自治医科大学 循環器内科学部門

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論文・症例報告

最新の論文・症例報告等の掲載をご紹介いたします。

164.New! 症例報告
Long Sheath and Snare Technique for Transcatheter Aortic Valve Implantation in Tortuous and Horizontal Aortas
J Transcatheter Valve Ther. 2024 Volume 6 Issue 1 Pages 15-16
doi: 10.33290/jtvt.if.23-0003
高度屈曲大動脈およびHorizontal aorta症例に対するTAVI ロングドライシールとスネアテクニックの有用性

Yusuke Oba/大場 祐輔

【概要/コメント】
高度屈曲大動脈およびHorizontal aorta症例では、スネアテクニックを用いた弁通過は安全に手技を成功させるうえで重要な選択肢になり得ると考えます。教育的な症例であると考え報告しました。




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163.New! 症例報告
Transcatheter aortic valve replacement in quadricuspid aortic valve: the crucial role of three-dimensional simulation in risk assessment
Eur Heart J - Imaging Methods Practice, Volume 1, Issue 2, September 2023, qyad032,
doi: 10.1093/ehjimp/qyad032
4尖大動脈弁における経カテーテル大動脈弁置換術:リスク評価における三次元シミュレーションの重要な役割

Yusuke Oba/大場 祐輔

【概要】
4尖大動脈弁TAVIの症例報告です。以前我々は、4尖弁TAVI施行時に予期せぬ急性冠閉塞を経験しました。4尖弁は3尖弁と比較して弁尖の立ち上がりが高く、冠閉塞リスクが高いと考察しました。そのため、今回は冠閉塞リスク評価として3Dモデルを作成し術前シミュレーションを行い、安全性を評価した上でTAVIに臨みました。

【コメント】
3Dモデルを用いた術前シミュレーションは、リスク評価に有用な方法であると考えます。

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162. 症例報告
Successful management of guide extension catheter entrapment by stent in severe calcified lesion
Cardiovasc Interv Ther. 2023 Sep 20.
doi: 10.1007/s12928-023-00959-2.
高度石灰化病変においてステント留置時にトラップされたガイドエクステンションカテーテルの抜去に成功した一例

Hisaya Kobayashi/小林 久也

【概要】
ステント拡張時にトラップされ抜去困難となったガイドエクステンションカテーテルを内科的に抜去することに成功した症例の報告です。

【コメント】
PCI中の予期せぬ合併症に対してベイルアウトに成功した症例を報告しました。

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161. 症例報告
Calcified nodule formation following fragmented sheet calcification during balloon angioplasty in a patient on hemodialysis
Coron Artery Dis. 2023 Nov 1;34(7):525-526.
doi: 10.1097/MCA.0000000000001276.
透析患者においてバルーン拡張後のシート状石灰化病変の断片化により石灰化結節が形成された一例

Hisaya Kobayashi/小林 久也

【概要】
冠動脈バルーン拡張後のシート状石灰化の断裂を契機に短期間で石灰化結節が形成されACSを発症したと考えられた症例の報告です。

【コメント】
石灰化結節はACSの原因や再狭窄のリスクとなることが報告されています。これまで剖検症例の病理学的解析により石灰化結節形成のメカニズムが解明されてきていますが、生体内でその経過を観察することができた症例は報告されていません。本症例ではこれまで指摘されていた石灰化結節形成の機序が生体内で実際に起こる経過を観察できた希少な症例と考えられました。

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160.Home blood pressure measurement consistency and cognitive impairment.
Hypertens Res. 2023 Sep 19.
doi: 10.1038/s41440-023-01436-2.
家庭血圧の一貫した測定と認知機能

Satoshi Hoshide/星出 聡

【概要】
南三陸病院に通院する外来通院患者303名(平均年齢77歳)に同機種の家庭血圧計を用いて、5日間の測定を行うよう指導した。その結果、ガイドラインに推奨されているように5日間測定できなかった集団は、MoCA-Jで評価した認知機能低下と関連していた。

【コメント】
家庭血圧測定は、現在の高血圧管理において必須な評価法です。継続して行っていただくことで、高齢者において、今まできちんと家庭血圧測定ができていた人が、測定ができなくなってきた場合は認知機能低下を疑ってもいいかもしれません。

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159.Daily self-reported behavioural efficacy records on hypertension digital therapeutics as digital metrics associated with the reduction in morning home blood pressure: post-hoc analysis of HERB-DH1 trial.
Hypertens Res. 2023 Sep 17.
doi: 10.1038/s41440-023-01434-4.
高血圧デジタル療法中の”日々の行動変容自己評価”は早朝家庭血圧のレスポンダー指標: HERB-DH1試験事後解析

Fumi Hisaki/久木 文美

【概要】
高血圧治療補助アプリは本態性高血圧患者に対して生活習慣の修正を促すプログラム医療機器であり、国内第Ⅲ相臨床試験であるHERB-DH1試験で有効性が認められ2022年に保険適用となった。今回われわれはHERB-DH1試験の事後解析を行い、アプリを使用している中で患者自身が一日を振り返って記載する主観的な「行動変容自己評価」の記録数(SER)と客観的な早朝家庭血圧の変化量が関連していることが分かった。SERは塩分チェックシートスコアや体重などの指標の変化とも関連していた。

【コメント】
アプリによる生活習慣の修正を行うなかで、減塩、減量の行動について、1日の終わりに自分が「行えた、できた」と記録することが降圧量に関連していることがわかりました。 具体的な量や質をとらえていない患者の自己評価であっても、SERが行動変容の効果指標の一つになるのではないかと考えられます。自己効力感との関連を含めて継続的に研究を続けていきます。

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158.Prognosis of a malignant phenotype of obesity defined by a cardiac biomarker in hypertension: the Japan Morning Surge-Home Blood Pressure study
Hypertension Res. 2023 Oct 19.
doi: 10.1038/s41440-023-01468-8.
高血圧患者における心臓バイオマーカーで定義した“悪性肥満”の予後 ~J-HOP研究より~

Hiroaki Watanabe/渡邉 裕昭

【概要】
肥満は種々の心血管イベント発症リスクであるが、一方で肥満であっても心血管イベントリスクにはならない、いわゆる“metabolically healthy obesity”が報告されている。肥満において、どのような患者群が心血管イベント発症リスクになるか代表的な心臓バイオマーカーであるhs-cTnTとNT-proBNPを使用して検討した。結果、肥満(BMI≧30kg/m2)かつhs-cTnT上昇(≧3ng/mL)群では、正常体重でhs-cTnTの上昇がない群に比較し3.22倍心血管イベントリスクとなった。さらに肥満において、hs-cTnT(≧3ng/mL)とNT-proBNP(≧55pg/mL)の両方が上昇していると、肥満がなくそれらのバイオマーカーが上昇していない群より5.96倍心血管イベントリスクとなることが分かった。メディエーション解析を行うと、肥満において心血管イベントへのhs-cTnT上昇は41.2%、NT-proBNP上昇は8.1%が寄与しており、hs-cTnTの上昇がより心血管イベントに関与していることが分かった。

【コメント】
肥満がありhs-cTnTが上昇していると心血管イベント発症のリスクが高くなることから、これらの患者群を“malignant phenotype of obesity”と命名しました。

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157. 症例報告
A Case of Myocardial Infarction Caused by Spasm of the Right and Left Coronary Ostia and Discontinuation of Hyperthyroidism Treatment
Turk Kardiyol Dern Ars. 2023 Sep;51(6):427-428.
doi: 10.5543/tkda.2023.39679.
甲状腺機能亢進症の治療中断後に左右冠動脈入口部の攣縮による心筋梗塞をきたした一例

Eri Morita/森田 愛理

【概要】
甲状腺機能亢進症に関連した冠攣縮により心筋梗塞に至った一例の症例報告です.

【コメント】
甲状腺機能亢進症に関連した冠攣縮性狭心症では冠動脈入口部病変が多く,時に重篤な心筋梗塞に発展します.冠攣縮性狭心症を疑う際は甲状腺ホルモン値の測定が重要です.

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156.Comparison of Ambulatory and Home Blood Pressure Variability for Cardiovascular Prognosis and Biomarkers
Hypertension. 2023 Sep 6.
doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.123.20897.
血圧変動性と心血管予後および臓器障害指標との関連におけるABPMと家庭血圧の比較研究

Keisuke Narita/成田 圭佑

【概要】
ABPMと家庭血圧の両方を測定した同一被験者において、それぞれの血圧変動性、ABPMによる短期血圧変動(ABPV)と家庭血圧による日間変動(HBPV、Day-by-day variability)を心血管予後および臓器障害指標との関連を用いて比較した。HBPVがABPVと比較し、心血管予後予測に優れる傾向が示された。

【コメント】
血圧変動性におけるABPMと家庭血圧の比較研究です。

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155.Comparison of heart rate and cardiac output of VVI pacemaker settings in patients with atrial fibrillation with bradycardia
J Arrhythm. 2023 May 18;39(4):574-579.
doi: 10.1002/joa3.12874.
徐脈性心房細動患者におけるVVIペースメーカーの血行動態の検討

Ayako Yokota/横田 彩子

【概要】
ベースライン時とVVIペーシング速度60、70、80、90/分で血行動態を比較すると、心拍数が上昇するとともにstroke volumeは漸減するが、cardiac outputは増加した。VVI 60/分と比較したVVI 70、80、90 /分におけるcardiac outputの増加は、それぞれ1.14±0.5、1.24±0.10、1.35±0.15であった(p<0.001,図C)。 特に左室収縮末期容積が大きい場合、ペーシングレートの上昇により得られるcardiac outputの増加が大きかった。

【コメント】
徐脈性不整脈におけるVVIペースメーカーでは下限レートを60/分に設定することが多いですが、心房細動におけるVVIペースメーカーの最適な下限レートは確立されていません。 左室リモデリングを伴う患者においては、下限レートを60よりも70/分に設定する方が、血行動態において有利になる可能性を示唆する結果となりました。今後は、長期的な予後に与える影響について検討すべきと思われます。

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154.Unipolar-voltage-based evaluation of left atrial tissue properties and ablation outcome in patients with atrial fibrillation
Europace. 2023 Aug 2;25(9):euad240.
doi: 10.1093/europace/euad240.
心房細動患者における3Dマッピングにて得られたユニポーラー電位に基づいた左房心筋性状及びアブレーション遠隔期再発の評価

Masashi Kamioka/上岡 正志

【概要】
心房細動患者に対する術前の3Dマッピングにおいて得られた肺静脈隔離ライン上のユニポーラー電位波高がCT上の左房壁厚と正相関することを示した。特にユニポーラー電位波高2.7 mV以上の箇所はアブレーション遠隔期の再発に関連しており、この値は左房壁厚の1.6 mmに相当する。しかしながら左房壁厚が1.6 mm以上の患者群の約1/3はユニポーラー低電位を示しており、アブレーション後の再発率は最も高かった。この患者群は持続性心房細動が多く、左房が拡大しており、低心機能という背景を持っておりより左房リモデリングが進行した患者群であった。以上から術前のユニポーラー電位と左房壁厚を併用することで左房心筋性状を評価でき術後の再発率の推定が可能となる。この結果から個々の患者のリモデリング状態に応じたアブレーション戦略の構築が可能となる。

【コメント】
術前の3Dマッピングで得られるユニポーラー電位情報により左房のリモデリング状態を評価することでその後のアブレーション成績を推定できる可能性を初めて示しました。この情報に基づいてアブレーション戦略の構築を行うことでより個々の患者に最適な治療(テイラードアブレーション)を提供できるようになると思われます。

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153.The effect of psychological stress and physical activity on ambulatory blood pressure variability detected by a multisensor ambulatory blood pressure monitoring device
Hypertens Res. 2023 Apr;46(4):916-921.
doi: 10.1038/s41440-022-01123-8.
マルチセンサー血圧計で捉えた精神ストレスと身体活動が自由行動下血圧変動に及ぼす影響

Naoko Tomitani/冨谷 奈穂子

【概要】
24時間自由行動下血圧測定中に血圧計本体に内蔵された加速度センサーで身体活動を記録できる「マルチセンサー血圧計」を用いて測定した血圧変動に対する精神ストレス(ネガティブな感情・自己申告)と身体活動の影響を検討した。精神ストレスに対する血圧変動は身体活動による血圧変動よりも大きかった。一方、脈拍は身体活動に対して有意な上昇を示したが、精神ストレスに対しては有意な変化がみられなかった。

【コメント】
日常生活下の血圧を測定する際に、血圧と同時に身体活動量を記録し評価することで、個々の患者の血圧上昇要因の特定が可能になると考えます。

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152.NLRP3 inflammasome-driven IL-1β and IL-18 contribute to lipopolysaccharide-induced septic cardiomyopathy
J Mol Cell Cardiol. 2023 Jul;180:58-68.
doi: 10.1016/j.yjmcc.2023.05.003.
敗血症性心筋症におけるNLRP3インフラマソーム誘導性IL-1β/IL-18の役割の解明

Kenta Fujimura/藤村 研太

【概要】
敗血症は日常診療においてありふれた疾患であるが、世界で年間約1000万人が死亡し、全死亡者数の2割に及ぶとされている。敗血症性ショックは、敗血症のうち、循環不全や細胞機能、代謝の異常により、死亡率が高くなった状態と定義され、その中でも、特に心機能の低下と血圧の低下を伴った敗血症性心筋症を起こすと、その死亡率が非常に高くなることが知られている。現在、敗血症性心筋症に対する治療として、抗菌薬や補液、昇圧薬などの対症療法が主であり、より病態に即した治療法の開発が求められている。敗血症性心筋症の分子機序として、これまでに炎症性サイトカインやミトコンドリア機能不全などが提唱されているが、心機能低下の機序は未だ不明な点も多く、この病態を標的とした治療法は確立していない。 本研究では、NLRP3欠損およびCasp1/11欠損により、敗血症性心筋症モデルで引き起こされる心機能低下と心筋傷害が抑制されたことから、その病態にNLRP3インフラマソームが重要な役割を果たしていることを明らかにした。また、心臓、脾臓、肝臓における炎症関連遺伝子の発現や炎症性サイトカインの産生が抑制されたことから、NLRP3インフラマソームを介した炎症性サイトカインが寄与していることもわかった。特に、NLRP3インフラマソームの下流因子であるIL-1βとIL-18の両方を阻害することで心機能の低下を抑制することができた。

【コメント】
現在、有効な治療法が確立されていない敗血症性心筋症に関して研究を行いました。 結果、敗血症性心筋症の病態にはIL-1βとIL-18の両方の存在が重要であることがわかりました。この成果が今後の有効な治療法につながることを期待します。

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151. 症例報告
High-Output Heart Failure Caused by Abdominal Aortic Aneurysm-Inferior Vena Cava Fistula Due to Blunt Trauma
Circ Rep. 2023 Jul 12;5(8):348-349.
doi: 10.1253/circrep.CR-23-0046.
鈍的外傷による腹部大動脈-下大静脈瘻により引き起こされた高拍出性心不全の一例

Eri Morita/森田 愛理

【概要】
交通事故の翌日から心不全症状を認め,CTで腹部大動脈瘤-下大静脈瘻を認めました.もともと存在した腹部大動脈瘤に鈍的外傷が加わり,腹部大動脈瘤-下大静脈瘻を形成し,高拍出性心不全を呈したものと推察しました.

【コメント】
腹部大動脈-下大静脈瘻のほとんどが腹部大動脈瘤の自然破裂に伴うものですが、鈍的外傷が契機となった症例は稀であり報告しました.

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150.Medical Telemonitoring for the Management of Hypertension in Older Patients in Japan
Int J Environ Res Public Health. 2023 Jan 26;20(3):2227.
doi: 10.3390/ijerph20032227.
日本の高齢高血圧患者におけるテレモニタリングシステムの有用性

Takeshi Fujiwara/藤原 健史

【概要】
この論文は、高齢者血圧管理と血圧テレモニタリングの有用性に関する最新のエビデンスを踏まえ、現在の日本の高齢者血圧管理の問題点、またそれらを解決するためのテレモニタリングシステムの有用性を紹介した、総説です。

【コメント】
高齢者血圧管理においては、認知機能、フレイル、アドヒアランス、薬剤の副作用や多疾患併存、居住環境やソーシャルサポートの必要性など多くの問題がありますが、一方で高齢者における厳格降圧の有用性を示すエビデンスも示されております。高齢高血圧患者に対して一律に厳格降圧を行うのではなく、脳心血管病発症リスク減少と有害事象の増加のベネフィット vs. リスクを考慮した、層別化を重視した高血圧治療がますます重要になってくると思われます。それらの背景の中で、多くの生体情報を持続的/非持続的に、遠隔に管理できるテレモニタリングシステムの有用性は大きく、高齢者こそデジタルソリューションの恩恵を大きく受けることができると考えます。

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149. 症例報告
Successful transvenous implantable cardioverter-defibrillator implantation supported by preceding 3D electro-anatomical mapping for a ventricular fibrillation survivor with surgically repaired congenitally corrected transposition of the great arteries: a case report
Eur Heart J Case Rep. 2022 Sep 15;6(9):ytac380.
doi: 10.1093/ehjcr/ytac380.
修正大血管転位症術後に心室細動を生じた症例において、経静脈的植え込み型除細動器の植え込みに3 次元電気解剖学的マッピングが有用だった一例.

Tadayuki Mitama/三玉 唯由季

【概要】
複雑な外科的心房術後では、リードの留置に適した心房部位は限られている。修正大血管転位症に対する心房内修復後でも、リード留置に難渋する事が予想される。修正大血管転位症に対してダブルスイッチ術を施行された20年後に心室細動を生じ当院へ搬送された。経静脈的に植え込み型除細動器の植え込みに際して、3次元電気解剖学的マッピングによりリード留置に適した部位をあらかじめ確認していた事で、滞りなくリード留置できた症例を経験したので報告する。

【コメント】
近年の先天性心疾患(CHD)に対する手術の成績向上により、多くのCHD術後患者,とくに最近では重症度の高い術後症例に遭遇する機会が増え、PMやICDといったデバイスを必要とする症例の増加も予想される。複雑なCHD術後の症例では、デバイス手術に3次元電気解剖学的マッピングの実施を検討したい。

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148. 症例報告
Dramatically Improved Severe Pulmonary Arterial Hypertension Caused by Qing-Dai (Chinese Herbal Drug) for Ulcerative Colitis
Int Heart J. 2023;64(2):316-320.
doi: 10.1536/ihj.22-563.
劇的に改善を認めた、潰瘍性大腸炎に対する青黛(漢方薬)による重症肺動脈性肺高血圧症

Kana Kubota/久保田 香菜

【概要】
肺動脈性肺高血圧症 (PAH) はさまざまな原因により起こる致命的な疾患であり、いくつかの薬剤により引き起こされることが報告されている。青黛は漢方薬で、日本を含むアジア圏では潰瘍性大腸炎の治療薬として使用されることがある。今回我々は青黛によって引き起こされた薬剤性肺動脈性肺高血圧症の重症例を報告した。青黛を8か月間服用していた19 歳の女性が、労作性呼吸困難で入院し、彼女の平均肺動脈圧は青黛の中止とPAH特異的治療薬により、72mmHgから18 mmHgへ劇的に改善した。 発症から6年後の現在も、PAH特異的治療薬の投与を継続し、PAHの再発は認めていない。

【コメント】
当院で経験した青黛(いわゆる広島漢方)による薬剤性の重症PAHの一例です。この症例と同時期に国内各地で同様の症例が散見され、厚労省の調査班が立ち上がり、緊急のアラートが出される経緯になりました。しかしこの方が入院された時点ではそういった情報がなく、特発性PAHかと考えて治療を開始しました。後に学会発表や症例報告がいくつか出ましたが、当院の患者さんがもっとも血行動態的に重症でしたため、今後の治療の目安になると考え報告しました。

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147. α/β- and β-Blocker Exposure in Pregnancy and the Risk of Neonatal Hypoglycemia and Small for Gestational Age
Circ J. 2023 Mar 24;87(4):569-577.
doi: 10.1253/circj.CJ-22-0647.
妊婦へのα/β遮断薬およびβ遮断薬投与による新生児低血糖および胎児発育不全のリスク

Kana Kubota/久保田 香菜

【概要】
近年の先天性心疾患の生命予後の改善とともに、心疾患合併妊娠の患者数は増加しており、α/βおよびβ遮断薬はそれらの患者の周産期管理に重要な薬剤となってきている。 しかし、妊婦と胎児に対するα/βおよびβ遮断薬の効果や安全性に関する情報は限られており、本邦ではほとんどの薬剤が禁忌または慎重投与とされている。そのため、α/βおよびβ遮断薬を妊婦に投与した場合の新生児低血糖および胎児発育不全のリスクについて調査した。 306 例の妊娠(患者数 267 人)のうち、32 人を α/β遮断薬(カルベジロール)群、11 人を β 遮断薬群、263 人を対照群に分けて解析した。新生児低血糖の発生率は、対照群よりもカルベジロールを服用している妊婦の方が高かった (P=0.025)。 胎児発育不全は、カルベジロールおよび対照群よりもβ遮断薬を服用している妊婦で有意に多かった(P <0.001)。

結論:妊娠中のカルベジロール投与は、新生児低血糖と関連していたが、いずれも出生すぐに対応され、後遺症が残った児はいなかった。新生児低血糖とカルベジロールの投与期間、用量には関連がなかった。 妊娠中にカルベジロールを投与していた新生児については、血糖値を定期的にモニタリングすることが重要である。

【コメント】
東京女子医科大学病院の循環器小児科に国内留学させていただいた際にまとめた報告です。海外では妊婦へのβ遮断薬の投与は日本よりも規制が緩く、普通に使用されている国が多いのですが、日本では情報が少ないことを理由にほとんどの薬剤が投与禁忌となっており、当院では適応外使用申請を行って使用している現実があります。中には患者さんがご自分で調べて内服を自己中断してしまい、妊娠経過中に心血管イベントを起こしてしまうこともあります。先天心合併妊娠の方が増えてきている中で、国内有数の症例数を誇る東京女子医大のデータは、ガイドライン改訂に向けて重要な情報であり、この報告をまとめさせていただいたことについて大変光栄に思っています。

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146. 症例報告
Unusual Case of Adult-Onset Congestive Heart Failure Due to Long-Lasting Cardiac Volume Overload Caused by Spinal Epidural Arteriovenous Fistulas
Circ Rep. 2023 Feb 22;5(4):162-163.
doi:10.1253/circrep.CR-23-0012.
脊髄硬膜外動静脈瘻による持続的心容量負荷により、うっ血性心不全を来した一例

Yusuke Oba/大場 祐輔

【概要】
74歳女性. 心血管リスクのない初発左心不全. 身体所見で背部に連続性雑音を聴取, 右心カテーテル検査で心係数高値 (5.5 L/min/m2), 体血管抵抗低値 (636 dyne-sec/cm5). 心外シャントを疑い造影CT検査を施行. 脊髄硬膜外動静脈瘻による持続的心容量負荷が左心不全の主病態と考えられた. 経奇静脈的に塞栓術を施行し心不全の改善が得られた.

【コメント】
本症例は感覚障害や歩行障害などの脊髄圧迫症状がなく, 背部の連続性雑音が診断に辿り着く重要な所見でした. 改めて身体診察の重要性を実感した一例です.

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145.Impact of diabetic status and contribution of office and home blood pressure across diabetic status for cardiovascular disease: the J-HOP study
Hypertens Res. 2023 Mar 8.
doi: 10.1038/s41440-023-01242-w.
心血管イベントに対する糖代謝異常の状態別の寄与と糖代謝異常別の診察室血圧及び家庭血圧の影響:J-HOP研究

Daisuke Suzuki/鈴木 大輔

【概要】
これまで心血管イベントに対する家庭血圧の影響が前糖尿病を含めた糖代謝異常別で異なるかどうかを調べた研究はほとんどありません。本研究の目的は、前糖尿病及び糖尿病自体の心血管イベントへの寄与と診察室血圧及び家庭血圧の心血管イベントへの寄与を糖代謝異常別に検討することでした。本研究は平均6.2年の追跡で259の心血管イベントが発症しました。前糖尿病及び糖尿病自体の心血管イベントへの寄与については、前糖尿病、糖尿病と段階的に心血管イベントリスクが上昇しましたが、他のリスク因子で補正すると前糖尿病と心血管イベントとの関連性は消失しました。また、前糖尿病群及び糖尿病群における血圧レベルと心血管イベントリスクについて、前糖尿病群においては、診察室収縮期血圧レベルは心血管イベントとの関連を認めませんでしたが、一方で早朝家庭収縮期血圧レベルの上昇は心血管イベントリスクの上昇と関連しました。しかしながら、他のリスク因子で補正するとこの関連性は消失しました。糖尿病群においては、診察室収縮期血圧、早朝家庭収縮期血圧、就寝前家庭収縮期血圧レベルの上昇いずれもが心血管イベントリスクの上昇と関連を認めました。

【コメント】
前糖尿病の心血管イベントへの寄与と前糖尿病群における診察室血圧及び家庭血圧の寄与に着目した研究です。本研究では、糖尿病群と同様に前糖尿病自体も心血管イベントリスクとして認識されるべきではありますが、前糖尿病群自体が独立したリスク因子ではない可能性が示唆されました。また、糖尿病では家庭血圧の上昇が心血管イベントリスクの上昇に寄与している一方、この所見が弱いながらも糖尿病予備軍でも認められました。前糖尿病群においても、家庭血圧による血圧管理が重要であると考えます。

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144. The clinical significance of home and office blood pressure in diabetic nephropathy
Hypertens Res. 2023 Mar 3.
doi: 10.1038/s41440-023-01239-5.
糖尿病性腎症における家庭血圧と診察室血圧の臨床的意義

Daisuke Suzuki/鈴木 大輔

【概要】
本論文は試験開始時及び10年後の家庭血圧コントロール状況と糖尿病性腎症への進展との関連性を調べたKAMOGAWA-HBP研究のsub解析へのコメンタリー論文です。 これまでの研究では、腎症リスクや心血管イベントリスクは家庭血圧よりも診察室血圧を用いて評価されることが多く、糖尿病における家庭血圧のコントロール状況と糖尿病性腎症の進展との関連性を調べた研究はほとんどありませんでした。2型糖尿病患者を対象としたKAMOGAWA-HBP研究では、試験開始時と10年後の早朝家庭収縮期血圧がともに125 mmHg以上でコントロールされている群は、早朝家庭収縮期血圧がともに125 mmHg未満でコントロールされている群に比較して、糖尿病性腎症の進展のリスクとなることが示されました。この論文に対して、家庭血圧と診察室血圧両方に着目したうえでコメントしています。

【コメント】
糖尿病患者においても糖尿病性腎症の進展予防に家庭血圧コントロールは重要であると考えます。

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143. Nocturnal blood pressure surge in seconds is associated with arterial stiffness independently of conventional nocturnal blood pressure variability in suspected obstructive sleep apnea patients
J Clin Hypertens (Greenwich). 2023 Mar 21.
doi: 10.1111/jch.14647.
夜間の血圧サージは睡眠時無呼吸症候群疑いの患者において従来の夜間血圧変動とは独立して動脈硬化と関連する

Ayako Kokubo/小久保 綾子

【概要】
睡眠時無呼吸に伴って発生する急激な血圧上昇(sec-surge)は、心血管系に対して大きな負荷を与えるため、心血管イベント発生のトリガになる可能性がある。本研究では、心血管病の独立した因子である動脈硬化とsec-surgeの関連を、34名の夜間高血圧かつ睡眠時無呼吸症候群の疑いがある患者群において検証した。トノメトリ方式のbeat-by-beat(BbB)血圧計で1拍ごとの血圧値を計測し、上腕カフオシロメトリック法の血圧計で30分ごとの血圧値(従来血圧値)を終夜に渡って計測した。結果、sec-surgeの上昇時間というBbB血圧計でしか測定できない指標は、従来の夜間血圧変動指標とは独立して動脈硬化と関連していた。

【コメント】
本研究では、BbB血圧計で捉えたsec-surgeと動脈硬化との関連を世界で初めて評価しました。前回の研究ではsec-surgeのピーク値が左室肥大と関連することを示しましたが、今回の結果とまとめると、一つのsec-surgeという現象であっても、着目する指標を変えることで(ピーク値、上昇時間)複数の臓器障害の程度を評価できる可能性があります。心血管病のリスクを多面的に評価できる指標として価値があると考えます。

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142. 症例報告
Intimal flap sealing and healing with perfusion balloon in spontaneous coronary artery dissection
AsiaIntervention. 2023 Mar 15;9(1):64-65.
doi: 10.4244/AIJ-D-22-00054.
Perfusion balloonによるlong inflationによるPCI手技が奏功した特発性冠動脈解離の一例

Yusuke Oba/大場 祐輔

【概要】
本症例はSTEMIで発症した特発性冠動脈解離(SCAD)です。PCIを施行せざるを得ない状況でしたが、Perfusion balloonを使用することでステントを使用せずに治療することが出来、治癒過程をイメージングで明瞭に捉えることが出来ました。

【コメント】
SCADに対するPCI手技成功率は42~72%と通常PCIより低く、理由として①複数ステントを要す②ガイドワイヤーの偽腔内迷入③balloonによる血腫進展などが挙げられます。また血腫改善に伴う晩期ステント圧着不良の懸念もあります。SCADのPCIをせざるを得ない場合、このようなステントレスPCIは一つの有用な選択肢になると考えます。

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141. 症例報告
Unique Combination of Papillary Fibroelastoma and Aortic Stenosis
Circulation Journal (Circ J) 2023 Mar 9.
doi: 10.1253/circj.CJ-23-0060.
大動脈弁狭窄症に左室内乳頭状弾性線維腫を合併した一例

Naoki Watanabe/渡辺 直生

【概要】
症例は82歳女性.経胸壁心エコー検査で重症ASと前乳頭筋に付着する10㎜大の腫瘤を認めた.外科的大動脈弁置換術と腫瘤切除術を行った.腫瘤は病理学的に乳頭状弾性線維腫(PFE)と診断された。今回,重症大動脈弁狭窄症と左室内のPFEの併発を初めて報告した.PFEの成因は不明だが心内膜障害による微小血栓が原因の一つと考えられている.左室肥大による左室内の加速血流が乳頭筋におけるPFEの発生に関係した可能性が推察された.

【コメント】
TAVI時代における術前の心エコー検査では,心臓腫瘍などの心内構造物の存在にも注意する必要がある.

