膵臓移植


膵臓移植医療の現状

臨床膵臓移植は 1966 年に米国ミネソタ大学において行われ、それ以来多くの治療経験が積み重ねられてきました。本邦においては脳死ドナーによる膵臓移植が1984 年に初めて行われました。しかし、第1例目以降は心停止後ドナーからの膵臓移植が行われ、その成績は必ずしも良いとは言えませんでした。そのため、脳死ドナーからの膵臓移植が実施できるようになることが待たれていました。
1997年に臓器移植法が施行されたことを受け、日本糖尿病学会、日本腎臓学会、日本移植学会、日本膵・膵島移植学会は膵臓移植特別委員会を組織し、移植施設の選定とオールジャパンで協力して最善の膵臓移植をするため実務者委員会を構築しました。臓器移植法施行後の2000年4月に脳死ドナーからの膵腎同時移植が行われて以来、2021年12月末日までの移植数 は 488例となり、良好な成績を収めています。しかしながら、多くの手術希望者は長期間待機しているのが現実です。近年、世界的には年間1,200~1,500 例の膵臓単独移植、膵腎同時移植が行われています。移植成績も著しく向上し、移植膵1年生着率は 85 %以上となっており、1型糖尿病の治療の選択肢として定着しています。自治医科大学附属病院は、2022年に移植施設として認定されましたので、今後は当院での膵臓移植が可能となります。

膵臓移植

膵臓のインスリン分泌能が廃絶した糖尿病患者さんでは頻回のインスリン注射やインスリンポンプなどの治療手段によっても低血糖・高血糖を繰り返し、日常生活に著しい障害を来たしています。その結果、生命の危険に曝され、短期で繰り返す入院や長期の入院を余儀なくされています。またこのような状態は糖尿病の合併症を進行させ、腎不全から透析治療が必要になることもあります。移植医療は、このような腎不全を伴う糖尿病患者さんに膵臓と腎臓の同時移植を行うことにより生命の危険からの開放と、生活の質の向上をもたらすことが出来ます。

膵臓移植の適応条件

膵臓移植の対象は、下記の条件を満たしている1型糖尿病患者さんです。

  1. 年齢は原則として60歳以下が望ましい。
  2. 内因性のインスリン分泌が著しく低下している。
    空腹時C-ペプチド≦0.3ng/ml
    グルカゴン負荷後C-ペプチド≦0.5ng/ml
  3. 糖尿病専門医のあらゆる治療手段によっても血糖値が不安定であり血糖コントロールが困難である。
  4. 糖尿病性腎症により腎不全に陥っている糖尿病患者であること。

※内因性インスリン分泌が著しく低下しており、該当者が居住する地域の適応委員会において適応ありと判定された場合も移植が可能となります。

膵臓移植の除外条件

  1. 悪性腫瘍
  2. 活動性の感染症がある。
  3. 糖尿病に特異的な合併症
    進行性の壊死
    重度脳血管障害
    高度末梢神経障害
    活動性の前増殖性網膜症

膵臓移植の手術方法

膵臓移植の方法としては患者さんの状態により下記の3つの膵臓移植の方法がありますが、当施設における膵臓移植は、原則として膵腎同時移植を行います。

膵腎同時移植

糖尿病性腎症により腎不全を合併し透析治療を行っている患者さんに、同じドナーから提供して頂いた、膵臓と腎臓を同時に(一度に)移植します。自身の膵臓と腎臓は取り出さずにそのまま残ります。手術時間に関しては、約12時間かかります。膵臓移植の手術は、移植する膵臓が十二指腸をつけた状態で右下腹部に入ります。静脈と動脈をつなぎ、最後に移植する膵臓についている十二指腸を患者さん様自身の小腸につなぎます。これによって膵液を小腸に流すことができます。腎臓移植は、左側の下腹部に移植する腎臓が入ります。膵臓移植と同様、静脈と動脈をつなぎ、最後に尿管を患者さん自身の膀胱につなぎます。

腎移植後膵臓移植

糖尿病性腎症による腎不全に対して腎臓移植を先に行ってから、その後、膵臓移植を行う方法です。

膵単独移植

腎機能に問題がない患者さんに対して、膵臓だけを移植する方法です。

※上記以外に、膵島移植というインスリンを分泌する細胞だけを移植する方法があります。当院では実施しておりませんが、外来にて説明することも可能ですのでお問い合わせください。

