形成外科学部門

トレチノインによるしみの治療の原理

表皮の細胞は表皮の一番深い層(基底層といいます)で生まれてから、徐々に表面に押し上げられてきて、やがて角質となり、最後は垢となって皮膚からはがれていきます。この表皮の細胞の一生のサイクルを皮膚のターンオーバーと呼び、約4週間かかることが知られています。

大多数のしみは、表皮の一番深い層(基底層)周辺にメラニン色素が沈着しています。この層にはメラノサイトと呼ばれるメラニンを作る細胞があります。通常市販されている美白剤(医薬部外品)は、メラノサイトがメラニン色素を新しく作る量を減らすような働きをする有効成分が微量含まれてはいますが、非常にその作用が弱いうえに、現在沈着しているメラニン色素を外に出してしまうような作用は全くないため、すでに存在しているしみは良くなりません。

トレチノインは、表皮の深い層にあるメラニン色素を外に出してしまう働きを持っています。トレチノインは表皮の細胞を活発に増殖させるために、表皮の細胞はどんどん押し上げられていき、そのときにメラニン色素を一緒に持って上がっていき、2~4週間でメラニン色素を外に出してしまいます。これがトレチノインの特長です。本治療では、この期間ずっと、強い漂白剤であるヒドロキノン(ハイドロキノン)を作用させて、メラノサイトに新しいメラニンを作らせなくしておきます。そうすると結果的に、表皮はメラニン色素の少ない、きれいな新しい皮膚に置き換えられることになります。

強い薬を使う治療ですので、漂白治療中は必ず医師の指示通りの日程で診察を受けて下さい。治療の進行状況、肌の状態に応じて、診察の都度、薬が変更、追加されたり、指導法が変更されたりしていきます。定期的に指導を受けないと予期せぬ炎症後色素沈着を呼ぶこともあります。

 

本治療に使われる主な薬剤

1.   トレチノイン水性ゲル(トレチノインゲル)(黄色いゲル)

これは黄色の水性ゲルですが、蒸留水が98%を占め、よく肌にのび、吸収が早い基剤になっています。強さの異なるいくつかの濃度のものがあります。非常に強力な作用がありますから、医師の指導のもとにお使いいただかなければなりません。この薬は、しみを古い表皮の細胞とともに、垢として押し出してくれます。そして新しい表皮を作り上げます。
     
    副作用:使用すると反応性の皮膚炎が起こります。赤くなったり、ぽろぽろと角質が取れてきます。このような反応はアレルギー反応(すなわち、薬かぶれ)として起こっているわけではありません。適度な範囲であれば全く心配ありません。薬が効いていることのひとつの目安です。
とくに反応が強いときは、担当医にご相談ください。
     
2.   ヒドロキノン(ハイドロキノン)乳酸軟膏(半透明色の軟膏)

ヒドロキノンはメラニン合成酵素であるチロジナーゼの阻害剤であり、さらにメラニン色素を作るメラノサイトに対して細胞毒性があります。すなわち、しみの原因であるメラニン色素を作らせなくする漂白剤です。乳酸は角質を剥がす作用のあるAHA(フルーツ酸)の一つです。ですから、この軟膏は強力な美白剤となります。市販の美白製品では、アルブチン、コウジ酸、プラセンタエキスなどを配合した化粧品や医薬部外品が多数ありますが、成分の作用がヒドロキノンに比べて非常に弱い(100分の1程度)ため、市販されている濃度では実際の効果は期待できません。
     
    副作用:特にレチノイン酸治療のように角質を取る治療をしているときには、ヒドロキノンはしみるためヒリヒリしたり、皮膚が少し赤くなったりすることがあります。刺激が特に強い場合は、このヒドロキノンを中止するのではなく、トレチノインの方を一時お休みしましょう。
     
   

この他に、しみの種類やお肌の状態により、内服薬、保水剤、オイル、日焼け止めクリームなどが必要になります。担当医の指示に従ってください。

顔のしみの分類

顔にあるしみは、ときによって3種類ぐらいのものが混ざっていることがあります。医師の診断によってこれから治療を行なうしみが、どの分類に属するのかをはっきりさせた上で治療をはじめましょう。

