ごあいさつ

ガラパゴス化することなかれ

耳鼻咽喉科学講座 教授 西野 宏

自治医科大学医学部 耳鼻咽喉科学講座
教授 西野 宏

2014年4月より、教授を拝命いたしました。一人一人の部下の良い点をのばし、教室として業績を発信しつづける事が私の使命と考えます。退任するまで更新されないHPが多い中、私はコラム風に私の気持ちを皆様にお伝えする試みを始めます。時々更新いたします。お時間があればどうぞおつきあいください。

スマートフォンが自分の生活にもなくてはならないものになっている。電車に乗れば、前の座席に座っている人たち全員が自分のスマートフォンを操作し、様々な角度でうつむく異様な光景に出くわす。かく言う自分もこの原稿を水戸線の電車の中で書いているので、前の座席の人たちからは同様に見られていることだろう。スマートフォンを「スマホ」といい、「スマホ」が登場する前の携帯電話を「ガラ系」と世間は言う。恥ずかしい話だが、最近まで「ガラ系」のいわれがわからずにいた。

大陸からおよそ900km離れたガラパゴス諸島と聞いて、独自の進化を遂げたユニークな動植物が存在する諸島のことは容易に思い浮かぶ。独自の進化を遂げた動植物は、世界に唯一存在する希少な美をアピールし、見たものに感嘆と尊厳の念を抱かせてしまう。その孤高の美しさは、背中合わせに外界に順応できない非常に危い面がある。日本市場に特化する独自の進化を遂げた携帯電話の便利さは皆が経験してきたことである。その結果、世界標準からかけ離れてしまった。日本社会に特化した著しい最適化が進行すると、他の領域との互換性を失い孤立してしまう。そのような社会に、はからずしも適応の高い技術が導入されると、孤立した最適化は淘汰され、最終的に絶滅してしまう危機に陥る。そのような現象をガラパゴス化といわれるようになった。最近の日本の携帯電話各社はまさにガラパゴス化し、危機に直面している。そのような時期の携帯電話を「ガラ系」というらしい。

日常の診療においても、ひそかにガラパゴス化が進んでいる。病院が変わったり、指導を受ける先輩が変わると、戸惑うぐらいに今までの医療慣行が意味もなく否定される場合があることは、読まれている方々も経験がおありと思う。斬新なアイデイアの芽をついではならないが、それでも常に外界を意識しユニークな発想を育ててゆかなければ、ダーウインの進化論を証明するだけの世界に取り残された種(教室)となってしまう。この危機は日常の診療に限らず、耳鼻咽喉科、日本の医学と医療にも同様に存在する。多くの関連診療科が関わる境界領域では、各自の進化を遂げるのではなく、お互い影響をしあいながら進化を遂げなければならない。地球上で行われている医学と医療および行政の動向に目を向けなければならない。自分たちの周囲には独自の価値観に基づいた判断が存在する。他の世界では異なる価値観がある。独自の価値観にとらわれた進化は居心地がよくパラダイスである。パラダイス化している間に、他では他の価値観に基づいた進化が始まっている。気がつくと世の中から大きく取り残された自分たちが存在するかもしれない。

常に外界に目を向けた生活を意識しなければならない。居心地が良い環境は、実は危うい環境かもしれない。厚生労働省が推進する地域包括ケアシステム、超高齢化社会、再生医療の進歩の荒波は、自分たちの進化に実は重要なのかもしれない。ガラパゴス化することなく、荒波にもまれ、チャンスをものにして、皆に大きく羽ばたいてもらうのが夢である。

研究紹介

頭頸部癌薬物治療

西野教授が担当。JCOG頭頸部がんグループの班員として、シスプラチン投与と放射線治療を併用する化学放射線治療の有効性と有害事象を検討した。術後化学放射線治療としてweekly CDDP 化学放射線治療の有効性はASCOで発表された。

Oncolytic Virus Therapy

西野教授が担当。東京大学医科学研究所・先端医療研究センター先端がん治療分野(脳腫瘍外科)と共同研究。「進行性嗅神経芽細胞腫患者に対する増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスG47△を用いたウイルス療法の臨床研究」を進行させている。また西野教授と長友大学院生が頭頸部癌に対するOncolytic Virus Therapyの基礎研究を行い、今後の実臨床への導入に対する準備を行った。

頭頸部癌幹細胞の治療抵抗性の打破

西野教授が担当。手術切除標本より癌細胞を分離し、フローサイトメトリーを用いて癌細胞のCD44、CD44v、ALDH1A1の発現を検討した。さらにその細胞の細胞周期を解析した。頭頸部癌幹細胞の生物学的活性を検討し、治療抵抗性を打破する機序を研究している。

癌微小環境下における宿主がん免疫応答の改善

西野教授が担当。手術切除標本より免疫担当細胞を分離し、フローサイトメトリーを用いて免疫担当細胞分布の変化を検討している。免疫チェックポイント薬のより有効な投与方法を含む新たな治療戦略を検討している。