女性外科医として私ができる事~排便機能外来の立ち上げへ

本間 祐子

山梨大学 平成20年卒業

「外科医になるのはやめた方がいい。女性はみんな1年で辞めていく。絶対に幸せになれない。」研修医1年目に外科の上司に相談した時に言われた言葉です。今この言葉を聞いたらおかしいと思うかもしれませんが、14年前は全く驚きませんでした。私は一般病院で初期研修をしていましたが、研修医の人権がなかった時代に、この先生は私のことを本気で思ってくれていると、嬉しく感謝したのを覚えています。そこで私は、女性が外科医として働くことが出来そうな職場を探すことにしました。どの外科医局に入るか色々な大学を調べましたが、その中で自治医大は、様々な大学の先生が集まって構成されいてるため医局内に垣根がないこと、手術件数が多いことを理由に見学先に選びました。見学は1日だけでしたが、肝切の手術に第3助手で参加させてもらいました。そこで驚いたのは、術野が綺麗で整理整頓されていたこと、鉤引きをしている私に術者の先生が「ありがとう」と声を掛けて下さったことでした。術野では怒鳴り声が当たり前だった研修先との違いに衝撃を受けたことを今でも覚えています。「ここなら私でも外科を続けられそうだ」と自治医大の外科へ入局することを決めました。

入局後は救急の勉強もしたいと元々思っていたので、4年目に高知医療センターの救急救命センターで1年間救急医として働きました。ここでの経験はその後の医者としての考え方に大きな影響を与えました。5年目に地域医療として那須南病院へ派遣となったのですが、ここでは私以外の医師が内科を含めて全て男性であったため、女性医師は私1人でした。その病院で一人の女性患者さんが紹介されてきたのですが、私に会うと「男の先生には言えなかった」と堰を切ったように話を始めました。彼女の症状は肛門に関する内容でしたが、前医からの紹介状の主訴は「腹痛」と書かれていました。恥ずかしくて男性医師には話せなかったのだそうです。私はその時初めて女性医師の必要性を感じました。そして肛門というデリケートな部分に関して相談を受けたことで、もっと力になりたいという思いが湧き、気付けば肛門外科への興味を持つようになっていました。

大学では肛門疾患に関する勉強が出来なかったため、7~8年目に東京山手メディカルセンターの大腸肛門病センターに週1回研究日を使って通い、10年目に専修医としてその大腸肛門病センターで1年間働きました。この1年は肛門疾患の奥深さと楽しさを身に染みて学ぶことができ、専門分野を持つという面白さを知った時でもありました。

10年目にはもう一つ、大きな出会いがありました。排便機能のスペシャリストでいらっしゃる味村先生から「自治医大へ戻って排便機能外来を一緒に立ち上げないか」とお声を掛けて頂いたのです。ちょうど大腸肛門病センターで肛門の機能温存を目的とした手術手技を学んでいたため、肛門機能についても学びたいなと考えていた時期でもありました。11年目に自治医大へ戻り、味村先生と一緒に排便機能外来を立ち上げました。歩み続けていると予想もしない出来事が訪れるものです。

私は現在15年目になりますが、大学院には入らず臨床をずっと続けています。患者さんと接することが何よりも楽しく面白いという理由が主ですが、その他に外科医としてのスキルを高めるためには研究をやっている時間も惜しいと思っていたからです。ただ、排便機能外来を開始してからは、これまで感じたことのないスペシャリストとしての在り方を学ぶようになりました。まだ病態も治療法も分からない疾患に対しどのような検査・治療が良いのかを知るには、研究が大事なのだと気付きました。しかし患者さんから離れると私の医師としてのモチベーションが下がるため、結果的に臨床からは今も離れず、臨床研究を中心に日々精進しているところです。

消化器外科は食道から肛門、肝臓、膵臓、胆嚢、脾臓など、腹腔内のあらゆる臓器を扱います。専門分野がそれだけ広いので、一人一人の個性にあった分野に出会えると思います。また外科は患者さんを全人的に診ますので、それも大きな魅力の一つです。しかしこれがまた忙しさの理由にもなります。忙しさを嫌がって外科を選択しない方もいると思いますが、15年間外科医として働いていて私が感じるのは、全人的に患者さんを診ている外科医は、基本「優しい人達の集団」であるということです。ですから、仕事で困った時は必ず相談に乗ってもらえます。きっと外科を考えている皆さんも、女性ならではの理由で仕事を休まなければならないことや、体調・家庭の事情で急に休まなければならないことも出てくるでしょう。外科医はチームで動くことを日常としていますので、緊急事態の時は同僚や後輩、先輩方がサポートしてくれます。助け合う気質が外科医には備わっており、これが外科医の特徴であり魅力であります。

