大澤英之

腫瘍センター臨床腫瘍部 准教授

自治医科大学 1998年卒業

 

最新のがん統計では日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性が65.5%、女性が51.2%であり、2人に1人ががんと診断されます。また、日本人ががんで死亡する確率は、男性が25.1%、女性が17.5%となっています。がんという病気は決して珍しい病気ではなく、医師であれば何らかの形で必ず接することになります。

がんを治すことの出来る唯一の手段は手術であり、外科医ががん診療に占める役割は今も昔もとても重要です。手術によってがんを取り切ることでがんを治癒させることが外科医として普遍の目標であり、非治癒切除に終わった場合でも、また、再発・転移を来した場合でも、多くは執刀した外科医が主治医となり、抗がん剤治療や緩和的治療を最期までおこなってきました。日本において外科医は、がんの確定診断から根治的治療、抗がん剤治療、緩和治療まですべてに関わってきたといっても過言ではありません。一方で、医学の進歩に伴ってがん薬物療法は急速に発展しています。従来からの抗がん剤に加えて、がんに特異的な分子を標的とする分子標的薬、免疫機構に作用して効果を発揮する免疫チェックポイント阻害剤が登場し、治療効果が改善する一方で薬物療法は複雑化していることから、多忙な外科医が薬物療法を担うことが難しくなっていきました。

腫瘍内科は抗がん剤治療を専門に扱う診療科として、がん治療の分業化にいち早く取り組んだ米国において数十年前に誕生しました。現在では米国においてはメジャーな内科系専門科の一つです。日本では固形癌に対する化学療法は外科医主導で行われてきた歴史から、化学療法を専門とする医師はまだまだ少ないのが現状です。自治医科大学ではいち早く腫瘍内科の必要性に着目し、2006 年に臨床腫瘍科を開設し、臓器横断的にがんの薬物療法、集学的治療を行ってきました。当院の臨床腫瘍科では、消化器外科医、乳腺外科医、総合内科医をバックグラウンドにした医師が消化器癌、頭頸部癌、原発不明癌、希少がんの薬物療法を主体に診療を行っています。特筆すべきは、開設以来、消化器一般移植外科と臨床腫瘍科がたいへん密接な関係を保ち、お互いに協力をしながら消化器癌の集学的治療を行ってきたことです。臨床腫瘍科の医師は、毎朝行われる主に消化器がんを対象にした臓器横断的な外科手術カンファレンスに出席して、術前補助化学療法を行った症例、術後補助化学療法あるいは今後延命目的の化学療法が必要となる症例を中心にがんの集学的治療に関する意見交換を行っています。手術カンファレンス以外の場においても、転移再発した症例や非根治切除となった症例で化学療法が必要であれば、外科と腫瘍科の担当医師の間で十分なディスカッションが行われ治療方針が決められています。また、臨床腫瘍科において化学療法を行いながらも再発や転移病巣が進行し、腸閉塞や閉塞性黄疸など、入院しての処置や治療が必要な場合には外科の全面的な協力を得て個々の症例に対して継続的な診療を行っています。また、入院での化学療法については、臨床腫瘍科による処方のもと外科担当で行われています。我が国の現状では、センター病院、一部の大学病院と大規模病院を除く多くの一般総合病院では、腫瘍専門医は存在せず、主に外科医が消化器癌の化学療法を担当しています。そのため、一般病院に外科医として勤務する際には、抗がん剤治療の最新の知識と実践スキルが必須となります。自治医科大学では外科に所属しながら、臨床腫瘍科で行われている専門的ながん薬物療法の知識と最先端の知見を入院・外来診療にて学ぶことができます。

このような環境は日本を探してもなかなか見つけることはできません。今後ますます発展していくOncology の世界で、皆様と一緒にスキルアップできることを期待しています。自治医科大学消化器一般移植外科への来局を心よりお待ちしております。