救命救急センター 間藤 卓 教授コラム

自治医科大学救命救急センターで、
日々、物事の狭間を覗き込み、あわよくば医療の谷間に灯火を灯す…

救命救急センター 間藤 卓 教授コラム

日々の狭間、
医療の谷間

自治医科大学救命救急センターで、
日々、物事の狭間を覗き込み、
あわよくば医療の谷間に灯火を灯す…

ひだる神とラムネのお菓子01

 
2020.04.03 
救命救急センター長 間藤 卓(Takashi Mato)
 
 

幸いというか意外というか、ひょんなことから始まった「ラムネのお菓子」の再発見であるが、その後も売り上げは好評らしく、今や新たなお菓子売り場の一角にジャンルを築きつつある…というのはさすがに言い過ぎかもしれないが、ラムネのお菓子≒『ブドウ糖高含有食品』は正直興味深く、血糖として普段から人体で使われているにもかかわらず、もしかしたら何らかの機能性がありそうな気もするし、少なくとも特定の状況に於いては需要や機能があるように思える。

機能性については安易な発言は控えたいが、とりあえずどんな需要があるのか?についてちょっと考えてみた。

ようするに「ラムネのお菓子が役立つときは?」だ。
 

森永製菓ラムネ各種

 
まず、ここでは科学的な検証というよりは、日本で唯一の「ラムネのお菓子専門家」(笑)として、これまで見聞きしてきた話について私なりに解釈を加えてみたい。

あくまで民話的考察なのでその点はくれぐれも誤解しないでいただきたい。
まず思いつくのは神様の話である。神様と言っても、「ラムネの神さま」を祭り上げようという話しではない。(僕もラムネで儲かっていたら小さいラムネ神社くらいは建てても良かったのだが・・・)
 
ここで取り上げたいのは、ひだる神という神様である。

ひだる神イメージ
ゲゲゲの鬼太郎や柳田國男に興味ある人なら、すぐに「ああなるほど」と思ってくれるだろうが、一応説明させいていただく。


昔、山越えなどで、険しい山道を歩いていると、なぜか途中で急に力が抜けたようになって身動きが取れなくなってしまう状態がある。これを昔の人は、ひだる神に取り憑かれたせいだと考えた。イメージとしては、山道を歩いていると急に背中にオンブオバケみたいなのにしがみつかれて、くたくたと膝が折れてしまう・・・そんなイメージのようである。

このひだる神を世に出したのが、かの有名な柳田國男氏であり、興味のある方は『ひだる神のこと』(「民族」第一巻第1号・大正14年)に詳しいのでぜひ原文を読んでいただきたい。
 
柳田國男の著書の常として文章そのものが趣深いのは勿論だが、内容も負けず劣らず興味深い。で、少しく引用させていただくと


『大和十津川の山村などでは、このことをダルがつくというそうである。山路をあるいている者が、突然と烈しい疲労を感じて、一足も進めなくなってしまう。誰かが来合せて救助せぬと、そのまま倒れて死んでしまう者さえある。何かわずかな食物を口に人れると、初めて人心地がついて次第に元に復する。普通はその原因をダルという目に見えぬ悪い霊の所為と解らしい。どうしてこういう生理的の現象が、ある山路に限って起こるのかという問えてみるために、まずなるべく広く各地の実例を集めてみたいと思う。一旦印刷せられ出ている記事も、参考のため簡単に列記して、我々の共同の財産にしておこうと思う。』


とある。お分かりいただけただろうか?

ダルといってもダルビッシュではない。現在の“怠い”のダルのようである。
勘の良い方ならすでにお分かりいただけたと思うが、「わずかな食物を口に入れると、初めて人心地が付いて次第に元に復する」などの記載を読めば、「あっ、これは今の時代で言う“ハンガーノック”みたいな、エネルギーが枯渇したような状況だな」と思われるだろう。医療関係者や経験者なら、「低血糖の症状にも似ているな」と思われるだろう。事実、ひだる神の症状?と低血糖症状の類似は、多くの方がすでに指摘している…。
 

次回の『ひだる神とラムネのお菓子02』をお楽しみに。
 
 

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