雪が間に合わず、近隣の方の助力や民間サービスの利用もあるが、玄関から出られなかったり、落雪で隣家とトラブルになったりした。気候的に過酷な地域での高齢者の自立は難しいと痛感している。
  • 実際の感覚からすると、高齢になって動きにくくなってから「外に出よう」というのはなかなかハードルが高いと思われる。逆に、子育て終了頃~シニア前ぐらいの間に「外と交流を持つ」経験をされてきた方々を見ると、高齢になっても比較的アクティブに動けている印象がある。
  • 交流に対する男女差も顕著に感じる。地域の交流には男性よりも女性が出てくる割合が多く、地域における男性高齢者の問題は非常に気になる。
  • 荒川区はコミュニティが成立しているが、都内では非常に特殊な感じを受ける。他では自治会が崩壊している地域も多く、そのような地域でAIP比較検討してはどうか?
  • 高齢者であっても「問いかける」機会は必要。問いかけ方などいろいろ考えられるのでは。
  • 一人一人が「自分らしく=わがまま?に生きていいと認知できること」が重要なマインドセットだと思う。自分が幸せになっていいことを許容する。結果的に他者も幸せになれると感じる。

このような発言から、それぞれのトピックを掘り下げていく対話を1時間半にわたり、ノンストップで行いました。カフェ終了後、現地参加の皆さんは新(あらた)の施設を見学させていただき、今日の話の内容を肌で感じながら、更に考えを深める良い経験となりました。

ハイブリッドでの対話という、当研究室としては初の試みではありましたが、非常に良い経験となりました。今後もこのような倫理的なテーマについて、市民の皆さんとのフラットな対話を重ねていきたいと考えております。次の機会にもぜひご参加いただき、可能な方はぜひ現地参加でお会いできればと思います。

[報告:藤平 昌寿 写真:岡部 祥太]

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