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140. Association of Home and Ambulatory Blood Pressure With Cardiovascular Prognosis in Practice Hypertensive Outpatients
Hypertension. 2022 Nov 17.
doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.122.20178.
家庭血圧および自由行動下血圧と心血管予後との関連

Keisuke Narita/成田 圭佑

【概要】
ガイドラインでは家庭血圧測定と24時間自由行動下血圧測定(ABPM)いずれの診察室外血圧測定も推奨されているが、これらの優劣を比較した研究は少ない。本研究では、家庭血圧とABPM両方の計測を行った高血圧外来患者において、それぞれの血圧値と心血管リスクを検討した。1336名において、平均7年間の追跡で、計121のイベントが発生した。20mmHg毎の調整ハザード比(HR)[95%CI]は、朝晩平均家庭SBP, 1.43 [1.09ー1.88]、24時間SBP 1.39 [1.02ー1.89]であった。モデルの適合度検定では24時間SBPを含むモデルに家庭SBPを追加した場合に適合度の改善を認めた。一方、家庭SBPに24時間SBPを加えても適合度の改善は認めなかった。本研究では、高血圧外来患者においてABPMと比べ家庭血圧が心血管予後推定に優位である傾向が示された。

【コメント】
ガイドラインでは家庭血圧、ABPMいずれも推奨していますが、それぞれの優劣についての研究報告はこれまで非常に少なく、議論のあるところです。今回の検討では家庭血圧がABPMと比べ優位である傾向を認めました。

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139.Agreement regarding overcoming hypertension in the Asian Hypertension Society Network 2022
Hypertens Res. 2022 Oct 14.
doi: 10.1038/s41440-022-00994-1.
高血圧制圧のためのアジア高血圧学会ネットワークによる合意事項

Satoshi Hoshide/星出 聡

【概要】
日本高血圧学会が先導し、アジア14地域の高血圧学会の各代表とディスカッションを重ね、それぞれの地域の特徴と合意事項をまとめました。

【コメント】
アジア14地域の高血圧学会の代表による高血圧制圧のための、はじめての研究成果です。京都で行われた国際高血圧学会においても同時発表されました。

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138.Diagnostic agreement of masked uncontrolled hypertension detected by ambulatory blood pressure and home blood pressure measured by an all-in-one BP monitoring device: The HI-JAMP study
Hypertens Res. 2022 Oct 14.
doi: 10.1038/s41440-022-01073-1.
自由行動下血圧で評価した仮面高血圧と家庭血圧で評価した仮面高血圧の診断の一致性:
「All-in-One」血圧計で測定した血圧による評価 – HI-JAMP研究 –

Naoko Tomitani/冨谷 奈穂子

【概要】
HI-JAMP (Home-Activity ICT-based Japan Ambulatory Blood Pressure Monitoring Prospective)研究に登録した2322名の治療中高血圧患者(男性 53.2%, 平均年齢 69.2±11.5 歳)のベースラインデータを解析しました。HI-JAMP研究では、診察室血圧(1機会・2回測定)、家庭血圧(早朝・就寝前各2回測定、5日間)、ABPM(30分間隔測定、24時間)を同一機種(TM-2441, A&D Co.,)で測定しています。診察室外血圧を評価する際に、ME平均値もしくは24時間平均値を用いた場合、仮面高血圧の割合はそれぞれ13.9%と11.0%でした。しかし、時間帯別の評価指標、すなわち家庭血圧測定では早朝平均や就寝前平均、ABPMでは昼間血圧平均、夜間血圧平均や早朝2時間平均を含めて評価した場合、仮面高血圧の割合は家庭血圧による評価で25.0%、ABPMによる評価で27.9%に上昇しました。診察室外血圧の評価には、全体平均のみならず時間帯別のコントロール状況も考慮することが重要であることが示されました。

【コメント】
家庭血圧による仮面高血圧診断とABPMによる仮面高血圧診断の一致性を、同一血圧計による血圧値で評価した初めての研究です。

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137.The HOPE Asia network 2022 up-date consensus statement on morning hypertension management
J Clin Hypertens (Greenwich). 2022 Sep;24(9):1112-1120.
doi: 10.1111/jch.14555.
早朝血圧管理に関するHOPE Asia Networkコンセンサス声明

Kazuomi Kario/苅尾 七臣

【概要】
パーフェクト24時間血圧コントロールを達成するうえで、早朝高血圧は臨床上重要なターゲットである。早朝高血圧は大きく2つに分類できる。すなわち、「モーニングサージ型」と「夜間・早朝持続型」である。「モーニングサージ型」は過度のモーニングサージ特徴とし、一方「夜間・早朝持続型」は、夜間血圧non-dipper/ riserが早朝にかけて持続することが特徴である。これらは家庭血圧計ならびに24時間自由行動下血圧計(ABPM)で検出できる。早朝高血圧は、診察室血圧値に関わらず<135/85 mmHgを降圧目標値とし、さらに合併症のある高リスク患者では<125/75 mmHgを目指す。早朝高血圧は西欧人よりもアジア人に多くみられるため、早朝高血圧を標的とした治療は特にアジア人で重要である。 早朝高血圧の検出ならびに、家庭血圧測定とABPMを活用した早朝血圧管理を徹底することが、アジアの心血管イベント抑制において重要である。

【コメント】
アジアにおいて心血管イベントゼロを目指す、HOPE Asia Networkが2022年に発表した家庭血圧管理に関するコンセンサス声明である。2017-2020年にかけて自治医科大学が行った全国調査HI-JAMP研究では、現在も降圧療法中高血圧患者の50%以上が早朝血圧コントロール不良状態にある。



136.Hypertensive emergencies in Asia: A brief review
J Clin Hypertens (Greenwich). 2022 Sep;24(9):1226-1235.
doi: 10.1111/jch.14547.
アジアの高血圧緊急症治療:HOPE Asia Network総説

Praew Kotruchin/コトルチン プラウ

【概要】
We reviewed five observational studies and nine clinical practice guidelines across Asia. The prevalence of hypertensive emergencies ranged from 0.1% to 1.5%. Stroke was the most common target organ involvement in Asians who presented with hypertensive emergencies. Although most hypertensive emergency patients required hospitalization, the mortality rate was low. We found that the management guidelines for hypertensive emergencies were consistent across Asia, particularly regarding the medications used to reduce blood pressure. The strength of this study is that we examined scientific evidence from Asian populations across all regions. However, we were unable to draw firm conclusions on some points, such as the true prevalence of each TOD and the consistent recommendation on some TOD management, due to a lack of studies/guidelines with complete data on such, and according to a relatively small number of hypertensive emergencies in half of the included studies.

【コメント】
There is currently a lack of data among Asian countries, so a multinational data repository on hypertensive emergencies and Asian guidelines on hypertensive emergency management is mandatory.

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135. Renal denervation: basic and clinical evidence
Hypertens Res. 2022 Feb;45(2):198-209.
doi: 10.1038/s41440-021-00827-7.
腎デナベーション:基礎と臨床の最新エビデンス

Kenichi Katsurada/桂田 健一

【概要】
腎デナベーションは脳と腎臓の臓器連関経路である腎交感神経を部分的に遮断する高血圧に対する自律神経修飾治療である。実験動物に対する腎デナベーションは外科的腎神経切断により行われる。この手技では遠心性腎神経と求心性腎神経がともに除神経され、total renal denervation (TRDN)と呼ばれる。近年、腎動静脈周囲に高濃度カプサイシンを塗布することにより求心性腎神経のみを除神経するselective afferent renal denervation (ARDN)と呼ばれる手技が報告された。様々な高血圧モデル動物に対するTRDNとARDNの降圧効果を比較することで、遠心性腎神経と求心性腎神経の役割の違いを評価する試みがなされている。また、心不全モデル動物に対するTRDNおよびARDNの治療効果も報告されている。臨床における腎デナベーション手技としては、主に高周波アブレーション、超音波アブレーション、アルコールを用いたケミカルアブレーションがあり、いずれも腎動脈内腔より経カテーテル的に除神経する。近年発表されたシャム手技群を設けた無作為化比較試験(SPYRAL-HTN試験、RADIANCE-HTN試験)では、腎デナベーションにより明確な降圧効果が示された。臨床導入に際しての課題であるレスポンダー識別や長期効果、手技成功の検証なども基礎と臨床で研究が進められている。

【コメント】
臨床導入が間近に迫った腎デナベーションをめぐる基礎と臨床の最新エビデンスを総括した。

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134. 症例報告
Massive Upper-extremity Edema after Transaxillary Venoarterial-extracorporeal Membrane Oxygenation
Intern Med. 2022 Oct 12.
doi: 10.2169/internalmedicine.0684-22.
右腋窩動脈アプローチによるECMO使用により右上肢の著明な腫脹をきたした一例

Shunsuke Saito/齋藤 俊祐

【概要】
虚血性重症心不全患者に通常通り大腿動静脈からのアプローチによりECMOを確立した.しかしASOや腹部大動脈瘤の合併がありアプローチ部位の変更を余儀なくされた.右腋窩動脈アプローチを選択し良好なflowが得られたが“過灌流症候群”により右上肢の水疱を伴う著明な腫脹きたした. IMPELLAに変更し上肢腫脹は改善した.

【コメント】
右腋窩動脈アプローチによるECMO使用は稀である,文献的に比較的安全とされている.その合併症や手技の注意点を十分理解し施行することが重要と考えられた.

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133.Relationships Among Heart Rate, β-Blocker Dosage, and Prognosis in Patients With Coronary Artery Disease in a Real-World Database Using a Multimodal Data Acquisition System
Circ J. 2022 Oct 7.
doi: 10.1253/circj.CJ-22-0314.
冠疾患患者における心拍数、β遮断薬と予後との関連

Yusuke Oba/大場 祐輔

【概要】
7施設の虚血性心疾患患者のデータベース(CLIDAS)
①PCIを施行された冠動脈疾患患者8,744人でHRと予後の関連を解析しました。
HR≥75bpm群は有意にMACCEが多いことが分かりました。ACSでもCCSでも同じ結果です。
②β遮断薬服用している4,964症例でHR、β遮断薬の量と予後の関連を解析しました。
ACS群のみ、標準量以下のβ遮断薬使用群は有意にMACCEと関連しました。

【コメント】
イバブラジンが登場したこともあり、心拍数は冠動脈疾患における治療ターゲットになるのではないかと期待しています。

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132. Surgical pulmonary valve replacement at a tertiary adult congenital heart centre in the current era
Int J Cardiol Congenit Heart Dis. 2022 Sep;9:100394.
doi: 10.1016/j.ijcchd.2022.100394.
血三次成人先天性心疾患センターにおける近年の肺動脈弁置換術

Kana Kubota/久保田 香菜

【概要】
肺動脈弁置換術(pulmonary valve replacement; PVR)は成人先天性心疾患患者によく行われる手術である。2003~2018年にRoyal Brompton Hospitalで行われたPVR 490症例について検討し、近年のhigh volume centerでのトレンドについて解析した。490例中197例が女性で、平均年齢は29.9±13歳だった。手術に用いられた弁の種類はhomograft 37%、Perimount 31%、Mosaic 24%、Hancock 6%、その他1%だった。術後30日以内に死亡したのは7例(1.4%)で、術後生存率は1年98.3%、5年97.7%、10年96.8%、15年95.4%、再手術回避率は1年99.8%、5年96.6%、10年90.2%、15年81.0%だった。6.5±4.3年の観察期間中に27例(5.5%)が再手術となり、使用されていた弁の種類の違いについて有意差は見られなかったが、Perimount弁と比較するとMosaic弁では再手術がやや早期になる傾向があった。今回の研究では、使用する弁の種類によって再手術率に影響はないことがわかったが、今後さらなる術後患者の研究と長期間使用できる人工弁の開発が望まれる。

【コメント】
私が留学先の英国Royal Brompton Hospitalでまとめた報告です。Fallot四徴症の患者さんでは幼少期に初回の右室流出路修復を行い、その後人工導管や人工弁の劣化に伴い、10~20年ごとにPVRを繰り返し受けなければなりません。少し前から欧米では経カテーテル的PVRができるようになり、日本でも限られた施設で試験的に行われるようになりましたが、それでもまだまだ試行錯誤の時代は続いています。Bromptonのような世界のオピニオンリーダー的な施設でどのような手術が行われているかという情報は、世界中の臨床医にとって有用な情報だと思いますので、このdataをまとめさせてもらえたことについて非常に光栄に思います。

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131.Seasonal Variation in Day-by-Day Home Blood Pressure Variability and Effect on Cardiovascular Disease Incidence
Hypertension. 2022 Sep;79(9):2062-2070.
doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.122.19494.
血圧日間変動の季節変動と心血管リスクの関連

Keisuke Narita/成田 圭佑

【概要】
J-HOP研究のデータセットを用い、集団を春夏秋冬に分け、家庭血圧を用いて評価した血圧日間変動(SD、CV、ARV)の季節差と、季節毎に心血管リスクが異なるかについて検討しました。SD ,CV ,ARVの値で、夏季<冬季の関係を認めました。また、冬季ではSD ,CV ,ARVいずれも心血管イベントリスクとの有意な関連を認めました(1SD毎の調整HR [95%CI]: SD, 1.26 [1.02–1.54]; CV, 1.24 [1.02–1.52]; ARV, 1.44 [1.17–1.77])。また、SD ,CV ,ARVの四分位でも冬季のみ有意な心血管リスクとの関連を認めました(Figure)。

【コメント】
血圧変動の一つのパラメータである”日間変動”の季節変動と心血管リスクについて、J-HOP研究のPost hoc 解析です。冬季に評価した血圧日間変動が、他の季節と比べ心血管リスクと強い関連を認めました。冬季の血圧変動が他の季節と比べ病的意義が大きい可能性があります。

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130. Simple predictive score for nocturnal hypertension and masked nocturnal hypertension using home blood pressure monitoring in clinical practice
J Hypertens. 2022 Aug;40(2):1513–1521.
doi: 10.1097/HJH.0000000000003175.
夜間家庭血圧による夜間高血圧および仮面夜間高血圧の簡易予測スコア

Keisuke Narita/成田 圭佑

【概要】
夜間血圧の測定にはABPMまたは夜間血圧測定が可能な家庭血圧測定デバイスが必要であり、未だ一般臨床で広く普及しているとは言い難い。そこで、通常測定される昼間の家庭血圧および患者因子から夜間高血圧の簡易予測スコアを開発した。昼間家庭血圧高値、糖尿病、アルブミン尿などのリスクを点数化した(Figure)。

【コメント】
JHOP Nocturnal BP studyのデータセットを用いて、夜間高血圧のリスクスコアを作成しました。一般外来診療において、夜間血圧の測定を検討する際の手助けとなるスコアリングと思います。夜間血圧測定を広く普及するためにも良い試みと考えました。

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129. 症例報告
Infective Endocarditis Revealed after Resolution of COVID-19 Infection
Intern Med. 2022 Sep 13.
doi: 10.2169/internalmedicine.0307-22.
COVID-19感染症後に生じた感染性心内膜炎の1例

Tomohisa Sakata/坂田 知久

【概要】
COVID-19感染症に罹患した若年女性が,退院直後心筋梗塞を発症し,さらに全身塞栓症を伴う感染性心内膜炎を併発した.僧帽弁に11mmの疣腫の付着を認め感染のコントロールも困難なため外科的治療が行われた.

【コメント】
コロナ禍において未知の感染症に対する恐怖心も相まって,聴診などの理学的所見の基本的な診察が疎かになりがちである.いかなる状況下でも,通常診療の重要性を痛感させられた症例である.今後も一例一例大事に臨床に臨みたい.

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128. 症例報告
Aortic Root Dissection Diagnosed by Three-dimensional Transthoracic Echocardiography
Intern Med. 2022 Aug 10.
doi: 10.2169/internalmedicine.0271-22.
3D経胸壁心エコー検査による大動脈基部解離の評価

Yuki Gonda/権田 勇樹

【概要】
重篤な疾患である大動脈基部の解離は複雑な構造を呈し,通常の2D-TTEでは診断に難渋するケースがある.今回,Real-time 3D-TTEで明瞭に基部のflap等を描出し,造影CTを施行するまでの間に確実な診断をし得た.救急の現場における,3D-TTEの有用性につき報告した.

【コメント】
3D-TTEは,2D-TTEと造影CT検査の長所・短所を補完する意味でも重要な検査と考えられた.今後も一例一例,大事に臨床に臨みたい.

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127. Pulse transit time-estimated blood pressure: a comparison of beat-to-beat and intermittent measurement
Hypertens Res. 2022 Jun;45(6):1001-1007.
doi: 10.1038/s41440-022-00899-z.
Pulse transit time (PTT)でとらえたBeat-to-beat血圧と定時測定血圧の比較

Satoshi Hoshide/星出 聡

【概要】
Beat by beatの血圧測定が血圧情報を把握するには理想であるが、これまでには、侵襲的な評価方法でしかなかった。そこでPTTを用いて、夜間の血圧変動が大きい無呼吸患者を対象に、beat by beatでのPTTでの血圧評価が、一般的な血圧測定間隔と比較し、より変動がとらえられるかを検討した。PTTを用いた睡眠中の血圧評価において、定時での血圧測定値よりもBeat-to-beat血圧で評価した血圧値が、最高値及び最低値についてはより変動をとらえられる可能性が示唆された。

【コメント】
本研究における最も大きな問題点は、PTTで評価した血圧値が、これまでのスタンダードな上腕での血圧測定法で測定された血圧値と同じかどうかという点である。個人内での血圧変動の評価はPTTを用いて可能かもしれないが、個人間での血圧変動の比較については問題点が残る。

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126. Long-term efficacy and safety of renal denervation in the presence of antihypertensive drugs (SPYRAL HTN-ON MED): a randomised, sham-controlled trial
Lancet. 2022 Apr 9;399(10333):1401-1410.
doi: 10.1016/S0140-6736(22)00455-X. Epub 2022 Apr 4.
降圧薬服用下で腎デナベーションの有効性と安全性を検討したSPYRAL HTN-ON MED研究の長期追跡結果(36か月)

Kazuomi Kario/苅尾 七臣

【概要】
腎デナベーションの有効性と安全性を検討したSPYRAL HTN-ON MED研究の長期結果(追跡36か月)である。この研究は、ヨーロッパ、米国、アジア、オセアニアの6か国25 施設においてコントロール不良高血圧患者(診察室血圧>150/90 mmHg)を登録し、適格であった80例(登録期間2015 - 17)を腎デナベーション群とシャム手技群にランダム割り付けし、6ヵ月後の24時間血圧の変化量の群間差を調査した。24ヵ月後(調整後の群間差 -11.2 mmHg [95%CI -18.4 to -4.0], p=0.0031])、36ヵ月後( -10.0 mmHg [-16.6 to -3.3], p=0.0039)の24時間収縮期血圧は腎デナベーション群でシャム手技群よりも有意に低下し、降圧薬の使用量は同等であった。

【コメント】
この追跡結果から、腎デナベーションの降圧効果が長期間継続することが示され、今後、降圧療法の選択肢のひとつとして重要な役割を示す可能性が示された。



125. An Myh11 single lysine deletion causes aortic dissection by reducing aortic structural integrity and contractility
Sci Rep. 2022 May 25;12(1):8844.
doi: 10.1038/s41598-022-12418-8.
Myh11の単一リジン欠失は、大動脈の構造的完全性と収縮性を低下させることにより大動脈解離を引き起こす

Keita Negishi/根岸 経太

【概要/コメント】
大動脈瘤や大動脈解離を有する患者の一部には家系内集積を認め,以前より遺伝的素因の関与が指摘されていた.そのような疾患の多くはマルファン症候群やロイス・ディーツ症候群に代表される遺伝性結合織疾患が含まれるが,特徴的な身体所見を有さない家族性胸部大動脈瘤・解離(FTAAD)は発症前の診断・介入が難しく,病態の解明も進んでいない.現時点ではFTAADの原因遺伝子はACTA2, MYH11, MYLK, PRKG1が同定されており,今回我々は日本で報告された2つの家系で発見されたMyh11 K1256delを持つモデルマウスを作製し,その病態機序の解明を試みた.
Myh11ΔK/ΔKマウスの大動脈は,壁厚が増加し,電子顕微鏡での所見では平滑筋細胞間の接着が粗になっていた.Myh11ΔK/+マウスの大動脈はアンジオテンシンII負荷によって解離や壁内血腫を有意に発症し,組織的な脆弱性が示唆された.Myh11ΔK/ΔK大動脈のRNAシーケンスでは細胞接着に関与するIntegrin subunit α2(Itga2)の発現が低下しており,Myh11ΔK/ΔK iPS細胞から分化した平滑筋細胞でもItga2の発現が低下していることが示された.
また,Myh11ΔK/ΔKマウスは成熟した全ての個体で動脈管開存症を認め,妊娠した雌マウスは分娩遅延による死産が多発した.Myh11ΔK/ΔK大動脈はフェニレフリン負荷やKCl負荷に対する収縮力が低下しており,平滑筋細胞の収縮反応が減弱していると思われた.
これらの結果によって,Itga2のdownregulationによる細胞接着の脆弱化が平滑筋細胞の収縮力を低下させることが示唆された.その結果,動脈の収縮力が低下し,大動脈の血行力学的ストレスを増大させ,大動脈疾患の病態に至る可能性が考えられた.

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124. Validation of an ambulatory blood pressure monitoring device employing a novel method to detect atrial fibrillation
Hypertens Res. 2022 May 2.
doi: 10.1038/s41440-022-00925-0.
24時間血圧計を用いた心房細動検出の検証

Tomonori Watanabe/渡部 智紀

【概要】
心房細動検出するirregular heart beat (IHB)アルゴリズムを搭載した 24 時間血圧計ABPMを用いて心房細動検出能を評価した。動悸症状を有する高血圧患者(平均年齢63.2±10.3歳、81%が心房細動診断あり)90名を対象に、IHBアルゴリズムを搭載したABPMおよび24時間ホルター心電図(ECG)を同時に施行した。IHBアルゴリズムは100%の感度と79.4%の特異度で心房細動を正確に検出することができた。
心房細動の可能性を示唆するIHB指標として、(1)24時間血圧測定におけるIHB陽性率が22.5%以上(感度84.6%、特異度85.1%、AUC 0.906, p < 0.0001)(2)2.5回以上連続するIHB陽性(感度84.6%、特異度83.0%、AUC 0.881, p < 0.0001)であった。IHBアルゴリズムを搭載した24時間ABPMは、高血圧患者における血圧管理および心房細動検出に役立つと思われた。

【コメント】
心房細動は脳塞栓、心不全のリスクとして知られる。早期診断、治療介入が好ましいが、一方で約40%が無症候性であり診断に限界がある。高血圧は心房細動患者の約70%に合併するといわれ、併発に伴い脳塞栓リスクが高まることから、抗凝固療法の適応となる。IHBアルゴリズムを搭載したABPMは、血圧管理および心房細動検出により高血圧患者における脳血管イベント抑制を目的とした包括的な血圧管理が可能となる。本研究によりIHBアルゴリズムを搭載したABPMによる心房細動検出の精度が示された。

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123. Association of Night-to-Night Adherence of Continuous Positive Airway Pressure With Day-to-Day Morning Home Blood Pressure and Its Seasonal Variation in Obstructive Sleep Apnea
J Am Heart Assoc. 2022 Apr 5;11(7):e024865.
doi: 10.1161/JAHA.121.024865.
閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者におけるCPAPアドヒアランスと早朝家庭血圧の日間変動とその季節差の関係

Satoshi Hoshide/星出 聡

【概要】
105名のCPAP施行中の閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者に1年間の家庭血圧測定を行い、CPAPの日々のアドヒアランス(4時間以上の継続)と翌日の早朝家庭血圧との関係を検討した。4時間以上CPAPを継続した翌日の早朝家庭血圧への影響は、-0.6mmHgと統計学的に有意に低下していた。また、CPAP4時間以上継続群と4時間未満群での早朝家庭血圧の季節変動の差は、1月において最大3.7mmHg、4時間未満群で高値であった。

【コメント】
閉塞型睡眠時無呼吸症候群は二次性高血圧の重要な原因の一つであり、CPAPの導入は血圧を下げます。CPAPのアドヒアランスが翌日の早朝家庭血圧に影響を及ぼすことを検討した初めての報告です。

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122.Notched P-wave on digital electrocardiogram predicts cardiovascular events in patients with cardiovascular risks: The Japan Morning Surge Home Blood Pressure (J-HOP) Study
Cardiology. 2022 Feb 11.
doi: 10.1159/000522508.
機械解析のノッチ型P波は、心血管リスクを有する患者において心血管イベントを予測する

Tomoyuki Kabutoya/甲谷 友幸

【概要】
J-HOP Studyから心血管系危険因子を一つ以上有する被験者810名を登録した。12誘導心電図を実施し、12誘導心電図自動解析装置を用いてII誘導でのP波のM字型のピーク間距離を自動算出した。M字型の2つのピークの距離が20ms以上または40ms以上の場合の2つの定義でノッチ型P波を定義した。 ノッチ型P波を20ms以上で定義した場合(n=92)、ノッチ付きP波は心血管イベントの有意な予測因子となった(ハザード比:1.83,95%信頼区間:1.01-3.31,p=0.045)。ノッチ付きP波を40ms以上で定義すると(n=25)、ノッチ付きP波群における心血管イベントのハザード比は共変量で調整すると有意ではなかった(ハザード比: 1.52; 95%信頼区間: 0.51-4.53, p=0.455)。ノッチ型P波群(M字のピーク間距離が20ms以上)の患者の左房径とLVMIは、コントロール群に比べ有意に高かった(左房径:38.8±5.9 vs 36.8±5.0 mm、p=0.001、LVMI:103.9±27.7 vs 96.3±25.7 g/m2、p=0.010)。

【コメント】
心電図自動解析によるノッチ型P波は、心血管イベントおよび左房拡大と関連していたP波の変化は左房のリモデリングだけでなく心血管イベントの予測マーカーであり、高血圧性心負荷の臓器障害の評価として用いることができるかもしれない。

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121.Usefulness of Optimization of Interventricular Delay Using an Electrical Cardiometry Method in Patients with Cardiac Resynchronization Therapy Implantation
Int Heart J. 2022;63(2):241-246.
doi: 10.1536/ihj.21-711.
CRT植え込みにおける心臓電気測定法の最適化の有用性

Tomoyuki Kabutoya/甲谷 友幸

【概要】
連続した19名のCRT植え込み患者において、心臓カテーテルでの左室内dp/dtと心臓電気測定法(エスクロン®)で1回拍出量(SV)の測定を行いVV delayの最適化を行った。心臓電気測定法でSVの増加量が中央値以上の群と中央値未満の群の2群を定義した。電気的心電計とdp/dt法で至適VVdelayは高い相関を示した(R=0.61, p=0.006)。ベースラインのSV(43.4mL)に比べ、両室同時ペーシングでは47.8mLに増加し(対ベースライン p=0.008)、さらにVVdelayの最適化により49.8mLに増加した(対両室同時ペーシング p=0.020)。6ヶ月後の左室駆出率は、心臓電気測定法で中央値以上のSV増加群で有意に改善したが(37.6 vs 28.2%, p=0.041)、中央値以下のSV増加群では改善しなかった(26.5 vs 26.5%, p=0.985)。

【コメント】
心臓電気測定法による最適なVV遅延は、dp/dt法によるそれとほぼ一致し、心機能はSV中央値以上増加群で有意に改善された。心臓電気測定法は非侵襲的で外来で施行可能で、CRT患者の至適VV delayの計測がnonresponderの再最適化に利用できるかもしれない。

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120.Cardiovascular Prognosis in Drug-Resistant Hypertension Stratified by 24-Hour Ambulatory Blood Pressure: The JAMP Study
Hypertension. 2021 Dec;78(6):1781-1790.
doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.121.18198.
24時間血圧で層別化した治療抵抗性高血圧患者の心血管予後:JAMP研究

Kazuomi Kario/苅尾 七臣

【概要】
JAMP研究参加者(全国37都道府県で登録した心血管リスクを1つ以上もつ外来患者6359人)のうち、心不全の病歴がない高血圧患者(5839人)を解析に含めた。平均追跡期間は4.5年。このうち、治療抵抗性高血圧(降圧薬3剤以上処方下で診察室血圧≧140/90 mmHg)を示す患者は643人(診察室外血圧が正常値を示す偽性治療抵抗性高血圧は222人;診察室血圧・診察室外血圧がいずれも高血圧を示す真の治療抵抗性高血圧は421人)であった。主要エンドポイントである全心血管イベント(致死的/非致死的脳卒中、致死的/非致死的冠動脈疾患および心不全)の発生は10.1/1000人・年(脳卒中4.1、冠動脈疾患3.5、心不全2.6)であった。コントロールされた非治療抵抗性高血圧患者に比べ、真の治療抵抗性高血圧患者では全心血管イベントリスク(調整後ハザード比1.66 [95% CI, 1.12–2.48] P=0.012)ならびに心不全リスク(調整後ハザード比 2.24 [95% CI, 1.17–4.30]; P=0.015)がそれぞれ高かった。コントロール不良の非治療抵抗性高血圧患者と真の治療抵抗性高血圧患者の比較では、真の治療抵抗性高血圧患者の調整後ハザード比は総心血管イベント1.51 [1.03–2.20] P=0.034;心不全3.03 [1.58–5.83] P<0.001であった。

【コメント】
本研究において、治療抵抗性高血圧患者において、通常の昼間家庭血圧と比較して夜間家庭血圧がより優れたイベント予測能をもつことが示唆されました。治療抵抗性高血圧患者では肥満や糖尿病、睡眠時無呼吸の合併が多く、これらはいずれも夜間血圧上昇の危険因子でもあります。通常の昼間家庭血圧に加え、夜間血圧の評価も重要と考えます。

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119. 症例報告
Use of the snare technique for crossing a severely calcified bicuspid valve and horizontal aorta
Anatol J Cardiol. 2022 Jan;26(1):5001-5002.
doi: 10.5152/AnatolJCardiol.2021.1042.
石灰化二尖弁かつ横位心の重症大動脈弁狭窄症に対し、スネアテクニックが有用だったTAVIの一例

Yusuke Oba/大場 祐輔

【概要・コメント】
本症例は狭小弁輪でしたので、スープラアニュラーデザインであるEvolute Pro+を選択し、より広い有効弁口面積を確保することを優先しました。 一方、本症例はNCC-RCCに強い石灰化を伴う二尖弁かつ横位心であり、先端フレクション機能のないEvluteは、弁の通過に難渋することが予想されました。そのため、スネアを予めデバイスに通しておき、弁通過の際にスネアで引っ張り上げることによって弁の通過に成功しました。 スネアを用いたテクニックは手技を安全に行う上でも有用だと思います。

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118.Nighttime Home Blood Pressure Is Associated With the Cardiovascular Disease Events Risk in Treatment-Resistant Hypertensionr
Hypertension. 2022 Feb;79(2):e18-e20.
doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.121.18534.
治療抵抗性高血圧患者における夜間家庭血圧と心血管リスクの関係

Keisuke Narita/成田 圭佑

【概要】
夜間家庭血圧についての観察研究であるJ-HOP Nocturnal BP study より、診察室血圧で定義した治療抵抗性高血圧患者297名において、夜間家庭血圧で定義した夜間高血圧(120/70 mmHg以上)は夜間血圧正常者と比較して、脳卒中、冠動脈疾患、心不全、大動脈解離からなる複合心血管イベントの調整HR比 3.5 (95%CI 1.5ー8.3)であった。昼間(朝夕平均)家庭血圧で定義した高血圧は正常血圧者と比較して調整HR比 2.2 (95%CI 1.1ー4.3)であった。C統計量を用いた解析では夜間収縮期血圧を追加するとモデル予測能が改善する傾向認めた(P=0.078)が、昼間家庭収縮期血圧を追加した場合には改善を認めなかった。

【コメント】
本研究において、治療抵抗性高血圧患者において、通常の昼間家庭血圧と比較して夜間家庭血圧がより優れたイベント予測能をもつことが示唆されました。治療抵抗性高血圧患者では肥満や糖尿病、睡眠時無呼吸の合併が多く、これらはいずれも夜間血圧上昇の危険因子でもあります。通常の昼間家庭血圧に加え、夜間血圧の評価も重要と考えます。

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117. 症例報告
Leadless Pacemaker Implantation for a Super-elderly Woman with a Mediastinal Tumor
Intern Med. 2021 Oct 19.
doi: 10.2169/internalmedicine.8273-21.
縦郭腫瘍のある超高齢女性に行ったリードレスペースメーカの1例

Tomoyuki Kabutoya/甲谷 友幸

【概要】
症例は95歳の女性。症状のある完全房室ブロックで、10秒の心停止があり前医で内頚静脈から一時的ペースメーカーを留置しようとしたが、数年来指摘されている縦郭腫瘍のために挿入困難で大腿静脈から一時的ペースメーカーを留置され当院へ転院となった。通常の鎖骨下静脈からのリード挿入は上大静脈が閉塞しているため困難であり、リードレスペースメーカを植え込んだ。術後の経過は良好で独歩で退院された。

【コメント】
リードレスペースメーカは下肢から下大静脈を経由して右心室に挿入するため、このように上大静脈が閉塞するような腫瘍がある患者ではよい適応となる。モードはVVIのほか、最近はVDDも上市されており、房室ブロックに対して血行動態の改善が期待されている。

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116.The dawn of a new era of targeted therapies for heart failure with preserved ejection fraction (HFpEF)
Hypertens Res. 2022 Jan;45(1):164-166.
doi: 10.1038/s41440-021-00799-8.
HFpEFに対する薬物治療の新時代の幕開け

Kenji Harada/原田 顕治

【概要】
これまで、HFpEFに対する薬物治療はエビデンスが示されていない.昨今、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの有効性を検討した、MPEROR-Preserved試験が発表され光明が見えてきた.今後、HFpEFのetiologyを念頭に置いた治療も考慮していくべきである.

