自治医科大学 精神医学講座

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教授のひとりごと

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2017-09-07 新任教授挨拶とこれまでの懺悔

 私は平成8年に東北大学を卒業、自治医科大学精神医学教室に入局しました。同期には天才◯ャンブラーでいらっしゃいますM先生、作家とネコ飼育家を兼ねていらっしゃいますK先生、虫も殺さないような優しい顔で辛辣な皮肉を仰せられますO先生、不要な買い物で下駄箱をすぐに一杯にしてしまうアティ氏先生がおられます。また、当時は学生でしたが非常に優秀で、トロール漁法の応用ついて斬新なアイデアをお持ちのS先生も度々医局に遊びに来ておいでした。このように多種多才な先生方に囲まれ、非常に楽しい研修医時代を過ごせたことを昨日のことのように思い出します。

 

 こうして研修医時代を振り返りますと、私は非常に多くの方々に支えられてきたにも関わらず、度重なる失礼な振る舞いでご迷惑をおかけしましたことを反省せずにはおれません。特に、病棟レクリエーションの演劇(昔は七夕会、クリスマス会でスタッフによる出し物がありました)では、大先輩の先生方にも体を張った(恥ずかしい)役回り(まさに“出し物”でしたね)をお願いする一方で、自分はいつも無難な役に収まるという失礼がありました。また、最大の失礼は、大学院卒業後に中二病が悪化してしまい、国外逃亡を企てたことだと思います。その挙句の果てに現地で資金難に陥り極秘のうちに帰国、浜松で隠遁生活を送っておりましたが、平成23年4月に加藤名誉教授のご厚意で自治医科大学精神医学教室に復帰させていただきました。このような私を暖かく迎えて下さった加藤先生、医局の先生方には感謝の言葉もありません。入局当時の私は「次元大介」の役をこなせるほどスリムだったのですが、あまりにのびのびとした生活を送っていたため順調に体重が増えてしまいました。今では、過去の私を知っている先生方からは、「誰?」と言われるくらい見事なオッサンになってしまいましたが、それもこれまでのツケなのでしょう。しっかりと受けとめて生きていきます。また、私が最後に人様から失礼である、とお叱りを受けましたのは6年前になりますが、今後はそのようなことがないように気をつけてまいります。

 

 さて、ここからは本題です。これまでのパートは、お心当たりのない方には流していただければ幸いに存じます。

 

 現在、精神医学は大きな転換期を迎えようとしています。かつて、精神疾患は不治の病であり、精神科医の間でも積極的な治療を諦めてしまうことが一般的であった時代がありました。当時は、座して待つことが治療でした。しかし、近年の研究では未治療期間が短いほど向精神薬の治療反応性がよいことが明らかになっています。これは、病状が持続すればするほど、脳の障害が進行する、ということを意味します。また、薬物療法の効果が乏しく治療が困難であると考えられていた症例が、早期の認知リハビリテーションにより改善した、という報告も相次いでいます。効果的な治療を進めるためには、出来るだけ障害が進行していない段階から十分な治療を開始し、早期の回復を目指すことが肝要です。すなわち、脳を護るためには必要な治療をラジカルに行う、という「攻めの姿勢」が現代の精神医療に求められています。

 

 われわれの教室は、初代の故宮本忠雄教授のもとで“Offenem Geist”(開かれた精神)をモットーに日々研鑽を続けてまいりました。20年前に私が当教室への入局を決意しましたのも、その教室の精神に強い感銘を受けたからであります。その伝統は前任の加藤敏名誉教授のご尽力により脈々と受け継がれ、現在の教室の根幹を成しています。実を申しますと、入局を決意した理由はもう一つあり、6年生の夏に見学させていただいた際に加藤先生から本をお借りしまして、それをお返ししなければならない、という義務感にかられたからでもあるのですが、それはこの際どうでもいいことですね。

 

 私達は“Offenem Geist”の基本理念を軸に、「攻めの精神医療の展開」を目指して頑張っていきたいと考えております。今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


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