ごあいさつ

小児耳鼻咽喉科 教授 伊藤 真人

自治医科大学 耳鼻咽喉科学講座 小児耳鼻咽喉科、耳鼻咽喉科診療科長、教授 伊藤 真人

Festina Lente Carpe Diem疾風勁草

耳鼻咽喉科

自治医科大学耳鼻咽喉科学講座へようこそ!
心より歓迎いたします

2021年10月から、耳鼻咽喉科学講座責任者、診療科長を拝命しました伊藤真人です。私は平成26年に自治医科大学とちぎ子ども医療センター 小児耳鼻咽喉科教授として着任後、これまで耳科学、小児耳鼻咽喉科学をサブスペシャリティーとして耳鼻咽喉科全般の診療・研究・教育に携わってきました。

冒頭に、私の好きな3つの言葉をあげました。ひとつは初代ローマ皇帝Augustusの座右の銘といわれる「Festina Lente」です。和訳すると「ゆっくりと急げ」となりますが、これは手術をはじめとした医療・医学においても極意ではないかと思います。2つ目は古代ローマの詩人ホラティウスの詩にある「Carpe Diem」です。直訳すると「その日の花を摘め」となりますが、「今この時を楽しんで、最高に生きよ」という意です。そして最後が、「疾風勁草(疾風に勁草を知る)」です。「後漢書」王覇伝ですが「激しい風が吹いて、初めて強い草であることが分かる= 苦難や試練にあってはじめて、その人の真の強さがわかる」という意味です。講座の若い先生には、是非とも「ゆっくりと急いで、今この時を楽しみつつ、強い勁草となって欲しい」と常々祈念しています。

自治医科大学耳鼻咽喉科学講座は大学開設の2年後、1974年4月15日の附属病院開院と同時に開講しました。私たちの講座では、初代教授・切替一郎先生の座右の銘とも言える「真理(Truth)、人間性(Humanity)、実践(Practice)」という言葉を開学以来の合言葉としています。切替教授の後 、森田教授、喜多村教授、市村教授、西野教授、そして伊藤によって教室が運営されてきました。

耳鼻咽喉科の機能外科領域では、人と人とのコミュニケーションのための、「聴いて」「話す」ために欠かせない聴覚器と発声器(喉頭)、「呼吸をして」「食べる」ための上気道の病変を扱っています。さらに、嗅覚・味覚、顔面神経疾患などその守備範囲は広いです。耳鼻咽喉科は歴史的に見ると、外科系の耳科学と内科系の喉頭科学とが合わさって形成された診療科ですが、現在の自治医科大学耳鼻咽喉科学講座の得意分野も耳科学と喉頭科学です。耳科学分野は伊藤が担当し、中耳・内耳手術(鼓室形成術などの聴力改善手術)や側頭骨・外側頭蓋底手術を行なっています。中耳手術においては安全・確実に病変を治すとともに、聴力改善率の優れた手術治療を実践している。また重複障害例などの手術困難症例に対しても人工内耳手術を積極的に行っているほか、成人の側頭骨深部に進展した錐体部真珠腫などの難手術病変に対する耳科外側頭蓋底手術(Otologic lateral skull base surgery)や、聴器癌に対する拡大外側側頭骨切除手術なども多数行っています。喉頭科学分野・頭頸部外科分野は金澤教授が担当し、種々の発声障害に対する音声改善手術ばかりではなく、機能温存喉頭外科・甲状腺外科をはじめとした頭頸部腫瘍外科に積極的に取り組んでいます。

小児耳鼻咽喉科

自治医科大学とちぎ子ども医療センターでは、診療科長・教授の伊藤が着任してから平成26年4月に、小児耳鼻咽喉科が新たな診療科となりました。私たちの小児耳鼻咽喉科は欧米の小児医療センターであり、大学病院併設型である利点を生かして大学病院本院との密接な連携のもと、高度な小児医療を実践しています。主として小児の、人と人とのコミュニケーションのための、「聴いて」「話す」ために欠かせない聴覚器と発声器、「呼吸をして」「食べる」ための上気道の病変を扱っています。特に私が得意とする分野は耳科学です。慢性中耳炎や伝音難聴に対する中耳手術(鼓室形成術などの聴力改善手術)や高度難聴に対する「人工内耳手術」、側頭骨腫瘍に対する耳科外側頭蓋底手術を積極的に行っています。聴覚の障害を改善し『全てのひと(子ども)が、聴いて話すことができる』ようになることが、私たち小児耳鼻咽喉科医・耳科医の大きな目標の1つです。
また診療科長・教授の伊藤は、「小児滲出性中耳炎ガイドライン」作成委員長、「小児人工内耳前後の療育ガイドライン」統括委員、「上気道感染症ガイドライン」作成委員などとして、本邦の小児耳鼻咽喉科の発展に寄与しています。
小児耳鼻咽喉科学の発祥の地はヨーロッパで、その歴史は耳鼻咽喉科学が内科学や外科学の一部から独立して、ひとつの診療科・学問分野となった1890年頃に遡ります。現在多くの国と地域では、耳鼻咽喉科の中のひとつのサブスペシャリティー分野として確立していますが、我が国においてはまだ発展途上にある分野であると言えます。小児耳鼻咽喉科・診療科長の伊藤は、現在「日本小児耳鼻咽喉科学会」の理事長として、我が国の小児耳鼻咽喉科の発展に寄与していますが、同時に現在わが国で唯一の「小児耳鼻咽喉科 教授」でもあります。日本小児耳鼻咽喉科学会の初代理事長の市村名誉教授、3代目理事長の飯野名誉教授は自治医科大学の先輩でもあり、これまでお二人の先生から多くの薫陶とご指導をいただきました。これからは、小児耳鼻咽喉科医・耳科手術医を目指す若い先生方を育てていくことが、私の最大の使命であると考えていますので、これらの分野に興味のある先生は是非気兼ねなくお声掛けください。