本邦の膵臓移植の件数と成績

2000年4月に第1例目の膵腎同時移植が行われてから2021年12月までに461例の脳死膵臓移植と27例の生体膵臓移植が行われています。2010年7月に改正臓器移植法が施行されてから脳死ドナーからの移植が急増しています。現在の待機期間は平均で832日ですが、今後待機期間は短くなることが期待されています。

  • 累積生存率・グラフト生着率

移植した患者さんの1年、3年、5年、10年生存率はそれぞれ、95.8%、94.5%、92.5%、86.1%です。461例の脳死下・心停止後膵移植で、移植後に50例の患者さんがお亡くなりになっていますが、死亡原因として、感染症、心不全、悪性腫瘍、脳血管障害などが挙げられます。
膵腎同時移植で移植した腎臓391例の1年、3年、5年、10年生着率はそれぞれ93.2%、92.0%、89.2%、81.2%です。移植膵機能喪失の原因は、29例が慢性または急性拒絶反応、27例がグラフト血栓症、6例が1型糖尿病再発、6例がグラフト十二指腸穿孔となっています。

膵臓移植までの流れ

膵臓移植は、当院においては基本的に脳死膵腎同時臓移植のみを行う方針としています。脳死移植を希望する際には、以下の手順で登録を行うことになりますが、移植手術が可能かどうかを十分に検査し、病院内外において慎重に評価する必要があります。したがって、検査を受けてから実際に登録手続きが完了するまでは、3~4ヶ月程度かかります。なお、登録から移植までの平均待機期間は約2年半となっておりますが、それ以上に待機しなければならない患者さんもおります。

  • 1患者、家族が移植を希望
  • 2インフォームド・コンセント
  • 3移植の意思を確認
  • 4移植可否に必要なスクリーニング検査
  • 5移植の意思を確認
  • 6膵臓移植適応評価委員会(院内)
  • 7膵臓移植中央委員会(院外)地域適応検討委員会
    • 移植適否の判定
    • 移植適応
  • 8日本臓器移植ネットワーク
    • 登録・待機
    • 脳死ドナー発生
  • 9移植の意思を確認
  • 10移植手術

膵臓移植にかかる費用

移植費用、移植後の費用

膵臓移植および膵腎同時移植術に関する医療費は、健康保険の適用になります。患者さんが支払うのは一定の割合の自己負担分のみで、自己負担分はさらに様々な制度によって軽減されます。
  1. 限度適応認定証
  2. 特定疾病療養受療証
  3. 自立支援医療(更正医療・育成医療)
  4. 重度障害者医療費助成

医療費以外にかかる費用

脳死ドナーからの臓器提供による移植を希望する場合には、日本臓器移植ネットワークへの登録が必要になります。そのため、登録料や登録更新料、移植になった際には下記の費用を支払わなければなりません。下記の費用に関しては全額患者さんの自己負担となります。

登録・更新に必要な費用
新規登録料 30,000円
更新料(1年毎に更新) 5,000円
組織適合性検査(HLA検査) 新規時のみ 費用は都道府県により異なる
移植時に必要な費用
コーディネート経費 100,000円
臓器搬送費・摘出医師派遣費 実費

膵臓移植チームメンバー

移植外科

佐久間 康成、大西 康晴、眞田 幸弘、脇屋 太一、岡田 憲樹、平田 雄大、堀内 俊男、大豆生田 尚彦、高寺 樹一朗

腎臓外科

岩見 大基、西田 翔、南園 京子

看護部

吉田 幸世、篠崎 弘美、小杉 直美、関谷 菜津美

薬剤部

大友 慎也、大柿 景子

院外協力体制(敬称略)

藤田医科大学 臓器移植科 剣持 敬、伊藤 泰平

膵臓移植についての問い合わせ

移植外科医

電話:0285-58-7069(医局)または0285-44-2111(代表)
FAX:0285-58-7069(消化器一般移植外科)
佐久間康成 E-mail:naruchan@jichi.ac.jp

移植コーディネーター

電話:0285-58-7465(移植コーディネーター直通外線)
FAX:0285-44-5973(移植・再生医療センター)
吉田幸世 E-mail:ishokuco@jichi.ac.jp
篠崎弘美 E-mail:hiromi-1124@jichi.ac.jp