以下は、顔のしみの代表的なものです。

ほくろ 0.5mm〜3mmくらいの大きさが多い黒いものです。
色素性母斑 生まれつき存在する黒色のあざ。
肝斑 ほほ骨の上や、額やエラの上に、左右対称に広がる、ぺったりとした薄茶色のしみ。ホルモンの影響による。
そばかす 両頬や鼻の上に茶色の小さい斑点がたくさん散在するもの。
扁平母斑 生まれつき、もしくは思春期に発生する。
薄い茶色からかなり濃いものまであり、黒い毛を伴うものもある。
日光性色素斑
(老人性色素斑)
30歳代以降、加齢にしたがって出現してくる。比較的濃い茶色を呈し、輪郭ははっきりしている平たいしみ。最も良く見られるしみです。
老人性ゆうぜい 加齢に伴い現れるいぼ。茶色からこげ茶色をしており、盛り上がっている。脂漏性角化症とも言う。
炎症性色素沈着 キズ、やけどなどの炎症の後にできる色素沈着。

後天性真皮メラノサイトーシス
(遅発性太田母斑)

両頬にでる斑点状の黒茶色や灰色のシミ。目の下や額に出ることもある。真皮にも色素がある。

 

トレチノイン軟膏が有効なしみと、あまり有効でないしみ

比較的短期間によく取れるもの 日光性色素斑、炎症後色素沈着、そばかすなど
治療にやや時間がかかる
(2クールを要するもの)
肝斑
再発傾向のあるもの 扁平母斑、そばかす
本治療後にレーザーを行うもの 遅発性太田母斑、太田母斑
取れないもの 黒いほくろ、色素性母斑
まずレーザーなどのほかの治療法を
行う必要があるもの
老人性ゆうぜい

 

治療期間は

通常のしみは約2ヶ月です。
肝斑や扁平母斑の場合は治療期間がこれよりも長くなります。/p>

 

治療経過は

治療は、前半の漂白していく治療期間(2-6週間)と後半の炎症を冷ましていく期間(2-6週間)に分かれます。使用開始後、治療部位の皮膚が赤くなり、垢のように皮膚がぽろぽろむけてきます。その後、徐々に赤みが増してきますが、しみは薄くなってきます。始めの1-2週間は一番つらい時期ですが、その後お肌が薬に慣れてきて赤みやしみる感じもなくなっていきます。漂白治療中は、必ず最低2週間に1度は担当医の診察を受けてください。(重要)薬は診察の都度、変更されていきます。皮膚が乾燥しすぎる場合は保水剤やオイルなどを医師の指示に従い使用してください。しみの治療期間の目安は8-12週間です。改善した後はメインテナンス用ケアを行いますが、必要に応じて2回目の治療を、1ないし2ヶ月の間をおいて行うことができます。

治療をはじめる前に必ずお読みください


基本的なプロトコール

顔のしみ治療の基本となるプロトコールです。まずは以下の方法で治療を開始しましょう。

 

  1. まず、石鹸で洗顔します。良く泡立ててごしごしこすらないようにしましょう。
  2. 化粧水 刺激の少ないもの。適度な保水成分を含むもの。
  3. ビタミンCローション 高濃度のもの。広く使用します。
  4. トレチノインゲル(黄色いゲル)を、しみの部分からはみ出さないようにベビー綿棒で薄く丁寧に塗り、乾かします(1-2分)。
     ・はじめは1日2回(朝、晩)ご使用ください。(担当医の指示に従ってください)
     ・赤みが強くなってきたら夜のみ1回お使いください。
     ・境界がはっきりしているときは、なるべくしみのふちから出ないようにしてください。
     ・反応、刺激が強すぎる時はトレチノインのみをお休みして、担当医に相談しましょう。
  5. ヒロドキノン(ハイドロキノン)軟膏(半透明色の軟膏)を塗ります。
    これは指で、広くはみ出して(例えば顔全体に)塗ってください。
    ヒドロキノンは必ず朝、夜2回使いましょう。
  6. 朝は、日焼け止めクリームもしくはUVカット入りの化粧下地クリームを塗ります。強くこすらずに、上に重ねて置く感じで塗ってください。余分な分はティッシュペーパーなどで静かにふき取りましょう。
  7. お化粧をする場合は、クリームやパウダー(UVカット入り)のファンデーションを使います。コンシーラーやパーフェクトカバーなどのカバー用ファンデーションを使うこともできます。夜の場合は、オイルでカバーすると皮膚のツッパリ感や乾燥を防ぐことができます。

    以上の塗り方は、治療開始時の塗り方です。治療が進むにつれ、薬の内容、塗り方等が多少変わってきます。担当医の指示に従ってください。

 

アドバイス
数種類のしみが顔にある場合、いつくかの順番をつけて治療を進めることがあります。通常は濃いしみを優先して治療を進めていきます。角質が肥厚していて薬の浸透が悪いと思われる場合などはレーザーを優先することもあります。担当医の指示に従ってください。

 



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