さあ、ここまで読んでみてどうでしょう。外科面白いですよ。外科の先生、どの科の先生よりも優しいですよ。外科に興味があるなら、一度入ってみることをお勧めします。きっと魅力に取りつかれて、どっちにしても止められないと思いますけどね。

 

 

子育てをしながらキャリアアップを目指す

小林 冬美
秋田大学 平成28 年卒業

私は現在卒後6年目を迎え、生後5か月の子供を育てながら自治医科大学付属病院消化器外科で勤務しています。秋田大学を卒病後、自治医科大学付属病院で初期研修を行い、3年目に消化器一般移植外科に入局しました。当科の熱心な教育体制、自由闊達な雰囲気に惹かれ、女性でも第一線で外科医を続けている先輩が在籍し、仕事と家庭を両立させながらキャリアを積むことができると考え入局しました。入局後は外科専門医研修プログラムを開始しました。卒後3年目の10月から地域の関連病院に2年間勤務し、その間に妊娠しました。妊娠30週までは関連病院に勤務し、大学病院に戻り34週まで勤務を続け、その後産休を取得しました。関連病院では午前中は外来・上/下部消化管内視鏡検査、午後は手術、その合間に病棟業務・救急患者の対応と忙しい毎日でしたが、外科医として多くの症例を経験し研鑚を積むことができました。

 妊娠期間中のほとんどを関連病院で過ごしましたが、指導医の先生方は快く受け入れてくださり、医局からのサポートもあり、通常勤務を続けることができました。つわり期間中やお腹が大きくなってきてからの勤務は大変ではありましたが、産休直前まで手術も執刀させていただき、恵まれた環境で妊娠期間を過ごすことができました。

 2020年12月に無事に出産し、子供が4か月になるまでは育児に専念し、産休・育休合わせて6か月の休みを経て、5月からフルタイム勤務で仕事に復帰しています。外科専門取得までの間に妊娠・出産というイベントがあり不安もありましたが、外科専門医プログラムは5が月の休止期間を含みますが、3年間で修了し、この夏に専門医試験を受験予定です。

 育休・産休期間中は指導医の先生とメールでやり取りしながら論文作成を進めました。新生児の育児をしながらの論文作成は眠気との戦いでしたが、無事にacceptされ、その他にも日常の業務に追われ勉強できなかった分野を自分なりに勉強をしてみたり、臨床業務から離れる期間も悪くないな、と思いながら過ごしていました。もちろん、子供を抱っこして散歩に行ったり、一緒にお昼寝をしたりと子供との貴重な時間も十分に満喫しました。

 私も夫も親が遠方に住んでいるため、普段は夫と協力しながら育児をしています。妊娠期間中から保育園の見学、申し込みを行い、大学病院の隣にある保育園に子供を預けています。保育園と病院が近いため、子供を預けてから朝のチーム回診、術前カンファレンスに出席しています。現在は当直業務を免除して頂き、夕方のお迎えに間に合うように帰宅したりと状況に合わせサポートして頂いています。自治医科大学は育児サポート環境が整っており、病児保育や夜間保育の施設があり、安心して勤務することができます。仕事復帰してからまだまだ日が浅く、これから育児と仕事の両立に悩む時期もあるかと思いますが、子育てをしながら働き続ける先輩・医局のスタッフが多数在籍しており、すぐに相談乗ってもらえるため非常に心強いです。

 現在、当医局は消化器外科11名、乳腺科8名の女性医師が在籍しています。子育てをしながらキャリアアップを目指し、仕事を続けることができるのは佐田教授をはじめ、諸先生方のご理解・サポートがあるからであり、本当に感謝しております。女性医師に限らず、男性医師も育児休暇を取得しており、プライベートを充実させることができる医局です。外科に興味のある女性医師の皆さん、是非一緒に働き、充実した日々を過ごしましょう!

 

 

臨床、研究、プライベートのバランスを保つ

芝 聡美
秋田大学 平成21 年卒業

 私は秋田大学を平成21年に卒業し、現在12年目を迎えました。地元である栃木県に戻り、自治医科大学付属病院で初期研修を行い、3年目に消化器一般移植外科に入局しました。大学病院にも関わらず症例数が豊富であること、熱心な教育体制、自由闊達な雰囲気は大きな魅力でした。女性でも第一線で外科医を続けている先輩方が多数在籍し、仕事と家庭を両立させながらキャリアを積むことができると考え入局を決めました。入局後は大学病院および関連病院で多くの経験を積みました。現在は乳腺科に所属し、外来、病棟、手術、薬物療法、研究と充実した日々を過ごしております。

