自治医科大学 循環器内科学部門

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東日本大震災に関わる取り組み


東日本大震災に関わる取り組み

目に見えない原点へ -東日本大震災より5年が過ぎて


東日本大震災より、5年が過ぎました。当時、自治医科大学循環器内科では、医局を挙げて震災直後より南三陸町に医療支援を行いました。その際に、クラウドコンピュータを用いた遠隔ICT血圧モニタリリングシステムである災害時循環器疾患予防支援システム (DCAP, Disaster Cardiovascular Prevention Network)を新たに構築し、当時、混乱する南三陸町で災害医療を統括していた西澤匡史先生(現、南三陸病院副院長)とともに南三陸町ベイサイドアリーナ避難所に導入しました。当初、このICT血圧モニタリングシステムは、避難所に設置しましたが、その後、より長期の支援が行えるように家庭血圧を用いた遠隔モニタリングシステムへ改良しています。  

現在、本システムの利用者は350名を超え、被災地の最近の血圧コントロールは120-125mmHgと季節変動も5mmHg程度に抑制され、きわめて安定した良好な状況となっています。本システムの導入後、南三陸町の循環器疾患の発症は約半数に減少しており、遠隔ICT管理システムの地域医療の導入が長期的にも循環器イベント減少につながることが示されています。南三陸町では今年より、新たに南三陸病院が建設され、被災されていた住民の方も仮設住宅から恒久住宅への入居も始まり、新たな局面を迎えることは、大変、喜ばしいことです。今後、先進的地域医療の充実を誇る健康長寿の全国モデル地域になることが確信されます。

ここに、共同通信から発せられた、5年前の我々の行動と思いを記した新聞記事のリレー記事があります。地域の医療現場で何か役に立てないか。真に必要な医学のエビデンスと革新的技術は何か。5年前に行動を通じて生じた目に見えない感情を忘れることなく、常に考え続け、追及してゆきたいと思います。

2016年3月吉日
自治医科大学循環器内科学講座・教授
苅尾七臣


東日本大震災から5年


西澤匡史

南三陸病院 副院長 西澤匡史先生

東日本大震災から5年がたちました。宮城県南三陸町では津波により町内の医療機関は全壊したため、私は南三陸町最大の避難所となったベイサイドアリーナで全国から来た医療支援チームを束ね、災害医療の陣頭指揮を執りました。震災後しばらくは、医師は私一人だけで、薬を求める避難者が救護所に長蛇の列を作る光景を何度も目の当たりにしました。

しかし、震災から1か月ほどたつと薬も安定的に供給され、医療は落ち着きを取り戻しつつありましたが、各医療支援チームからは血圧の高い患者が多いと度々報告を受けました。有効な手立てがなく困っていた時に、自治医科大学循環器内科教授の苅尾先生が避難所を訪問され、窮状を伝えるとDCAPネットワークシステムを紹介していただきました。渡りに船とばかりに話は進み、4月29日に南三陸町に導入されました。

このシステムは「震災後は血圧が上昇し心血管イベントが増える」という阪神淡路大震災を経験された苅尾先生の発案で東日本大震災後に開発されました。ICT(情報通信技術)を利用して血圧・脈拍データを集積し、自治医科大学でデータを解析し、被災現場の医師に負担を掛けず、ハイリスク患者を抽出して現地の医師に報告し、ピンポイントにケアすることで心血管イベントを抑制することを目的としたシステムです。当初は震災急性期の利用を想定して開発されましたが、血圧の季節変動を鋭敏にとらえ、過去の血圧データをもとに迅速に対応することで季節変動幅を最小限に抑え、イベントの発症抑制に有効であることがわかり、現在も使用しています。

「震災で助かった命をいかに守っていくか」ということを常に考え、現在も南三陸で診療を行っていますが、その陰で今もなお、苅尾先生をはじめとする自治医科大学循環器内科医局の皆さんが、南三陸町民のために支えていただいていることに感謝しております。



リレー連載『大震災と医療、そして前へ』(2012年)

2012年、共同通信社から配信された東日本大震災に関するリレー連載記事です。
rensai

(PDF:6.7MB)

医局ボランティア派遣チームの活動

派遣先
宮城県南三陸町、気仙沼市、石巻市の避難所

派遣期間
2011年4月29日~5月5日

派遣員
苅尾七臣、三橋武司、新保昌久、星出聡、甲谷友幸、矢野裕一朗

活動内容
避難所の医師(診療)支援とDCAP(災害時循環器リスク予防net)システムの導入、東大・日本プライマリケア連合学会を中心とした「健康調査プロジェクト」への参画

― チーム編成までの経緯
震災直後から「健康調査プロジェクト」への協力を依頼され、その準備を共同で進めている中、2011年3月25日から4月2日に岩手県大船渡に派遣された第一次自治医大災害派遣医療チームの報告で、被災者には重症高血圧患者が非常に多いことが判明しました。 阪神大震災の経験により、災害時の循環器疾患予防には被災者の血圧管理が大変重要であることから、当医局では避難所に血圧管理の仕組みを導入するため、ボランティア派遣チームを編成しました。

― 実 績
血圧測定の重要性周知とそのデータ把握を迅速に行うため、「遠隔モニタリングシステム」を開発し、震災から約1.5ヵ月後、避難所に血圧計とそのデータを通信する装置を設置しました。
患者はIDカードを持っていき、血圧を測定し、サーバーに送信します。個人のデータはサーバーで管理し、主治医と自治医大担当者とで観察でき、異常な変動などが見つかれば、すぐ主治医から本院に受診を促します。このような遠隔血圧モニタリングを基本に、避難所での不自由な生活の中にも、塩分を控え、意識的に運動するなど、生活改善を図るきっかけとなるよう実施しました。
また、「健康調査プロジェクト」ではこの間に、南三陸、気仙沼、石巻の3か所の避難所で約350名の被災者の健康調査を行い、3日後にはその結果を返し、受診が必要な人に対して医療機関への取次ぎをする取り組みを行いました。





















現在の取り組み


DCAPについては、避難所が閉所した現在は、家庭血圧計でも同様にデータを送信できる仕組みを導入し、家庭血圧と診察時血圧をともに日常の診療に役立てています。
また、集まったさまざまな被災者の方々のデータを解析し、今後の災害に備えた循環器疾患リスク予防管理ガイドラインを策定すること、そして遠隔血圧モニタリングを活用し、患者、保健師、医療機関を繋ぐ次世代地域医療リスク管理システムを確立することを目指し、引き続き注力しています。