教授あいさつ
この度、令和5年7月1日をもちまして歯科口腔外科学講座教授を拝命致しました。
私は、北海道医療大学歯学部を卒業し、直ちに当講座にレジデントとして採用され現在に至ります。入局当初に思ったことは、医学部附属病院の口腔外科は、多岐にわたるニーズに対応しなくてはならないことです。守備範囲は広いが浅い知識や技量では、患者様が満足いく医療に到達できないと研修医の頃は感じておりました。特に口腔癌に関しましては卓越した技術や知識が求められます。今まで多くの患者様に携わる機会をいただき、スキルがそのまま患者様の予後や身体機能に直結することに身を以て経験して参りました。そんな中で、私が特に恵まれていたと感じることは、影響を与えてくださった多くの先生方との出会いです。当講座初代教授の赤坂庸子先生には、口腔外科的疾患に限らず全身と口腔疾患の関連についての基礎知識をしっかり叩き込んで頂きました。そして、口腔癌を専門としてやっていきたいと切望している時期に、草間幹夫先生が当科2代目教授として東京医科歯科大学より赴任され、口腔癌治療を行う体制が確立し、手術のいろはから多くのことを学ばせていただきました。先天奇形(口唇口蓋裂)では、少子化や診療科の細分化により経験する症例が減少傾向にある中、2009年より現在までベトナムでの口唇口蓋裂の医療援助に参加させていただき、当時東京歯科大学口腔外科教授で、現在NPO法人Tokyo Smile Foundation(TSF)理事長の内山健志先生の指導を仰ぎ、数多くの症例を経験させて頂いております。また、主に歯学部の口腔外科では専門性の高い顎変形症では、以前は症例数も少なかったのですが、その道のスペシャリストである森 良之先生が3代目教授として赴任され瞬く間に症例数も増加し、今では口腔癌、口唇口蓋裂と共に当科で行う主力手術の3本柱の一つとなっています。また、口腔癌治療のさらに踏み込んだ技術・知識の習得を目的に、名古屋第一赤十字病院歯科口腔外科部長の大岩伊知郎先生のもとでの国内留学と、口唇口蓋裂と顎変形症では世界的権威であるカナダのダルハウジー大学顎顔面口腔外科のPrecious教授のもとに海外留学経験をさせていただいたことは、より多くの見聞を深めることができ、これらの経験が私の医療人としての大きな根幹になっていることは間違いありません。
研究面では、口腔粘膜疾患の病態形成機序を解明することを目的とした基礎的研究に携わっておりましたが、当大学の皮膚科の先生方に指導を仰ぎ、ケラチノサイトに発現する接着分子に関する研究で学位を取得させていただきました。
また、私の専門とする口腔癌に関する基礎ならびに臨床研究につきましても、各科の多くの先生方にご協力・ご指導頂き継続して参りました。今こうして振り返りましても、大切な時期にそれに相応しい素晴らしい先生方と巡り会うことができたことは、とても幸運なことだと思っております。
指導的立場にある現在、当科には21名の常勤医局員、4つの当科関連病院に5名の派遣医と非常勤医員45名、非常勤(研究員)10名を加え総勢81名が所属しております。
外来新患数は年間5,000人以上で、再来患者数は34,000人に上り、その中で外来手術件数も約1500例を数えます。また入院患者数は年間約350人、全身麻酔手術は約250件となっており、数多くの口腔癌治療と機能的再建手術、顎変形症に対する顎矯正手術、唇顎口蓋裂の顎発育誘導・咬合改善手術を積極的に行っています。研究面では、基礎研究ではヒト舌癌オルガノイドバイオバンクの構築、口腔前癌病変の悪性化に伴うエピジェネティックな変異と遺伝子情報調節の解明、口腔がん腫瘍微小環境の解明を目指した新規バイオマーカーの探索をはじめ多くの研究が継続中です。臨床研究では口腔悪性腫瘍患者の治療成績・予後不良因子に関する研究、下顎再建術後の機能的評価および形態学的再現の評価、外科的矯正手術前後における咀嚼運動時の高次脳賦活用相の解析、口腔扁平上皮癌間質反応の臨床的意義の検討、口腔粘膜疾患の新しいスクリーニングと診断方法の開発についての研究などを継続して行っています。教育面では、医学部学生に対する歯学教育では、将来指導的立場の総合診療医となるべく、歯科口腔外科疾患の診断と治療に関する知識の習得を目標としたカリキュラムを編成し実践しています。また医学部3年生を対象に臨床医学II講義10コマを担当し、口腔の基礎知識からう蝕、歯周病をはじめ口腔癌、顎変形症、不正咬合、先天異常、外傷、炎症、粘膜疾患、嚢胞など顎・口腔領域の疾患について教育しています。また5年生に対するBSLは2.5日/週、12週を選択制として担当し、口腔外科疾患の重要性をリマインドしています。研修医・レジデント教育では、医科と情報を共有できる歯科医師を育成し、大学あるいは病院で指導的立場がとれる歯科医師の育成を念頭に置いています。
医学部で学べる環境を大いに活かして、知識や技術の習得は勿論ですが、臨床に還元できるトランスレーショナルリサーチができる環境づくりに努め、学位、認定医・専門医の取得支援など研修医から一貫した継続性のある教育システムを構築して参りたいと思います。
微力ながらこれからも臨床・教育・研究に貢献できるように努めて参りますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。
歯科口腔外科学講座
野口忠秀