2017年4月から2018年3月まで英国リーズ大学のLeeds Institute of Rheumatic and Musculoskeletal Medicine (LIRMM)へ留学しましたのでご報告します。
医工連携研究などが盛んな都市で有意義な時間を過ごせました。
リーズはイングランド北部West Yorkshire州に所属する都市です。周辺人口は75万7700人、中心部人口47万4632人でロンドンから鉄道で2時間15分の距離です。 ロンドンを想像して入国するとあまりにのどかでびっくりするかもしれません。羊毛工業が盛んで産業革命時の中心地であり、地域の科学教育(特に医学と織物業)の要請に基づき設立されたLeeds School of Medicine(1831年創立)とYorkshire College of Science(1874年創立)が前身となります。そもそも医学部が前身のため医工連携研究などが盛んであり、LIRMMはEURARの中心施設としてヨーロッパのリウマチ医療をリードしています。
もともとオックスフォード大学のリウマチ研究所に履歴書を送り、受理されました。しかし受け入れ先の教授がリーズ大学に異動するということから急遽リーズに行くという経緯でしたが、結果的に新しいチームの立ち上げ時期に合流できたことで最大限有意義な時間を過ごせました。
留学中の業務
人工膝関節全置換術のアライメントに関する臨床研究や創外固定を用いたknee joint distractionに対する過去のランダム化比較試験からメタアナリシスを行いました(Takahashi T, Ansari J, Pandit HG. J Knee Surg 2018, Takahashi T, Baboolal TG, Lamb J et al. J Knee Surg 2019)。この統計学的解析は帰国後も非常に役立っております。
人工関節に対するアーチファクト低減MRI法のデータを解析し、臨床研究を放射線科との共同研究として投稿しました。また、それをもとに国内応用するex vivo実験も自治医大で開始できています。(写真1)
リーズ大学の工学部にある人工膝関節全置換術摩耗試験用のKnee simulator(写真2)を靭帯再建モデル用にカスタマイズする許可を得て資金調達から研究申請、実際の靭帯再建モデル作成、パイロット実験まで終了(写真3)。帰国前日にやる実験は感慨深いものがありました。現在自治医大で行っています生体力学研究の基礎となっております。
実験や公表論文を通じてNeoligament人工靭帯の開発者Dr. Bahaa(写真4)やTKAアライメント研究の第一人者であるアイルランド整形外科学会長のProf. Beeverland(写真5)、米国サクラメントのDr. Howellと個人的に繋がり、指導を受けられました。
留学生活の良かったこと
観光地ではないため、比較的静か。しかしリーズ大学の学生さんは週末になるとコスプレして飲む風習があるらしく、多くの仮装行列が街を練り歩いていました。
市街地はコンパクトで中心部では英国都市型生活が可能でした(写真6)。
交通ルールが日本に近く、運転しやすかった。出張や観光で訪問したオランダの高速道路は対照的に制限速度がなく、さらに左ハンドル、右側車線で怖かったです。
観光客が多い土地ではありませんが、王立武具博物館は興味深く、何回も訪問しました(写真7)。
住民は穏やかで比較的親日。
天然芝グラウンドがそこかしこにあり、なだらかな丘陵地域も車ですぐ。野良羊や野良牛に遭遇することも(写真8)。
留学生活で戸惑ったこと
ヨークシャーアクセントは英国人でも手こずることがあるらしい。帰国後もイントネーションに影響が出ていると指摘されます。
公共交通機関のルーズさ。バスはまったく定時性が期待できません。列車に至っては帰国日にロンドンに向かう予約車両自体が中抜けしていて指定席券が無効化されるという強烈な経験も。
留学でできたこと
何よりも民間医療保険を使う事態もなく無事に帰国できたこと。リーズ近郊でも事件が起きたり、不審物騒動があったり、人生初の車上荒らしにあったりいろいろありました。
手ぶらで帰国しないという自分への課題は帰国までに完成できた研究もありクリア。
ヨーロッパ各所への出張、旅行。英国内ではエディンバラ、ベルファスト、マンチェスター、リバプール、バース、コッツウォルズ、サウサンプトン、ロンドン、オックスフォード、ケンブリッジなど。英国外ではアムステルダム、ロッテルダム、バルセロナ、ダボス。人生初のロストバゲージも含めひと悶着もふた悶着もありました。しっかり文句言えば返金されます。
ラグビー観戦。地元のチームが優勝。節約生活のためいつも立ち見席でしたが熱気あふれる応援が怖かったです。
留学でできなかったこと
何をさしおいても真剣勝負の議論まで語学力が追いつかなかったこと。自分の英語学習に関する甘さを痛感させられました。
工学部の実験はパイロットのデータのばらつきが大きく、それだけでは学会発表や論文化に及ばないレベル。そのため、工学部のフェローとは現在もメールでやり取りをしています。
当初メタアナリシスはコクランレビューに審査を受けていましたが落選。そのため、1年間のなかで行う仕事のスケジューリングが比較的早期から崩れました。
ラグビー観戦はフィールドが近く、よく行きましたが、リーズ・ユナイテッドFCの本拠地エランド・ロードは少し遠かったためフットボールは観戦できず。また、人生初のクリケット観戦も叶わず。
本音では自分もラグビーをプレーしてみたかった。地元のクラブ(立派なクラブハウスに天然芝グラウンド12面)は国代表選手を9名輩出している名門でOver 35の練習にも呼ばれましたが、珍しく本業と天秤にかけて断念しました(写真9)。
意外に適当な英国生活への順応。施設内日本人一人だけの生活は自ら望んだものとはいえけっこう大変でした。
料理。外食に困難があったら自炊ができるようになるのではないかという淡い期待を持っていましたが・・・。
やっぱり気になるお金の話
巷で1年間留学したらかかると言われる以上のコストがかかりました。中古車購入、公共交通機関利用可能なエリアの家賃、民間医療保険、数年分の旅行など。フィッシュアンドチップスは美味しいのですが、アジアごはんが恋しくなりタイ料理店の常連客になりました。ポンド円レートを考えると贅沢しすぎたのかもしれません。数年間かけて留学貯金していてよかったです。
帰国してからよく’留学して良かったですか?’と聞かれます。個人の経験としてだけでなく、この経験をどのように生かしていくか考えながら日々の仕事に取り組みたいと思います。最後になりましたが貴重な機会を与えてくださいました教室ならびに関係者各位に深謝いたします。