形成外科学講座

ケロイドについて

ケロイドは、傷が治る過程において原因不明の炎症が持続することにより、線維形成が収束しないことによる皮膚線維増殖性疾患と考えられています。
手術後の縫合創なども、一時的に赤みが増して硬くなることがあります。通常は術後1-2ヶ月を過ぎたあたりから、赤みが減り軟らかくなっていきます。しかし、いつまでたっても赤みが引かないどころか、盛り上がってきて、チクチクするような痒み・痛みが出ることがあり、この状態を「肥厚性瘢痕」といいます。( ケロイドという診断で、紹介受診もしくは直接いらっしゃる患者さんの多くが、実は肥厚性瘢痕です。)さらに、もともとの傷の範囲を越えて、周りの皮膚に伸展していくものを「ケロイド」と呼びます。
ケロイドは、手術の痕(ただ、実はケロイドと肥厚性瘢痕を区別する明確な診断基準はありません。)

ケロイド発症に関わる因子

体質
一般的に傷がきれいに治るかどうかは体質が大きく関係しています。どんなにひどい傷でもきれいに治る方がいらっしゃる一方、蚊に刺された痕やニキビなどからケロイドが発症する方もいらっしゃいます。
ケロイドができやすい体質(いわゆるケロイド体質)というものが明らかに存在しますし、白色人種よりも有色人種の方が、ケロイドの発症率が高いことが知られています。
2010年、ゲノムワイド関連解析という大規模な遺伝子解析の結果、ケロイドの方に有意に高いSNPs変異というものが発見されましたが、現時点では臨床的な意義は明らかになっていません。

部位
胸、肩、耳たぶ(ピアス後)、下腹有毛部(帝王切開後)などがケロイドの好発部位として知られています。逆に顔・頭・手足・下腿などでは、ケロイドの発症頻度は低いとされています。

皮膚の緊張
皮膚の緊張が強い胸部や肩がケロイドの好発部位であること、ケロイドが皮膚張力の方向に伸展していくことなどから、ケロイドの発症には皮膚の緊張が悪さをしていると考えられています。伸縮性テープやシリコンシートといった治療は、皮膚の張力を弱めることを主な目的としています。
ここに挙げた因子はどれも重要ではありますが、それだけでは「ケロイド体質」というものを説明できないことから、まだ未知の因子があると考えられます。

ケロイドの治療について

われわれ自治医科大学形成外科では、ケロイドに対して以下の方法を組み合わせて治療を行っております。

外科的療法

・切除
ケロイドを手術で切除する方法です。ケロイド周辺の皮膚は強い張力でケロイドを引いていることが多いので、ケロイドを切除して縫合すると元のケロイドより長い縫合線になります。術後の縫合創からもケロイドが再発することがあるので、通常は後述する伸縮テープや電子線照射(手術直後より3-4日間、15~20Gy)または、ステロイド局所注射(抜糸後に注射)を併用します。最も根治的な治療法であり、経過が良好な場合は1本の白い線にすることが可能ですが、経過が悪い場合はもとのケロイドより悪化する可能性があります。

②貼付療法

・伸縮性テープ
復元力の強い伸縮性テープを利用し、皮膚をよせる力で周囲皮膚の緊張を弱める効果があります。肥厚性瘢痕、ケロイドの発症、再発が予防できますが、主に術後の再発を抑える目的で使用しています。術後3カ月程度続けます。

・シリコンシートによる圧迫
伸縮性テープと同様ですが、盛り上がっているケロイドを圧迫する効果があります。

・テーピング(非伸縮性)
伸縮性テープと同様に術後に縫合創への張力を弱める目的で用います。

電子線照射
ケロイドを切除した後、縫合創からケロイドが再発するのを防ぐために行います。通常術直後から3~4日間、15~20Gy(これは一般的な悪性腫瘍への放射線治療より弱い線量です)照射します。
放射線による発癌の可能性がゼロとは言い切れませんが、ケロイドの電子線治療後に発癌したという報告は世界で数例しかなく、比較的安全と言って良いと思います。

ステロイド療法

・ステロイド局所注射
ステロイド剤をケロイドに局所注射します。かゆみ・痛みといった症状の軽減。ケロイドの盛り上がり、硬さの改善が期待できます。効果は人によってまちまちで、1-2回で大きな改善を認める方から、複数回施行しても効果を認めない方までいらっしゃいます。
欠点としては注射が「痛い」ことが挙げられます。ケロイドの硬い組織を押し広げるように注射するためです。治療の効果でケロイド組織が軟らかくなるにつれて、この痛みは軽減します。また、副作用として、皮膚の菲薄化、陥凹変形、月経不順などがあります。基本的には手術的切除を希望されない方に使用しています。

・ステロイド含有テープ、密封療法(ODT)
ステロイド局注注射と同様に、ステロイドの抗炎症作用を期待した治療です。局所注射と異なり痛くないため、お子さんにもできるメリットがありますが、局所注射ほど効果は強くありません。 ステロイド注射と同様で手術的切除を希望されない方に使用しています。

⑤内服療法

・トラニラスト内服
肥厚性瘢痕、ケロイドの原因である、皮膚繊維過増殖を抑制し、症状改善、切除術後の再発を抑制する効果があります。切除術と併用することが多いです。

 

当科を受診される方へ

当科ではケロイド・瘢痕の治療を毎週火曜日午前の専門外来に集約して行っております。別の外来に初診でいらしても、改めて専門外来を受診して頂くことがございますのでご了承下さい。

ケロイド・瘢痕外来
毎週 火曜日午前
対象疾患:ケロイド、肥厚性瘢痕、成熟瘢痕、瘢痕拘縮
(病的でない瘢痕に対しては、保険を適応できないことがあります。)
担当:吉村 浩太郎、池 大官

 

患者様

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