専門診療

唇顎口蓋裂

口唇口蓋裂とは

口唇口蓋裂とは、くちびるや上あごが割れた状態で生まれてくる病気のことです。日本人の約500人に1人の割合で発生します。くちびるが割れている唇裂、歯槽部が割れている顎裂、上あご(口蓋といいます)が割れている口蓋裂があり、これらが組み合わさることがあります。また、右か左のどちらかが割れている場合(片側)、左右ともに割れている場合(両側)があります。

  • 右側口唇裂

  • 両側口唇口蓋裂

口唇口蓋裂患者が直面する問題

口唇口蓋裂の患者さんは、唇や上あごが割れていることによって、さまざまな問題に直面します。

  • 哺乳の問題 唇や上あごが割れていることで、ミルクが上手く飲めなかったり、鼻に逆流しやすくなります。哺乳瓶の乳首を工夫したり、ホッツ床を使うことで哺乳のサポートをします。
    • ホッツ床

    • 口唇口蓋裂児用哺乳器

  • 審美的な問題 唇に対して、まずは唇を閉じる口唇形成術を行います。その後、唇や鼻の変形に対して、成長に応じた修正術を行います。
  • 言葉の問題 言葉を話す時には、のどから出た息が鼻に漏れずに口から出ることが大切です。この鼻と口を分離することを鼻咽腔閉鎖といい、口蓋裂の患者さんは鼻咽腔閉鎖が上手くできません。そのため、上あごを閉じる口蓋形成術を行い、手術の後もリハビリを行う必要があります。
  • 中耳炎 口蓋裂の患者さんは、耳管という耳と鼻をつなぐ管の機能が悪く、中耳炎にかかりやすくなります。放置すると難聴となる可能性があるため、耳鼻科と連携して治療を行います。
  • 歯並び、顎の成長 歯が生える顎の骨(歯槽部)が部分的に欠損したり、上あごの成長が悪いことで、歯並びが悪くなります。骨の欠損部には骨移植術を行い、矯正治療を行います。上あごの成長の程度によっては、上下顎のかみ合わせを整える顎矯正手術が必要になることがあります。

これらの問題は一つの診療科だけで解決できるものではなく、わたしたちは口唇口蓋裂チームとして多くの診療科、職種と密に連携して治療を行っています。

治療の流れ

口唇口蓋裂の患者さんは、生まれてから大人になるまで継続的な治療を受ける必要があります。自治医科大学病院での主な治療スケジュールについて説明します。 まず、口唇口蓋裂の赤ちゃんが生まれると新生児集中治療室(NICU,GCU)で哺乳の管理を行います。口蓋裂がある場合は、ホッツ床という上あごを覆う装置を入れることがあります。その後、3~5カ月で唇を閉じる口唇形成術をいう手術を行います。次に、1歳半~2歳で上あごを閉じる口蓋形成術を行います。3~4歳になると言葉の評価ができるようになるため、鼻咽腔閉鎖機能を評価して、言語聴覚士によるリハビリを始めます。5歳頃であごの発育を評価して、歯科矯正治療の介入が始まります。8-10歳頃に歯槽部の骨の欠損(顎裂)に対して骨移植術を行います。矯正治療を続けて、上あごと下あごの成長のバランスが大きく悪い場合は、成長が止まったあとに手術でかみ合わせを治す顎矯正手術を計画します。顎矯正手術の前後には、術前矯正、術後矯正治療が必要になります。そのほか、成長や本人・家族の希望に合わせて鼻や唇の修正手術を適宜行います。
私たちは、口唇口蓋裂の方が、見た目、言葉、かみ合わせでハンディキャップを負うことがなく生活できるようにすることを目標にして治療を行っています。

ホッツ床、PNAMについて

ホッツ床とは口蓋裂の患者さんの裂をふさいで、鼻を口を分ける入れ歯のような装置です。哺乳の補助となるだけではなく、裂が狭まるように成長を誘導する役割もあります。そのためには2.3週間に1回の調整が必要となり、原則的に口蓋形成術まで装着します。
また、唇や鼻の変形が強い場合は、鼻の変形を改善するためにPNAMという装置をつけることがあります。

ホッツ床による列幅の変化:ホッツ床の効果で広かった口蓋裂の幅が狭くなっています。これにより、口蓋形成術の手術がやりやすくなります。

  • ホッツ床装着開始時の口腔内模型

  • ホッツ床装着終了時の口腔内模型

PNAM

  • PNAM

  • PNAM 装着時

  • 扁平につぶれていた
    鼻孔の形態が改善

    前方に突出していた
    唇が改善

口唇形成術

口唇形成術とは、唇を閉じる手術のことです。生後3‐4カ月、体重約6㎏になったころを目途に行います。

口蓋形成術

口蓋形成術とは、上あごを閉じる手術のことです。口蓋裂の患者さんは、上あごの筋肉(主に口蓋帆挙筋)の向きが悪く、手術でこれを修正するとともに上あごを閉鎖します。言葉を獲得するために重要であり、言葉が出る前の1歳半~2歳頃に手術を行います。

顎裂部骨移植術

歯槽部の骨の欠損のことを顎裂といい、顎裂は上顎の3番目の歯(犬歯、糸切り歯)に位置しています。3番目の歯が生える前の8〜10歳に骨移植の手術を行います。骨移植をすることで、矯正治療で歯を動かしたり、インプラント治療ができるようになります。

  • 手術前

  • 手術後

顎変形症手術

口蓋裂の手術はできるだけ顎に負担が少ないように行いますが、手術の影響で上あごの成長が抑制されてしまい、上あごに対して下あごが出ている骨格性反対咬合となることがあります。これに対して、上あごを前に出して、下あごを後ろに引っ込める顎変形症手術を行います。上顎に対してはLeFortⅠ型骨切り術やLeFortⅠ型骨切り術と骨延長手術を併用するチューリヒシステム、レッドシステム、上顎前方部のみを延長する上顎前方部骨延長術(MASDO)などを行います。下顎に対しては、下顎枝矢状分割術(SSRO)、下顎枝垂直骨切り術(IVRO)などを行います。

上顎前方部骨延長術(MASDO)

  • 術前

  • 術後