【コメント】
HFpEFに対する薬物治療の現状と展望につきまとめた.

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115.Catheter-based ultrasound renal denervation in patients with resistant hypertension: the randomized, controlled REQUIRE trial
Hypertens Res. 2022 Feb;45(2):221-231.
doi: 10.1038/s41440-021-00754-7.
治療抵抗性高血圧患者に対して超音波腎デナベーションを行ったランダム化比較試験:REQUIRE試験

Kazuomi Kario/苅尾 七臣

【概要】
腎デナベーション(RDN)は、治療抵抗性高血圧の新しい治療法として注目されているが、アジア人の臨床データは乏しい。REQUIRE試験では、日本と韓国において登録した治療抵抗性高血圧患者143人(診察室血圧≥150/90 mmHg、24時間血圧≥140 mmHg)に対し超音波RDNを実施し、その有効性をシャム手技と比較した。主要エンドポイントである3か月後の24時間収縮期血圧の変化量は、群間に有意差はなく(RDN群-6.6 mmHg vs シャム群-6.5mmHg)、治療薬の使用についても同様に差はなかった。本研究において腎デナベーションがもたらした降圧量は他の試験と同様であったが、シャム群の降圧量が他の試験よりも大きかった。

【コメント】
アジアで初めての経カテーテル・腎デナベーションの無作為シャム群比較試験である。手技は超音波デバイスを用いた。これまでの腎デナベーション試験に遜色ない低下度がみられている。しかし、シャム群においても同程度の血圧低下がみられ、主要エンドポイントである24時間収縮期血圧に2群の差はなかった。2群の家庭血圧低下を時系列でみてみると、2群差は1か月後では、5.4 mmHgの差が見られた(P=0.046)。その差が、シャム群の血圧低下により、2か月後に3.8 mmHg、1.8 mmHgに低下している。REQUIRE試験では、シャム群の行動変容(服薬アドヒアランスや生活習慣の改善)が大きな降圧効果をもたらしたと考えられる。今年より、試験デザインを改善し、コントロール不良高血圧を対象にした新たな臨床試験が開始される。その成果に期待したい。

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114.Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension
N Engl J Med. 2021 Sep 30;385(14):1268-1279.
doi: 10.1056/NEJMoa2111437.
高齢高血圧患者に対する厳格血圧コントロールの有効性を検討:STEP試験

Kazuomi Kario/苅尾 七臣

【概要】
中国の高齢高血圧患者(60~80歳)8511人において、厳格治療(4243人; 目標収縮期血圧110~130 mmHg)が、標準治療(4268人;130~150 mmHg)に比較して心血管リスク(主要アウトカム: 脳卒中、急性冠症候群、急性非代償性心不全、冠動脈血行再建術、心房細動、心血管死の複合)を抑制するかを検証したランダム化比較試験である。追跡期間中央値3.34年における主要アウトカム発生は、厳格治療群の方が、標準治療群よりも低率であった(3.5% vs. 4.6%; ハザード比0.74)。低血圧が厳格治療群で多かったことを除き、安全性と腎臓関連のアウトカムに群間差はなかった。

【コメント】
アジアの高齢者高血圧患者において厳格な降圧の有用性を無作為比較試験で示した重要なランドマーク研究である。これまで、欧米人を対象としたSPRINT研究でも厳格な降圧の有用性が示されていた。SPRINT試験の収縮期血圧の降圧5mmHg当たりの循環器イベントの低下率は11%であったのに対し、STEP試験では18%と、より大きな有用性が見られている(Kario, et al. Hypertens Res. 2022;45:11-14; J Clin Hypertens 2022, online)。本研究では早朝家庭血圧をICT伝送モニターしており、今後の詳細な検討が待たれる。



113.Relationship between Dasatinib-induced Pulmonary Hypertension and Drug Dose
Intern Med . 2022 Jan 13.
doi: 10.2169/internalmedicine.8392-21.
ダサチニブによる薬剤性肺高血圧症と薬剤容量の関連性

Kana Kubota/久保田 香菜

【概要】
ダサチニブは第二世代チロシンキナーゼ阻害薬であり、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia; CML)とフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia; ALL)の治療に用いられる。近年、ダサチニブによる薬剤性の肺動脈性肺高血圧症が報告され、そのメカニズムとしてダサチニブが薬剤容量依存性に肺動脈内皮細胞のアポトーシスを誘導することが動物実験で示された。しかし実臨床でダサチニブの容量と肺高血圧症の関連を解明した報告はこれまでにない。我々は自治医科大学附属病院で2009年1月~2020年3月の間にダサチニブを投与された128例(CML; 94例, ALL; 34例)について、後向きコホート研究を行った。CMLでは4例(4.3%)、ALLでは3例(8.8%)が心エコーで肺高血圧症と診断されたが、ダサチニブの投与期間、1日投与量、総投与量それぞれについて関連性は見られなかった。ダサチニブ投与開始から肺高血圧症発症までの期間は中央値28カ月(7-39カ月)であり、観察期間中に肺高血圧症による死亡は無かった。ダサチニブを導入する場合には、容量・時間依存性に肺高血圧症を発症するわけではないため、導入早期から注意深い循環器学的な観察が必要である。

【コメント】
肺高血圧を発症した7例のうち、3例は激烈な臨床経過を呈したために血液内科から当科に紹介され加療しました。分子標的薬であるチロシンキナーゼ阻害薬は肺高血圧症と密接な関連があることが近年になってわかってきており、第一世代のイマチニブは一部の肺高血圧症の治療に効果がありますが、第二世代のダサチニブ、第三世代のボスチニブ、ポナチニブ、また乳癌の治療に用いられるラパチニブはいずれも肺高血圧症を発症させる危険性があることが報告されています。今後も新たな分子標的薬が次々と登場してくることが予想され、こうした予期せぬ循環器系の副作用についても、循環器内科医として見識を深めていく必要があると感じています。

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112.Growth Differentiation Factor-15 Predicts Death and Stroke Event in Outpatients With Cardiovascular Risk Factors: The J-HOP Study
J Am Heart Assoc. 2021 Dec 21;10(24):e022601.
doi: 10.1161/JAHA.121.022601.
GDF-15は心血管リスク因子を持つ外来患者の死亡と脳卒中イベントを予測する:J-HOP研究

Keita Negishi/根岸 経太

【概要/コメント】
健常者もしくは心血管疾患を有する患者の血中GDF-15高値は死亡リスクと強く相関するため,GDF-15は新しい予後予測マーカーとして注目されている.しかしGDF-15と個々の疾患発生との関係は,GDF-15の多彩な生理学的機能のためか様々な結果が報告されており,確立した見解は少ない.本研究ではJHOP研究に登録された心血管リスクを有する外来患者3562名を,血中GDF-15濃度の三分位で分けて,総死亡,脳イベント(脳梗塞+脳出血+クモ膜下出血),心イベント(心筋梗塞+PCIを行った狭心症+心不全入院)との関係を検討した.結果,3rd tertile群(GDF-15 >1188.0 ng/L)は1st tertile群(GDF-15 <788.4 ng/L)と比べてtraditional risk factorやNT-proBNP, 高感度Trop-Tといった他の予後マーカーで補正しても総死亡と脳イベントのリスクが有意に上昇した(総死亡, HR 2.38, 95% CI 1.26–4.48, p =0.007; 脳イベント, HR 2.93, 95%CI 1.31–6.56, p =0.009).一方で心イベントは全てのイベントの発生リスクと相関せず,従来の報告とは異なる結果であった.また,GDF-15が有するイベントに対する診断能については,総死亡に対してはNT-proBNPや高感度Trop-Tを凌駕したが,脳イベントについてはこの2つのマーカーと同等の診断能であった.アジア人の外来患者において,GDF-15の脳イベントと心イベントに対する予後能の新しい情報は,GDF-15を臨床応用していくうえで有用であると思われた.

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111.Effects of renal denervation on blood pressures in patients with hypertension: a systematic review and meta-analysis of randomized sham-controlled trials
Hypertens Res. 2021 Oct 17.
doi: 10.1038/s41440-021-00761-8.
高血圧患者における腎デナベーションの降圧効果:システマティックレビューと無作為化シャム対照比較試験のメタ解析

Yukako Ogoyama/小古山 由佳子

【概要】
腎デナベーションは,治療抵抗性高血圧患者に対する非薬物治療として臨床研究が進められてきた。しかし2014年初の無作為化シャム対照比較試験でシャム群との有意性を示せず,患者特性や術者の経験値,プロトコールの見直し等を行い,再びRCTが行われている過程である.今回我々は最新の臨床試験を含むシャム対照比較試験のシステマティックレビューとメタアナリシスを行い,すべての血圧パラメーターでRDN群がシャム群と比較して有意に血圧を下げることを示した.
【コメント】
自治医大も参加しているRDNの臨床研究結果を用いて,福岡大学の有馬先生・多田先生を始め多くの皆様に協力頂き行ったメタ解析です.降圧数値自体は24HSBP-3.31mmHg,Office SBP-5.25mmHgではありますが,これらは心血管イベントを低下させるには有効と言えます.今後早期の臨床応用を目指し,また適応拡大も視野に入れて,さらなる臨床研究が進むことを期待しています.

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110.Reproducibility of nighttime home blood pressure measured by a wrist-type nocturnal home blood pressure monitoring device
J Clin Hypertens (Greenwich). 2021 Oct;23(10):1872-1878
doi: 10.1111/jch.14342.
手首式血圧計で測定した家庭夜間血圧の再現性についての検討

Naoko Tomitani/冨谷 奈穂子

【概要】
手首式血圧計で1時間間隔で2晩にわたり測定した家庭夜間血圧測定値の再現性について検討しました。1晩目と2晩目の収縮期血圧平均値に有意な差はなく(1.6±7.0 mmHg, p = 0.124)、級内相関係数ICC (2,1)も0.835と高く、再現性が良好であることが示されました。一方で、一晩の変動を示すSDおよびARVの級内相関係数はそれぞれ0.220、0.436と低い値を示しました。
【コメント】
本研究は症例数が46例のみであったため、この研究結果を一般化することは出来ませんが、 夜間血圧平均値は再現性が良好であるにもかかわらず変動指標は再現性が低下していたことから、夜間血圧変動を評価するためには複数晩のモニターが必要なのではないかと考察しました。今後、大規模集団においてこの仮説を検証したいと考えています。

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109.Comparison of Brachial Blood Pressure and Central Blood Pressure in Attended, Unattended, and Unattended Standing Situations
Hypertens Res. 2021 Oct;44(10):1283-1290.
doi: 10.1038/s41440-021-00694-2.
付添あり、付添なし、付添なし立位における外来上腕血圧と外来中心血圧の比較

Hiroyuki Mizuno/水野 裕之

【概要】
 中心血圧は心血管イベントの独立した危険因子であることが報告されている。医療スタッフの付添なしで外来血圧を測定することによって、白衣効果を取り除けることが報告されている。しかし付添なしと付添なし立位における外来中心血圧は過去に報告がなかった。本研究は104例の高血圧患者(平均年齢66.0 ± 9.8歳、男性41.3%)を対象に、血圧測定条件を変えて外来上腕血圧と外来中心血圧を測定した。付添あり外来上腕血圧 / 外来中心血圧は127.3 ± 15.7/119.2 ± 15.0、付添なし外来上腕血圧 / 外来中心血圧は122.7 ± 15.3/114.4 ± 15.1、付添なし立位外来上腕血圧 / 外来中心血圧は123.6 ± 15.7/114.1 ± 14.8 mmHgであり、測定条件ごとの外来上腕血圧と外来中心血圧の相関係数は、0.971、0.970、0.964 (all p < 0.001)と、非常に高い相関を認めた。白衣効果は外来上腕血圧で4.6 ± 5.8、外来中心血圧で4.8 ± 5.7 mmHgであり、白衣効果の大きさに有意差は認めなかった。
【コメント】
 本研究は、付添なしおよび付添なし立位の中心血圧値をはじめて報告しました。付添あり、付添なし、付添なし立位のすべての測定条件において、外来上腕血圧と外来中心血圧は有意に高い相関を示しました。

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108.Morning Surge in Blood Pressure and Stroke Events in a Large Modern Ambulatory Blood Pressure Monitoring Cohort: Results of the JAMP Study
Hypertension. 2021 Sep;78(3):894-896.
doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.121.17547.
血圧モーニングサージと脳卒中発症の関係: JAMP研究

Satoshi Hoshide/星出 聡

【概要】
ABPMと心血管イベントとの関連を調査する全国規模のコホート研究であるJAMP研究のデータを用いた。24時間血圧レベルで補正後も、血圧モーニングサージは、Dipper群で脳卒中発症のリスクであり、Non-dipper群ではリスクではなかった。
【コメント】
血圧日内変動異常であるnon-dipperと比べて、dipperは心血管イベントリスクが低いとされています。Dipper型血圧日内変動を呈していても、血圧モーニングサージが大きい集団は脳卒中発症リスクが高い可能性があります。

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107.The long-term prognostic factors in hemodialysis patients with acute coronary syndrome: perspectives from sarcopenia and malnutrition
Heart Vessels. 2021 Sep;36(9):1275-1282.
doi: 10.1007/s00380-021-01815-0.
ACSを生じた透析患者における長期予後因子の検討:サルコペニアと低栄養の観点から

Hisaya Kobayashi/小林 久也

【概要】
透析患者のACS発症後の長期予後を検討した報告は過去になく、本研究では透析患者の予後因子として知られているサルコペニアと低栄養に着目して長期予後への影響を検討した。透析患者においてはサルコペニアや低栄養と比較して糖尿病が長期予後に関連する因子であり、非透析患者と異なる結果を示した。
【コメント】
心血管疾患は透析患者における主要な死亡原因の一つであるが、実はACS患者に占める透析患者の割合は少ないと言われている。日本でのACSを発症した透析患者の長期予後を示したまとまった報告はないが、今回のデータベースでも海外の過去の報告と同様に透析患者の長期予後は不良であった。また透析患者ではサルコペニアや低栄養、フレイルの頻度が多く、予後規定因子の一つと報告されていることから、これらの患者背景に着目して多変量解析を行ったところ、透析患者において予想と異なる結果が示された。単施設の限られたデータではあるが、この結果からACSをきたすような透析患者については、もともとサルコペニアや低栄養の程度が強く、予後規定因子として有意差が生じなかった可能性が考えられた。

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106. 症例報告
Multiple caseous calcifications of the mitral annulus with a calcified amorphous tumor
European Heart Journal - Cardiovascular Imaging
doi.org/10.1093/ehjci/jeab251
脳塞栓症をきたしたCATを伴った多発性乾酪様僧帽弁輪石灰化(CCMA)の1例

Taro Fukuda/福田 太郎

【概要】
心原性脳塞栓症の精査にて,高度MAC(僧帽弁輪石灰)とそれに連続し左室流出路に延びるCAT(calcified amorphous tumour)が原因として考慮された.高度MACは3D-TEEにて僧帽弁輪全周に渡り塊状の石灰化が連続し,CTにて内部が空洞様に観察された.多発性のCCMAが考慮された.CAT摘除+AVRが施行された. CCMAは高度MACの亜型とされ,CATや塞栓症との関連が報告されている.多発性CCMAの報告はこれまでにない.これまで高度MACと脳塞栓症との関連が指摘されてきたが,潜在的なCCMAの存在がそのメカニズムに関与していることを示唆するものであった.
【コメント】
単なる高度MACとして見過ごされがちな所見であったが,潜在的に多発性CCMAであったことをイメージングモダリティにて同定し得た. 今回の発見は,高度MACと脳塞栓症との関連のメカニズムを説明しうる可能性がある.今後も一例一例を大切に臨床に臨みたい.

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105.Efficacy of a digital therapeutics system in the management of essential hypertension: the HERB-DH1 pivotal trial
Eur Heart J 2021 Oct 21;42(40):4111-4122.
doi: 10.1093/eurheartj/ehab559.
本態性高血圧の管理におけるデジタル療法の効果:HERB-DH1ピボタル試験

Kazuomi Kario/苅尾 七臣

【概要】
本態性高血圧患者のうち、降圧薬の内服治療を受けていない患者(n=390)を対象に、従来の高血圧治療ガイドライン(JSH2019)に沿った生活習慣の修正指導に加え、開発中の高血圧治療アプリを処方して使用させた群(以下、「介入群」)と、ガイドラインに沿った生活習慣の修正のみを行う群(以下、「対照群」)の二群において、ランダム化オープンラベル比較試験を行い、登録後12 週時点での有効性および安全性を比較検討した。その結果、自由行動下血圧測定(ABPM)による24時間平均収縮期血圧(群間差-2.4mmHg、95%信頼区間[-4.5, -0.3])、朝の家庭血圧測定による収縮期血圧平均値(-4.3mmHg、[-6.7, -1.9])でいずれも介入群は対照群に対して有意な降圧効果が認められた。この降圧レベルは心血管疾患発症リスク軽減にも資する臨床的意義のある結果であった。安全性評価においては、本治療アプリに起因する有害事象は認められなかった。
【コメント】
本研究は、高血圧の新たな非薬物治療として注目される「高血圧治療用アプリ」を用いて、明確な降圧効果を示した世界初の試験です。

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104.Difference between morning and evening home blood pressure and cardiovascular events: the J-HOP Study (Japan Morning Surge-Home Blood Pressure)
Hypertens Res. 2021 Jul 28.
doi: 10.1038/s41440-021-00686-2.
家庭血圧測定によるME差と心血管イベントリスクの関連

Keisuke Narita/成田 圭佑

【概要】
家庭血圧測定に関する観察研究であるJ―HOP研究のデータを用い、心血管リスクを有する外来患者4258名において、家庭血圧測定による早朝収縮期血圧と就寝前収縮期血圧の差であるME(Morning-Evening)差が20 mmHg以上の集団は0–20 mmHgの集団と比較し、脳血管障害、冠動脈疾患、心不全、大動脈解離からなる心血管イベントのリスクが増大していることを示しました(調整HR比 1.4)。また、ME平均収縮期血圧高値(135 mmHg以上)かつME差高値(20 mmHg以上)ではいずれも正常の集団と比べ心血管イベントリスクが増大していました(調整HR比 1.7)。
【コメント】
本研究はME差と心血管イベントリスクの関連について初めて明らかとした報告です。ME差は簡便に計算でき、早朝高血圧および血圧日内変動異常の重要な指標の一つと考えます。

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103. 症例報告
Long-term survival without surgical intervention in a patient with a natural history of a single right ventricle: A case report
J Cardiol Cases. 2021 Jan 9;24(2):56-59.
doi: 10.1016/j.jccase.2020.12.013.
未修復で長期間生存した自然歴の右室単心室:症例報告

Kana Kubota/久保田 香菜

【概要】
単心室は複雑心奇形のひとつであり、未治療での予後は不良である。当科で経験した未修復の右室単心室症例を報告した。症例は55歳男性で、右室単心室、両大血管右室起始、大きな心房中隔欠損、共通房室弁、肺動脈弁狭窄、右胸心の診断だった。チアノーゼは著明であったが、中等度の肺動脈弁狭窄のために適切な肺動脈血流が保たれており、肺高血圧症を来たしていなかったことが長期生存につながったと考えられた。中等度の肺動脈弁狭窄を有する単心室患者は、心室が右室であっても、外科的介入無しに長期生存できる可能性がある。
【コメント】
未修復で中高年に達する単心室患者は非常に珍しく、当科では初めての症例でした。現在では、単心室患者には小児期に第一期的姑息術から両方向性Glenn手術を経た後にFontan手術を行うという流れが一般的ですが、Fontan循環患者は成人期に至ってから不整脈や肝不全などの合併症に苦しむ方が多いこともわかってきています。この方のように適度な肺動脈弁狭窄を有している症例においては、むしろ修復しないほうが予後を期待できる可能性もある可能性があります。

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102. Impact of home blood pressure variability on cardiovascular outcome in patients with arterial stiffness: Results of the J-HOP study
J Clin Hypertens (Greenwich). 2021 Aug;23(8):1529-1537.
doi: 10.1111/jch.14327.
動脈スティフネスの高い患者における心血管転帰に対する家庭血圧変動の影響

Yusuke Ishiyama/石山 裕介

【概要】
動脈スティフネスの指標である上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV) 1800cm/sで2群に分けて、血圧変動の標準偏差(SD)、変動係数(CV)、平均変動幅(ARV)と心血管イベントの発生(n=2648; baPWV<1800cm/s、n=1837; baPWV≧1800cm/s、n=811)を検討した。高baPWV群ではSD(ハザード比[HR] 2.30、95%信頼区間[CI]1.23-4.32)、CV(HR 2.89、95%CI 1.59-5.26)、ARV(HR 2.55、95%CI 1.37-4.75)の4分位最上位は他の分位と比較して心血管イベントを予測した。さらにSD(HR 1.44、95%CI 1.13-1.82)、CV(HR 1.49、95%CI 1.16-1.90)、ARV(HR 1.37、95%CI 1.09-1.73)の1SDの増加も心血管イベントを予測した。
【コメント】
日間家庭血圧変動と心血管イベントの関連が動脈スティッフネスの程度によって異なることを示した初めての報告です。

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101. Comparison of nighttime measurement schedules using a wrist-type nocturnal home blood pressure monitoring device
J Clin Hypertens (Greenwich). 2021 Jun;23(6):1144-1149.
doi: 10.1111/jch.14237.
手首型夜間家庭血圧計を用いた夜間血圧測定スケジュールの比較検討

Naoko Tomitani/冨谷 奈穂子

【概要】
本研究は、新規手首型夜間家庭血圧計を用いて、家庭血圧計で測定した夜間血圧の測定スケジュールについて検討した。高血圧患者50名(平均年齢68.9 ± 11.3歳)を対象に、夜間睡眠中に1時間間隔で2晩測定したデータ(平均7.4 ± 1.3測定/晩)から、時刻に基づく3ポイント平均(2:00, 3:00, 4:00の測定値の平均)、行動に基づく3ポイント平均(就寝から2, 3, 4時間後の測定値の平均)、全測定平均を算出し、比較した。時刻に基づく3ポイント平均値は全測定平均値と同等であった(SBPの差:-0.5 ± 5.5 mmHg, p=0.337)が、行動に基づく3ポイント平均値は全測定平均値よりも有意に低かった(SBPの差:-3.3 ± 5.0 mmHg, p<0.001)。
【コメント】
この研究は、手首型夜間家庭血圧計を用いて、最適な夜間測定スケジュールを検討した初めての研究です。この研究集団においては、2:00, 3:00, 4:00の3ポイント平均値が、1時間間隔で測定した睡眠中の全測定平均値と同等の値を示しており、手首型血圧計で2:00, 3:00, 4:00に測定することで、信頼できる夜間血圧値が提供されることを示しました。
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100. Regional differences in office and self-measured home heart rates in Asian hypertensive patients: AsiaBP@Home study
J Clin Hypertens (Greenwich). 2021 Mar;23(3):606-613.
doi: 10.1111/jch.14239.
アジア人高血圧患者における診察室測定および家庭測定の心拍数の地域差

Naoko Tomitani/冨谷 奈穂子

【概要】
アジアは気候・文化・習慣・経済状況等、様々な点において多様性に富んでおり、高血圧や心血管疾患の有病率についても国や地域により異なる。アジアの11の国/地域で同一機種の家庭血圧計(Omron HEM-7130-AP/HEM-7131-E)を使用して行ったAsiaBP@Home研究のデータ(合計1443名の高血圧患者:東アジア595名、東南アジア680名、南アジア168名)を用いて、心拍数をエリア別に比較した。座位・安静で測定した診察室測定心拍数および家庭測定心拍数は南アジアでは他の2つのエリアに比較して有意に高値を示した(診察室測定[平均±SE]: 東アジア 75.2 ± 1.5 bpm, 東南アジア76.7 ± 1.5 bpm, 南アジア 81.9 ± 1.4 bpm; 家庭早朝測定: 東アジア 69.0 ± 1.2 bpm, 東南アジア 72.9 ± 1.2 bpm, 南アジア74.9 ± 1.1 bpm; 家庭就寝前測定: 東アジア 74.6 ± 1.2 bpm, 東南アジア 78.3 ± 1.2 bpm, 南アジア 83.8 ± 1.1 bpm)。今回の結果は、同じアジア地域においても、心疾患予防のために地域に合わせた臨床戦略が有効である可能性を示唆している。
【コメント】
アジア地域で、同一機種の血圧計を用いて行った前向き研究AsiaBP@Homeのサブ解析です。
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99. Growth Differentiation Factor 15 Predicts Cancer Death in Patients With Cardiovascular Risk Factors: The J-HOP Study
Front Cardiovasc Med. 2021 Jun 4;8:660317.
doi: 10.3389/fcvm.2021.660317.
GDF-15は心血管危険因子を持つ患者の癌による死亡を予測する:J-HOP研究

Keita Negishi/根岸 経太

【概要/コメント】
組織ストレスマーカーの1つであるGDF-15はGFRAL/RET複合体を介して食欲中枢に作用し,食欲低下や病的な痩せを引き起こす.一方で痩せは様々な疾患の予後悪化と関係していることは知られているが,これまでに痩せている患者の中でのリスク評価は十分にされていない.本研究ではJHOP研究に登録された心血管リスクを有する外来患者4061人を,BMIと血中GDF-15濃度の高低で6群に分けて,予後(総死亡,癌死,心血管死)との関係を検討した.結果,low BMI/low GDF-15群はコントロール群(normal BMI/normal GDF-15)と比べて有意に予後悪化と相関した.さらにBMI 22.5kg/m2未満の患者においてはGDF-15の高値は心血管危険因子で補正しても心血管死のリスクが11倍以上に上昇した(総死亡, HR 3.63, 95% CI 1.98–6.65, p <0.001; 癌死, HR 4.79, 95%CI 1.98–11.57, p <0.001; 心血管死, HR 11.07, 95%CI 2.35–52.29, p <0.001).BMIが高くない外来患者において血中GDF-15濃度は,疾患の予後悪化に繋がるcachexiaを検出するのに有用な可能性がある.

