形成外科学講座

頭蓋骨縫合早期癒合症

頭蓋には縫合という骨同士の継ぎ目があり、縫合に対して垂直方向に頭蓋骨は成長します。頭蓋骨縫合早期癒合症は、単一あるいは複数の頭蓋縫合が早期に癒合してしまうことによって、頭蓋骨の成長が妨げられ、頭蓋の変形や頭蓋内圧の亢進などを引き起こす疾患です。早期癒合する縫合によりそれぞれ特徴のある頭蓋形態を呈します。矢状縫合早期癒合による舟状頭蓋、片側冠状縫合早期癒合や片側人字縫合早期癒合による斜頭蓋、両側冠状縫合早期癒合による短頭蓋、前頭縫合早期癒合による三角頭蓋などが主なものです。また複数の縫合線が早期に癒合すると、尖頭蓋(塔状頭蓋)やクローバーリーフ頭蓋と呼ばれる変形を来します。

頭蓋骨縫合早期癒合症には、頭蓋以外に問題のない非症候群性のものと、中顔面の低形成や手足の変形を合併する症候群性のものがあります。非症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症の原因はまだよくわかっておらず、特発性(遺伝との関連は薄い)のものがほとんどです。症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症(クルーゾン症候群、アペール症候群、ファイファー症候群など)は、線維芽細胞増殖因子受容体の遺伝子変異が原因として同定されています。

治療について

頭蓋骨縫合早期癒合症に対する治療の目的は、頭蓋内容積を拡大することによる脳の発達障害の予防と、頭蓋変形の改善です。脳の発達障害を予防するためには、1歳前に手術を受けることが望ましいとされています。当院で行ってきた手術方法について解説します。

頭蓋形成術

頭蓋骨を分割して、骨片を前進させたり組み換えたりしたうえで固定する方法です。1回の手術で良好な形態の頭蓋を作製することが可能ですが、① 手技が煩雑になりやすく、侵襲が比較的大きい、②一時的に頭蓋骨と硬膜の間にスペースができるため、潜在的な感染のリスクがある、③延長量に限界があり、後戻りも大きい(頭蓋を拡大すればするほど、閉創の際に皮膚にかかる負担が大きくなるため)といった欠点があります。そのため、現在我々は、頭蓋内容積の拡大がそれほど必要ない片側冠状縫合早期癒合症による斜頭蓋に対してのみこの方法を適用しています。

頭蓋骨延長法(内固定式骨延長法)

内固定式骨延長器を用いた頭蓋骨延長法は、1996年に菅原康志前教授が開発した方法で、現在ではスタンダードな術式の1つとして確立されています。術後に1ヶ月ほどかけて骨を延長することにより、一期的な頭蓋形成術よりも大きな拡大量を得られることが優れている点です。しかしこの方法は、原則として1つの骨片を1方向にのみ延長するため、変形の進んだ骨片の形態を改善することができず、形態的に満足のいく結果を得ることができない場合もありました。また、内固定式の骨延長器では、装置の脱落・破折・露出・感染など、合併症が比較的多く発生することも問題点のひとつでした。

MCDO法(外固定式骨延長法)

内固定式骨延長法の欠点を解決するために開発されたのがMCDO法(Multi-directional Cranial Distraction Osteogenesis: 多方向性頭蓋延長術)です。タイル状に分割した頭蓋骨を、ヘルメット型の延長器を用いて垂直方向に牽引することにより、あらゆるタイプの頭蓋骨縫合早期癒合症に対して良好な頭蓋形態を獲得できるようになりました。これまで59症例に行い(2016年8月現在)、良好な結果を得ています。MCDO法の特徴を以下にまとめました。

  1. MCDO法では、従来の内固定式延長法と比較して、延長期間が約1/2に短縮されました。これは骨片を多方向に延長することにより、頭蓋内容積を効果的に拡大できるためです。多くの場合、骨延長期間は10日前後で、1回目の入院期間は14-17日です。

  2. MCDO法では、 従来の内固定式延長法と比較して、保定期間(延長器を抜去するまでの期間)が約2/3に短縮されました。これは一つあたりの骨の移動量が少なくすむため、骨と骨の隙間に仮骨が早く完成するためです。多くの場合、保定期間は4-6週間です。

  3. 延長器は、小さなピンを介して頭蓋骨に固定されているため、抜去に際しては皮膚を切る必要がありません。このため装置の抜去は、マスク換気下に約5分で終了します。2回目の入院は、2泊3日です。

  4. この治療法の詳細はこちら

Q&A

頭蓋骨縫合早期癒合症はどのくらいの確率で発症するのでしょうか?

1万人に4~10人くらい発症するといわれています。

放っておくとどのような問題を生じますか。

頭蓋内容積が脳の大きさに比べて小さいことにより、脳の発達が妨げられて頭蓋内圧が上昇し、知能や運動能力の発達が遅れたりする可能性があります。単一縫合の早期癒合では、1歳になるまでに手術を行えば、影響は少ないとされています。ただ、どの程度までの変形なら手術をしなくても許されるのか、あるいはどのくらいの頭蓋内圧の上昇が続くと脳の発達に影響が残るかは、実はまだよくわかっていません。複数の縫合の早期癒合は、生命に関わることもあるため、1歳よりも早い年齢や複数回に分けて手術を行うことが望ましいとされています。また、頭蓋が変形することによる整容的な問題が生じます。頭蓋の変形は成長とともに進行し、場合によっては顔面の形態に影響(目の位置や頬の形などの歪み)が出る場合もあります。

どんな種類の治療方法がありますか。

現在のところ、手術による治療しかありません。頭蓋縫合早期癒合を伴わない頭位性斜頭蓋(いわゆる寝癖による頭蓋変形)に対しては、矯正ヘルメットによって治療することが可能ですが、2016年の時点では保険適応外であり当院では行っておりません。

手術は安全ですか。

頭蓋骨縫合早期癒合症の手術は、難しい手術の部類に入ります。しかも小さな赤ちゃんですので、多くの場合手術中の輸血が必要ですし、術後も全身の管理が必要となります。しかし、当院では形成外科医だけではなく、麻酔科医、集中治療医など、多くのスタッフがチームで治療にあたりますので、それほど危険な手術というわけではありません。手術によって得られる効果を考えると、治療を受けた方が望ましいと考えられます。

手術は1回で大丈夫でしょうか。

単一縫合の早期癒合では、ほとんどの場合1回の手術治療で良好な結果を得ることができます。しかし複数の縫合の早期癒合では、2~3回の手術が必要となる場合があります。

骨延長法の場合、延長中の痛みはありませんか。

痛みはほとんどないようです。ただ皮膚がやや引っ張られるので違和感のようなものがあるかもしれません。ほとんどの赤ちゃんは、延長期間中・保定期間中もけろっとしています。

セカンドオピニオンを受けたいのですが、どうすればよいですか。

通常の外来とは別枠で1時間程度のお時間をお取り致しますので、担当医(須永)との調整が必要となります。現在の医療機関からの診療情報提供書と画像情報(CD-R等の電子媒体)をご用意頂いたうえで、0285-58-7110(平日9時から17時、自治医科大学附属病院医事課セカンド・オピニオン担当)にお電話して下さい。

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