味村俊樹
医療の質向上・安全推進センター
質向上・臨床倫理部門 教授
東京大学 1988年卒業
排便機能外来を2018年5月に開設し,私と本間祐子先生を中心に,皮膚・排泄ケア認定看護師を含む看護師,臨床検査技師,理学・作業療法士,放射線技師,臨床工学技士からなる排便機能チームで,便失禁や慢性便秘症などの排便障害の専門的診療を行っています.排便障害は,生命には関わりませんが生活の質を損なうため,その症状・程度・原因に応じて適切に治療する必要があります.
排便機能外来では,2017年に発行された便失禁診療ガイドラインや慢性便秘症診療ガイドライン,2023年に発行された便通異常症診療ガイドラインに加えて,その後の新たな知見に基づいて排便障害の専門的診療を行っています.
便失禁に対しては,排便習慣指導や薬物療法などの初期診療に加えて,直腸肛門機能検査や肛門管超音波検査などの専門的検査を施行し,骨盤底筋訓練を有効に指導するバイオフィードバック療法や仙骨神経刺激療法などの専門的治療を行っています.仙骨神経刺激療法は,2022年10月にMRI対応となり,2023年2月には充電式刺激装置の利用も可能となりましたので,患者さんが受け入れやすくなりました.
また,大胸筋から筋肉組織を採取して培養し,肛門括約筋部に移植して外肛門括約筋収縮力を増強することで切迫性便失禁を治療する国際多施設共同治験にも参加しています.これはプラセボを対照とした二重盲検無作為化比較試験で,今年,1例に実施して,現在も対象症例を募集中です.
慢性便秘症に対しては,下剤を含めた薬物療法や排便習慣指導などの初期診療に加えて,排便困難型便秘症に対する排便造影検査などの専門的検査を施行し,怒責した時に肛門を締めてしまう骨盤底筋協調運動障害に対するバイオフィードバック療法や直腸瘤に対する直腸瘤修復術などの手術も行っています.
排便回数減少型便秘症に対しては,前向き臨床研究である「大腸通過時間検査の有用性と安全性についての検討」として,大腸通過時間検査を施行して,大腸の蠕動運動能を客観的に評価しながら治療しています.
また,「慢性便秘症に対するミヤBM®の効果と腸内細菌叢に与える影響に関する検討」の臨床研究も実施中です.
脊髄障害に起因する難治性排便障害に対して2018年4月に保険適用となった経肛門的洗腸療法を施行しています.さらに,直腸癌術後の排便便障害である低位
前方切除後症候群の難治症例に対しても,前向き臨床研究である「直腸手術後の難治性排便障害に対するコーンカテーテルによる経肛門的洗腸療
法の有効性と安全性に関する研究」として,コーンカテーテルを使用して経肛門的洗腸療法を施行しています.このように排便障害を専門的に診療している施設は全国的にも少なく,当科は全国有数の施設です.快食・快眠・快便が,快適に生活する上での基本ですが,超高齢社会の日本においては,「より長く生きる」ための医療のみならず,排便機能という生活の質を改善・維持することによって「より良く生きる」ための医療も益々重要になります.
排便障害でお困りの患者さんがいましたら,是非とも当科の排便機能外来にご紹介下さい.また,排便障害診療に興味のある方は,当科の診療に是非とも参加して下さい.
興味のある方は益々興味がかき立てられますし,興味のない方も,きっと興味を持つようになります.