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98. Differential Effect of the Morning Blood Pressure Surge on Prognoses Between Heart Failure With Reduced and Preserved Ejection Fractions
Circ J. 2021 Aug 25;85(9):1535-1542.
doi: 10.1253/circj.CJ-20-0972.
収縮力の低下した心不全と収縮力の保たれた心不全での、血圧モーニングサージが予後に与える影響の違い

Takahiro Komori/小森 孝洋

【概要】
本研究では血圧モーニングサージが心不全患者の予後に与える影響について検討した。自治医大心不全ABPM研究を行った対象者のうち、血圧モーニングサージのデータのある456名を解析対象とした。平均フォローアップ期間は1.67年で143件の心血管イベントが生じた。血圧モーニングサージを90パーセンタイルである40mmHg以上と定義すると、収縮力の低下した心不全(HFrEF)ではモーニングサージが心血管イベントのリスクとなった(ハザード比 2.84, 95%信頼区間1.58-5.10, p<0.01)。一方、収縮力の保たれた心不全(HFpEF)では心血管イベントと関連しなかった。
【コメント】
血圧日内変動異常の一つである血圧モーニングサージがHFrEFのリスクとなることを初めて示した論文です。HFrEFとHFpEFでは血圧モーニングサージが血行動態に与えるインパクトが異なるために、予後に与える影響も異なると考察しています。

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97. Sleep Rate Mode of Pacemaker-Dependent Patients with Sick Sinus Syndrome Increases Dipper Blood Pressure and Dipper Heart Rate Patterns
Int Heart J. 2021 Mar 30;62(2):344-349.
doi: 10.1536/ihj.20-363.
心房ペーシング依存の洞不全症候群のナイトモードはdipper型血圧・心拍変動を増加させる

Tomoyuki Kabutoya/甲谷 友幸

【概要】
ペースメーカー依存の洞不全症候群の患者では、心拍数がlower rateで固定される。しかし、ナイトモードに設定すると夜間の心拍数を少し下げることができる。本研究では標準的なDDDとナイトモードをクロスオーバーして血圧、心拍変動を観察した。結果、ナイトモードではベースラインと比較してdipper型心拍変動が増加し、血圧変動もdipper型が増加していた。
【コメント】
ヒトの血圧は一般的に日中高く、夜間低い。血圧変動の表現型として夜間の血圧低下が10%未満のnondipper型血圧変動は10%以上の血圧変動に比べて予後が悪いことが知られているが、心拍変動も同様にnondipper型の心拍変動はdipper型より予後が悪い。本研究では夜間のペーシングレートを低下させることでdipper型の心拍変動が多くなったのは当然であるが、血圧変動もdipper型が増加した。不要な夜間のペーシングを減らすことで夜間の交感神経活性などが変化するか、追加研究が必要である。

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96. Nighttime home blood pressure as a mediator of N-terminal pro-brain natriuretic peptide in cardiovascular events
Hypertens Res. 2021 Sep;44(9):1138-1146.
doi: 10.1038/s41440-021-00667-5.
脳性ナトリウム利尿ペプチドの上昇は、夜間血圧上昇を介して心血管イベントに関連する

Satoshi Hoshide/星出 聡

【概要】
夜間血圧上昇の機序の一つとして、体液量過剰が考えられる。本研究では、体液貯留のバイオマーカーであるN末端脳性ナトリウムペプチド(NT-proBNP)の上昇が心血管イベントに関連する媒介因子として夜間血圧上昇が関わっているのではないかという仮説を検証した。家庭血圧の予後推定能の研究であるJ-HOP研究において、夜間血圧が測定できる家庭血圧計にて夜間血圧を測定した(午前2時、3時、4時)2476名を解析対象にした。平均7.2年間の追跡期間中、150例の心血管イベントが発現した(脳卒中62イベント、冠動脈疾患88イベント)。心血管危険因子及びNT-proBNPで補正後の夜間血圧の1SD上昇の心血管イベントに対するハザード比(95%信頼区間)は、1.22 (1.001-1.50)であった。媒介分析では、NT-proBNPと心血管イベントの関係に夜間家庭血圧レベルは15%寄与していた。一方、日中家庭血圧レベルの寄与は8.2%であった。脳性ナトリウム利尿ペプチド上昇の心血管イベントへの関連の一部は、夜間血圧上昇が寄与する。
【コメント】
NT-proBNPが高いと、心不全イベントだけでなく、なぜ動脈硬化性心血管疾患も増加するのかを明らかにした研究報告です。

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95. Assessment of a new algorithm to detect atrial fibrillation in home blood pressure monitoring device among healthy adults and patients with atrial fibrillation
J Clin Hypertens (Greenwich). 2021 Feb 1.
doi: 10.1111/jch.14201.
家庭血圧計を用いた心房細動検出アルゴリズムの有用性の検証

Tomonori Watanabe/渡部 智紀

【概要】
家庭用血圧計を用いて心房細動を検出する新しいアルゴリズムの診断精度を評価した。洞調律205人と、心電図で心房細動が確認された75人を対象に、3回の連続した血圧値を測定した。 Irregular pulse peak (IPP) 15は以下のように定義した(|interval of pulse peak - the average of the interval of the pulse peak| ≥ the average of the interval of the pulse peak × 15%)。Irregular heartbeat (IHB) は次のように定義した:IPPの脈拍数≧総脈拍数×20%。IPP15においてIHBが2つまたは3つある場合に心房細動検出とした精度は、それぞれ感度1.0と0.99、特異度は0.97と0.99であった。IPP15の設定で、3回の測定のうち2回以上のIHBを使用するアルゴリズムは、心房細動の診断精度が最も高かった。
【コメント】
本研究では、家庭用血圧計に搭載された新しい心房細動検出アルゴリズムが、心房細動を高い診断精度で検出することを実証した。家庭血圧計は最も一般的に普及している医療機器であり、毎日かつ長期的に血圧と心拍をモニタリングすることにより、心房細動の早期診断が可能であることを示した。家庭用血圧計による高血圧患者の心房細動の診断と至適血圧コントロールのエビデンスを確立するには、さらなる検証が必要と思われる。

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94. Critical angioedema induced by a renin angiotensin system blocker in the contemporary era of increasing heart failure: A case report and commentary
J Clin Hypertens (Greenwich). 2021 Jan 25.
doi: 10.1111/jch.14189.
心不全パンデミック時代におけるレニン・アンジオテンシン阻害薬による重篤な血管性浮腫:症例報告と解説

Masafumi Sato/佐藤 雅史

【概要】
RAS阻害薬は心不全治療の重要な薬剤で世界的に広く使用されているが、致死的となりうるブラジキニン起因性血管性浮腫の原因薬剤でもあり、その発症率は0.2-0.7%と報告されている。我々は急性心筋梗塞に対するPCI後にエナラプリル導入後、気管切開を要する重篤な血管性浮腫に至った85歳高齢男性の一例を経験した。高齢や喫煙歴、腎障害、ARB長期投与歴(NEP代謝の変化が血中ブラジキニン濃度を上昇させる)など複数の血管性浮腫を有する症例で、気道緊急に対する適切な対応と血管性浮腫の早期診断により救命し得た。血管性浮腫のリスク因子をレビューし、backgroundとtriggerに分けて表にまとめた。また、新たに登場した心不全治療薬であるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬 (ARNI)も血管性浮腫の原因となりうる薬剤である。OCTAVE試験では、NEP阻害薬とACE阻害薬の合剤であるOmapatrilatはACE阻害薬と比較して血管性浮腫が多く試験中止となった経緯がある (2.17% vs 0.68%)。PARADIGM-HF試験においては、ARNIとACE阻害薬による血管性浮腫に有意差はなかったが (0.45% vs 0.24%)、試験デザインによる選択バイアスの影響のため血管性浮腫の頻度は過小評価となっている可能性を指摘した。益々増加する心不全時代において、ACE阻害薬やARNIの導入時には血管性浮腫の可能性に注意するが重要である。
【コメント】
急性心筋梗塞に対するPCI後にエナラプリルによる重篤な血管性浮腫を呈した症例を提示し、血管性浮腫のリスク因子をbackgroundとtriggerに分けてまとめました。心不全pandemic時代において至適薬物療法は益々重要となります。ACE阻害薬/ARBだけでなくARNIの使用も増加していく中で、重篤な血管性浮腫を発症する可能性を改めて認識し、早期診断につなげることの重要性について述べました。

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93. Quantitative evaluation of white matter hyperintensities in patients with heart failure using an innovative magnetic resonance image analysis method: Association with disrupted circadian blood pressure variation
J Clin Hypertens (Greenwich). 2021 Feb 4.
doi: 10.1111/jch.14204.
新規MRI画像解析ソフトを用いた心不全患者の深部白質病変の定量的評価―血圧日内変動異常との関連―

Takahiro Komori/小森 孝洋

【概要】
心不全患者28名に対し、24時間血圧測定と頭部MRIを行い、血圧日内変動と深部白質病変の関連を横断的に解析した。頭部MRIの深部白質病変は三重大学神経内科が開発したFUSIONソフトウェアを用いて定量評価した。血圧日内変動パターンがNon-dipper型である群はDipper群に比べて全脳容積に占める深部白質病変の容積が有意に増大していた。
【コメント】
Non-dipper型血圧変動を示す心不全患者はDipper群に比べて2.4倍深部白質病変が増大していた。深部白質病変は認知機能低下との関連も知られていることから、心不全患者の認知機能低下抑制には、血圧日内変動にも配慮した血圧管理が必要と考える。

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92. Black-pooling sign: A novel intravascular ultrasound imaging marker that predicts stent edge hematoma growth
Anatol J Cardiol. 2021 Apr;25(4):E15.
doi: 10.14744/AnatolJCardiol.2020.49921.
IVUSにおけるblack-pooling signはステントdistal edgeの血腫増大を予測し得る

Yusuke Oba/大場 祐輔

【概要/コメント】
冠動脈ステント留置における解離や血腫は、ステント遠位側に形成されば場合、順行性の解離となり急性冠閉塞のリスクがある。IVUS評価は有用だが、時にGWアーチファクトによる観察制限など、IVUS上明らかな解離が指摘できない場合がある。IVUSでフラップが観察出来なくても、Black-pooling signを認める場合には、血腫内に生食や造影剤が入り込む順行性解離腔が存在すると考える必要があり、血腫増大をきたし得る重要な所見と考えます。

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91. In-hospital outcomes and usage of embolic protection devices in percutaneous coronary intervention for coronary artery bypass grafts: Insights from a Japanese nationwide registry.
Catheter Cardiovasc Interv. 2021 Apr 16.
doi: 10.1002/ccd.29695.
冠動脈バイパスグラフトに対するPCIの短期成績および末梢保護デバイスの使用

Yusuke Oba/大場 祐輔

【概要】
✓ 冠動脈グラフトに対するPCI (GV-PCI)の頻度は0.4%と非常に少ない。
✓ GV-PCI群はNative vessel-PCI群と比べて有意に院内死亡が多い。
✓ 大伏在静脈グラフトに対するPCI (SVG-PCI)の末梢保護デバイス使用頻度は18%と少なく、使用頻度には施設間格差がある(low volume施設で使用頻度が少ない)。
✓ SVG-PCIの末梢保護デバイス使用は、有意にSlow-flow現象の頻度を低下させるが、院内死亡は差がなかった。

【コメント】
J-PCIレジストリーという、わが国のリアルワールドデータを利用し論文化する機会を頂き嬉しく思います。

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90. Disaster hypertension and cardiovascular events in disaster and COVID-19 pandemic
J Clin Hypertens (Greenwich). 2021 Feb 1.
doi: 10.1111/jch.14192.
Review article:災害高血圧と災害・COVID-19パンデミック下での循環器疾患

Keisuke Narita/成田 圭佑

【概要/コメント】
災害関連循環器疾患では災害発生からの時間推移に応じて発症する循環器疾患が異なる特徴があります(Fig1)。災害のストレスに対する交感神経系の亢進や、避難所や車内での長期臥床によるDVTリスク増大、塩分摂取過多などが災害高血圧や災害関連循環器疾患に関与すると考えられます(Fig2)。さらに、災害高血圧の管理におけるICTの有用性やCOVID−19と循環器疾患についてのエビデンスをまとめました。

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89. Relationship between Home Blood Pressure and the Onset Season of Cardiovascular Events: The J-HOP Study (Japan Morning Surge-Home Blood Pressure)
Am J Hypertens. 2021 Jan 25:hpab016.
doi: 10.1093/ajh/hpab016.
家庭血圧と冬季発症の心血管イベントとの関連

Keisuke Narita/成田 圭佑

【概要】
心血管イベントは夏季よりも冬季に多いことがよく知られ、また、日中昼間の血圧は冬に高く夏に低いとされている。一般に心血管イベントは早朝〜午前中に多いこともよく知られているが、冬季は寒冷暴露により早朝血圧が上昇しやすい。これらより、冬季発症の心血管イベントは就寝前家庭血圧よりも早朝家庭血圧との関連が強いという仮説を立てた。家庭血圧の全国規模観察研究であるJ―HOP研究のデータセットを用い、早朝および就寝前家庭血圧と冬季発症の心血管イベントとの関連について検討を行った。4258名(平均65歳)について平均6.2年間の追跡を行い計269の心血管イベント(冠動脈疾患、脳卒中、大動脈解離、心不全)が発生した。そのうち82は冬季発症であった。COXモデルにおいて、ベースラインの早朝家庭収縮期血圧は冬季発症心血管イベントと有意に関連していたが(10mmHg毎の調整HR比 1.22, 95%CI 1.06−1.42)、就寝前家庭血圧と冬季発症心血管イベントの間には有意な関連は認めなかった。また、冬季以外発症の心血管イベントは早朝および就寝前家庭血圧いずれも有意に関連していた(早朝家庭収縮期血圧, 調整HR 1.11, 95%CI 1.00−1.23; 就寝前家庭収縮期血圧, 調整HR 1.20, 95%CI 1.08−1.33)。本研究において、早朝家庭血圧は就寝前家庭血圧と比較し、より強く冬季発症の心血管イベントと関連することが明らかとなった。

【コメント】
本研究において、早朝家庭血圧は就寝前家庭血圧と比較し、より強く冬季発症の心血管イベントと関連することが明らかとなった。早朝家庭血圧を目安に血圧管理することは冬季発症の心血管イベント抑制に有用である可能性がある。

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88.Differences in exercise-induced blood pressure changes between young trained and untrained individuals
J Clin Hypertens (Greenwich) . 2021 Jan 17.
doi: 10.1111/jch.14177.
若年者のアスリートvs非アスリートにおける運動誘発性血圧変動の違い

Takeshi Fujiwara/藤 原 健 史

【概要】
本研究は、高崎健康福祉大学との共同研究である。25名のアスリート(平均年齢19.7歳、女性割合36%)と26名の非アスリート(平均年齢20.4歳、女性割合50%)に対してマスターダブル負荷試験を行い、その前後での血圧変化を比較した。その結果、アスリート群は非アスリート群と比較して、運動負荷1分後、2分後、3分後の血圧の上昇が抑制されていた。また、運動後のピーク血圧も非アスリート群と比較して、アスリート群で低値を示し、運動負荷後の急激な血圧上昇もアスリート群において早期の回復を示した。全体集団のうち、42名に対して心エコー検査を行い、左室心筋重量係数(LVMI)を計測したが、非アスリート群と比較して、アスリート群でLVMIが有意に高値であった。

【コメント】
本研究は、運動負荷による短期の血圧変動の違いをアスリート群と非アスリート群で比較した初めての観察研究である。この結果は、生理的な血圧変動や左室肥大と、病的な血圧変動や左室肥大の病態の違いを解明するのに役立つものと考えられる。

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87.Atrial fibrillation is associated with cardiovascular events in obese Japanese with one or more cardiovascular risk factors: The Japan Morning Surge Home Blood Pressure (J-HOP) Study
J Clin Hypertens (Greenwich). 2021 Jan 6.
doi: 10.1111/jch.14170.
心血管リスクを有する肥満日本人における心房細動と心血管イベントの関連

Hiroaki Watanabe/渡 邉 裕 昭

【概要】
これまで肥満患者において、心房細動と家庭血圧が心血管予後に与える影響については知られていません。肥満の有無に分けて、心房細動患者の家庭血圧の影響を含めた予後の違いについて検討しました。1つ以上の心血管リスクを有するJ-HOP studyに登録された3,586人を解析。肥満はBMI 25kg/m2以上と定義。主要評価項目は、致死性/非致死性の心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心不全入院、大動脈解離)。肥満患者では、洞調律に比べ心房細動で有意に心血管イベントの発症が多い結果でした。一方、非肥満患者では、洞調律と心房細動に心血管イベントの発症に差はありませんでした。年齢、性別、外来/家庭血圧、喫煙、糖尿病、血清クレアチニン値で補正しても、肥満患者において心房細動は独立した心血管イベントの予測因子でした。また家庭収縮期血圧も心房細動のリスクとは独立して、肥満患者における心血管イベントの予測因子でした。

【コメント】
心房細動と肥満は、それぞれが心血管イベントのリスクであることは周知の事実です。しかしこれまでの研究では、肥満の心房細動と、さらに家庭血圧を含めた心血管予後に対する影響は明らかではありませんでした。本研究では、非肥満患者では洞調律と心房細動の間に患者の予後に有意差はありませんでしたが、肥満患者では心房細動が心血管イベントの独立した予測因子であることを示しました。心房細動を有する場合、肥満の改善や家庭血圧の是正といった生活習慣管理が予後改善に寄与する可能性もあるかもしれません。

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86.Long sleep duration and cardiovascular disease: Associations with arterial stiffness and blood pressure variability
J Clin Hypertens (Greenwich) . 2020 Dec 30.
doi: 10.1111/jch.14163.
長時間睡眠と心血管疾患との関連‐動脈ステッフネスと血圧変動性との関連から‐

Hideaki Matsubayashi/松 林 秀 明

【概要】
短時間睡眠及び長時間睡眠はいずれも心血管疾患の危険因子であるが、最近のメタアナリシスでは、長時間睡眠が心血管疾患死亡により強く関連していることが示されている。その関連に対する詳細なメカニズムは明らかではないが、アジア人を対象とした多くの研究において、長時間睡眠は動脈ステッフネスの亢進および血圧変動性の増大と関連していることが報告されている。本レビューでは、長時間睡眠の心血管疾患に対する影響に関し、病態生理として動脈ステッフネスの亢進および血圧変動性の増大に焦点をあて、これまでの知見をまとめた。

【コメント】
これまで、7-8時間の睡眠群と比較し、短時間および長時間睡眠の両群において死亡率の上昇が示されてきました。短時間睡眠群では交感神経の活動亢進により高血圧や冠動脈疾患のリスクが上昇することが考えられます。一方、長時間睡眠群では動脈ステッフネスの亢進および血圧変動性の増大により心血管疾患のリスクが上昇する可能性が示唆されています。長時間睡眠群では高感度CRPをはじめとした炎症マーカーの上昇が指摘されていますが、なぜ炎症マーカーが上昇しているのかについては不明であり、今後もこの病態生理を解明するための研究が必要と考えられます。

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85.Automatically assessed P-wave predicts cardiac events independently of left atrial enlargement in patients with cardiovascular risks: The Japan Morning Surge-Home Blood Pressure Study
J Clin Hypertens (Greenwich) . 2021 Feb;23(2):301-308.
doi: 10.1111/jch.14136.
心電図のP波幅の延長は、エコー上の左房拡大とは独立して日本人の心イベント予後と関連する

Ayako Yokota/横 田 彩 子

【概要】
12誘導心電図のP波幅の延長は、心房のリモデリングを反映し心房細動発症の予測因子である。われわれはJHOPデータベースを用いて、自動計測したP波の幅とエコーでの心房拡大、心イベント(突然死、心筋梗塞、心不全入院)についての解析を行った。心血管リスクを持つ日本人において、P波幅が140ms以上に延長すると、エコー上の左房径や心電図上の左室肥大で補整しても、心イベントが有意に上昇した(ハザード比;4.23, 95%信頼区間; 1.30-13.77, p=0.02)。

【コメント】
P波幅の延長は心房リモデリングの反映のみならず、心イベントのマーカーとなりうる可能性がある。12誘導心電図は非侵襲的で、多くの施設で施行できる検査である。心血管リスクを持つ患者では、心房異常の早期の検出がその後の心アウトカムに強く影響すると考えられる。

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84. Different age-related impacts of lean and obesity on cardiovascular prognosis in Japanese patients with cardiovascular risks: The J-HOP (Japan Morning Surge-Home Blood Pressure) Study
J Clin Hypertens (Greenwich) . 2021 Feb;23(2):382-388.
doi: 10.1111/jch.14161.
心血管リスクを有する日本人患者において、痩せや肥満と心血管疾患の予後との関連に寄与する年齢の影響:J-HOP研究より

Sinichi Toriumi/鳥 海 進 一

【概要】
多変量解析の結果、65歳未満の患者では、BMIが21以上27未満である正常体重と比して、BMIが21未満である痩せの心血管疾患リスクは低く(HR 0.39、95%CI:0.12–1.29、p = 0.124)、BMIが27以上の肥満のリスクは有意に高値であった(HR 1.77、95%CI:1.08–2.92、p = 0.024)。他方、65歳以上の患者では、正常体重と比して、痩せは心血管疾患イベントの有意な独立因子であり(HR 1.70、95%CI:1.18–2.47、p = 0.005)、肥満のHRはやや低下する結果であった(HR 1.50、95%CI:0.96–2.22、p = 0.076)。

【コメント】
痩せや肥満と、心血管疾患の予後との関連を調べた研究は複数報告されてはいるが、年齢で層別化してその関連を詳細に評価した研究は世界でも非常に乏しい。心血管リスクを有する65歳以上の日本人患者においては、痩せが心血管疾患イベントの独立したリスク因子となることなどを示した本研究の結果は、適正体重を維持することの重要性を裏付けるものであり、公衆衛生的にも大きな意義があると考えられる。

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83. Association of lower nighttime diastolic blood pressure and hypoxia with silent myocardial injury: The Japan Morning Surge-Home Blood Pressure study
J Clin Hypertens (Greenwich).2020 Dec 13.
doi: 10.1111/jch.14132.
夜間低拡張期血圧および低酸素と無症候性心筋障害の関連性

Kana Kubota/久 保 田 香 菜

【概要】
我々は、1つ以上の心血管リスク因子を持つ840人の患者について、Hs-cTnT、NT-pro BNP、夜間SpO2を測定し、検討した。夜間の拡張期血圧が低い群は、その他の群と比較して Hs-cTnTが有意に高値であり、また低SpO2群も他群と比較してHs-cTnTが有意に高値だった。さらに夜間低拡張期血圧と低SpO2の両方を満たす患者は、他の患者と比較して、約3倍Hs-cTnTが高値だった。一方でこれらの関連はNT-proBNPには見られなかった。
本邦の一般臨床集団では、夜間低拡張期血圧と低酸素症のそれぞれが無症候性の心筋傷害と関連しており、その二つの併存は心筋傷害のリスクに相加効果を示した。

【コメント】
夜間の低拡張期血圧が心血管イベントと関連するかどうかは未だ議論されている分野であり、そこに低酸素血症を絡めた検討はこれまで為されていませんでした。夜間の心臓突然死を予防するためには、適正な血圧コントロールと睡眠時無呼吸をはじめとする低酸素の是正が重要であると考えます。コロナ禍において、ほとんどをオンラインでご指導いただきました星出先生、苅尾教授に厚く御礼申し上げます。

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82.Cardiovascular Event Risks Associated With Masked Nocturnal Hypertension Defined by Home Blood Pressure Monitoring in the J-HOP Nocturnal Blood Pressure Study
Hypertension . 2020 Jul;76(1):259-266. doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.120.14790.
Epub 2020 Jun 10.
家庭血圧計を用いて定義した仮面夜間高血圧患者の心血管イベントリスクの検討

Takeshi Fujiwara/藤 原 健 史

【概要】
一般外来通院中の患者集団において、家庭血圧計を用いて定義した仮面夜間高血圧患者(夜間家庭血圧≧120/70mmHgかつ朝夕平均家庭血圧<135/85 mmHg)は、コントロール血圧群(夜間家庭血圧<120/70mmHgかつ朝夕平均家庭血圧<135/85 mmHg)の患者と比較して、脳卒中発症リスクが約1.5倍高かった。
一方、仮面夜間高血圧は冠動脈疾患発症に対する有意なリスク因子ではなかった。

【コメント】
本結果は、これまでガイドラインで推奨されている起床後と就寝前の血圧測定のみでは不十分であり、起床後と就寝前の血圧がコントロールされていても、夜間高血圧の場合は、脳卒中発症リスクが高いことを意味する。このことから、夜間家庭血圧測定が重要であることが明らかとなった。

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81. 症例報告
Characteristics of Pulmonary Arterial Hypertension in Patients with Systemic Sclerosis and Anticentriole Autoantibodies
Int Heart J . 2020;61(2):413-418. doi: 10.1536/ihj.19-659.
抗セントリオール(中心体)抗体陽性強皮症に伴う膠原病性肺動脈性肺高血圧症の特徴

Kana Kubota/久 保 田 香 菜

【概要】
抗セントリオール抗体は抗細胞質抗体のひとつで、陽性例の強皮症では高率に肺動脈性肺高血圧症を合併することが少数ではあるが報告されている。今回我々は抗セントリオール抗体陽性強皮症に合併した肺動脈性肺高血圧を2症例経験した。症例1は65歳女性。ボセンタン、シルデナフィル、イマチニブの多剤併用肺血管拡張薬に治療抵抗性を示し、診断から26ヶ月後に脳出血で死亡した。症例2は82歳女性。マシテンタン、タダラフィルの初期併用療法に反応し、1ヶ月後の血行動態は著明に改善した。2症例を通じて、この疾患は病勢の進行が早いため、肺血管拡張薬の初期併用療法が血行動態を改善する可能性があることを報告した。

【コメント】
東大病院に国内留学中に経験した症例を、指導医の牧尚孝先生とDouble first authorとして報告し、2018年にフランス・ニースで開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウムでもポスター発表させていただきました。抗セントリオール抗体は蛍光抗体間接法を用いなければ検出できないため、見落とされている潜在症例がもっと存在していると考えられます。添付したキースライドは症例報告には入っていませんが、共著者である東大皮膚科の先生方に実際に染色していただいた症例2の抗体です。分裂期の紡錘体の両極にある中心体が2つのドット状に染色され、間期の細胞でも細胞質にある中心体が1~2個のドット状に染色されているのが良くわかります。

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80. 症例報告
Mobile Mural Thrombus and Spontaneous Echo Contrast in Ascending Aorta After Postoperative Adjuvant Cisplatin-Based Chemotherapy
Echocardiography . 2020 May 21. doi: 10.1111/echo.14704.
腎盂癌に対するシスプラチンベースでの化学療法後に上行大動脈内の可動性血栓及びもやもやエコーを認めた全身性塞栓症の1例

Yutaka Aoyama/青 山 泰

【コメント】

腎盂癌に対してシスプラチンベースでの術後化学療法を施行後、上行大動脈内に可動性のある血栓およびもやもやエコーを認め、全身性塞栓症を呈した症例であった。 化学療法での血栓形成は既知の副作用であり、血管内皮の損傷や凝固系の障害などに起因するとされている。またもやもやエコーの形成は低心機能や心房細動、動脈壁の損傷などにより認められるとされている。本来であれば上行大動脈の血流速度は速くもやもやエコーおよび血栓形成は起こりにくい環境ではあるが、化学療法による血管内皮の損傷が今回のもやもやエコー形成に関与していると推測する。もやもやエコーの有無から化学療法中の血栓症予防及び早期発見にも有用と考えられ、今後の症例の積み重ねや基礎研究が必要である。

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79. 症例報告
Stent fracture and thrombosis visualized by a combination of enhanced stent visualization and optical coherence tomography.
Coron Artery Dis. 2020 Feb 22. doi: 10.1097/MCA.0000000000000850.
ステント強調画像と光干渉断層撮影の組み合わせでステント断裂と血栓を明瞭に可視化した一例

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Yusuke Oba/大 場 祐 輔


【コメント】
ステント内再狭窄の形態・病態把握に光干渉断層撮影(OCT)が有用であると考えています。以前、ステント内再狭窄の原因がステント断裂であることを3D-OCTで明瞭化できた症例を報告させて頂きました。しかし、ステント留置後慢性期にはステント内に新生内膜が形成されるため、必ずしも明瞭な3D-OCT像を得られないという限界もあります。そこで、ステント強調画像という撮像法と2D-OCTを組み合わせることで、より簡便に、より多くの症例で、ステント内再狭窄の形態・病態把握に役立つと考え、症例報告させて頂きました。

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78.The Combination of Non-dipper Heart Rate and High Brain Natriuretic Peptide Predicts Cardiovascular Events: The Japan Morning Surge-Home Blood Pressure (J-HOP) Study.
Am J Hypertens. 2020 Feb 24. pii: hpaa025. doi: 10.1093/ajh/hpaa025.
Non-dipper HRとhigh BNPの組み合わせが血管イベントを予測する~J-HOP研究~

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Yukako Ogoyama/小 古 山 由 佳 子

【概要】
non-dipper BPが心血管イベントに関与していることは周知の通りであるが、non-dipper HRも心血管イベントの予後規定因子として知られている。non-dipper HRは臓器障害に関連するという先行論文の結果を基に、もっとHR patternを用いて予後を示唆することができるのではないかと考えた。BNP≧35(high BNP群)と<35(normal BNP群)、non-dipper HRの有無により4群に分けて予後を解析した所、normal BNP群ではHR patternに予後の違いは見られなかったが,high BNP群ではnon-dipper HRが有意にdipper HRと比べて予後が不良であった。

【コメント】
少なくとも一つの冠疾患リスクを有する一般外来患者(J-HOP study)で、high BNP患者(実際我々が臨床的にBNP高値とする値ではないが、これらの患者にも潜在的に心血管イベントリスクがあると思われる)にHR patternを調べることで将来的な心血管イベントリスクの層別化に役立てることができると示せた最初の論文である。

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77. 症例報告
Honeycomb-Like Structure in the Left Anterior Descending Coronary Artery of a Patient With Polycythemia Vera.
JACC Cardiovasc Interv. 2019 Nov 20. pii: S1936-8798(19)31995-8. doi: 10.1016/j.jcin.2019.09.032.
左冠動脈前下行枝に多孔性狭窄病変を光干渉断層診断(OFDI)で確認しえた真性多血症の1例

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Yusuke Suzuki/鈴 木 悠 介

【概要】
症例は労作時息切れを主訴とする51歳男性。来院1年前に右小脳梗塞を発症し、精査中にJAK2遺伝子変異陽性の真性赤血球増加症(PV)と診断され、瀉血、ハイドレアとバイアスピリン内服で加療されていた。2年前から運動時の労作時息切れを自覚していたが、3ヶ月前から増悪した。心エコー図では左室駆出率 25%、前壁中隔の中部から心尖部にかけてまで無収縮であり虚血性心疾患を疑われ当科に紹介された。 冠動脈造影検査を施行した所、LADに解離様の狭窄を伴った線形造影欠損を認め、OFDIで観測すると複数の内腔に分かれて交通している多孔性狭窄病変(Honeycomb-like structure)を認めた。薬剤溶出性ステントを留置し良好な再還流を得た。PV患者では動脈塞栓症が生じやすく、多孔性狭窄病変は器質化血栓が再疎通した際に特徴的な所見であるとの報告があり、本狭窄は塞栓機序による器質化血栓が再疎通した事によると考えられる。多孔性狭窄病変の検索には高解像度であるOFDIやOCTの有用性が示唆される。

【コメント】
真性多血症患者に多孔性狭窄病変を認めた一例を報告することができた。PV患者ではJAK2遺伝子変異により巨核球が著増し異常血小板が増生される事、多血に伴う高粘稠度、サイトカイン等の白血球反応が生じる事などから複合的に血栓傾向となるため、特異的な塞栓および再疎通機序が関与している可能性がある。発生機序や治療戦略に関しては更なる研究が期待される。


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76. 症例報告
Additional Use of a 6-Fr Intra-Aortic Balloon Pump on Extracorporeal Membrane Oxygenation Was Effective in a Patient with Cardiogenic Shock with Low Pulse Pressure.
Int Heart J. 2019 Sep 27;60(5):1184-1188. doi: 10.1536/ihj.18-643. Epub 2019 Sep 4.
血行動態改善に難渋したVA-ECMO単独使用の急性心筋梗塞、心原性ショックに対し、6FrIABP併用が有効であった一例

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Daisuke Kaneko/金 子 大 介

【概要】
症例は78歳男性。LMTに病変を有する急性心筋梗塞の治療後に心室細動となりVA-ECMOを直ちに挿入した。その後大腿動脈からのIABP挿入を試みたが、腸骨動脈が両側ともに高度蛇行のためIABP挿入を断念し、VA-ECMO単独使用のままのICU入室となった。自己心拍は再開していたものの、その後も脈圧が消失した平均動脈圧60mmHg程度の心原性ショックが持続していた。血行動態改善にはやはりIABPが必要と判断し、6FrIABP “匠”を左上腕動脈から下行大動脈に留置したところ、その直後から脈圧が発生し平均動脈圧も100mmHg以上まで改善した。その4日後にPCPSの離脱に成功した。 デバイスが増えれば合併症が増えたりもするが、血行動態改善だけ見ればやはりVA-ECMOにIABPは併用するべきである。IABPの大腿アプローチが困難であれば上肢アプローチも考慮するべきである。

【コメント】
腸骨動脈の高度蛇行のためFAからのIABP挿入困難で、VA-ECMO単独となった心原性ショックのAMIです。諦めずに上腕動脈からのIABP留置で劇的に血行動態は改善。VA-ECMOとIABP併用の有効性は賛否両論ですが、やはりIABP併用は有効であることが示唆された一例であり、IABPの上腕動脈アプローチも有効な手段となり得ます。


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75. 症例報告
Right-sided infective endocarditis with coronary sinus vegetation causing complete atrioventricular block.
Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 2019 Sep 24. pii: jez244. doi: 10.1093/ehjci/jez244.
冠静脈洞に疣腫が付着した極めて稀な感染性心内膜炎の一例

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Masafumi Sato/佐 藤 雅 史

【概要】
症例は37歳女性。右心系の感染性心内膜炎 (以下IE)及び促進型接合部調律を伴う完全房室ブロックで紹介搬送となった。心臓超音波検査では冠静脈洞 (以下CS)付近に可動性を有する25x6 mm大の棍棒状の疣贅および三尖弁中隔尖直下の右室心筋に付着する17x8 mm大の疣腫を認めた。抗菌薬治療後に疣贅切除術が施行された。疣腫はCS入口部の中隔側に付着していた。コッホの三角を含むCS入口部周囲の右房壁の炎症所見を認めた。術後は合併症なく経過し術後30日目に自宅退院した。 促進型接合部調律を伴う完全房室ブロックは順行性房室結節リエントリー性頻拍に対するカテーテルアブレーションで一般的に見られる現象である。CS-IEによる炎症がコッホの三角 (compact AV nodeを含む)に直接波及したことで、促進型接合部調律を伴う完全房室ブロックを呈したものと推察した。

【コメント】
今回,冠静脈洞に疣腫が付着する極めて稀な感染性心内膜炎の一例を経験しまた。特筆すべきは、完全房室ブロックを合併したことです。そのメカニズムを解明し得たことは自身大変有意義でした。同時に医学の奥深さを実感しました。引き続き,臨床に真摯に向き合いながら研究面でも積極的に活動して参りますので、ご指導のほど宜しくお願い申し上げます。


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74.Evaluation of stent length on the outcome of ST-segment elevation myocardial infarction receiving primary percutaneous coronary intervention
Coron Artery Dis. 2019 May;30(3):196-203.

