専門診療

顎変形症

顎変形症とは

顎変形症は顎骨(上顎骨・下顎骨)の大きさ、形態、位置などの異常により顔面の変形と噛み合わせの異常をきたしている病態のことです。顎の変形が著しい場合は上下の歯で正しくかみ合わせることができず咀嚼障害、発音障害といった機能障害、さらには顔の変形による社会的障害、心理的障害が生じる場合もあります。

治療の流れ

顎変形症の治療は、顎矯正手術と歯列矯正治療を組み合わせることで行われます。当科では口腔外科医と、院内や地域の矯正歯科医が連携して治療を行っており月1回の顎変形症専門外来を設置しています。術前・術後の節目で専門外来を受診していただき、口腔外科医・矯正歯科医で診察を行い治療方針や経過などについて確認します。
外科的治療の適応と診断された場合、以下の流れで治療となります。

まずは術前矯正治療開始前に当科にご紹介いただきます。顔貌・咬合写真や歯列模型、レントゲンなどの資料を採得し、治療方針について検討、当科での手術予定となった場合は矯正治療を当院もしくは他院のどちらで行うかを決定します。顎変形症外来にて今後の治療方針決定後に術前矯正治療の開始となります。顎変形症の患者さんは、あごの変形を代償するような歯並びになっていますので、そのままでは手術であごの骨を動かした後にきちんと咬むことはできません。そのため、顎の骨を移動した後にしっかり咬むようにあらかじめ歯並びを整えておく必要があります。これを術前矯正治療といいます。術前矯正治療が終了しましたら、改めて専門外来を受診していただき、詳細な術式について検討を行います。手術日程が決定したら、手術に向けての準備を行い入院・手術となります。手術後は後戻りを防ぐために矯正歯科医による術後矯正治療により咬合を安定化させます。また、術後1年程度を目途に全身麻酔下でのプレートとスクリューの除去(抜釘術)を行います。その際に必要であればオトガイ形成術も施行することがあります。当科では術後5年程度は経過を確認しており、長期間の定期的な通院をお願いしています。

顎変形症の手術

顎変形症の標準的な手術法は、下顎は「下顎枝矢状分割術」、上顎は「LeFortⅠ型骨切り術」です。このほかに下顎枝垂直骨切り術、下顎骨体部切除術、上顎前方歯槽部骨切り術等、症例に応じて術式を選択する場合があります。また、数日間かけて骨を断続的に移動する「骨延長法」を応用した手術法もあり、これらの術式を組み合わせて手術を行います。
手術は多くの場合、口腔内からのアプローチとなりますので顔に傷がつくことはありません。顎を正常な位置に移動させ、プレートとスクリューで固定します。術後は顎位の誘導が必要となるため、ゴム牽引を術直後から行います。術式によっては厳重な管理が必要となるため、術後に集中治療室へ入室となります。入院期間は多くの場合約1~2週間程です。

手術における合併症

顎変形症手術における合併症について、詳細を以下に示します。

腫れ
術後顔面から頸部にかけて腫脹が生じます。術後数か月は軽度の腫脹が残存します。
痛み
痛み止めで対応します。個人差はありますが、術後1か月程度で改善します。
出血
出血量が多くなることが予想される場合は術前に自己血貯血を行い対応します。万一術中に多量の出血があり自己血のみでは対応が難しい場合には日本赤十字社の献血輸血を行う場合があります。術後出血が止まらない場合は再度、全身麻酔下での止血処置を行うこともあります。
術後の気道閉塞
手術後に咽頭部の浮腫などで、気道が狭窄し呼吸困難となる場合が稀にあります。気道閉塞の危険性があると判断した場合には、緊急に気管切開を行い、気道確保の処置を行う場合があります。
後戻り
術後に後戻りが起きることがあり、術後矯正で対処します。
神経損傷
骨切り操作により、上顎骨では上顎神経、下顎骨では下歯槽神経または舌神経が損傷される危険性があり、術後に同神経支配領域の麻痺が生じることがあります。この症状は時間経過とともに改善していきますが、改善に長期間を要する場合もあります。
顎関節異常
術後に顎関節の異常が認められた場合には、固定したプレートを早期に抜去します。局所麻酔下で術後1か月を目途に抜釘術を行う可能性があります。

これら以外にも様々な合併症が起きる可能性がありますが、それぞれの症状に対して適切に対応いたします。

顎変形症と診断され、一連の顎矯正治療を行う場合は、健康保険の適応となっています。また高額療養費制度を利用して治療費(自己負担額)を軽減することができます。

実際の症例

顎変形症(下顎前突症)に対して下顎骨移動術施行

写真(1)当科初診時

写真(2)術前矯正終了時

写真(3)術後

CT画像

写真(2)術前矯正終了時

写真(3)術後

顎変形症(下顎前突症)に対して上下顎骨移動術施行

写真(1)当科初診時

写真(2)術前矯正終了時

写真(3)術後