形成外科学講座

腫瘍切除後の変形(頭頚部再建)

頭頸部部再建について

「腫瘍」は人のからだのあらゆるところに発症します。腫瘍の切除はそれぞれの部位を専門とする外科医によって行われますが、その後に、皮膚、筋肉、骨、粘膜などが失われ、術後に大きな機能障害が残りうる場合には、われわれ形成外科医が修復・再建にあたります。

からだの中でも「頭頸部」には重要な機能が密集しており、再建が必要とされることが多い領域です。具体的には、食道や口腔粘膜、舌などは、食事を採るのに必要ですし、顔面骨や下顎骨の再建も、形態維持のために必要となります。多くの場合は、腫瘍外科医が形成外科に一期的再建(腫瘍切除と同時に行う再建)を依頼しますので、形成外科医が欠損に合わせて腹部や大腿、足や腰の骨などを移植して再建を行います。

再建の方法によって、食事で例えれば、流動食をどうにか食べられる状態から、硬いものを噛んで食べられる状態まであります。また、整容においても、どうにか皮膚で覆われている状態から、手術の跡がほとんど分からない状態まであります。こうした機能や整容を、可能な限りよい状態に持っていくこと、つまり「QOL(生活の質)」を高める方法で再建を行うように心がけています。

二期再建について

腫瘍切除後に何らかの理由で十分な再建が行われない場合があります。腫瘍切除は「腫瘍」を切除することが目的であり、手術の侵襲を考えて、たとえば、「整容」は後回しにされたり、とりあえず人工的なもので再建されたりすることがあるからです。

たとえば、右の写真は下顎骨を切除された後に金属のプレートで再建された患者さんです。人工物の多くは何も問題はないのですが、時々、皮膚を突き破って出てきたり、化膿したり、折れたりすることがあります。この場合、患者さんと相談し、自分の骨、つまり、下腿の骨(腓骨)や腰の骨(腸骨)を使います。

顔面骨の場合は、腫瘍の性質や欠損機能の問題で一期的再建が行われないことが比較的多くなります。しかし、「ものが二重に見える(複視)」や、「食事が鼻にもれる(瘻孔)」などはQOLを低下させます。それだけでなく、「整容」は社会生活においては非常な重要な機能と考えられます。

上顎腫瘍の切除後には、鼻が曲がったり唇がひきつれたりといった、顔面の変形を生じます。 このような場合、患者さんの希望を確認した上で再建を行い、可能な限りもとの顔に近づけるようにしております。

受診にあたって

失われた機能を完全に回復するために、「再生医学」などの研究が行われていますが、まだまだ実用には至りません。現時点では患者さん本人の組織を用いる自家組織移植が主流となっています。その場合は、欠損部のみならず、採取部の障害を伴うこともあります。ただそれでも、完全にもとの状態に戻せないことも少なくはありません。 したがって治療に当たっては、患者さんひとりひとりのご希望をよく確認し、どのような再建ができるか、また、どのような侵襲を与えるかを説明し、いくつかの選択肢の中から選んでいただきます。腫瘍切除後の変形、それは、腫瘍ができたことによる苦しみの上の更なる問題となります。その問題を少しでも減らし、QOLが向上できるように力になれたらと考えておりますので、どんな些細なことでも相談してください。
今、患者さんを前にした時に、最良の医療が提供できるように、今出来ることを日々考えております。

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