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Motoki Fukutomi/福 冨 基 城

【概要】
近年はDESの成績の向上とイメージングデバイスの普及とともに責任病変前後のプラークもカバーするlong stentingを行うケースも増えてきたが、その妥当性と予後との関連について 検討した研究はない。本研究は自治医大データベースを用いて686名のSTEMI症例の総ステント長と予後の関連をshort(<18mm,n=183),lower-medium(18-23mm,n=256), upper-medium(24-31mm,n=155),and long(≥32mm,n=92)の4つのステント長群に分けて解析した。結果は全死亡、MACE、TVRのいずれも4群間で差が見られず、BMS群、DES群に分けて 解析しても同等の結果であった。糖尿病群(n=265)で解析するとlong群においてMACE発生率が高い傾向が見られたが、統計学的有意差はなかった。(6.6% in short,9.6% in lower-medium, 3.4% in upper-medium,16.7% in long group,P=0.095)。

【コメント】
これまでlong stentingと予後不良との関連性を指摘する報告はいくつかあるが、本研究ではそれらの関連は見られず、STEMIに対するprimary PCIにおいてlong stentingストラテジーは 許容されると考えられた。


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73. Comparative Assessment of Cutoffs for the Cardio-Ankle Vascular Index and Brachial-Ankle Pulse Wave Velocity in a Nationwide Registry: A Cardiovascular Prognostic Coupling Study.
Pulse (Basel). 2019 Apr;6(3-4):131-136. doi: 10.1159/000489604. Epub 2018 Jul 24.
CAVIや血行動態と心血管予後を探索するカップリング研究のベースラインデータの中間解析

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Tomoyuki Kabutoya/甲 谷 友 幸

【概要・コメント】
CAVIや血行動態と心血管予後を探索するカップリング研究のベースラインデータの中間解析です。 CAVIとbaPWVの比較を行いました。エビデンスが豊富なbaPWVの14m/s, 18m/sがCAVIでおおよそ8.3, 9に相当し、昨年発表された血管不全のガイドラインにreferenceとして引用されました。



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72. Usefulness of a salt check sheet for elementary school and junior high school children.
J Clin Hypertens (Greenwich). 2019 May 8. doi: 10.1111/jch.13549. [Epub ahead of print] 
小中学生の推定食塩摂取量把握における塩分チェックシートの有用性

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Takeshi Fujiwara/藤 原 健 史

【概要】
本研究は、群馬県東吾妻町の小中学生に対して、筆者が管理栄養士や保健師とともに行った減塩教育の、一つの成果である。東吾妻町では、生活習慣病の予防・啓発を目的として、平成25年度より毎年小学5年生と中学生1年生に対して簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を用いた食事調査を行っていた。平成27年度より、学校医であった著者がBDHQと同時に「塩分チェックシート」を小中学生に対して行うようになった。塩分チェックシートは一般成人や高血圧患者における推定食塩摂取量を簡易に把握できるツールとして、臨床で活用されているが、小児における有用性を検討した報告はない。平成29年度の減塩養育で行ったBDHQにおける推定食塩摂取量と塩分チェックシートのデータを用いて、両者を比較したところ、有意な正の相関関係にあり(Fig. A)、塩分チェックシートの得点で多く食塩を摂取していると予想される小児ほど、実際に推定食塩摂取量が多い結果であった(Fig. B)。BDHQにおける推定食塩摂取量を目的変数、塩分チェックシートを構成する各質問項目を独立変数とした重回帰分析では、「うどん、ラーメンなどの麺類を食べる頻度」が最も強く推定食塩摂取量の増加と関連しており、この結果は、山間部であり昔からうどんを多く食べる食文化がある東吾妻の地域性を反映した興味深い結果であった。これらの結果から、塩分チェックシートは小中学生における推定食塩摂取量の把握に有用なツールであることがわかった。

【コメント】
小児期からの正しい食事習慣の形成が、成人期の心血管イベント発症リスクを低下させる。 塩分チェックシートは小児の推定食塩摂取量を簡単に把握することができ、行動変容の改善に役立たせることができると考える。小児に対する減塩教育が広まっていくことを切に願う。
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71. 症例報告
Usefulness of optical coherence tomography imaging for diagnosis of in-stent restenosis due to a stent fracture and morphological assessment.
Turk Kardiyol Dern Ars. 2019;47:153.
冠動脈ステント断裂による再狭窄診断および形態学的考察に光干渉断層法が有用であった一例

Yusuke Oba/大 場 祐 輔

【コメント】

薬剤溶出性ステントによりステント内再狭窄は劇的に減少したものの、ステント断裂による再狭窄は未解決の問題である。光干渉断層法(OCT)はステント断裂の診断に有用であるだけでなく、形態学的評価にも有用であり、治療方針決定に役立つと考える。


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70. Constipation-induced pressor effects as triggers for cardiovascular events.
J Clin Hypertens.2019 Feb 13. in press.
心血管イベントのトリガーとしての便秘誘発昇圧効果

Yusuke Ishiyama/石 山 裕 介

【コメント】

便秘、排便時のいきみは血圧上昇を引き起こし、うっ血性心不全、急性冠症候群、不整脈、大動脈解離などの心血管イベントのトリガーとなる。循環器医は便秘を軽視せず、早期に介入する必要がある。


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69. 症例報告
The Early Diagnosis of Endophthalmitis Due to Group B Streptococcus Infective Endocarditis and Its Clinical Course: A Case Report and Literature Review.
Intern Med. 2019 Jan 10. in press
細菌性眼内炎を契機にB群連鎖球菌を起因菌とした感染性心内膜炎の診断に至った1例

Yutaka Aoyama/青 山 泰

【コメント】

稀ではあるがB群連鎖球菌による感染性心内膜炎や細菌性眼内炎は両疾患ともに予後不良である。本例のように細菌性眼内炎の診断に至った時点でIEを念頭において診療にあたることが良好な転機につながると考えられる。


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68.症例報告
Case Image: A case of severely calcified neoatherosclerosis-embedded stent struts clearly documented with optical coherence tomography imaging.
Turk Kardiyol Dern Ars. 2019;47:83.
光干渉断層法(OCT)により、ステントが埋め込まれるように形成された高度石灰化neoatherosclerosisを捉えた一例

Yusuke Oba/大 場 祐 輔

【コメント】

OCTでステントが埋め込まれるように形成された高度石灰化を捉えた。稀ではあるが、ステント内再狭窄の中には本症例のように非常に厚い高度石灰化病変を形成することがあり、OCTによる評価は治療方針決定に役立つと考える。


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67. Lower systolic blood pressure and cardiovascular event risk stratified by renal resistive index in hospitalized cardiovascular patients: J-VAS study.
Am J Hypertens. 2018 Dec 16. in press
心血管疾患患者におけるRenal resistive indexで層別化した、血圧と心血管イベントとの関係: J-VAS研究

Praew Kotruchin/コトルチン プラウ

【コメント】

From the results of this study, the patients with RRI ? 0.8 had a significant risk for poorer outcome when the SBP<105 mmHg. RRI measurement is useful for stratifying cardiovascular patients and guiding the choice of optimal BP threshold.


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66. Lowering the systolic blood pressure target in hypertensive patients: current controversies and future outlook.
Expert Rev Cardiovasc Ther. 2018 Oct 25:1-7.
高血圧患者の降圧目標レベルについて- 最近の知見と今後の展望 -

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Keisuke Narita/成 田 圭 佑

【概要】
2017年に米国(AHA/ACC)高血圧ガイドラインが改訂され、降圧目標が140/80 mmHgから130/80 mmHgへと引き下げられた。2015年のSPRINTをはじめとするランダム化比較試験(RCT)やメタ解析の結果、厳格な降圧の有用性が示されている。本稿では2017年AHA/ACC高血圧ガイドラインを中心として、高齢者・糖尿病・脳卒中二次予防などにおける降圧目標についてのRCTやメタ解析の結果をレビューした。また、同ガイドラインでは家庭血圧および自由行動下血圧測定(ABPM)の重要性が強調されている。そこで、欧米諸国と異なり脳卒中の発症が多いとされるアジアにおける至適降圧目標について、家庭血圧・ABPMのコホート研究の結果を交え考察した。

【コメント】
本邦における大規模コホート研究であるHONEST研究では家庭早朝収縮期血圧124 mmHgでもっとも心血管リスクが低かった。しかし、本邦のRCTであるHOMED?BP研究では厳格降圧群を収縮期血圧125 mmHg未満に設定したが、結果として135 mmHg未満とする標準降圧群と血圧レベルに有意差はなかった。これは実際の臨床現場において、全ての高血圧患者で家庭収縮期血圧125 mmHg未満を目指すことは現実的には難しいとも言える結果であった。ただし、脳卒中の発症が多い本邦およびアジア諸国においては厳格降圧が欧米諸国と比較してより有益である可能性があり、今後新たなRCTなどの研究が期待される。

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65. A larger vectorcardiographic QRS area is associated with left bundle branch block and good prognosis in patients with cardiac resynchronization therapy.
J Electrocardiol. 2018 Nov - Dec;51:1099-1102.
ベクトル心電図の広いQRS面積はCRT患者の術前の左脚ブロックやよい予後に関連している。

tkabutoya

CAVIや血行動態と心血管予後を探索するカップリング研究のベースラインデータの中間解析

【概要】
ベクトル心電図で評価したQRS面積は左室内伝導障害に関連することが示されているが、脚ブロックパターンやCRT患者の予後との関連は十分明らかにされていない。われわれはCRT植込み患者連続50例において、12誘導心電図から変換したベクトル心電図のQRS面積を求めた。一次エンドポイント(総死亡および心不全入院)や脚ブロックパターンとの関連を調べた。QRS面積は左脚ブロック型で218±?99μVsと、右脚ブロック(97?±?44μVs)、心室内伝導障害90?±?40μVs、ペースメーカー調律 131?±?58μVsに比べて大きかった。また、QRS面積が?114?μVsの群(N=25)では、QRS面積が114μVs未満の群(N=25)に比べて有意に一次エンドポイントの発生が多かった(ハザード比 3.98, 95% CI 1.01-15.63, p?=?0.048)。

【コメント】
CRTによる心不全の改善は、左室内の伝導障害の是正によるところが大きい。左室内伝導障害は左脚ブロックで典型的であるが、非左脚ブロックでは容易ではない。非左脚ブロックやボーダーラインのQRS幅の症例でCRTの適応を考えるうえで、ベクトル心電図のQRS面積が参考になるかもしれない。

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64. 症例報告
A case of successful radiofrequency catheter ablation of ventricular tachycardia from the noncoronary cusp.
J Electrocardiol. 2019 Jan-Feb; 52: 66-69.
大動脈無冠尖において成功通電を得た心室頻拍の一例

kkario

Yasuhiro Yokoyama/ 横 山 靖 浩

【概要】
大動脈無冠尖を起源とする心室性不整脈の報告は稀である。症例は14歳男児。運動誘発性の心室頻拍に対してカテーテルアブレーション目的に入院した。EPSを施行し心室頻拍が再現性をもって誘発された。頻拍の最早期興奮部位はHis近傍であったため大動脈冠尖からmappingを行い無冠尖にてHis近傍よりもより先行するfragment potentialを認め同部位の通電にて速やかに頻拍は停止した。

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【コメント】
従来、大動脈無冠尖によるアプローチは心房頻拍に対する治療戦略のひとつとして用いられている。上行大動脈自体が年齢とともに傾きが変化していくというその解剖学的特性からも無冠尖は従来のように心房性不整脈へのアプローチだけでなく本例のような若年者においては心室性不整脈へのアプローチの可能性がある。



63.
Effect of renal denervation on blood pressure in the presence of antihypertensive drugs: 6-month efficacy and safety results from the SPYRAL HTN-ON MED proof-of-concept randomised trial.
Lancet. 2018; 391: 2346-2355.
降圧薬服薬中の患者に対する腎デナベーションの降圧効果:SPYRAL HTN-ON MED試験の6か月後の有効性と安全性、概念実証研究

kkario

Kandzari DE, Bohm M, Mahfoud F, Townsend RR, Weber MA, Pocock S, Tsioufis K, Tousoulis D, Choi JW, East C, Brar S, Cohen SA, Fahy M, Pilcher G, Kario K; SPYRAL HTN-ON MED Trial Investigators.

【概要】
SPYRAL HTN-ON MED試験は、治療中のコントロール不良高血圧患者において、腎デナベーションの有効性をシャム手技と比較した単盲検、多施設(日本を含む7か国、25施設)ランダム化比較試験である。 2015年7月~2017年6月に467例をスクリーニングし、降圧薬1~3剤で治療中のコントロール不良高血圧患者80例を腎デナベーション群(38例)とシャム手技群(42例)にランダム化して各手技を行い、追跡した。エンドポイントはベースラインと比較した6か月後の自由行動下血圧(ABP)の変化。

【結果】
6か月後のABPは、シャム手技群よりも腎デナベーション群でベースラインと比べて大幅に降圧した(6か月後の変化の群間差?7・0 mm Hg, 95% CI ?12・0 to ?2・1; p=0・0059; 拡張期ABP ?4・3 mm Hg, ?7・8 to ?0・8; p=0.0174;いずれもベースラインの変数で調整)。服薬アドヒアランスは約60%。重篤な有害事象の報告はなかった。

【コメント】
自治医大循環器内科が参加して行った治療中コントロール不良高血圧患者に対する腎デナベーションの降圧効果が再確認された。これまで多くの降圧薬が開発され、臨床使用されている。しかし、まだ循環器イベントの制圧には程遠い。その大きな理由は、リアルワールドにおいて医師が考えるよりも患者の服薬アドヒアランスが悪い点と、降圧薬の効果が限定的で、24時間持続しない例がある点である。腎デナベーションは一回の焼灼で、患者の服薬アドヒアランスに依存せず、降圧薬の弱点である夜間・早朝高血圧に対しても24時間持続降圧効果を発揮する。この24時間降圧特性はイベント抑制にも寄与するはずである。


62.
Could 130/80 mm Hg Be Adopted as the Diagnostic Threshold and Management Goal of Hypertension in Consideration of the Characteristics of Asian Populations?
Hypertension. 2018; 71: 979-984.
アジア人に高血圧診断基準130/80 mmHgを適用すべきか?

kkario

Kazuomi Kario/ 苅 尾 七 臣

【概要】
2017年11月にAHA/ACC高血圧治療ガイドラインが発表され、より早期からより厳格な降圧を24時間にわたって行う、というコンセプトが改めて協調された。注目すべきは、高血圧の診断基準が130/80mmHgに引き下げられた点である。これにより、日本を含むアジア諸国の成人の約50%が高血圧またはコントロール不良高血圧と診断される。西欧人に比べてアジア人では過度の血圧モーニングサージが多くみられるなど、よりリスクが高いことを示す数々の研究結果がある。つまり24時間にわたる血圧管理は特にアジア人において重要である。2017 ACC/AHAガイドラインが定める高血圧閾値>130/80 mmHgの適用の如何にかかわらず、より早期かつより厳格な24時間にわたる血圧コントロールが、アジア人の臓器保護や循環器イベント予防に貢献するであろう。

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【コメント】
高血圧閾値130/80 mmHgの有用性を検証するため、現在、著者が主導する研究グループHOPE Asia Networkでは、過去のアジアのエビデンスを収集し、さらなる研究計画立案を進めている。


61. Associations Between Characteristics of Obstructive Sleep Apnea and Nocturnal Blood Pressure Surge.
Hypertension. 2018;72:1133-1140.
閉塞性睡眠時無呼吸の特徴と夜間血圧サージの関連

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Nobuo Sasaki/佐々木 伸 夫

【概要】
睡眠時無呼吸(OSA)発生直後に一過性の急峻な血圧上昇が発生するため、この血圧サージが睡眠時無呼吸症候群(OSAS)における心血管リスクのkeyではないかと考えられている。しかし、従来の血圧計では個々のOSA直後に血圧測定を実施することは不可能であった。今回我々は一定以上の酸素飽和度(SpO2)低下をトリガーとして血圧を測定するトリガー夜間血圧計(TNP)を用いて、個々のOSA直後の血圧測定を実施し、どのようなOSAが著しい血圧サージを惹起するのかを、OSA時の睡眠ステージ、OSAの長さ、OSAで生じる低酸素の程度(OSA直後の SpO2 最低値)の3要素から検討した。  対象は終夜睡眠ポリグラフ検査とTNPによる夜間血圧測定を同時実施し、OSASと診断された42例(女性6名、平均年齢63.5 ± 12.5 才、BMI 26.6 ± 5.8 kg/m2、AHI 32.6±18.2)で、TNPにより全体で258回のOSA直後の収縮期血圧値(hypoxia-peak SBPと定義)記録を得た。 測定結果をOSA発生時の睡眠ステージで分けると、rapid eye movement (REM)睡眠において生じたOSA直後のhypoxia-peak SBPはnon-REM睡眠stage 1および non-REM stage 2において生じたhypoxia-peak SBP比べ有意に高値であった(144.9 ± 19.9 vs. 129.5 ± 15.1, and 129.4 ± 14.7 mmHg, p<0.001, respectively)。また、hypoxia-peak SBPはOSAの長さ(秒)とは有意な正の相関 (ρ=0.289, p<0.001)を、OSA直後の SpO2 最低値とは有意な負の相関を認めた(ρ= ?0.216, p=0.001)。交絡因子で補正した多変量解析の結果からは、REM睡眠時に発生するOSAであることと、OSA直後の SpO2値が低いことが、hypoxia-peak SBP高値の有意な寄与因子であることが示された。さらに、hypoxia-peak SBPと夜間の平均SBPならびに夜間最低SBPとの差から算出した血圧サージ値(nocturnal SBP surgeならびにmaximum value of SBP surge)での検討でも、REM睡眠とOSA直後SpO2値が有意な寄与因子であった。
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【コメント】
Non-REM睡眠と比べ、REM睡眠では低O2および高CO2に対する換気応答の低下、上気道の筋トーヌス低下のため、発生したOSAが長く持続し、より重度の低酸素を生じ易い。そして、REM睡眠が交感神経活性の亢進状態であることと相まって、より激しいOSA直後の血圧上昇が惹起されると考えられる。近年の大規模研究でCPAP使用時間が短い症例では心血管イベントを抑止できないことが報告されているが、REM睡眠は睡眠の後半、すなわち夜半より早朝にかけて多いため、REM睡眠時に発生するOSAを防止していない可能性が高い。本研究の結果から、著しい血圧サージを生じるREM睡眠時のOSA抑止が心血管イベント予防を目的としたOSAS治療において重要ではないかと考える。

60. Maximum home blood pressure readings are associated with left atrial diameter in essential hypertensives.
J Hum Hypertens. 2018;32:432-439.
家庭最大収縮期血圧を含む家庭血圧日間変動性と高血圧性臓器障害との関連(Real-BP研究)

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Toshiki Kaihara/貝 原 俊 樹

【概要】
家庭血圧遠隔モニタリングシステムでは測定された全血圧値が転送されるため,最大収縮期血圧値(maximum systolic BP, maximum SBP)の把握が可能である。測定した家庭血圧値のmaximum SBPは血圧(日間)変動の1つとして考えられているが,臨床的に有意な指標なのかまだ確立されていない。本研究では,同システムで測定したmaximum SBPを含む家庭血圧日間変動性と高血圧性臓器障害との関連について解析した。
本研究は東京都新島村式根島,福岡県小竹町の住民220名を対象とした多施設共同研究で,主要評価項目はmaximum SBP(1週間測定した朝夕全機会の家庭血圧値のうちの最大収縮期血圧値)が平均家庭血圧値(mean SBP)と比較して臨床的に意義があるか,特に高血圧性臓器障害指標と関連するか,とした。副次評価項目はmaximum SBP以外の血圧変動性指標と臓器障害指標の関連性とした。臓器障害指標は左室重量係数(LVMI,left ventricular mass index),頸動脈内膜中膜複合体厚(CIMT,carotid intima-media thickness),上腕足首間脈波速度(baPWV,brachial-ankle pulse wave velocity),左房径係数(LADI,left atrial diameter index)とした。
その結果,maximum SBP,mean SBPともにbaPWV,LVMI,CIMT,LADIのいずれとも有意な正の相関を示した(p < 0.001).続いてmaximum SBP,mean SBPと上記臓器障害指標との関連性を重回帰分析すると,maximum SBP,mean SBPのいずれも全ての臓器障害指標と有意な関連が示された。さらにmaximum SBPと臓器障害指標,mean SBPと臓器障害指標それぞれの相関係数に対してZ検定を施行すると,baPWV,CIMT,LVMIに関してはmaximum SBPとmean SBPで比較して有意差は無かったが,LADIに関してはmaximum SBPの方がmean SBPと比較して有意に強い関連があることが分かった(p = 0.024)。家庭最大収縮期血圧が家庭平均収縮期血圧と比較して高血圧性臓器障害指標と同等の関連があり,特に左房拡大に関しては最大収縮期血圧の方が平均収縮期血圧と比較してより有用な指標になることが明らかとなった。
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【コメント】
共変数に年齢,性別,現在喫煙,脂質異常症,糖尿病,BMI,LVMIを入れて重回帰分析を行うと,LADIはmaximum SBPと有意な関連を持った(p = 0.024)が,mean SBPとは有意な関連を持たなかった。左房拡大に関しては最大収縮期血圧の方が平均収縮期血圧と比較してより有用な指標となり得る。

59.Disparities in the impact of overweight on hypertension among Asians: a Japanese and Thai population-based study.
J Hum Hypertens. 2018 Oct 3. in press
アジア人における肥満と高血圧の関係の人種差 ―日本とタイの比較―

Praew Kotruchin/コトルチン プラウ

【概要】
The divergence in cardiovascular disease risk among Asian countries may be related to differences in economics, lifestyles, and cultural backgrounds. We examined the differential association of overweight and hypertension between the high- and middle-income Asian countries, namely Japan and Thailand. The data sets from the annual health examinations conducted in 127,152 Japanese (mean age, 41.5?±?11.1 years; mean body mass index [BMI], 22.4?±?3.4?kg/m2) and 4243 Thai (mean age, 47.9?±?10.7 years: mean BMI, 24.0?±?3.7?kg/m2) aged over 18 years with no history of hypertension treatment. There was lower prevalence of hypertension (>130/80 mmHg) in the Japanese than in the Thai population (31.8% vs. 57.3%, P<0.001). In the analysis stratified by age and sex, the association between overweight and the presence of hypertension was more prominent in the Japanese population aged <50 years in both sexes compared with the Thai population (all P for interaction?<0.001). These results confirmed the differential impact of overweight on hypertension between the high- and middle-income countries even in the similar regions of Asia.?

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【コメント】
The results of this study encourage the studied populations to maintain a BMI less than 25 kg/m2 to prevent hypertension. Further studies in other Asian populations to determine the critical BMI conferring risk for the presence of hypertension will lead to a tailored target BMI for the prevention of hypertension in specific populations.






58.Nocturnal Hypertension: New Technology and Evidence.
Hypertension. 2018; 71: 997-1009.
夜間高血圧,最新技術とエビデンス

kkario

Kazuomi Kario/ 苅 尾 七 臣

【概要】
ACC/AHA 2017ガイドラインの発表後、より早く、より低く24時間にわたる血圧コントロールを行うことの重要性が再認識されている。仮面早朝・昼間高血圧が循環器疾患リスクを高めることは知られているが、さらにリスクが高いのが仮面夜間高血圧である[図]。我々が主導したJ-HOP研究では、産学共同で開発した夜間半自動家庭血圧計(Medinote)を用いて心血管イベント予後と血圧の関連を調べているが、MedinoteとABPMの夜間血圧測定値はほぼ同等であり、標的臓器障害のバイオマーカーとの相関も有意であることを示すことができた。また、Medinoteにトリガー機能(SpO2で検出した無呼吸や心拍数)を追加したトリガー夜間血圧計(TNP)は、睡眠時無呼吸時の血圧測定に役立っている。簡便かつ患者の負担の少ない夜間家庭血圧計の開発は、仮面夜間高血圧の検出および、循環器イベントゼロ達成に不可欠である。

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【コメント】
早朝高血圧コントロール後、残余リスクとして仮面夜間高血圧が注目される。



57.The Sacubitril/Valsartan, a First-in-Class, Angiotensin Receptor Neprilysin Inhibitor (ARNI): Potential Uses in Hypertension, Heart Failure, and Beyond.
Curr Cardiol Rep. 2018; 20:5.
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬sacubitril/valsartan:高血圧、心不全への投与可能性

kkario

Kazuomi Kario/ 苅 尾 七 臣

【概要】
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬sacubitril/valsartanは、画期的な新規化合物であるネプリライシン阻害薬sucubitrilとアンジオテンシン受容体拮抗薬valsartanを含有する薬剤である。PARADIGM-HF研究ではACE阻害薬よりも心不全患者の予後を改善することが示されている。多施設二重盲検ランダム化試験PARAMETERでは、孤立性収縮期高血圧(収縮期血圧≧150; 脈圧>60 mmHg)の高齢者においてARB単剤に比較して中心収縮期血圧、脈圧、夜間血圧を低下させた。 このようにsacubitril/valsartanは、加齢に伴う高血圧(収縮期高血圧や夜間高血圧)の治療に有用である可能性がある。加齢に伴う高血圧は、拡張不全型心不全(HEFpEF)や慢性腎疾患に進展する可能性が高い。sacubitril/valsartanは高血圧から心不全への進展を抑制に役立つかもしれない。


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【コメント】
新規心不全治療薬として注目を集めるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬・sacubitril/valsartanは、血管硬化型・治療抵抗性高血圧の治療にも有用であろう。


56.Morning Home Blood Pressure and Cardiovascular Events in a Japanese General Practice Population Over 80 Years Old: The J-HOP Study.
Am J Hypertens. 2018 Sep 5. in press.
80歳以上の日本の一般住人における朝の家庭血圧と心血管イベントの関連

Dai Kawauchi/河 内 大

【概要】
家庭血圧は高血圧の診断、治療に利用されている。しかし80歳以上の超高齢者における家庭血圧と心血管イベントの関連に関する報告はない。今回我々はJ-HOP studyのデータを用いて80歳以上の日本の一般住民349人に関して家庭血圧と心血管イベントの関連について検討した。朝の収縮期家庭血圧の高値は複合心血管イベント、脳卒中の発症と関連し、他の心血管リスク因子と診察室の収縮期血圧で補正しても関連は見られた。朝の拡張期家庭血圧の高値は脳卒中の発症と関連がある傾向が見られたが、この関連は他の心血管リスク因子で補正すると有意ではなくなった。夕方の家庭血圧や診察室血圧では心血管イベントの発症との関連は見られなかった。

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【コメント】
本研究では80歳以上の日本の一般住民において朝の家庭血圧が心血管イベント、とくに脳卒中と関連があることを初めて報告した。朝の家庭血圧を用いたアジアの超高齢者集団の心血管イベント予測や治療方針決定の可能性を示すものと考える。

55.Increased Resting Heart Rate on Electrocardiogram Relative to In-office Pulse Rate Indicates Cardiac Overload: The J-HOP Study.
Am J Hypertens. 2018 Jul 17.in press.
座位に比べ、臥位での心拍上昇はBNP、LVMIと関連する

Yusuke Oba/大 場 祐 輔

【概要】
心不全症例や心血管ハイリスク症例は、健常人と比較し自律神経異常を呈することが知られている。例えば、安静時心拍数の上昇はその表現型の一つであり、心血管予後との関連も報告されている。しかしながら、体位の違いに伴う心拍数変動に着目した研究はほとんどない。一般的にECG-HR(臥位)よりもOffice-PR(座位)の方が心拍数高値となることが知られているが、心不全症例や心血管ハイリスク症例では自律神経異常を反映し、体位による心拍数変動が低下するのではないかと考えた。心血管ハイリスク症例を対象にしたJ-HOP研究患者2972人を対象に、ΔHR(ECG-HRとoffice-PRの差)で5分位にしたところ、有意にBNP値とLVMIに関連し、最小分位が最もBNP値およびLVMIが高値であった。

