形成外科学講座

形成外科とは

形成外科とは、主に体表の先天異常や欠損を外科的に修復することによって、患者様の外貌に基づくQOLや組織の機能の改善を目指す診療科です。全身における、皮膚、皮下組織、血管、末梢神経、筋膜に至る体表の組織を扱い、頭蓋や顔面では骨の修復までをも担当します。

具体的には、交通事故などの外傷や熱傷(特に顔面や指、手足)、顔面や手指の骨折、皮膚や皮下組織の腫瘍、乳房や頭頚部などがん切除後の再建、ケロイドや傷痕の問題など、あらゆる後天性の欠損や変形を扱います。褥瘡や糖尿病を原因とする難治性皮膚潰瘍などの治りにくい創の治療、膠原病や炎症性の病気に伴う組織の萎縮や変形の治療、眼瞼下垂、爪の病気や多汗症など、全身にわたり、造形にかかわる病気とその悩みを解決するための治療を行っています。

自治医科大学附属病院では、顔面 ・ 躯幹 ・ 手足などの体表の先天異常に関する治療(15歳未満)は、『小児形成外科』で扱っています。また、美容や加齢に伴う若返り治療などは、『美容外科』で扱っています。

ごあいさつ 

自治医科大学形成外科学講座のご案内  吉村浩太郎

自治医科大学の形成外科学講座には、3つの診療科があります。自治医科大学附属病院では“形成外科”と“美容外科”が、栃木子ども医療センターでは“小児形成外科”が、診療を行っております。“形成外科”では、全身にわたる体表の疾患や外傷、術後の変形や欠損の治療を行います。顔や手では、骨折の治療も行います。“美容外科”では、疾患以外の外貌に関する要望に応えます。“小児形成外科”では、15歳未満の患者の形成外科を行っており、主に頭蓋顎顔面や手足の先天異常の治療になります。

我が国での形成外科の生い立ちは約60年前のことです。当時先天異常を扱っていた3つの診療科(耳介などの奇形を扱う耳鼻科、手足の奇形を扱う整形外科、あざを扱う皮膚科)の寄り合いで、新しい診療チームが組織されました。Plastic Surgeryの訳語として、学会の名称には“形成外科”という文字を使うことに決まりました。ちなみに中国や台湾では、“整形外科”(形を整える)と書きます。日本の整形外科のことは、中国語では“骨科”(骨を治す)と書きます。美容外科は、中国語でも“美容外科”と書きます。

その後、形成外科は体表の先天異常や外傷の修復を扱うだけでなく、手術や外傷に伴う組織の大きな欠損を再建するようになりました。1970年代からマイクロサージャリーの技術が生まれてからは、血管・神経の解剖に基づいて移植可能な組織が身体中で調べ尽くされ、様々な術式が生まれました。臨床における多くの試行錯誤を経て、発展し洗練されていきました。形成外科の今後の発展としては、組織の再生医療と肥沃化医療を挙げることができます。

形成再建外科はその発展の歴史の中で、患者身体の“ある部分”の再建をするために、患者の身体の“別の部分”を傷つけ犠牲にして(移植するための組織を採る)きました。形成外科領域で開発された様々な術式は高度成長期を経て、発展を続け、21世紀に入り円熟期を迎えました。形成外科はいま、一つ一つの術式に伴う潜在リスクと身体の犠牲を、正当化し最小化する必要に直面しています。その究極の解決法が、ゼロ(幹細胞)から組織を新生する再生医療です。試験管内で組織や臓器を作らなくても、体内に存在する幹細胞の挙動を体外から制御することだけでも、体内で適切に組織を新生させることができることもわかってきました。細胞の挙動を制御する技術の開発が、この医療の道筋になっています。

形成外科は、これまで主に組織の形や量を変えることでその治療目的を達してきました。しかし、組織の質(機能)を変える、改善する、ことはできませんでした。質の悪い病的組織、それは虚血で、治癒能、予備能、伸展能がない組織で、その多くは慢性炎症や線維化(石灰化)を伴います。組織が本来持つべき幹細胞や増殖因子はすでに消耗して枯渇してしまった不毛な組織になっています。重症のものでは、何かの手術をしてもその手術創自体が治癒できない状態に陥っています。代表的なものは、がん治療で放射線治療を行った周辺組織です。自己免疫疾患もそうですし、虚血性疾患、線維性疾患や代謝性疾患でも慢性炎症の成れの果てとして見られる病態です。これらは、体表組織に限られるわけではなく、全身にわたる多くの臓器に共通して起こりうる病態です。このような不毛の組織を、元通りに戻すのが、肥沃化治療です。すでに乳がんの温存治療などの放射線障害組織や糖尿病性慢性皮膚潰瘍において、その治療効果が明らかになっています。これからの形成外科は、組織の質、機能も治していきます。当形成外科学講座では、こうした分野で世界をリードする研究や治療を行っています。

当形成外科学講座では、体表の外傷、顔面骨骨折、広範囲熱傷、手指の断裂や骨折をはじめ、多くの救急外傷にも積極的に対応していきます。また、こうした外傷の治癒後の変形や運動制限(拘縮)の治療、また肥厚性瘢痕やケロイドの治療、さらには美容的なキズ痕のケアも行っています。小児形成外科で行う先天異常の治療は高く評価され、治療の難しい患者様が近隣から数多く紹介されてきます。さまざまな癌の切除後に見られる組織の欠損の再建治療、骨・筋肉や内臓の露出部位の被覆再建、症状固定した顔面神経麻痺の再建、放射線障害や炎症性疾患による組織の萎縮、拘縮や痛みの治療を行います。傷痕や引きつれに伴う痛みや運動制限の多くは、実は適切に治療することが可能です。我が国の形成外科で統計上最も多く行われている手術は、加齢性の眼瞼下垂の手術で、これは入院なしでも行うことが可能です。腋、性器、臍、髪の毛や爪など、全身の体表の悩みに対応しています。今後は、褥瘡、糖尿病性潰瘍、放射線潰瘍、骨髄炎をはじめとする、様々な慢性難治性皮膚潰瘍についても、積極的に対応していく所存です。患者様の生活上のお悩みがあれば、お気軽に院内のご紹介をいただけますようにお願い申し上げます。また、何かお気づきの点がございましたら、ご面倒でも一言ご指導、ご指摘を賜れましたら、幸甚に存じます。

 

形成外科で扱う疾患