臨床現場では未だ解決できていない病態があり、その解明および治療法の確立が望まれます。外科専門医を取得後、臨床で生じた疑問を解決し臨床に還元できるような研究を行いたいと考え、7年目で大学院に進学しました。医局の先生方の研究への熱意に惹かれ、臨床同様懇切丁寧なご指導が得られることもあり、私は当科の研究室に属し臨床に繋がるような研究を行っていました。大学院での生活は新たな知識・手技の習得が必要であり、試行錯誤の日々でした。先行研究を参考にしながら、自分で実験を組み立て、実施、考察、伝える、その積み重ねです。このプロセスが今現在チーム医療において活かされていると感じています。私は大学院4年目に妊娠し、出産ぎりぎりまで実験や論文作成、研究室のミーティングを満喫し、無事に出産をし、出産1か月後に学位審査を受け、学位を取得することができました。今考えるとびっくりするような状況ですが、北山教授をはじめ、研究室の先生方、研究補助員さんの温かなご指導および親身なサポートがあったから乗り越えることができたと思っております。

大学院修了後は1年間育児休暇を取得し、この4月よりフルタイム勤務で仕事に復帰しました。復職前は幼い子供を育てながら仕事を継続できるのか本当に心配でした。また子供が寂しい思いをして可哀想なのではないか、という気持ちもありました。しかし、職場復帰にあたりグループの先生方と何度も仕事内容や育児について具体的に相談できたこと、またフルタイムで仕事復帰している先輩医師を近くで見てきたこと、安心して戻っておいでという子育てする先輩医師の力強い励ましもあり、フルタイムで勤務を始めました。大学院と育児休暇の期間に臨床から離れていたため、手術に関しては以前の自分とのギャップに悩みながらも、家庭と仕事の両立に奔走しながら、明るく温かい職場環境で働いています。心配の一つであった子供は楽しそうにこども園に通い、様々な刺激を受けることにより心身ともに大きく成長しており、今は一安心しています。

私は子供の面倒をみてくれる親が遠方に住んでいるためサポートが得られにくく、普段は夫と協力しながら子育てをしています。子供の突然の発熱によりやむを得ず急に出勤できなくなることも多々あります。乳腺科の先生方にはご負担をおかけしてしまいますが、多大なお気遣いを頂きながら働くことができています。子供の体調をとても気にかけて下さり、一緒に育てて頂いていると感じるほどです。自治医科大学には育児サポート環境が整っており、医師・キャリア支援センターが運営する病児保育を利用し、安心して勤務することができます。もちろん仕事と子育ての両立は楽ではありません。子供の寝かしつけで先に自分が寝てしまうこともしばしばです。それでも、自分なりにですが仕事で輝ける環境があるからこそ、家族と過ごす時間も大切に捉えることができるのだと感じています。子育てには大小さまざまな悩みがありますが、子育てしながら働き続ける先輩・後輩、医局のスタッフが多くおり、すぐに相談に乗ってもらえることができ非常に心強いです。

現在、当医局は消化器外科11名、乳腺科8名の女性医師が在籍しています。当科は家庭を大切にしながら、臨床、研究を十分に行える、贅沢な環境が整っております。子育てしながらも常にキャリアップを考えることができるのは、佐田教授をはじめ、諸先生方のご理解・サポートがあるからであり、本当に感謝しております。当医局は臨床、研究、プライベートのバランスを良好に保ち、充実した生活を送ることができる、類いまれな医局です。外科に興味のある女性医師の皆さん、ぜひ一緒に働き、充実した日々を過ごしましょう!皆様の入局を心よりお待ちしております。

 

 

女性医師として(経験談)

田原真紀子
弘前大学 平成15 年卒業

平成15 年に弘前大学を卒業後、自治医科大学消化器・一般外科に入局して15 年目を迎えました。現在は下部消化管をsubspeciality として、乳児の子育てをしながら大学病院に勤務しております。私が在籍していた当時の医学部は約半数が女性であり、学生時代から女性としてのハンディキャップを特別感じたことはなかったように思います。同期で外科系に進む女性も少なくなかったため、消化器外科への入局に抵抗はありませんでした。特に自治医科大学は教育体制が整っており、先輩医師は教育熱心な先生がたばかりで若手医師が何でも質問できる雰囲気であることは大きな魅力だと感じています。レジデント時代の厳しく熱い御指導は今の私のキャリアに結びついております。臨床を経験した後に大学院で研究に従事したいという希望がかない平成27 年に基礎研究の分野で学位を取得しました。大学病院や関連病院で手術や検査を多数経験でき、諸先生がたの熱心な御指導のおかげで専門医取得(外科専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、消化器内視鏡専門医、がん治療認定医、マンモグラフィ読影医)もかないました。論文作成や学会活動も積極的に御指導をいただけます。