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【コメント】
体位を変換して心拍数を測定し、その変動を評価するという簡便な方法で、潜在性心不全患者を同定できる可能性があり、着目すべきポイントだと考える。


54.Sex Differences in the Prognostic Power of Brain Natriuretic Peptide and N-Terminal Pro-Brain Natriuretic Peptide for Cardiovascular Events - The Japan Morning Surge-Home Blood Pressure Study.
Circ J. 2018 Jun 21. in press.
BNPとNT-proBNPの心血管イベント予後予測能としての性差

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Mizuri Taki/滝 瑞 里

【概要】
BNPとNT-proBNPは心血管イベントの予測バイオマーカーとして知られているが、そこに性差があるのかはよく分かっていない。そこで今回心血管リスクを1つ以上有する3,610名の外来患者において男女でBNPとNT-proBNPが心血管イベントの発症と関連するか検討した。 平均BNPと平均NT-proBNPはいずれも男性より女性で明らかに高値だった。また女性においてBNP、NT-proBNPいずれも有意に心血管イベントの増加と関連していたが、一方、男性においてはNT-proBNPしか有意な関連を認めなかった。

【コメント】
本研究は心血管リスクを有する日本人の大きな集団で、BNPとNT-proBNPが、男性よりも女性でより強く心血管イベントと関連していることを示した初めての報告である。検査の簡便さや今後のネプラライシン阻害薬登場を考慮すると、BNPよりもNT-proBNPで心血管イベントを予測することが増えてくると予想され、その際に本研究で示したような性差があることを考慮することは重要だろう。

53.Association Between Change in Central Nocturnal Blood Pressure and Urine Albumin-Creatinine Ratio by a Valsartan/Amlodipine Combination: A CPET Study.
Am J Hypertens. 2018 May 30. in press.
バルサルタン/アムロジピン配合錠を用いた夜間中心血圧の変化と尿中アルブミン排泄の変化の関連の検討

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Takeshi Fujiwara/藤 原 健 史

【概要】
本研究では、夜間中心血圧の低下が、夜間末梢血圧の低下と独立して、尿中アルブミン/クレアチニン比の低下と関連するか検証した。16週前向き・多施設共同・無作為化・オープンラベル・クロスオーバー・非劣性試験であるCPET (Chronotherapy for Ambulatory Central Pressure)試験のデータを用いた。23名の本態性高血圧患者に対して、バルサルタン/アムロジピン配合剤(80/5 mg)を、計16週間の治療介入を行った。すべての患者に対して、割り付け時(0週)と試験終了時(16週)に24時間自由行動下血圧測定(Mobil-O-Graph NG [IEM社))、血液/随時尿検査を行った。治療介入によりベースラインと比較してUACRは低下する傾向にあった(p=0.060)。また、24時間平均、昼間平均、夜間平均のいずれの末梢/中心血圧もベースラインから有意に低下した。
単回帰分析では、治療介入による夜間末梢/中心収縮期血圧(SBP)の低下は、尿中アルブミン排泄はアルブミン/クレアチニン比(UACR)の低下とそれぞれ有意に関連していた。夜間末梢SBP低下度と夜間中心SBP低下度を同時に投入した重回帰分析においても、夜間中心SBP低下度がUACR低下と有意に関連していた。

【コメント】
バルサルタン/アムロジピン配合剤の治療介入による夜間中心SBP低下は、夜間末梢SBP低下とは独立して、UACR低下と有意に関連していた。夜間中心SBPは腎保護を目的とした治療ターゲットになると考える。



52. 症例報告
Combined Surgical and Medical Therapy for Candida Prosthetic Endocarditis in a Patient with Repaired Tetralogy of Fallot.
Int Heart J. 2018 Jun 6. in press.
ファロー四徴症術後患者のカンジダ性感染性心内膜炎に対する内科的・外科的複合療法

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Kana Kubota/久 保 田 香 菜

【概要】
カンジダ性感染性心膜炎は成人先天性心疾患患者において、稀ではあるが非常に予後が悪い疾患である。近年の真菌性心内膜炎に対する治療ガイドラインでは、抗真菌薬による内科的治療と外科的治療を組み合わせるべきとされているが、具体的な治療期間や手術時期については明記されていない。 症例は31歳の女性で小児期にファロー四徴症の心内修復術を受け、21歳で肺動脈弁置換術を受けた。2カ月以上続く発熱のため他院に入院し、Candida albicansによる感染性心内膜炎と診断され、集学的治療のため東大病院へ転入した。抗真菌剤投与を5週間行い、菌血症を充分に抑制した上で再度肺動脈弁置換術を行い、経過良好のため退院した。カンジダ性心内膜炎患者では、可能な限り菌血症を抑制してから手術を行うことで良好な予後を得ることができる。

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【コメント】
真菌による感染性心内膜炎の報告は少なく、海外のガイドラインでも治療方法について詳細な情報はない。急性期の手術療法は予後不良である、または抗真菌薬治療のみで経過良好だったといった、さまざまな症例報告があり、本症例でも治療方針決定に苦慮した。疣贅が比較的小さかったことから抗真菌療法を開始し炎症反応は低下したが、BNPが改善せず、真菌症を完全に克服しなければ心不全の状態から抜け出せないと判断して、最終的に手術を選択することになった。しかし結果的には抗真菌薬治療と手術の組み合わせが功を奏し、独歩退院することができた。カンジダ性感染性心内膜炎の治療には、個々の症例によって適切な内科的治療と外科的治療を組み合わせるべきと考える。



51.Which blood pressure measurement, systolic or diastolic, better predicts future hypertension in normotensive young adults?
J Clin Hypertens.2017 Jun;19:603-610.
若年成人の正常血圧集団において、収縮期血圧と拡張期血圧のいずれが将来の高血圧発症に関連しているか?

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Hiroshi Kanegae/鐘 江 宏

【概要】
2010年の高血圧患者は4300万人と推定され、高血圧が原因で年間約10万人が死亡している。高齢化に伴い高血圧患者は増加すると考えられ、一次予防の観点から定期健康診断を活用し、高血圧発症を予測・予防することの重要性が増している。しかし、高血圧発症について大規模集団を長期間追跡した報告は少ない。 健康診断受診者データを利用して、2005年度に高血圧でなかった者(140/90mmHg未満、高血圧既往歴なし、降圧薬使用なし)93,303名を平均5年間追跡した結果、14,590名が高血圧となった。高血圧発症率は正常高値血圧群(130/85mmHg以上)で約63%、正常血圧群(120-129/80-84mmHg)で約32%、至適血圧群(120/80mmHg未満)で約6%であった。収縮期血圧のみ高い者(孤立性収縮期血圧群)と拡張期血圧のみ高い者(孤立性拡張期血圧群)を比較した結果、50歳未満では孤立性拡張期血圧群の高血圧発症率が有意に高かった。

【コメント】
若い時は下の血圧、年を取ったら上の血圧の管理が重要であることを実データで示しました。

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50. Integrated flow-mediated vasodilation response predicts cardiovascular events in elderly patients with cardiovascular risk factors: the Japan Morning Surge-Home Blood Pressure study.
J Am Soc Hypertens. 2018 Mar 21. pii: S1933-1711(18)30074-3.
積分化したFMD値の低下は心血管リスクをもつ高齢者の心血管イベントを予測する

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Tomoyuki Kabutoya/甲 谷 友 幸

【概要】
上腕の血流依存性拡張反応 (flow-mediated vasodilation, FMD)は非侵襲的に血管内皮機能を測定できるツールで心血管イベントの予測因子でもある。しかし、過去の報告ではハイリスク患者では心血管イベントの予測能が落ちることが示されている。本研究でわれわれは555人の心血管リスクを持つ患者において通常のFMD(ΔFMD)およびカフ解放後120秒までの血管拡張反応の積分値(FMD-AUC120)について、65歳以上の高齢者と65歳未満に分けて検討した。65歳以上の高齢者において、FMD-AUC120<5.6(低位3分位)が3.84倍の心血管イベントの予測因子であった。一方で65歳未満ではFMD-AUC120低位は心血管イベントには関連しなかった。ΔFMDは65歳以上でも65歳未満でも、その低位3分位は独立した心血管イベントの予測因子ではなかった。

【コメント】
われわれは以前より、カフ解放後のarea under the curveを用いたFMDの積分値 (FMD-AUC120)が心血管リスクや仮面高血圧、また尿中微量アルブミンに関連することを示してきた。本研究によりFMD-AUC120は高齢者の心血管イベント予測因子としての血管機能の評価に有用であると考えられた。ΔFMDよりFMD-AUC120のほうが心血管イベントの予後予測能に優れており、われわれはFMDを計測するうえで120秒まで計測して最大拡張反応以降の反応を評価することが重要であると考えている。

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49. Differential impact of diabetes mellitus on antiplatelet effects of prasugrel and clopidogrel.
Thromb J. 2018 Mar 15;16:5.
プラスグレル,クロピドグレル投与後の血小板反応性の比較:糖尿病の影響と両薬剤の新たな特徴

sniijima

Satoshi Niijima/ 新 島 聡

【概要】
新規のP2Y12阻害薬であるプラスグレルは、クロピドグレルよりも強力な抗血小板作用を発揮するが、抗血小板作用に影響を及ぼす因子の解明は不十分である。薬効に関与する因子が同定できれば、さらに抗血小板薬を安全、かつ効果的に使用できる可能性がある。本研究では、両薬剤投与後の血小板反応性を詳細に比較し、それぞれの抗血小板作用に影響を及ぼす患者背景因子や各薬剤の新たな特徴を調べた。安定狭心症患者40名を無作為に2群に分け、心臓カテーテル検査前日にプラスグレル20mgまたはクロピドグレル300mgのローディング投与を行った。投与後は経時的に採血を行い、血中クロピドグレル・プラスグレル代謝産物濃度、VASPのリン酸化、血小板凝集能を評価した。ローディング投与後の血小板反応性に影響する因子を調べた結果、糖尿病のみが独立してプラスグレル代謝産物濃度と血小板反応性を規定したが、クロピドグレルでは糖尿病の影響は認められなかった(図1)。また、プラスグレルはクロピドグレルよりも、ローディング投与後は大凝集塊だけでなく、効率的に中凝集塊と小凝集塊の形成をも抑制した(図2; ADPで凝集塊形成を誘発)。クロピドグレルは大凝集塊の形成を抑制したが、中凝集塊と小凝集塊は増加した。

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【コメント】
糖尿病の存在がローディング投与後のプラスグレル活性代謝産物の濃度を規定し、その薬効を遅延させることを見出した。糖尿病の影響が薬剤間で異なる理由としては、それぞれの薬剤が活性代謝産物になるまでの過程に差があることが挙げられる。また、サイズ別の血小板凝集塊に着目し、プラスグレルとクロピドグレルの新たな特徴も明らかとなった。クロピドグレルよりもプラスグレルがステント血栓症などの冠動脈イベントを減らしたひとつの理由として、この小凝集塊形成をも効果的に抑制することも関係しているかもしれない。一方で、強力なP2Y12阻害には出血合併症の危険があることを常に念頭に置かなければならない。


48.Exaggerated blood pressure variability is associated with memory impairment in very elderly patients.
J Clin Hypertens. 2018 Feb 21. in press.
80歳以上の高齢外来患者における血圧変動性増大と作業記憶低下との関連

Takeshi Fujiwara/藤 原 健 史

【概要】
80歳以上の高齢外来患者において、認知機能低下の抑制を目的とした血圧平均レベルの低下は、その有効性が確立していない。血圧平均レベル上昇よりも先に、血圧変動性が増大することが報告されており、血圧変動性の増大が認知機能低下と関連するのではないか、と仮説を立てた。本研究は、外来通院中の80歳以上の高齢者を対象としたSEARCH研究のデータを用いた。すべての患者に対してABPMを行い、その24時間の血圧変動(weighted SDSBP)を短期血圧変動性の指標とした。また、1年間における受診間血圧変動(visit-to-visit SDSBP)を長期血圧変動の指標とした。作業記憶低下を有する群(n=66、平均年齢84歳)と作業記憶低下なし群(n=431、平均年齢83歳)では、血圧平均レベルでは差がなかったが、作業記憶低下を有する群は、作業記憶低下なし群と比較して、weighted SDSBPとvisit-to-visit SDSBPのいずれも高値であった。weighted SDSBPとvisit-to-visit SDSBPをそれぞれ4分位したところ、いずれの第4四分位群(Q4)も作業記憶低下と有意に関連していた。weighted SDSBPとvisit-to-visit SDSBPの両者を、それぞれQ4と第1-3四分位群(Q1-3)の2群に分け、短期・長期血圧変動の増大と作業記憶低下との関連を検討すると、短期血圧変動と長期血圧変動の両者が増大している群において、作業記憶低下のリスクが有意に高値であった(図)。

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【コメント】
80歳以上の高齢外来患者において、血圧変動性の増大と作業記憶低下の関連を示した最初の試験である。短期・長期血圧変動の両者の増大がいずれも作業記憶低下と関連しており、また、それらを組み合わせて評価することが、作業記憶低下を有する患者の早期発見につながると考える。80歳以上の高齢者でも、血圧レベルだけでなく、血圧変動までも詳細に評価することが認知機能低下の早期発見に有効である可能性を示唆した。

47. Carotid atherosclerosis and the association between nocturnal blood pressure dipping and cardiovascular events.
J Clin Hypertens. 2018 Feb 16. in press.
頸動脈硬化と夜間血圧下降(dipping)の将来の心血管イベントとの関連

Praew Kotruchin/コトルチン プラウ

【概要】
Risk of nondipping blood pressure (BP) in populations with different degree of carotid atherosclerosis on CV outcome is not known. We tested the hypothesis that nondipping BP pattern would provide prognostic impact in the hypertensive populations without carotid atherosclerosis using the dataset of Japan Morning Surge-Home Blood Pressure (J-HOP). There were 493 patients with data of ambulatory BP monitoring (ABPM) and carotid intima media thickness (CIMT) included for analysis. Nondipping blood pressure (BP) pattern was independently associated with CV outcome in the population with CIMT <1.1mm (HR 9.85; 95%CI 2.07,46.84; p<0.01). This association was not found in the population with CIMT ?1.1mm.

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【コメント】
In hypertensive populations without carotid atherosclerosis, ABPM is beneficial to determine nocturnal blood pressure patterns and further assess the cardiovascular risk.


46. 症例報告
Isolated Cardiac Sarcoidosis Mimicking Arrhythmogenic Right Ventricular Cardiomyopathy.
Intern Med. 2017 Dec 8. in press.
不整脈源性右室心筋症との鑑別が難しかった心サルコイドーシスの1例

Hirotaka Waki/脇 広昂

【概要】
完全房室ブロックを発症し、ペースメーカーを留置された後、心不全を発症した60代女性。心不全の原因の鑑別疾患として、心サルコイドーシス(CS)と不整脈原生右室心筋症(ARVC)が挙がったが、臨床的所見からはCSは診断基準を満たさず、ARVCは診断基準を満たした。しかし心筋生検を行ったところ非乾酪性肉芽腫を認め、CSの診断に至った。

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【コメント】
CSは全身性サルコイドーシスを伴わないこともあり、診断がときに難しい疾患である。かつ今症例のようにARVCと一部類似した臨床所見を呈すことがあり、治療内容が全く異なるだけに、鑑別診断は慎重に行わなければならない。生検が診断の決め手となっており、心筋生検の重要性も強調された症例であった。



45. 症例報告
New-onset Takayasu's Arteritis as Acute Myocardial Infarction.
Intern Med. 2018 Jan 11. in press.
急性心筋梗塞として新規発症した高安動脈炎

Yusuke Ishiyama/石 山 裕 介

【概要】
冠疾患リスクを有さない25歳女性。左主幹部閉塞による急性心筋梗塞を発症し、経皮的冠動脈形成術を施行された。血管内超音波所見は内膜、中膜、外膜の三層構造が不明瞭で、求心性肥厚を呈していた。一方で不安定プラークや石灰化病変は認めなかった。若年女性の急性心筋梗塞は稀であるが、高安動脈炎は重要な原因の一つである。もし急性冠症候群として典型的な胸痛を主訴とした若年女性に出会ったら、全身性疾患を鑑別しなくてはならない。

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【コメント】
急性心筋梗塞が初発となる高安動脈炎は少なく、冠動脈の血管内超音波所見に関する言及はない。また若年発症の心筋梗塞で高安動脈炎を鑑別する教育的な症例であった。





44. 症例報告
Recurrent Early Coronary Stent Thrombosis under Chronic Disseminated Intravascular Coagulation.
Int Heart J. 2017 Nov 22. in press.
DICが原因と思われる繰り返す急性ステント血栓症を来した一例

Yusuke Oba/大 場 祐 輔

【概要】
62歳男性。急性前壁心筋梗塞を発症し、緊急心臓カテーテル検査を施行した。左冠動脈完全閉塞に対し計2本の薬剤溶出性ステントを留置しTIMI3 flowを得た。2重抗血小板療法を行っていたが、第8病日にステント血栓症を発症し2回目の経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行した。クロピドグレルをプラスグレルへ変更したが、第18病日にステント血栓症を来し、3回目のPCIを行った。入院時より血液検査上DIC所見を認めたため、ワーファリンによる抗凝固療法を追加したところ、約1ヵ月間ステント血栓症を起こすことなく経過した。造影CT検査で門脈血栓症を認め、これが慢性DICの原因と考えられた。本症例は脾摘術後であり、術後10年の経過で門脈血栓症が再発し、門脈血栓症に伴う慢性DICが原因と思われる2度の急性ステント血栓症を来したと考えられた。

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【コメント】
DICが原因と思われるステント血栓症は非常に稀ではあるが、念頭に置く必要があり、抗凝固療法の追加が有効かもしれない。





43.Comparison of morning vs bedtime administration of the combination of valsartan/amlodipine on nocturnal brachial and central blood pressure in patients with hypertension.
J Clin Hypertens. 2017 Nov 5. in press.
高血圧患者に対するバルサルタン/アムロジピン配合錠の時間降圧療法による夜間末梢/中心血圧へ及ぼす効果の比較検討

Takeshi Fujiwara/藤 原 健 史

【概要】
夜間末梢/中心血圧の低下度をアウトカムとしたときに、長時間作用型の降圧作用を有するバルサルタン/アムロジピン配合錠の朝食後投与は、同薬剤の就寝前投与と比較して、劣らないのではないか、という仮説を設定した。CPET試験は、16週前向き無作為化オープンラベルクロスオーバー非劣性試験である。23名の本態性高血圧患者に対して、バルサルタン/アムロジピン配合錠の朝食後投与または就寝前投与を8週間行い、その後投与方法をクロスオーバーし、さらに8週間の治療を行った。中心血圧が測定可能であるABPM機器(Mobil-O-Graph)を用いて、朝食後投与と就寝前投与が有する夜間血圧低下作用を比較した。

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【コメント】
夜間中心血圧に対する時間降圧療法の効果を検討した最初の試験である。夜間末梢/中心血圧低下度を評価したときに、バルサルタン/アムロジピン配合錠の朝食後投与は就寝前投与に対して非劣性であった。夜間血圧および中心血圧はそれぞれ心血管予後と強く関連するため、バルサルタン/アムロジピン配合錠を治療薬として選択する時に、本試験結果は有益なエビデンスであると考える。

42.Relationship Between Blood Pressure Variability and Cognitive Function in Elderly Patients With Well Blood Pressure Control
American Journal of Hypertension 2017 Aug 25. in press.
血圧コントロール良好な高齢者の血圧変動と認知機能の関連

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Natsuki Cho/長 捺 希

【概要】
南三陸病院内科外来にて心血管リスクファクターを一つ以上もつ232人の高齢者に対してambulatory BP monitoring (ABPM)の測定値と、認知機能検査Japanese version of the Montreal Cognitive Assessment (MoCA-J)の結果の関連を調べた。 平均年齢は77.7歳、85.3%が1つ以上の降圧薬を内服していた。24時間平均血圧は118.7/68.3mmHgであった。24時間の血圧変動(weighted SD of systolic BP)の大きさで4群に分け、年齢、24時間の平均SBPで補正すると最も高い群で優位にMoCA-Jスコアが低かった(P = 0.001) 。またMoCA-Jを認知機能別に7グループに分類したところvisuoexecutive, abstraction, attention, namingの低下が血圧変動性の増大と関連があった。


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【コメント】
過去の論文では日本人においてMoCAと血圧変動性を検討した論文はなく、認知機能分類別に分けてMoCAとの関連を検討した論文はない。またDーCAP研究に登録している患者が多く厳格な血圧コントロール下に置かれている集団を対象としたため、平均血圧レベルの因子を除外し血圧変動と認知機能低下の関連が見やすくなった。今回、平均血圧コントロール良好な患者群において血圧レベルではなく血圧変動の大きさと認知機能低下に関連があるという結果が得られた。



41.Imatinib dramatically alleviates pulmonary tumour thrombotic microangiopathy induced by gastric cancer.
BMJ CaseRep. 2017 Sep 7.in press.
イマチニブは胃癌による肺腫瘍血栓微小血管症(PTTM)に著効する

ncho

Kana Kubota/久 保 田 香 菜

【概要】
肺腫瘍血栓性細小血管症(PTTM)は進行性肺高血圧(PH)により致命的となる、悪性腫瘍に稀に起こる合併症である。血小板由来増殖因子(PDGF)受容体チロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブは、PTTM患者の重症PHを改善することができることが国内で数件報告されている。 症例は56歳の女性。来院時の平均肺動脈圧(mPAP)は47mmHgであり、呼吸困難症状は数日間で急速に悪化した。造影CTでは肺塞栓症は認められなかったが、傍大動脈リンパ節の多発性腫大が認められ、上部消化管内視鏡検査で胃の印環細胞癌が判明した。臨床経過からPTTMと診断し、イマチニブ内服による治療を開始した。投与5日後、mPAPは12mmHgと劇的に改善を認めた。その後、イマチニブ投与を継続したまま独歩退院し、約7か月後に癌の全身転移により死亡するまでPHの再発は認めなかった。PTTM症例では、イマチニブはPHの有効な治療選択肢となる可能性がある。PTTMは急激に進行し死に至る疾患であるため、診断した場合にはできるだけ早期にイマチニブの投与を検討すべきである。

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【コメント】
PTTMは進行が速い致死性の疾患であるが、保険適応外使用ではあるもののイマチニブを用いることで、急性期の右心不全死を回避できた症例を経験した。キースライドに示した通り、数日で最重症まで増悪してしまったPHに対し、イマチニブの投与によってわずか数時間で劇的なmPAPの改善を認めたことは筆者にとって衝撃であった。PTTMへのイマチニブ投与は現時点では日本国内でしか試されておらず、急性期に救命できたPTTMとして本症例は3例目の報告となる。ただこれまでの2症例はInternal medicine、International Herat Journalと国内紙での報告であったため、国内6症例のreviewを含む本報告が海外誌に掲載されることで、イマチニブ投与の有効性について世界に発信することができると考える。



40. Diagnostic accuracy of a new algorithm to detect atrial fibrillation in a home blood pressure monitor.
J Clin Hypertens. 2017 Sep 1. in press.
家庭血圧によるAF検出アルゴリズムの開発

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Tomoyuki Kabutoya/甲 谷 友 幸

【概要】
心房細動患者16人、洞調律患者20人で新しいAF検出アルゴリズムを搭載した血圧計で脈波を収集し、 AF検出の妥当性について検討した。 





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【コメント】
自動血圧計によるAF検出のための新規アルゴリズムは特異度、感度ともに良好であった。今後は高血圧患者や一般住民の無症候性のAFの発見や、AFのカテーテルアブレーション後の治療判定などに役立てたいと考えている。




39.The relationship between a blunted morning surge and a reversed nocturnal blood pressure dipping or "riser" pattern.
J Clin Hypertens. 2017 Aug 20.in press.
“blunted morning surge”と“riser pattern”の関連

Takeshi Fujiwara/藤 原 健 史

【概要】
“exaggerated morning surge”は24時間血圧レベルとは独立して、臓器障害や心血管イベントリスクとなることが、これまでの前向き観察研究で報告されている。しかし、その後、“blunted morning surge”が心血管予後と関連する、という相反する結果の論文が発表された。そこで、我々は、“blunted morning surge”を呈する患者の心血管イベントリスクは、同様に心血管イベントリスクであることが報告されている“riser pattern”を反映しているのではないか、という仮説を検証した。ABPMを実施した501名の高血圧患者のsleep-trough morning BP surgeを十分位し、各分位に含まれるdipping patternの割合を検討した。その結果、十分位最低群(D1, blunted morning surge群と定義)に含まれるriser patternの割合は、他の群(D2-10)に含まれるその割合よりも5.8倍高かった(D1: 56.0% vs. D2-10: 10.4%, p<0.0001)。また、blunted morning surgeに対するロジステック回帰分析では、riser patternはオッズ比73.3で有意なリスク因子であった。sleep-trough morning BP surge ではなくpre-waking BP surgeを用いた解析においても、同様な結果であった。

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【コメント】
“blunted morning surge”と“riser pattern”の関係を明確にした初めての臨床研究である。「the greater the morning BP surge, the greater the nocturnal BP dipping, and vice versa」であることは当初より予想はされたが、“blunted morning surge”と“riser pattern”の関連は予想以上に強固であった。この結果は、「“blunted morning surge”が心血管予後と関連する」という過去の論文の結果を、「“riser pattern”が心血管予後と関連する」という解釈に変更することをsupportする内容であった。“riser pattern”がそうであるように、やはり“exaggerated morning surge”こそ心血管イベントリスクであると我々は考える。

38.Role of ambulatory blood pressure monitoring for the management of hypertension in Asian populations.
J Clin Hypertens. 2017 Aug 22. in press.
アジア人の高血圧管理におけるABPMの役割

Satoshi Hoshide/ 星 出 聡

【概要】
アジア人と欧米人では、心血管イベント発症の有病率やその割合(心疾患が欧米で多いなど)が異なります。また、アジア人では欧米人と比較して、心血管イベントへの血圧の寄与が高いとされています。ABPMは診察室血圧と異なり、様々な血圧に関する指標を得ることが可能であり、そのどれもが診察室血圧レベルと独立して心血管イベントに関連することが報告されています。以前に、我々はABPMで捉えられるモーニングサージの程度が、24時間血圧レベルが同等でも、ヨーロッパの高血圧患者より日本人の高血圧患者の方が有意に大きいことを報告しました (Hoshide et al. Hypertension 2015)。このように、単に血圧レベルだけでなく、ABPMで捉えられるような血圧変動の特徴に人種差がある可能性があります。本論文は、ABPMで捉えられる血圧変動の指標を人種差の点から着目し、アジア人高血圧患者に特徴的なものがあるかどうかをレビューしました。

Townsend RR, Kario K, et al.

