片野 匠
新潟大学 2014年卒業
自治医科大学附属病院で初期研修を行い、外科専門医・消化器外科専門医を取得したのち大学院へ進学しました。外科的な背景を持ちながら移植関連の研究ができる教室を探し、令和3年度から東北大学大学院移植再生医学分野へ国内留学させていただいております。当研究室は膵島移植や肝細胞移植といった細胞療法の研究を主軸としており、基礎研究と臨床現場をつなぐトランスレーショナルな領域の課題に取り組んでいます。これから学位審査を控えている身で、僭越ではありますが、国内留学中の大学院生という立場から以下の2点についてお話しさせていただきます。
<大学院生活について>
当面の目標は博士号の取得となりますが、現代の医師キャリアにおいては以前ほど重視されていません。外科的なスキルや収入面においてもメリットは少なく、時間をかけて研究したからといって、誰もがIFの高いジャーナルに論文を掲載できるわけでもありません。臨床現場に比べると成果を感じられにくく、魅力を感じない人も多いでしょう。それでも私は、大学院での経験が医師キャリアにおいて重要なものだと感じています。その大きな理由は、自分と向き合う時間を持てることです。大学院では仮説検証という形で、これまでの忙しい日々の中で見過ごしてきた課題や気づかないふりをしてきた小さな疑問に真正面から取り組むことができます。臨床で経験したわだかまりを昇華するプロセスは、本当の自分と誠実に向き合う作業であり、これこそが研究の醍醐味であると感じています。さらに私の場合は有難いことに、子の誕生というライフイベントも重なったため、医師としてだけではなく、夫として、あるいは父親としての自分も見つめ直すかけがえの無い時間にもなっています。
<国内留学について>
医局の関連施設以外への進学(留学)は、院試や収入源、家族の居住環境なども考えなければならず、一時的に強いストレスがかかります。それでももし、興味のある研究室が見つかれば挑戦してみることをお勧めします。当研究室には、東北大学消化器外科出身の医師だけでなく、エジプトからの留学生や獣医学部出身の院生など、さまざまな背景を持つメンバーが在籍しており、私も外部からの進学でしたが快く迎えてもらえました。今は研究だけでなく、仕事やプライベートについてもいろいろな相談ができています。アルバイト先は自分で見つける必要がありましたが、そのおかげで新たな素晴らしい出会いや思わぬ形での旧友との再会もありました。国内留学は、海外留学に比べて費用や言葉の面での負担が少なく、一方で研究面では海外と同様に充実した経験が得られる可能性もあると思います。
このパンフレットを手にしている皆さんは、まずは専門医取得に向けて意気込んでいることでしょう。しかし、その後の数年間、全く異なる環境で過ごすことも、長い目で見れば悪くないと思います。自治医科大学消化器一般移植外科は、挑戦を温かくサポートしてくれる医局です。私の経験が、皆さんの医師人生を豊かにする手助けになれば幸いです。