当科の得意分野と研究

  1. 中内耳・聴力改善手術
  2. 高度難聴に対する「人工内耳手術」
  3. 明視下パワーデバイスによる、低侵襲「睡眠時無呼吸手術治療」
  4. 耳科外側頭蓋底外科
  5. エビデンスに基づいた、小児滲出性中耳炎診療
  6. 顔面神経再生研究、内耳遺伝子導入研究

1.中内耳・聴力改善手術
「全ての人に聴こえを! - So that, all may hear」

小児・成人の慢性穿孔性中耳炎、真珠腫性中耳炎に対する鼓室形成術など、安全・確実に病変を治すとともに、聴力改善を目指した手術治療を行っています。診療科長の伊藤はこれまでに3000例を超える中耳・内耳・耳科外側頭蓋底外科手術の経験をもち、より安全で確実に遂行できる中耳・側頭骨手術を実践しています。特に、小児の真珠腫性中耳炎は一般に再発率が高く、手術で完全に摘出しないと何度も再発を繰り返すことがあり、高度な専門性が要求されます。手術中に可能な限り良好な視野と術野を得ることで、再発率を低下させるとともに、良好な術後聴力改善成績を得ています。

2.高度難聴に対する「人工内耳手術」

特に中・内耳奇形など人工内耳の手術困難例や重複障害のある場合にも、積極的に手術を行なっています。人工内耳によって得られる言語発達面での効果は様々ですが、それまでほとんど聞き取れなかった音が聞こえるようになり、人の言葉を聴き取れるようになってきます。人工内耳は聴力を失った方(あるいは生まれつき聴こえない子)にとって、最後のそして最良の医療であるといえます。

3.内視鏡下パワーデバイスによる、低侵襲睡眠時無呼吸症手術(PITA)の導入

小児の閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)に対する口蓋扁桃摘出術+アデノイド切除術は、有効な治療法として広く施行されているが、従来法の手術では術後出血のリスクや、術後疼痛による食事摂取の遅れなどの問題が見られた。特に術後出血は時に生命にも関わることがありストレスの大きい手術であった。

一方で、マイクロデブリッターなどのパワーデバイスを用いた被膜内口蓋扁桃切除術Powered Intracapsular Tonsillotomy & Adenoidectomy (PITA) では、従来法よりも安全確実に手術が可能である。我々は、小児睡眠時無呼吸症に対して術後の疼痛や出血が少ない術式であるPITAを積極的に施行している。

4.耳科外側頭蓋底外科

側頭骨・外側頭蓋底病変(成人の錐体部真珠腫なども含む先天性真珠腫進展例、腫瘍など)に対する手術を行なっています。耳科頭蓋底外科の世界的権威である、スイスのU. Fisch教授らが立ち上げた側頭骨手術ワークショップのアクティブ・メンバーとして貢献しています。

5.エビデンスに基づいた、小児滲出性中耳炎診療

診療科長の伊藤は、日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会において作成した「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン」のガイドライン委員長として初版ガイドラインを2015年に出版した。その後もガイドライン改定作業に学会担当理事として関わっており、そこから得られたエビデンスに基づく小児滲出性中耳炎診療を実践している。

6.顔面神経再生研究、内耳遺伝子導入研究

顔面神経軸索障害後の脳幹部顔面神経核の細胞変性を抑制し、神経再生を促すことを目的に、基礎的研究を行っている。また内耳障害を防ぐ目的で遺伝子導入研究を、野田助教、Dias島田助教が中心となって行っている。

7.小児難聴外来

2021年4月から、小児難聴外来を新設しました。

これまで、附属病院本館の耳鼻咽喉科外来で行なっていた、小児・成人の難聴(補聴器)外来を改変し、こども医療センター 小児耳鼻咽喉科外来で小児の難聴外来を行なっています。小児と成人の難聴の原因は大きく異なり、また治療や療育も異なります。