【概要】
腎デナベーションとシャム手技を比較した過去のランダム化試験において、腎デナベーションは一貫した降圧効果を示せなかった。今回、診察室収縮期血圧(SBP)≧150 mmHgかつ<180 mmHg;診察室拡張期血圧(DBP)≧90 mmHg;24時間自由行動下 SBP≧140 mmHgかつ<170 mmHgを満たす未治療あるいは降圧療法を中止した症例を対象として、多施設、国際、単盲検(患者、医療従事者[caregivers]、血圧評価者を盲検化)ランダム化シャム対照、概念実証試験を行った。2回目のスクリーニング時の腎造影で解剖学的に適格であるものを、腎デナベーション群あるいはシャム対照群にランダム化した。主要エンドポイントは3か月後の24時間血圧値の変化。降圧療法中止のコンプライアンスを確かめるため、薬剤調査を行った。
腎デナベーション群(38例)の診察室SBP/DBPおよび24時間 SBP/DBPは、ベースラインに比較して3か月後に有意に低下したが(診察室SBP (-10.0 mmHg [95%信頼区間: -15.1, -4.9]),診察室DBP (-5.3 mmHg [-7.8, -2.7]);24時間SBP (-5.5 mmHg [-9.1, -2.0]), 24時間DBP (-4.8 mmHg [-7.0, -2.6]))、シャム対照群(42例)では有意差はなかった(診察室 SBP (-2.3 mmHg [-6.1, 1.6]),診察室 DBP (-0.3 mmHg [-2.9, 2.2]);24時間 SBP (-0.5 mmHg [-3.9, 2.9]), 24時間DBP (-0.4 mmHg [-2.2, 1.4]))。 ベースラインと比較した3か月後の診察室SBP/DBPならびに24時間SBP/DBPの変化の群間差は、いずれも腎デナベーション群に好ましい結果であった(診察室 SBP (-7.7 mmHg [-14.0, -1.5])、診察室 DBP (-4.9 [-8.5, -1.4]));24時間血圧の変化(24時間SBP-5.0 mmHg [-9.9, -0.2]), 24時間DBP (-4.4 mmHg [-7.2, -1.6]))。両群ともに主要有害イベントはみられなかった。
SPYRAL HTN-OFF MED試験によって、腎デナベーションの降圧作用が証明された。

【コメント:苅尾七臣】
これまで専門家が長らく有効と考えてきた腎デナベーションの有効性が、ヒトを対象とした臨床試験で最も客観的とされるシャム手術を用いた無作為比較SPYRAL HTN OFF-MED試験で証明された(ヨーロッパ心臓病学会2017. August 28日発表、Lancet 2017 同時掲載)。 本試験は我が国を含むヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアが参加したメドトロニック社主導の国際feasibility試験であり、診察室血圧150mmHg以上(拡張期血圧90mmHg以上)、自由行動下血圧測定 (ABPM) で評価した24時間血圧140 mmHg以上の未治療高血圧患者を対象とした。シャム手術群に比較して、腎デナベーション群では主要エンドポイント・24時間収縮期血圧の3か月後の低下が5.0mmHg有意に大きかった。
2014年のHTN-3の失敗から学んだ本試験企画の秘訣は、患者選択、手技、評価の3点を的確に改良し、全ての「ばらつき」を最小限に抑えた点にある。1)焼灼手技は4点同時焼灼が可能な多電極焼灼デバイス・Symplicity SpyralTMカテーテル」により腎交感神経が集束する腎動脈遠位部をより詳細に焼灼するプロトコールに変え、施設を限定し、均一化した。2)評価法は主要エンドポイントを変動が大きい診察室血圧から、測定手技のばらつきの少なく循環器リスクとの関連がより強い24時間血圧に変えた。さらに、3) 対象者は診察室血圧に上限を設けて血圧変動のばらつきを下げる一方、24時間血圧高値群とし、さらに拡張期血圧90mmHg以上を登録基準に加え、血管硬化が進行したStructural hypertensionを除外することにより、対象者のばらつきを排除した。
循環器ニューロモジュレーション治療の実用化で最先端を行く腎デナベーションは、SPYRAL HTN OFF-MED試験を再起点として、学術的にはレスポンダー探索、技術的には手技・評価法の開発、臨床的には臨床導入へ向けたpivotal 試験が加速されることになる。


36. 症例報告
A drug-coated balloon effectively treated in-stent restenosis due to a stent fracture.
Int J Cardiovasc Imaging.2017 Aug 14. in press.
ステントフラクチャーによるステント内再狭窄にDCBが有用であった一例

Yusuke Oba/大 場 祐 輔

【概要】
74歳男性。 労作性狭心症の診断で回旋枝に薬剤溶出性ステントを留置したが、 33ヵ月後にステント完全断裂による再狭窄を認めた。 心拍動に伴う血管の動きが大きい部位にステントが留置されたことによる持続的なmechanical stressがステント断裂の原因と考え、 敢えてステントの再留置は行わず、 薬剤溶出性バルーンによる薬剤塗布を施行した。 8ヵ月に確認カテーテル検査を行ったところ、 再狭窄は認めず、 OFDIでも線維性被膜の増大を認め、 安定した内膜に修復されたことを確認した。

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【コメント】
ステント留置後33ヵ月の経過でステント断裂による再狭窄を経験した。 DCBによる治療で、 再々狭窄はなく経過は良好である。 第2世代DESになり、 ステント内再狭窄の頻度は減少したものの、 本症例のようにStent fractureは未解決の問題である。 OFDIによりステント内再狭窄の病態を把握することが重要であり、 ステント完全断裂に伴う再狭窄にDCBによる治療が有用である可能性がある。


35. 症例報告
Successful hybrid treatment with endovascular aorto-iliac revascularization and coronary bypass surgery in a patient with an advanced complex polyvascular disease.
jccase 2017;15: 201-205.
EVTによる下肢血行再建術を先行することで冠動脈重症多枝病変に対するall arterial graftsによるCABGが可能となったLeriche syndromeの一例

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Yukako Ogoyama/小 古 山 由 佳 子

【概要】
症例は72歳男性、労作時胸痛と両側下肢の間欠性跛行のためカテーテル検査を施行したところ、LMT+3VDと遠位大動脈~両側外腸骨動脈閉塞を伴うLeriche syndromeを合併していた。両側内胸動脈から良好な側副血行路を認めていること、待機的CABGが施行可能な状態であること、上行大動脈や頸動脈が石灰化やプラークで性状が悪いこと(≒off pump CABGが望まれる状況)から、CABGに先立ちLeriche syndromeに対するEVTを先行した。

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【コメント】
冠動脈疾患を合併する患者には末梢動脈疾患を併発することが多く、その逆の場合も臨床の現場では多く経験する。血行再建は長期開存と、非侵襲性が求められており、今回EVTを先行することにより冠動脈バイパス術は開存率がよいとされている動脈グラフト(LITA、RITA、GEA)をすべて用いることができ、また生理的血行再建術を行うことでIABPやPCPS等の使用も可能となった。EVTの進化に伴い、このような患者に対しては侵襲性の低いEVTとCABGのハイブリット治療も今後選択枝の一つとなるだろう。



34. 症例報告
Daytime blood pressure surges following hypoxic episodes in a case of pneumoconiosis with lacunar stroke recurrences.
Blood Press Monit. 2017;22:175-177
ラクナ梗塞を繰り返した塵肺患者において、日中の低酸素に続く血圧サージをとらえた一例

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Yuki Imaizumi/ 今 泉 悠 希

【概要】
症例は70歳男性、元炭坑夫。ADL自立。2年前から高血圧症に対してカンデサルタン8mg1×夕食後、アムロジピン5mg1×朝食後で治療していたが、4回目となるラクナ梗塞を発症した。血圧は、安静時130/80mmHg程度で推移し、SpO2も96%程度と保たれていたが、活動時には軽度の呼吸困難感を自覚していた。ラクナ梗塞の責任血管はすべて穿通枝で、深部白質病変を認めることからも、血圧が本症例の最大のリスク因子であったと推察された。血圧レベルが低いにもかかわらずラクナ梗塞を繰り返す原因として、どこかに血圧サージが残存すると考えた。活動時に呼吸困難感を自覚していたことから、間欠的な低酸素に伴って血圧変動性が亢進している可能性を疑い、患者の協力を得てABPMと24時間SpO2モニターを二回にわたり同時装着した。その結果、日中の活動時に最低SpO2が70%代後半まで低下し、それに引き続いて血圧変動性が亢進しており、最高でSBP 192mmHgの血圧サージを認めた。

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【コメント】
慢性呼吸器疾患の患者では血圧変動性が亢進していると報告されているが、その機序を明らかにした報告はない。今回我々は、慢性呼吸器疾患の患者において、身体活動に伴う間欠的な低酸素発作に引き続く血圧サージをとらえた。慢性呼吸器疾患の患者に心血管疾患が多い原因の一つに、日中活動時の間欠的な低酸素発作により交感神経が亢進し、血圧サージを生じることで血管障害を引き起こしている可能性が示唆された。



33. Comparison of ambulatory blood pressure-lowering effects of higher doses of different calcium antagonists in uncontrolled hypertension: the Calcium Antagonist Controlled-Release High-Dose Therapy in Uncontrolled Refractory Hypertensive Patients (CARILLON) Study.
Blood Press. 2017:1-10.
コントロール不良高血圧患者に対する高用量カルシウム拮抗薬の24時間自由行動下血圧における降圧効果の比較:CARILLON研究

hmizuno

Hiroyuki Mizuno/水 野 裕 之

【概要】
CARILLON研究は高用量ニフェジピンCR(NCR)と高用量アムロジピン(AML)の24時間血圧における降圧効果と臓器保護効果を比較した多施設ランダム化比較試験である。常用量のカルシウム拮抗薬と常用量のレニンアンジオテンシン系阻害薬を含む2剤以上の降圧薬で治療されていたコントロール不良の高血圧患者を、NCR群とAML群に無作為割り付けした。両群ともに、治療期間中カンデサルタン8mgを併用し、その他の降圧薬は変更せずに継続した。ニフェジピンCRを常用量の40mgから80mgに増量し、同様にアムロジピンを5mgから10mgに増量した。増量から8週間後の24時間血圧とベースラインの24時間血圧を比較した。治療を終了したNCR 25例とAML 26 例を解析した。ベースラインの患者背景ならびに外来血圧、家庭血圧、24時間平均血圧(NCR 140.1±12.4 mm Hg vs. AML 144.3±13.5 mm Hg, p=0.25)に2群間で有意差はなかった。主要エンドポイントである24時間平均血圧は、両群ともにベースラインから有意に低下したが、降圧量は両群間で有意差がなかった(NCR -22.0±10.5 mm Hg vs. AML -17.3±15.3 mm Hg, p=0.93) (図)。臓器保護効果の指標であるUACRはNCR群で 有意に低下し、NTproBNPはAML群で有意に低下したが、両群間比較で有意差はなかった。

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【コメント】
実臨床で、コントロール不良の高血圧患者に対してカルシウム拮抗薬が高用量に増量される場合が多い。しかし高用量のNCRとAMLの24時間血圧における降圧効果に関するデータは少なかった。本研究でNCRとAMLの高用量療法は、コントロール不良の高血圧患者に対して有効な治療であり、降圧効果が同等であることが示された。


32.Comparative Effects of an Angiotensin II Receptor Blocker (ARB)/Diuretic vs. ARB/Calcium-Channel Blocker Combination on Uncontrolled Nocturnal Hypertension Evaluated by Information and Communication Technology-Based Nocturnal Home Blood Pressure Monitoring - The NOCTURNE Study.
Circ J. 2017 Mar 17.in press.
コントロール不良の夜間高血圧患者において、ARBを基礎とした2種類の併用療法(ARB/利尿薬、ARB/カルシウム拮抗薬)の効果を、情報通信技術(ICT)を利用した夜間血圧計を用いて評価し比較する:NOCTURNE研究

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Kazuomi Kario/ 苅 尾 七 臣

【概要】
NOCTURNE研究は、夜間高血圧の日本人患者411例にARBを基礎とした2種類の併用療法を行い、ICTを利用した夜間血圧計を用いて夜間血圧低下効果を評価・比較した多施設ランダム化比較試験である。ARB 100mg/日を投与しても、夜間血圧が≧120/70 mmHgの患者を登録。ARB/CCB併用療法(イルベサルタン 100mg+アムロジピン 5mg)は、ARB/利尿薬併用療法(イルベサルタン 100mg+トリクロルメチアジド1mg)に比較して主要エンドポイントである登録8週後の夜間収縮期家庭血圧が有意に低く(-14.4 vs. -10.5 mmHg, P<0.0001)、この結果は尿中ナトリウム排泄や夜間血圧下降状況(dipping status)とは独立していた。一方Post-hoc解析の結果ではあるものの食塩感受性が高いグループ(糖尿病、慢性腎疾患、高齢者)の夜間家庭収縮期血圧は、両併用群間に有意差はなかった。 本試験はICT技術を利用した夜間家庭血圧計の臨床活用可能性を示した最初のランダム化比較試験である。コントロール不良夜間高血圧患者へのARB/CCB併用療法はARB/利尿薬を上回ることが示されたが、食塩感受性の高い患者群においては2つの併用療法の夜間血圧低下効果に有意差はなかった。


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【コメント】
本試験の新規性は3点ある。1つ目は、初めて夜間高血圧患者をターゲットにし、エンドポイントを夜間血圧にした臨床試験である。これまでの臨床研究においても、降圧療法中の高血圧患者における夜間高血圧は最大のリスクとなることが明らかになっている。2つ目は、我々が開発を進めるICT夜間家庭血圧モニタリングシステムを用いて、ABPMではなく家庭血圧で夜間血圧を測定した点、3つ目が患者宅よりダイレクトにデータを取得した点である。アンジオテンシン受容体拮抗薬をベースにしたコンビネーション治療として、利尿薬に比較してカルシウム拮抗薬が優れることが明らかになった。高齢者、慢性腎臓病、糖尿病など食塩感受性高血圧群では、いずれの併用療法も降圧効果に差がないことから、いずれの併用療法も有用である。循環器イベントゼロを目指した近未来の高血圧管理は、早朝・夜間血圧をターゲットにしたICTベースの個別予見医療である。

31. 症例報告
A lack of day-by-day variability in blood pressure in a case of Cushing’s disease.
J Hum Hypertens. 2017 Mar 23. in press.
血圧変動性が消失したクッシング病の一症例

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Kazuo Eguchi/江 口 和 男

【概要】
症例は64歳 男性、主訴は下肢のむくみ、血圧高値で3年前より高血圧にて治療中だったが、数か月前より腋窩から黄色い皮脂分泌、頭髪の脱毛に気づき、近医で降圧治療をしていたが、血圧が下がらず、下腿浮腫もあるため紹介された。初診時、血圧182/113mmHg, 脈拍91/min、身体所見では足関節以下に著明な浮腫あり。ACTH 277.4pg/ml (9-52)、コルチゾール53.8μg/dl (4.5-21.1)、頭部MRIにてトルコ鞍部に腫瘍を認め、下垂体性クッシング病と診断した。Hardy手術を行い、病理所見は下垂体腺腫であった。手術後、血圧コントロール、血糖値は正常化した。家庭血圧で評価した収縮期血圧の変動係数(CV)は術前2.7%から術後 4.2%、拡張期血圧のCVは3.2% から5.4%へ増加した。

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【コメント】
本症例は、2次性高血圧における病的状態では血圧変動性が変動するという例であり、血圧変動性が消失する場合、何らかの基礎疾患を考慮しなくてはならない。


30.Difference in evening home blood pressure between before dinner and at bedtime in Japanese elderly hypertensive patients.
J Clin Hypertens. 2017 Mar 14. in press.
家庭血圧測定における夕食前血圧値と就寝前血圧値の比較

Takeshi Fujiwara/藤 原 健 史

【概要】
国内外の主要高血圧ガイドラインを比較すると、夜の家庭血圧測定のタイミングとして、欧米では夕食前、日本では就寝前、がそれぞれ推奨されている。しかし、これらの測定値の差を比較した臨床研究はない。48名の本態性高血圧患者に対して、夕食前と就寝前含めて、14日間家庭血圧測定を行い、それら全ての測定値を評価対象とした。就寝前血圧値は夕食前血圧値と比較して、8.7 mmHg低値であった。マルチレベル分析を用いて、これら2つの測定値の差に影響を与える因子を検討したところ、入浴後120分以内と飲酒、の2つの因子は夕食前血圧値と比較して就寝前血圧値を有意に低下させる独立した因子であり、さらにこれらの2つの因子は相加的な就寝前血圧値の低下作用を示した。

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【コメント】
就寝前血圧値は夕食前血圧値と比較して大きく低値であった。JSH2014ガイドラインで推奨されている就寝前血圧測定は、入浴や飲酒の影響を受けることによって、本来の血圧値を過小評価する可能性がある。患者の生活スタイルを適切に把握し、夜の家庭血圧測定のタイミングを状況に応じて個別に指導する必要がある。


29.Association between nondipper pulse rate and measures of cardiac overload: The J-HOP Study.
J Clin Hypertens. 2017 Feb 3. in press.
Non-dipper PRと心容量負荷との関連

Yusuke Oba/大 場 祐 輔

【概要】
高血圧患者において, Non-dipper PRと心血管イベントの関連が知られているが, 臓器障害との関連については不明である。そのため, Non-dipper PRと高血圧性臓器障害の関連について調べた。 Non-dipper PR群(n=213)はdipper PR群(n=727)に比べ, 有意にBNP?35 pg/mlの割合が高かった(39.9% vs 26.1%, P<0.001)。 女性においては, Non-dipper PR群はdipper PR群に比べ, 有意にLVMIが高値であった(mean LVMI: 111.3±32.4 vs 104.2±26.7 g/m2, P=0.03)。 一方, UACR, baPWVとの関連は認めなかった。

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【コメント】
Non-dipper PRと高血圧性臓器障害との関連を調べると, 心・腎・血管の中でも, 心臓特異性があると考えられた。 Non-dipper PRとCardiac overloadとの関連を示した初めての報告である。


28. 症例報告
Intra-Plaque Hematoma and Minor Intimal Disruption Detected by Optical Frequency Domain Imaging in a Case of Acute Coronary Syndrome.
Int Heart J. 2016; 57: 760-762.
OFDIによって冠動脈プラーク内血腫と微小な内膜亀裂が観察された急性冠症候群の一例

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Motoki Fukutomi/ 福 冨 基 城

【概要】
急性冠症候群 (ACS) を発症した39歳男性に対して緊急カテーテルが施行されたところ、左前下行枝近位部に75%狭窄を認めた。同部位を光干渉断層撮影 (Optical Frequency Domain Imaging: OFDI) で観察したところ、内膜の微小な亀裂と少量の血栓を伴うプラーク内血腫が観察された。同部位にステント留置して手技を終了した。

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【コメント】
これまでOFDIで観察された冠動脈の血腫についていくつか報告されているが、多くはカテーテル手技に伴う医原性の血腫や、特発性冠動脈解離に伴う中膜-外膜間の血腫である。しかしながら本症例の血腫は内膜-中膜間に存在しており、かつ内膜の微小な亀裂と血栓を伴っていたことから、プラークラプチャーの非常に早期の段階における、プラーク内への血流流入を見ている可能性がある。あるいはプラーク内のvaso vasorumの破綻によるプラーク内出血の可能性も考えられる。現時点で病態の詳細を特定することはできないが、プラーク内血腫がACS発症に関与している可能性を示す興味深い症例であった。




27.Riser Pattern Is a Novel Predictor of Adverse Events in Heart Failure Patients With Preserved Ejection Fraction.
Circ J. 2016 Dec 23 in press.
Riser型血圧変動パターンはHFpEFの新しい予後因子である

tkomori

Takahiro Komori/ 小 森 孝 洋

【概要】
血圧日内変動異常がHFpEFの予後不良と関連するかどうかを検討した。自治医大附属病院へ入院した516名の心不全患者に対し、ABPMを施行して20か月予後を追跡したところ、220名に複合エンドポイントが生じた。多変量解析を行ったところ、HFpEFではriser型血圧変動は予後規定因子であった(HR 3.01 95%信頼区間1.54-6.08, p<0.01)が、HFrEFでは予後と関連がなかった。

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【コメント】
本研究はHFpEFにおいて血圧日内変動異常が予後不良と関連していたことを示した初めての報告である。HFpEFの予後を改善させる治療薬は未だ明らかになっていないが、本研究をふまえると血圧日内変動パターンへの介入がHFpEFの予後改善につながる可能性が考えられた。


26. 症例報告
Usefulness of three-dimensional optical frequency domain imaging for diagnosing in-stent restenosis due to a stent fracture.
EuroIntervention. 2016 Dec 10; 12 :e1438.
ステントフラクチャーによるステント内再狭窄の診断に3D-OFDIが有用であった一例

Yusuke Oba/大 場 祐 輔

【概要】
74歳男性。 労作性狭心症の診断で回旋枝に薬剤溶出性ステントを留置した。 33ヵ月後に同部位の再狭窄を認めた。 前拡張した後OFDIで観察したところ、ステントの完全断裂を認めた。断裂部ではマクロファージの集積を思われる所見や壁在血栓を疑わせる所見を認めたことから、 ステント断裂部の持続的なmechanical stressに伴う再狭窄が疑われた。 薬剤溶出性バルーンで薬剤塗布し、 治療を終了した。

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【コメント】
本症例は、OFDIによりStent fractureを明瞭に可視化することに成功した。第2世代DESになり、ステント内再狭窄の頻度は減少したものの、 本症例のようにStent fractureは未解決の問題である。 OFDIによりステント内再狭窄の病態を把握することは、治療方針の決定に有用と考えられる。


25.Locomotive syndrome is associated with large blood pressure variability in elderly hypertensives: the Japan Ambulatory Blood Pressure Prospective (JAMP) substudy.
J Clin Hypertens. 2016 Nov 15. in press.
ロコモティブシンドロームは高齢高血圧患者において血圧変動性増大と関連する
―JAMP研究サブ解析―

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Yuki Imaizumi/ 今 泉 悠 希

【概要】
ロコモティブシンドローム(LS)とは運動器の障害により要介護リスクの高い状態である。ADLが自立した高齢高血圧患者ではLSが昼間の血圧変動性増大に関連している、との仮説を明らかにするため、本研究を実施した。大島在住の高齢者85名において、LSスケール、抑うつ状態の指標self-rating questionnaire for depression(SRQD)、ABPMの昼夜別の収縮期血圧平均値(SBP)、SBPの標準偏差(SD-SBP)と変動係数(CV:SD/平均値)との関連を検討した。対象者の平均年齢は79.2歳(女性62.4%)で、LSスケールは昼間のSD-SBPとCV-SBP、および夜のSBPと関連した(すべてp<0.05)。一方でSRQDはABPMと関連しなかった。LSスケールとSRQDをそれぞれ4分位(Q1-4)に分けると、LSスケールのQ4ではQ1と比較して有意にSD-SBPが高値であり、関連因子で補正後も有意であった(p=0.041)(図)。LSのコンポーネント毎(疼痛、移動機能の低下、生活活動制限、社会参加制限、認知機能低下)では、移動機能の低下が昼間のSD-SBPと(β=0.24, p<0.05)、生活活動制限が昼間のSD-SBP(β=0.32, p<0.01)およびCV-SBP(β=0.27, p<0.05)と関連した。高齢高血圧患者において、LSは昼間の血圧変動性増大と関連した。ロコモティブシンドロームは血圧変動性の重要な規定因子となる可能性が示唆された。

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【コメント】
・高齢化社会では、高齢者特有の病態を理解し、個別の心血管イベント予防策が重要です。
・Frailな高齢者で心血管リスクが上昇するとの報告は散見しますが、その背景は明らかになっていません。Frailの進行度別(ADL自立/寝たきり)の考察や、昼夜別の血圧変動性についても報告がありません。本研究では、比較的初期のFrail(ADL自立)ではLSが血圧変動性増大と関連することを、ABPMを用いて初めて報告しました。
・高齢者では、古典的心血管危険因子に加えロコモティブシンドロームも、血圧変動性増大を介して心血管疾患のリスクとなりうる可能性が示唆されました。


24.Impact of Renal Denervation on Patients With Obstructive Sleep Apnea and Resistant Hypertension - Insights From the SYMPLICITY HTN-3 Trial.
Circ J. 2016; 80:1404-12.
治療抵抗性高血圧と睡眠時無呼吸症候群の合併患者における腎デナベーション:SYMPLICITY HTN-3 Trial

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Kazuomi Kario/ 苅 尾 七 臣

【概要】
治療抵抗性高血圧患者への腎デナベーションをシャム手技群と比較した大規模ランダム化比較試験SYMPLICITY HTN-3 trial のデータを、睡眠時無呼吸症候群(OSA)の有無で層別化して後付け解析した。OSAは腎デナベーション群の26%(94/367例)、シャム群の32%(54/171例)であった。ベースラインの診察室収縮期血圧と夜間収縮期血圧は両群で同等。OSA患者の6ヵ月後の診察室収縮期血圧は、シャム群との比較において腎デナベーション群で有意に低下したが(-17.0±22.4 vs. -6.3±26.1 mmHg, P=0.01)、OSAのない患者では有意差はみられず。さらに最大・夜間収縮期血圧および平均ピーク・夜間収縮期血圧も腎デナベーションでシャム群との比較において有意に低下した。

【コメント】
OSA患者に対し腎デナベーションは奏効すると考えられる。 今後、前向きの検討を要する。

23.Dose Timing of an Angiotensin II Receptor Blocker/Calcium Channel Blocker Combination in Hypertensive Patients With Paroxysmal Atrial Fibrillation.
J Clin Hypertens. 2016 Mar 16. in press.
発作性心房細動を合併する高血圧患者へのARB/CCB配合剤投与のタイミング:ACROBAT研究

kkario

Kazuomi Kario/ 苅 尾 七 臣

【概要】
発作性心房細動を合併する高血圧患者において、テルミサルタン/アムロジピン配合錠の朝投与と就寝前投与の降圧効果を、ABPMおよび家庭血圧計で測定した血圧値および血圧変動性によって評価したオープンラベル多施設共同ランダム化比較試験の結果の報告。ABPMで測定した24時間血圧、夜間血圧、起床前血圧、早朝血圧は両群ともにベースラインとの比較において12週時点で有意に低下したが、群間に差はなかった。家庭収縮期血圧の日間変動性(SD)や最大家庭収縮期血圧もベースラインに比較して12週時点で有意に低下したが、群間に差はなかった。NT-proBNP、HsTnT、UACR値は就寝前投与群のみでベースラインと比較して有意に低下した。

【コメント】
発作性心房細動を合併する高血圧患者に対する長時間作用型CCBとARBの合剤では就寝前投与と朝投与では、投与時間に差がなく24時間血圧、早朝家庭血圧、家庭血圧変動性は有意に低下した。心房細動再発リスクの抑制効果については大規模ランダム化比較試験が必要であろう。

22.Long sleep duration: a nonconventional indicator of arterial stiffness in Japanese at high risk of cardiovascular disease: the J-HOP study.
J Am Soc Hypertens. 2016; 10: 429-437
長時間睡眠:心血管疾患ハイリスク群での血管スティッフネスの新たな指標

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Satoshi Niijima/ 新 島 聡

【概要】
加齢や高血圧、短時間睡眠などは血管スティッフネス増加の重要な危険因子であることは良く知られている。また、長時間睡眠も血管スティッフネス増加の危険因子であることが最近明らかにされたが、まだまだ報告は少なく心血管疾患ハイリスク群での報告はない。本研究では、心血管疾患ハイリスク群での睡眠時間と脈波伝播速度・高感度CRPとの関連を調べた。心血管リスクを1つでも有する患者(n=2304、平均年齢64.7歳、男性49.6%)を対象に、睡眠時間の調査と脈波伝播速度・高感度CRPの測定を行った。睡眠時間を3群(<6hr, ≧6 to <8hr, ≧8hr)に分けて解析した結果、睡眠時間は脈波伝播速度の上昇と有意に関連していた (1594 vs 1644 vs 1763 cm/s, p<0.0001)。この関係は年齢・血圧・BMI・HbA1cで補正後も保たれていた。また、高感度CRPの上昇も脈波伝播速度の上昇と有意に関連しており(p<0.05)、睡眠時間が長く高感度CRPが高値である群で脈波伝播速度は最も上昇していた。

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【コメント】
心血管疾患ハイリスク群での睡眠時間と血管スティッフネスの関連を明らかにした初めての報告である。 長時間睡眠で血管スティッフネスが増加するメカニズムは短時間睡眠とは異なる可能性があり、解明のための更なる研究が必要と考える。


21.Morning Home Blood Pressure Is a Strong Predictor of Coronary Artery Disease: The HONEST Study.
J Am Coll Cardiol. 2016 Apr 5;67(13):1519-27.
早朝家庭血圧は冠動脈疾患の強力な予測因子である:HONEST研究

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Kazuomi Kario/ 苅 尾 七 臣

【概要】
冠動脈イベント発生の予測因子として診察室外血圧を検討した試験は少ない。本試験では早朝家庭血圧が冠動脈心疾患(CAD)イベント発生の予測因子であるかを検証した。 HONEST研究のデータを用いて脳卒中あるいはCADと、早朝家庭血圧との関連を調査。治療中の高血圧患者21591例(平均年齢64.9歳、平均追跡期間は2.02年)において脳卒中イベント127件(2.92/1000人年)、CADイベント121件(2.78/1000人年)が発生。脳卒中イベントは早朝家庭収縮期血圧(HSBP)≧145 mmHgの患者のほうが同<125 mmHgよりも有意に多く、診察室収縮期血圧(CSBP)でも同≧150 mmHgの患者のほうが<130 mmHgよりも有意に多かった。早朝HSBP<125 mmHgと比較した≧155 mmHgのハザード比は6.01(95%CI 2.85~12.68)であり、CSBP<130 mmHgと比較した≧160 mmHgの患者のハザード比は5.82 (95% CI: 3.17 ~10.67)であった。早朝HSBPはCSBPと同様に脳卒中イベントを予測することが明らかになった。 早朝HSBP<125 mm Hgに比較して、同≧145 mm Hgの患者ではCADイベント発生率が有意に高く、またCSBP<130 mmHgに比較してCSBP ≧160 mm Hgの患者でも同様に高かった。早朝HSBP≧155 mmHgのハザード比は6.24 (95% CI: 2.82 ~ 13.84)、CSBP ≧160 mm Hgのハザード比は3.51(95% CI: 1.71 ~ 7.20)であった。このようにCSBPは、早朝HSBPとの比較においてCADリスクを過小評価する可能性がある。適合度検定では、早朝HSBPのほうがCSBPよりもCADイベント予測能が高いことが示された。

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【コメント】
血圧と冠動脈疾患との関連は脳卒中に比べて弱いことは広く知られている。今回の研究の新規性は、治療中の高血圧患者において、早朝家庭血圧と冠動脈疾患の関連は、脳卒中との関連に勝るとも劣らないことを初めて示した点にある。また、脳卒中あるいは冠動脈疾患と、早朝家庭血圧との間にJカーブ現象はみられない。早朝家庭血圧を指針にした高血圧治療の重要性を示す研究成績である。


20. 症例報告
A Cushing's syndrome patient's severe insomnia and morning blood pressure surge both improved after her left adrenal tumor resection.
Blood Press Monit. 2016 Jul 25. in press.
副腎腺腫摘出術により睡眠障害と著明なモーニングサージが改善したクッシング症候群の一例

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Yuki Imaizumi/ 今 泉 悠 希

【概要】
クッシング症候群では高血圧や心血管疾患のリスクが高いことが知られている。しかし、その背景の病態は十分に解明されていない。今回我々は、高血圧と睡眠障害を主訴に来院した若年女性において、コルチゾール産生性の左副腎腺腫によるクッシング症候群と診断した。術前は、ABPMにおける24時間血圧レベルは156/91 mmHg、早朝血圧は174/98 mmHgであり、著明なモーニングサージを認めていた(図)。しかし術後は、降圧薬を減量したにも関わらず、24時間血圧レベルは131/84 mmHgへ改善した。中でも早朝血圧は127/93 mmHgへ改善し、モーニングサージは消失した。さらに、ピッツバーグ睡眠質問票で評価した睡眠の質は、術前7点(睡眠障害あり)から術後2点(睡眠障害なし)へ改善した。 本症例では術前術後に睡眠の質の評価とABPMを行い、術後に睡眠の質と著明なモーニングサージがともに改善した。クッシング症候群で心血管リスクが多い背景のひとつに、睡眠障害が著明な早朝高血圧を引き起こし、イベントのトリガーとなっている可能性も示唆された。

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【コメント】
・クッシング症候群における血圧日内変動異常パターンとしては、夜間血圧降下の欠如が報告されているのみです。本報では、クッシング症候群における血圧日内変動異常パターンとして著明なモーニングサージを認めたこと、さらにそれが術後に改善したことを初めて報告しました。
・クッシング症候群では睡眠障害が報告されていますが、本報では術後に睡眠障害が改善したことを初めて報告しました。
・術前術後に睡眠の質と血圧日内変動リズムの評価を行うことで、クッシング症候群における高血圧や心血管疾患発症の病態解明につながると考えられたため、症例報告としてまとめました。

19.Novel Triggered Nocturnal Blood Pressure Monitoring for Sleep Apnea Syndrome: Distribution and Reproducibility of Hypoxia-Triggered Nocturnal Blood Pressure
J. Clin. Hypertens. 2016 Jul 14. in press.
SASの血圧サージを検出する夜間トリガード血圧計の開発 -トリガード血圧指標の再現性と分布-