当科には現在、消化器外科7 名、乳腺外科4 名の女性医師が所属しております。女性として気になるのは結婚、妊娠、出産、子育てをどのように仕事と両立させていくかという部分でしょう。ライフプランは人それぞれだと思いますが、私個人の経験から語りますと結婚後は特に仕事のペースは変わらないのですが(配偶者の理解を大前提として)、妊娠や出産は女性しかできない一大イベントのため仕事に影響が出ざるを得ません。仕事を続けていくためには周囲のサポートが必要不可欠です。私の両親は遠方に住んでおり、義両親は車で1 時間程度離れた所ですが高齢のため無理に育児を頼むこともできません。自治医科大学は育児サポート環境が整っており、医師・研究者キャリア支援センターが運営する病児保育ルームがあり、様々な育児相談にも応じてもらえます。現在は構内にある保育園に子供を預けて働いておりますが、病院の廊下から保育園が見えるので子供を見守りながら仕事をしている気分になります。また、医局のサポート体制も整っており、個人の悩みや意見を聞いて随時対応をしていただけることに非常に感謝しております。

佐田教授をはじめ、グループ長、医局長、大学勤務の先輩・後輩医師、現時点でほとんど男性医師ですが皆さん嫌な顔をせず仕事内容にもお気遣いいただき、こんな医局は全国を探しても他にないと言っても過言ではありません。母親としての仕事が増える分、これまでの仕事は100%→ 80%になるかもしれませんが、その分勤務時間内は120%のつもりで働いています。実際は男性医師に頼らざるを得ない部分は少なからずありますが、お互いにできることを協力することで医局全体がいい雰囲気でむしろパワーアップしていると思います。外科学は学問としても非常に興味深い分野で、手術で患者さんを治療することにやりがいがありますし、個人的には今後も仕事・勉強を続けて指導医の取得を目指す予定です。やる気さえあれば様々なことに挑戦できます。
学位を取得すれば家族で海外留学も可能です。外科手術に興味のある女性医師のかた、ママさん外科医としてぜひ一緒に働きましょう。

 

 

大学病院で研修し、入局へ

高見 真梨子
富山大学 平成27 年卒業

初期研修の2年間と3年目は興味のある科を比較的自由に選ぶことができ,内科外科を通して幅広く経験することができました.2016年には新しく地域外科研修のシステムが確立し,私は第1号として関連病院の1つである芳賀赤十字病院に2か月研修に行きまし私は2015年に富山大学を卒業し,自治医科大学附属病院で初期研修を行い卒後3年目に消化器外科に入局しました. 現在5年目で1歳の子供を育てながら新小山市民病院で勤務しています.

た.大学病院ではあまり扱われないヘルニア,虫垂炎,胆嚢の手術はもちろんのこと,多くの癌症例の術野に入り手術漬けの2か月を送りました.この時期に教えていただいた知識や技術は,私の外科医としての礎の一部になっていると強く感じています.2年目の後半だったこの時期に消化器外科に進もうと決意し,時期を同じくして結婚しました.

初期・後期研修を通して,消化器外科・心臓血管外科・小児外科・乳腺外科・呼吸器外科の順にローテートし,外科専門医に必要な症例を経験しました.

後期研修のローテート中に妊娠が判明したため,消化器外科以外の科は妊娠中に回ることになり不安でいっぱいでした.しかし医局長が適宜相談に乗ってくださり,私の体調に合わせて適切な科を過不足なくローテートできるよう,便宜を図っていただきました.佐田教授をはじめとしグループ長,医局長,医局の先輩医師はもちろんのこと,ローテート先の先生方にもお気遣いいただき恵まれた環境で経験を積むことが出来ました.おかげで無事に症例数を集めることができ,同期に遅れることなく外科専門医の受験資格を得ることが出来ました.

当科には現在,消化器外科・乳腺外科・大学院を合わせて15名の女性医師が在籍しています.子育てをしながら働いている女性医師も多く,外科医としてのキャリアはもちろんのこと,ライフワークバランスや子育て相談まで多岐にわたり相談させていただいています.妊娠出産育児において多くのアドバイスをいただき,大変心強いです.

ライフプランや働き方は各家庭によってそれぞれだと思いますが,現在の私は医局や勤務先のサポートをいただき,同僚の先生方のご協力・ご好意の元で時短勤務をしています.

家事・育児・仕事の両立は容易ではありませんし現在両立出来ているとは全く思いません.それでも勤務時間内は時間の許す限り患者と向き合い,外来や手術を行い,帰宅してからは子供の成長を見守りながら家族との時間を大切に日々を過ごしています.

産前産後を通し現在に到るまで,本当に医局・関連病院の先生方には感謝しかありません.

多様な働き方に寄り添ってくれる医局は全国でも当科を置いて他にはありません.外科に興味のある女性医師も男性医師も是非見学にいらしてください.お待ちしています.