形成外科学講座

顔面骨骨折

骨折のなかで、顔面の骨折は、形成外科で治療が行われます。その理由は、顔面骨折の治療目標は、機能性、整容性の改善であり、そのためには、骨だけでなく骨の上に存在する顔面の複雑な神経、血管、筋肉などの軟部組織の治療、知識を十分に持つ必要があるからです。また、形成外科は手術の際の切開を出来るだけ目立たないように設定する為の様々なテクニックを持ち合わせています。当科は顔面骨骨折を含めた顔面領域の疾患の取り扱いに特に力を入れており、それらの知識、技術を生かした最善の治療を提供しています。

顔面骨骨折の原因は、なんらかの外傷によるものです。診断は、主に身体所見、CTなどの画像検査にて行います。症状、治療方法は、骨折部位により異なりますが、骨折部を生体親和性の高いチタンプレートもしくは吸収性プレートで固定してきます。


① 鼻骨(びこつ)

鼻骨は顔面骨骨折のなかで最も頻度が高い骨折です。症状は、鼻出血、鼻変形(斜鼻変形、鞍鼻変形)、鼻閉を認めます。基本的に受傷後4-10日で手術を行います。大人では、局所麻酔下での徒手的整復術を行います。皮膚切開などは行わず、専用の器具を鼻孔内にいれて偏位した骨片を元の位置に戻します。手術時間は15分程度です。入院の必要はありません。小児では全身麻酔下で手術を行います。術後は、3日程度鼻孔内にガーゼを入れ内部から骨片の位置を維持し、専用のギブスにて2週間程度外部から骨折部位を保護します。


② 頬骨骨折(きょうこつこっせつ)

顔面骨骨折のなかで、鼻骨骨折に次いで多い骨折です。症状は、整容面では、頬部の平坦化、眼球の位置異常、外眼角下降が生じます。機能的障害としては、眼球運動障害にともなう複視、転位した骨片による側頭筋圧迫もしくは下顎骨への干渉に起因する開口制限が認められます。骨折により神経を圧迫することで頬部から前歯部歯肉に知覚障害を生じることもあります。基本的に受傷後2週間以内に手術を行います。手術は全身麻酔で行われ、入院期間は2泊3日です。 手術時間は1時間程度です。骨折は多くの場合3箇所で認められ、その偏位の程度により必要な数のプレートで整復固定します。切開は、ほとんどの場合、口腔内、眼瞼結膜など、体表にでない部位に行います。骨片の偏位が強い場合は、眉毛外側部2cm程度切開を入れることもあります。


③ 頬骨弓骨折(きょうこつきゅうこっせつ)

症状は、頬部の内方への凸型変形です。手術は、基本的に受傷後2週間以内におこない、全身麻酔・局所麻酔のどちらでも可能です。全身麻酔であれば2泊3日の入院が必要となります。局所麻酔であれば入院の必要はありません。手術時間は15分程度です。側頭部毛髪内に2cm程度の切開をいれ、そのから整復します。プレートなどの固定は必要有りません。

④ 眼窩骨折(がんかこっせつ)

外力により、眼球周囲の筋肉や脂肪組織が眼窩の薄い骨を破り、周囲の副鼻腔(上顎洞や篩骨洞)に嵌頓した状態です。症状は、複視(嵌頓した筋肉の動きの制限により、ものが二重に見える)、眼球陥凹(嵌頓した脂肪組織により、眼窩内容が減少し、眼の突出の程度が左右で異なる)、眼窩底部を走行する神経を損傷することで、頬部〜前歯部歯肉に生じる感覚鈍麻です。大人では、複視・眼球陥凹の程度により手術を行うがどうか決定します。小児では、激しい嘔気、目眩を認めることがあり、この場合は緊急手術が必要になります。骨折は、眼窩底部に多いですが、内壁に起こる場合や、内壁と底部を合併することも少なくありません。手術は全身麻酔で行い、手術時間は、底部もしくは内壁のみであれば30分程度、眼窩底と内壁の合併骨折の場合は1時間程度です。入院期間は2泊3日です。手術は、眼瞼結膜の切開のみで行い、体表に切開線がでることはありません。眼窩骨折用のチタンメッシュプレートにて整復します。

⑤ 上顎骨骨折 (じょうがくこつこっせつ)

骨折の部位により、Le Fort(ル・フォー)I型、II型、III型、矢状骨折に大きく分類されます。症状としては、 Le Fort I型・矢状骨折では、咬合異常、上顎の動揺性、歯周組織の知覚異常などが認められます。Le Fort II型・III型では、これらの症状の他に、顔面の高度腫脹、頭蓋底損傷による髄液鼻漏・嗅覚障害が認められることもあります。手術は基本的に受傷後2週間以内で行います。手術時間は、 Le Fort I型・矢状骨折では、2時間程度ですが、Le Fort II型・III型では、受傷してからの日数や、偏位した骨片の状態などにより3時間から6時間です。入院期間は多くの場合1週間程度です。切開は、 Le Fort I型・矢状骨折では口腔内のみですが、Le Fort II型・III型は、口腔内の切開に、頭部の冠状切開、眼瞼結膜切開が加わります。術後咬合改善目的に顎間ゴム牽引を1ヶ月程度行うこともあります。

⑥ 鼻篩骨骨折(びしこつこっせつ)

内眼角部離開(左右の眼の間が開いてしまう)、内眼角鈍化、鞍鼻、短鼻、眼窩縁の段差などが認められます。機能的障害としては、涙道閉鎖による流涙を認めます。手術は基本的に受傷後2週間以内に行います。全身麻酔下で行い、手術時間は6時間程度、入院期間は1週間程度です。切開は、頭部の冠状切開、口腔内と鼻腔内の切開、眼瞼結膜切開による行います。

⑦ 前頭骨骨折(ぜんとうこつこっせつ)

整容性での症状は”おでこ”の陥没です。機能面では、前額部の知覚障害、眼窩内に骨片が入り込むことで眼球運動障害による複視を生じます。また髄液鼻漏を認めることもあります。手術方法は、骨折が前頭洞を含む場合と、含まない場合により異なります。含まない場合は骨片を整復固定します。前頭洞を含む時は、場合により鼻前頭管処置が必要となります。手術時間は前頭洞の有無、前頭洞前壁・後壁の処理などにより異なりますが、2から4時間程度です。入院期間は1週間程度です。

患者様

形成外科で扱う疾患