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Mitsuo Kuwabara/桑 原 光 巨

【概要】
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は、国内罹患者数が数百万人と推定され、また治療抵抗性高血圧となる二次性高血圧の最も多い要因であり、夜間発症の心臓突然死や脳血管疾患の重大な危険因子とされている。OSASは、夜間睡眠中に周期的な低酸素血症を繰り返すが、この低酸素血症発作時に、急峻で甚大な血圧サージ(スリープサージ)を起こす。夜間血圧測定のゴールドスタンダードとされる自由行動下血圧計(ABPM)では、無呼吸の時相に同期して血圧測定ができないため、スリープサージを検出できずリスクを過小評価する可能性がある。我々は最近、無呼吸発作時の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の低下をトリガーにしてスリープサージを検出する夜間低酸素トリガード血圧計を開発した。本研究では、OSASの疑いのある147名に夜間低酸素トリガード血圧計を2晩連続で適応した。夜間低酸素トリガー血圧計は、SpO2がベースライン時から10%低下した時に血圧計測を実施するトリガー計測モードとABPMと同様に一定間隔で血圧計測を実施するインターバル計測モードを搭載した。トリガー計測モードで計測された夜間血圧の中で最も高い値を低酸素ピーク血圧と定義し、インターバル計測モードで計測された血圧平均値(インターバル平均血圧)と血圧レベルおよび再現性を比較検討した。低酸素ピーク血圧はインターバル平均血圧と比較して有意に高値であり、その分布も大きかった(平均値±標準偏差: 148.8±20.5 vs. 123.4±14.2 mmHg)。中にはインターバル平均血圧が120mmHg程度であっても低酸素ピーク血圧は200mmHgまで上昇している症例も観測された。低酸素ピーク血圧とインターバル平均血圧の再現性は同等であった。

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【コメント】
本研究において、世界で初めて睡眠時無呼吸に伴う血圧上昇を反映した血圧指標と従来のABPMによる血圧指標の血圧レベルおよび再現性の比較検証が行われた。睡眠時無呼吸に同期して計測された低酸素ピーク血圧は従来のインターバル平均血圧に比較して有意に高く、従来の計測手法では捉えきれなかったリスクのある血圧情報を捉えることが可能になったと考えている。またその再現性も比較的良好であったことから、臨床応用し得る指標と捉えている。


18.The measurement of orthostatic blood pressure as  a screening tool for masked hypertension with abnormal circadian blood pressure rhythm.
Hypertens Res. 2016 Jun 16. in press.
起立時の血圧測定は、異常な血圧日内変動リズムをもつ仮面高血圧のスクリーニングに役立つ

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Takahiro Komori/ 小 森 孝 洋

【概要】
本稿は健常人で仮面高血圧と起立性高血圧の関連性を論じたTabaraらの論文へのコメントである。仮面高血圧は心血管リスクの高い状態であり、そのスクリーニングが問題となる。Tabaraらは仮面高血圧と起立性高血圧は有意に関連していたことを示した。起立性高血圧患者ではモーニングサージ型の血圧変動パターンをとることが知られている。起立性高血圧の有無を調べることでモーニングサージ型の血圧上昇を来す仮面高血圧を同定することができる。しかしこの方法の問題点としては、血圧測定方法が確立されていないことと、起立性低血圧を来す夜間高血圧型の仮面高血圧を同定できないことが挙げられる。

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【コメント】
起立性血圧変動を示す患者には、仮面高血圧の診断のために24時間血圧測定を行うべきである。


17. Prognostic significance of on-treatment home and clinic blood pressure for predicting cardiovascular events in hypertensive patients in the HONEST study.
J Hypertens. 2016;34:1520-7.
追跡中に測定した家庭血圧と診察室血圧の心血管イベント予測能を高血圧患者において検討する:HONEST研究

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Kazuyuki Shimada/ 島 田 和 幸


 ベースラインと追跡中の早朝家庭収縮期血圧と診察室収縮期血圧の予後予測能を、降圧療法中の高血圧患者において検討した。オルメサルタン治療中の日本人高血圧患者2万人以上を対象としたHONEST研究において、心血管イベント発症を2年間追跡。ベースラインと追跡中に早朝家庭収縮期血圧(MHSBP)と診察室収縮期血圧(CSBP)を測定し、心血管イベント予測能を比較。
 21591例(女性50.6%、平均年齢64.9%、平均追跡期間2.02年、心血管イベント280件)を解析。MHSBPとCSBPの平均値はベースラインで各151.2、153.6 mmHg、追跡中で135.2、135.2 mmHgであった。1 mmHg 上昇に伴うハザード比の上昇は1.011(95% 信頼区間1.004~1.019)であった。
 ベースラインと追跡中のMHSBPとCSBPを同じモデルに入れると、追跡中のMHSBPが予測因子として有意であった。すべての血圧変数に関するconcordance indexは妥当であり、同indexは追跡中の平均SBPのほうがベースラインのSBPよりも高かった。net reclassification improvement解析では追跡中のMHSBPのほうが追跡中のCSBPよりもreclassification abilityが高いことが明らかになった。

結論:日本人高血圧患者を2年間追跡した結果、追跡中のSBP(ベースラインSBPとの比較)、特にMHSBP(CSBPとの比較)の心血管イベント予測能が高いことが明らかになった。

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【コメント】
降圧薬オルメサルタンの市販後臨床調査(フェーズⅣ)の一環であるHonest studyのサブ解析論文です。我が国でも、最近は企業主導の大規模臨床試験が科学的に実施されるようになり、企業の統計部門専門家との共同研究は勉強になります。診察室血圧と家庭血圧を比較して、どちらがイベントに関連するかを数量的に解析するのに、幾つかの方法があることを学びました。



16. Evidence and Perspectives on the 24-hour Management of Hypertension: Hemodynamic Biomarker-Initiated 'Anticipation Medicine' for Zero Cardiovascular Event.
Prog Cardiovasc Dis. 2016 Apr 11. in press.
パーフェクト24時間血圧コントロール:心血管イベントゼロを目指す「予見医療」

kkario

Kazuomi Kario/ 苅 尾 七 臣

【概要】
アジア人は欧米人よりも過度の血圧モーニングサージが多くみられるうえに、高血圧と心血管疾患イベント発症の関連が強いため、早朝・夜間を含めた「パーフェクト24時間血圧コントロール」の達成が極めて重要である。「パーフェクト24時間血圧コントロール」とは24時間血圧レベルのコントロール、夜間血圧低下、血圧変動抑制からなる。達成への第一歩は、家庭血圧、特に早朝血圧を基礎とした血圧管理である。夜間血圧管理のため、我々は夜間家庭血圧計を開発した。血圧変動については先頃我々が提唱した「血圧共振仮説」がある。血圧変動は1心拍ごと、体位、日内、日間、受診間、季節、年ごとにみられるが、これらの変動が一度に「共振」することで、心血管イベントをトリガーするダイナミック血圧サージ が起こりうるというものである。これは全身血行動態アテローム血栓症候群(SHATS)のある患者において特にリスクとなる。最近、1心拍ごとの血圧を測定するウェアラブル・サージ血圧計(WSP)を企業と共同開発した。この機器を、情報通信技術(ICT)を利用した解析システムとともに用いることで血圧管理を点からシームレスへとパラダイムシフトし、さらに個人レベルの予見医療を実現することで、心血管イベントゼロを達成したい。

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【コメント】
1心拍ごとの血圧値を連続で測定する世界初の血圧測定機器(WSP)を用いて血圧変動をとらえ、「パーフェクト24時間血圧コントロール」を達成し、さらに個人レベルの「予見医療」実現によって心血管イベントゼロを目指す。



15. Morning and Evening Home Blood Pressure and Risks of Incident Stroke and Coronary Artery Disease in the Japanese General Practice Population: The Japan Morning Surge-Home Blood Pressure Study.
Hypertension. 2016 May 9. in press.
外来通院患者における家庭血圧での早朝、就寝前血圧と心血管イベントの関連

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Satoshi Hoshide/ 星 出 聡

【概要】
JHOP研究は、2005年から開始された日本全国の実地医科、一般病院、大学病院の先生方(71施設、75名)の協力により、心血管リスクを一つ以上もつ外来通院患者4310名を登録し、ベースライン時において家庭血圧を2週間測定(早朝、就寝前、一機会3回)し、予後追跡を行いました(平均フォローアップ4年)。期間中、脳卒中発症が74イベント、心イベント(PCIを要する狭心症、心筋梗塞発症)が77イベント発生しました。脳卒中イベントに対する、診察室血圧を含んだフラミンガムスコア予測モデルに、早朝血圧レベルを入れることで予測能は統計学的に有意に改善し、就寝前血圧と早朝、就寝前血圧の平均値についてはこれらの傾向は認めませんでした。心イベント発症に関しては、早朝、就寝前血圧レベルのいずれも関連を認めませんでした。

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【コメント】
家庭血圧測定は、日本の高血圧診療において当たり前のように行われています。日本人のリスクが高い集団において、早朝血圧による血圧管理を、古典的な危険因子の管理に加えることで脳卒中発症抑制につながる可能性があることを明確に示すことができた初めての報告です。


14. Effect of Intensive Salt-Restriction Education on Clinic, Home, and Ambulatory Blood Pressure Levels in Treated Hypertensive Patients During a 3-Month Education Period.
J Clin Hypertens. 2016 May;18: 385-92.
高血圧患者における積極的な減塩指導に対する外来血圧、家庭血圧、自由行動下血圧への効果

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Masahiro Nakano/ 中 野 真 宏

【概要】
食塩の過剰摂取により血圧が上昇することはよく知られており、INTERSALT 試験をはじめとした多くの介入試験で減塩による降圧効果が証明されている。本研究では、治療中の高血圧患者を対象に、通常の外来診療に加えて、栄養士による積極的な減塩指導を行うことにより、降圧効果が得られるかどうかについて検討した。この研究のデザインは前向き無作為非盲検化試験とし、栄養指導群(3か月間に5回の指導)とコントロール群(管理栄養士による栄養指導なし)の2群に分けて効果を比較した。
外来通院中の本態性高血圧患者において、管理栄養士による積極的な減塩指導によって、推定食塩摂取量は有意に減少し(6.8 ± 2.9g/24h vs. 8.6 ± 3.4 g/24h、P<0.01)、家庭血圧は低下傾向(P=0.051)、自由行動下血圧の各指標は有意に低下した(P<0.01)。12週間という比較的短期間であっても減塩の効果が確実に現れており、減塩の栄養指導を積極的に行うことは、降圧治療中の高血圧患者において更なる血圧降下作用をもたらす。

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【コメント】
これまでに、高血圧患者に対する減塩の降圧効果を検討した研究は数多く存在するが、管理栄養士による減塩効果を外来、家庭、自由行動下血圧を用いて評価した研究は調べた限り皆無と思われる。高血圧治療ガイドライン2014においても、減塩が降圧治療の基本であると述べられているが、減塩の栄養指導については言及されていない。
本研究では、医師が外来で減塩の指導を行うのとは対照的に、管理栄養士が専門職を生かし、塩分嗜好調査票などを用いて患者の嗜好を分析した上で減塩指導を行ったことで、患者の好みと実際の食塩摂取量に応じた個別の減塩指導が可能となり、患者の食塩摂取に対する行動変容がもたらされ、減塩に繋がったことが考えられた。


13. 症例報告
Electron Microscopy of Contact Between a Monocyte and a Multinucleated Giant Cell in Cardiac Sarcoidosis.
Can J Cardiol. 2016 Feb 23. in press.
心サルコイドーシスにおける非乾酪性類上皮肉芽腫の電顕所見

yimaizumi

Yuki Imaizumi/ 今 泉 悠 希

【概要】
心臓サルコイドーシスの病態や肉芽腫の形成過程には不明な点が多い。今回我々は、心臓サルコイドーシスの症例における心筋生検において、光顕と電顕の両方で肉芽腫を同定した。症例は78歳の男性、完全房室ブロックと左心不全で入院となり、両側肺門部リンパ節腫脹と心エコー上心室中隔の菲薄化より心臓サルコイドーシスを疑い、右室心内膜下心筋生検を施行した。光顕にて6個中2個に多核巨細胞を伴う非乾酪性類上皮肉芽腫を認め(画像A)、電顕でも典型的な類上皮肉芽腫の形成を認めた(画像B)。さらに肉芽腫辺縁の単球(画像B矢印)が巨細胞(☆)とGap junctionを介して接触していた(画像Cの赤枠、画像D矢印)。今まで、In vitroでは単球が巨細胞へ融合する所見の報告があるが、in vivoで肉芽腫や巨細胞の形成過程をとらえた報告はない。心臓サルコイドーシスの病態解明に向けて、この単球と巨細胞間の細胞間コミュニケーションが免疫的な機序によるものか細胞融合によるものかを明らかにすることが必要と考えられた。

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【コメント】
本症例は心臓サルコイドーシスの心筋電顕所見で肉芽腫および巨細胞の形成過程をとらえた世界で初めての報告である。いまだ不明な点が多い、難病 心臓サルコイドーシスの病態解明に寄与する一所見であると考えられ報告した。





12. 症例報告
Life- and limb-saving endovascular therapy in a patient with acute abdominal aortic occlusion.
Cardiovasc Interv Ther. 2016 Apr 18. in press.
腹部大動脈の急性動脈閉塞症に対して血管内治療を行い、救肢救命し得た1症例

storiumi

Shinichi Toriumi/ 鳥 海 進 一

【概要】
今回我々は、腎動脈分岐下腹部大動脈から両側総腸骨動脈にかけての急性血栓性動脈閉塞症例に対し、血管内治療を行い救肢救命し得たので報告する。患者は79歳、男性。日常生活活動は自立しており、症状はなかったが、突然両下肢の重症虚血症状が出現し当院へ救急搬送された。胸腹骨盤部造影CT検査で、胸部大動脈瘤の壁在血栓遊離が原因と考えられる腎動脈分岐下腹部大動脈から両側総腸骨動脈にかけての急性動脈閉塞症と診断された。Fogartyによる外科的血栓除去術が検討されたが、あいにく当院心臓血管外科も周辺の医療機関も対応中であったため、救肢救命のための緊急的措置として血管内治療を試みる方針となった。幸い、治療は成功し、外科的治療を追加することなく良好な経過を示し、後日リハビリ施設へ軽快転院した。

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【コメント】
腹部大動脈を含む急性の血栓性動脈閉塞症例に対して、血管内治療のみで救肢救命したとする世界で初めての報告である。 重篤な急性の血栓性動脈閉塞症例に対する血管内治療は、確立された治療法ではないため、確かに挑戦的である。しかし、今回のような“外科医が今すぐには対応できないが、現行の手術が終わり次第、対応可能となり得る”というような状況においては、外科の追加治療を見据え、緊急措置的な治療法として、血管内治療が一つの選択肢になり得るかもしれない。

11. Riser Pattern: Another Determinant of Heart Failure With Preserved Ejection Fraction.
J Clin Hypertens. 2016 Apr 3. in press.
Riser型血圧変動:収縮能の保たれた心不全(HFpEF)の一つの規定因子

tkomori

Takahiro Komori/ 小 森 孝 洋

【概要】
夜間血圧の上昇するRiser型血圧変動は心血管予後不良と関連しているが収縮能の保たれた心不全(HFpEF)における意義は明らかでない。本研究ではHFpEFにおける24時間血圧の意義について検討した。508名の心不全患者(232名のHFpEF, 276名のHFrEF)に対し24時間血圧測定を行ったところ、HFpEFの28.9%、HFrEFの19.9%がRiser型血圧変動を示していた。HFpEFに関連する因子を多変量解析で検討すると、Riser型血圧変動は有意な関連因子であった(オッズ比1.73、P=0.041)。Riser型血圧変動はHFpEFと有意に関連していると考えられた。

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【コメント】
HFpEFに夜間の血圧上昇が強く関連していた。HFpEFはHFrEF同様予後不良の疾患である。夜間の血圧上昇が認められる場合、HFpEFへの進展を注意すべきである。


10. Development of a Triggered Nocturnal Blood Pressure Monitoring which Detects Nighttime Blood Pressure Surges in Sleep Apnea Syndrome.
Curr Hypertens Rev. 2016; 12 : 27-31
SASの血圧サージを検出する夜間トリガード血圧計の開発

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Mitsuo Kuwabara/桑 原 光 巨

【概要】
閉塞性睡眠時無呼吸は、無呼吸発作時に急峻で甚大な血圧上昇(スリープサージ)を引き起こし心血管系に深刻な圧負荷をもたらす。この圧負荷が脳卒中をはじめとする心血管疾患進行の有力な候補機序とされており、心血管系リスクの層別化には、このスリープサージの検出が有用であると考えられる。我々は最近、無呼吸発作時の経皮的動脈血酸素飽和度の低下をトリガーにしてスリープサージを検出する夜間低酸素トリガード血圧計を開発し、臨床応用に向けた取り組みを開始した。これまでに、入院時のSASを対象とした検査において、同程度の無呼吸・低呼吸指数であっても、本血圧計を用いて検出したスリープサージには、著明な個人差があることを見出している。また、このスリープサージは、経鼻的持続気道陽圧療法 (CPAP)で抑制されること、さらに、CPAPのコンプライアンスが不良な夜間高血圧患者11名のOSASに対するαβ遮断薬とカルシウム拮抗薬との効果の比較試験では、就寝前の両薬剤投与により、夜間血圧平均値のみならず無呼吸に伴うスリープサージが有意に低下することが確認できている。夜間低酸素トリガー血圧計を用いることで、これまで観測し得なかったリスクのある血圧変動の実態を検出でき、SASにおける高血圧管理に貢献する有力なツールとなることが期待される。

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【コメント】
夜間血圧の計測は、従来、一定時間間隔で血圧計測を行う自由行動下血圧計測(ABPM)がゴールドスタンダードであった。しかし、無呼吸の時相に同期して血圧計測ができずスリープサージを検出できない課題があった。我々が開発した夜間低酸素トリガー血圧計によって、これまで捉えることのできなかったリスクのある血圧上昇が初めて検出することができるようになった。今後は、本血圧計を実臨床に応用すべく、スリープサージと臓器障害および予後との関連エビデンスの集積を行い、同機の価値の実証を進めていきたい。


09. Differing Effects of Aliskiren/Amlodipine Combination and High-Dose Amlodipine Monotherapy on Ambulatory Blood Pressure and Target Organ Protection.
J Clin Hypertens. 2016; 18: 70-8.
アリスキレン/アムロジピン併用療法と高用量アムロジピン単独療法の24時間血圧と臓器保護に対する効果の違い

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Hiroyuki Mizuno/水 野 裕 之

【概要】
直接的レニン阻害薬アリスキレンは降圧効果と臓器保護効果を有するが、アリスキレン/アムロジピン併用(ALI/AML)療法と高用量アムロジピン単独(h-dAML)療法の24時間血圧における降圧効果と臓器保護効果を比較した研究は過去にない。我々は前向き、ランダム化、オープンラベル、2群間比較試験を施行した。AML 5mgで外来血圧140/90 mmHg以上の105例(平均年齢77才)を無作為にALI 150-300 mg/AML 5 mg併用群(n=53)と高用量AML 10 mg単独群(n=52)に分け16週間治療した。ベースラインの外来血圧、24時間血圧、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)、脈波伝播速度(baPWV)は両群間で差がなかった。外来収縮期血圧、24時間収縮期血圧、昼間の収縮期血圧、夜間収縮期血圧における降圧度、およびbaPWV改善効果は両群間で差がなかった。h-dAMLはALI/AMLと比較して有意にUACRを増加させた(P=0.02)。h-dAMLはALI/AMLよりも有意に早朝収縮期血圧を低下させ(P=0.002)、ALI/AMLはh-dAMLよりも有意にモーニングサージを上昇させた(P=0.001)。

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【コメント】
アリスキレンは過去の研究で降圧効果や臓器保護効果を示したにもかかわらず、従来療法にアリスキレンを追加する治療はプラセボと比較して心血管イベントを抑制できなかった。ALI/AML併用療法が早朝血圧とモーニングサージを抑制できなかったことが本研究の新規的発見であり、これがアリスキレンが心血管イベントを抑制できなかった原因である可能性がある。


08. 症例報告
Recurrence of stroke caused by nocturnal hypoxia-induced blood pressure surge in a young adult male with severe obstructive sleep apnea syndrome.

J Am Soc Hypertens. 2016; 10 :201-4
夜間低酸素が夜間血圧サージをきたし30代で三度の脳卒中を睡眠中に発症した重症閉塞型睡眠時無呼吸の1例

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Tetsuro Yoshida/吉 田 哲 郎

【概要】
症例は37歳男性。10代の頃から高血圧を指摘されていたが特に降圧療法は受けていなかった。32歳時にラクナ梗塞を発症し、降圧療法を開始されている。その後35歳時に左被殻出血を発症している。いずれも睡眠中の発症であった。かかりつけの他院脳神経外科より血圧コントロール不良(SBP 160-200mmHg前後)とのことで当科紹介受診となった。内分泌学性・腎血管性高血圧のスクリーングを施行したが、有意な所見は認められなかった。降圧剤の調整をし、数か月後には診察室血圧は132/82mmHgまで低下した。以前より日中の眠気が強く、いびきもあるとのことで終夜パルスオキシメータにてスクリーングしたところ、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われたため、終夜睡眠ポリグラフを施行した。AHIは75.5と最重症のSASであり(閉塞型)、minimum SpO2は53%まで低下していた。またトリガー血圧計(SPREAD Registry)を用いた夜間血圧の評価では、無呼吸発生時の血圧サージは最大でSBP 200mmHg前後まで上昇しており、測定した異なる3日間とも同様の夜間血圧サージを認めていた。CPAPの適応があるため導入を試みたが、忍容性なく継続困難であった。最終診察日は特に自覚症状なく診察室血圧値も問題なかったが、その3日後就寝中に突如頭痛を発症し救急搬送され精査の結果、左被殻出血を発症したことが診断された。

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【コメント】
重症SASによる夜間血圧サージが若年にも関わらず複数回の脳卒中を発症したトリガーになったと考えられた。夜間高血圧、特に重症無呼吸症候群に伴う夜間血圧サージは強力な脳血管イベントのリスクとなる可能性がある。しかし同程度の無呼吸による低酸素状態となっても血圧サージをきたさない症例も経験し、この差が何に起因するのかの検討がリスクの層別化には必要である。またこのような著明な夜間血圧サージをきたす症例に対してどのようなストラテジーで介入していくか今後検討したい。

07. Evaluation of day-by-day variability of home blood pressure using a home blood pressure telemonitoring system.
Blood Press Monit. 2016; 21: 184-8.
遠隔モニタリングシステム搭載型血圧計と従来型血圧計における家庭血圧日間変動性の検討

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Toshiki Kaihara/貝 原 俊 樹

【概要】
家庭血圧の日間変動が心血管系予後を予測することが示されているが,本研究では,家庭血圧の日間変動が遠隔モニタリングシステム搭載型血圧計(HEM-7251G)と従来型血圧計(HEM-7080IC)で異なるかどうかを検討した。対象は57名の高血圧あるいは高血圧が疑われる患者で,平均年齢は64歳であった。患者を遠隔群と対照群に分け,両群ともまず観察期として従来型血圧計で2週間血圧を測定し,その後遠隔群のみで血圧計をHEM-7251Gに変更して,両群ともさらに2週間血圧を測定した。家庭収縮期血圧の変動性指標としてSD(standard deviation),CV(coefficient of variation),RMSSD(root mean sum square differences),ARV(average real variability)を使用した。その結果,両群間でこれらの指標に有意差は見られなかった。しかし対照群の早朝収縮期血圧で見ると後半2週間のSD,RMSSD,ARVが前半2週間と比較して有意に大きくなった(それぞれp<0.01,p<0.001,p<0.001)。それに対して遠隔群では有意な変化が見られなかった(それぞれp=0.162,p=0.185,p=0.092)。家庭血圧遠隔モニタリングシステムが患者の血圧に対する認識を高めることが報告されているが,本研究では同システムが家庭血圧日間変動性の増大を抑制する可能性が示唆された。より長期に観察した場合,同システムには家庭血圧日間変動性を改善させる効果があるかもしれない。
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【コメント】
遠隔モニタリングシステム搭載型血圧計を使用した遠隔群と従来型血圧計を使用した対照群とで家庭血圧日間変動性に有意差は出なかったが,対照群の早朝収縮期血圧で見ると後半2週間の日間変動性が前半2週間と比較して有意に大きかった。遠隔群では有意差が見られなかった。


06. Riser Blood Pressure Pattern Is Associated With Mild Cognitive Impairment in Heart Failure Patients.
Am J Hypertens. 2016; 29: 194-201.
Riser型の血圧変動パターンは心不全患者の軽度認知機能低下と関連している

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Takahiro Komori/ 小 森 孝 洋

【概要】
Riser型の血圧変動は夜間血圧が上昇する異常な血圧変動パターンで脳卒中のリスクとなる。心不全患者におけるRiser型の血圧変動の意義や、Riser型血圧変動と認知機能低下との関係も明らかでない。本研究では心不全患者において軽度の認知機能低下とRiser型血圧変動の関連を検討した。対象は444名の当院へ入院歴のある心不全患者である。入院中にABPMとMMSEによる認知機能検査を行った。MMSEスコアはRiser群 23、Non-dipper群25、Dipper群26でありRiser群で有意に低下していた。多変量解析ではRiser型血圧変動は軽度の認知機能低下と有意に関連していた(オッズ比2.38、95%信頼区間 1.29-4.42, P<0.01)。心不全の血圧変動異常は脳の障害の指標として臨床的に重要であると考えられた。

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【コメント】
心不全の血圧変動異常は認知機能低下と関連している。心不全患者において、脳の障害のひとつである認知機能低下の発症には、血圧変動異常が関係していると考えられる。


05. Hypertension: Benefits of strict blood-pressure lowering in hypertension.
Nat Rev Cardiol. 2016; 13: 125-6.
厳格降圧のベネフィット

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Kazuomi Kario/ 苅 尾 七 臣

【概要】
613,000例あまりの高血圧患者をメタ解析したEttehadらの研究において、降圧療法は収縮期血圧<130 mmHgの患者を含む全患者において心血管イベントならびに死亡を減少させ、さらにベースライン時の合併症の有無は同結果に影響を及ぼさないことが明らかになった。特にリスク低下がみられたのは、脳卒中と心不全で、心不全には利尿薬が、脳卒中にはカルシウム拮抗薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬がより特異的に抑制した。この結果と、2015年に発表されたSPRINT試験、さらに高血圧患者21,000例あまりを2年間前向きに追跡した我々のHONEST研究で得られた結果を併せて考慮すると、白衣高血圧を除外した収縮期血圧<125 mmHg(診察室血圧<130 mmHg相当)を達成することがリスク抑制には重要であろう。すなわち、家庭血圧や24時間血圧測定値に基づいた個別降圧療法を、患者一人ひとりを注意深く観察しつつ実践することが望ましいと考えられる。

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【コメント】
より良い血圧管理を行うには、厳格な診察室血圧管理のみならず、白衣効果、血圧変動性、夜間血圧を考慮した個別血圧管理が重要である。現在の降圧目標値である140/90 mmHgを、130/85 mmHgにし、低血圧や腎不全などの有害事象を注意深くモニターし、一人ひとりに合わせた個別の「パーフェクト24時間降圧治療」を行うことで、より良い心血管リスク管理につながるであろう。

04.Why the radial augmentation index is low in patients with diabetes: The J-HOP study.
Atherosclerosis. 2016; 246: 338-343
なぜ糖尿病患者における脈波増幅指数(augmentation index:AI)は低いのか? J-HOP研究より

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Kazuo Eguchi/江 口 和 男

【概要】
橈骨動脈のaugmentation index (rAI)は大動脈の反射波の指標であるが、糖尿病患者ではAIが増加しているという報告とむしろ低下しているという報告がある。本研究では、自治医科大学が行ったJ-HOP研究のサブ解析を行い、糖尿病患者では、非糖尿病患者よりもrAIが低いことを示した。対象は、少なくとも1つの心血管リスクを有する1787名の患者である。患者の平均年齢は66歳であった。rAIは、糖尿病の方が非糖尿病患者より低かった(83.3±14.1 vs. 87.3±15.7%, p<0.001)が, 上腕血圧の脈圧 (62±14 vs. 59±14mmHg, p<0.001)や中心血圧の脈圧(51±15 vs. 49±15mmHg, p=0.019) は糖尿病のほうが高かった。rAIの関連因子としては、糖尿病群ではeGFR (β=0.17, p<0.001) で、非糖尿病群ではHOMA-IR (β?=??0.15, p<0.001) であった。糖尿病患者における低いrAIは中心脈圧が大きい、すなわち、大動脈近位部の大動脈硬化によるインピーダンスミスマッチにより、末梢における反射部位における反射係数が低下するためと思われた。特に腎機能が低下するに従って中心脈圧の増加がaugmentation pressure (AP)の増加を上回ることがその機序に関与していると思われた。

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【コメント】
糖尿病と非糖尿病における血行動態の比較。糖尿病ではrAIが低いのに対し、中心脈圧は有意に高い。


03. 症例報告
Cardiac sarcoidosis, the complete atrioventricular block of which was completely recovered by intravenous steroid pulse therapy

Jccase 2016; 13: 21-24.
完全房室ブロックに対してステロイドパルス療法が著効した心サルコイドーシスの一例

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Hiroaki Watanabe/渡 邉 裕 昭

【概要】
完全房室ブロックを伴う心サルコイドーシスの53歳女性に、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1g/日×3日間)を施行したところ、パルス療法開始後2日目の夕方よりI°房室ブロックに改善し、以後PSL内服により正常洞調律に復した。現在もPSL内服下に正常洞調律を維持され、ペースメーカー植え込みを回避できている。

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【コメント】
一般的な心サルコイドーシスの治療はPSL内服であるが、より抗炎症作用の強いステロイドパルス療法を行うことで速やかに刺激伝導系の機能を回復させた可能性がある。本症例のように比較的心機能が保たれており、完全房室ブロック発症からステロイド治療までの期間が短いと、より有効なのかもしれない。



02. 症例報告
A Case of Useful Short-Spaced Bipolar Pacing of a Left Ventricular Lead to Avoid Phrenic Nerve Stimulation.

Int Heart J 2016; 57: 118-120.
心室再同期療法の左室リードの狭い極間刺激で横隔神経刺激を避けえた1例

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Tomoyuki Kabutoya/甲 谷 友 幸

【概要】
心室再同期療法(CRT)の植え込み時の合併症として横隔神経刺激がある。長い極間よりは狭い極間で刺激するほうが横隔神経刺激の閾値が高いといわれている。本症例では1本しか冠静脈を選ぶことができない症例で、そこへ左室リードを入れると通常の極間では横隔神経刺激が起こったが、狭い極間では横隔神経刺激を避けることができた。

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【コメント】
横隔神経刺激閾値が狭い極間で高いことは知られているが、臨床の症例で有効であった症例報告はなかった。CRTのトラブルシューティングは技術、道具の両面から可能であり、狭い極間の左室ペーシングは横隔神経刺激を避けるために良いオプションであると考えられる。


01. 症例報告
Case of Adult-Onset Acute Rheumatic Fever With Long-Lasting Atrioventricular Block Requiring Permanent Pacemaker Implantation.

Int Heart J 2015; 56: 664-667.
持続性完全房室ブロックを合併し永久ペースメーカー植込術を要した成人発症リウマチ熱の一例

Yusuke Oba/大 場 祐 輔

【概要】

20160216yo
【コメント】