笹沼 英紀
消化器一般移植外科 准教授
自治医科大学 平成6年卒業

肝胆膵グループは。肝臓、胆道、膵臓、脾臓、ヘルニア、後腹膜疾患等の診断から治療までを行っています。2019年4月からグループリーダーを務めております。2023年4月現在、グループ内の附属病院勤務者(兼務者含)は11名、関連病院派遣者が8名の19名がメンバーです。

 手 術

High volume centerとして高難度手術を安全(Mortalityゼロ、Morbidityゼロ)に行うことを目標にしています。高難度手術は、日本肝胆膵外科学会の高度技能専門医制度で術式が定義され、毎年この規定に沿って症例数を学会に報告しています。2022年の集計で高難度手術は計76例(肝移植症例除く)、その主な内訳は表1の通りでした。腹腔鏡を利用した手術が13例含まれています。日本肝胆膵外科学会の認定施設Aを取得しており、高度技能指導医・専門医の指導のもと、5名が修練医としてトレーニングしています。2022年の申請で青木裕一先生が高度技能専門医、森嶋計先生が内視鏡外科技術認定医(肝臓)に合格しました。

◆ 肝臓領域

2022年の腹腔鏡下肝切除の比率は、胆道再建を伴わない高難度肝切除21例中、腹腔鏡下肝左葉切除:2例、腹腔鏡下肝中央2区域切除:1例、外側区域切除を除く腹腔鏡下肝区域切除:5例、腹腔鏡下肝亜区域切除:5例の計13例(62%)でした。肝細胞癌の診療は様々な新規薬剤が登場し、膵癌と同様にResectable、Borderline、Unresectableに分類しようとする動きがあり、治療戦略が大きく変貌しています。麻酔科の人員不足に伴う手術枠削減で手術までかなりの時間を要するため、Lenvatinib+TACEで術前治療を行い手術に向かう治療方針を検討しています。肝臓カンファレンス(肝臓外科、肝臓内科、放射線科)では、HCCに対する手術を前提とした術前治療に関して議論し、集学的治療に取り組んでいます。

◆ 膵臓領域

Resectable膵癌に対する術前治療はGS(Gemcitabine,S-1)療法、Borderline膵癌とUnresectable膵癌に対してはGEM/nPTX(Gemcitabine,Nab-paclitaxel)療法またはFOLFIRINOX治療が行われています。Borderlin~Unresectable膵癌からのConversion手術症例が出てくるなど、より複雑で難解な手術が増えています。2022年4月から局所進行切除不能膵癌に対して陽子線治療が保険適応となり、筑波大学、群馬大学の粒子線治療センターと連携して集学的治療を行っています。膵臓に対する腹腔鏡手術は、IPMN、MCN、SPN、SCNなどの良悪性境界病変に対し2012年から腹腔鏡下膵体尾部切除を導入し、7症例目から術後膵液瘻(POPF)ゼロを目標に膵離断の定型化(電動自動縫合器にBlackカートリッジを用いた「20分膵圧挫離断法」)を開始しました。2019年からは腹腔鏡下脾温存膵体尾部切除を開始し、2021年2月からは「膵悪性疾患に対する郭清を伴った腹腔鏡下膵切除」を開始しています。膵癌に対する膵体尾部切除術はRadical Antegrade Modular Pancreatosplenectomy(RAMPS)を標準術式としており、先行して行ってきた開腹RAMPS手術を腹腔鏡手術で行っています。本年度はD2郭清を伴う膵体尾部切除28例中20例(71%)がLap-RAMPSでした。導入から2023年4月までのLap-DPのPOPF発生頻度は3.8%です。今年度の目標は、膵体尾部切除でロボット支援手術を導入です。

研 究

齋藤晶先生と木村有希先生が大学院を卒業しました。
大腸癌肝転移の治療方針に関して2020年11月から、図1のような指針をもとに治療を行っています。同時性肝転移の異時切除患者では、これまで原発切除を行い化学療法を挟んで肝転移手術の方針でしたが、原発切除を行わず肝切除を先行するLiver firstが新たな戦略として導入を検討しています。

大腸癌肝転移の治療戦略

 

Difficulty Score

Tanaka et. al. Surgery 2019 Apr;165(4):731-740

教 育

肝胆膵グループでは高難度肝胆膵外科手術は専門医を目指す修練医が術者を担当し、それ以外の手術はローテーションする若手外科医が担当しています。様々な併存症を持ち、地域の病院では周術期管理の難しい胆嚢摘出術、鼠径ヘルニア等の手術も若手の先生方を中心に行っています。

今後もMortalityゼロ、Morbidityゼロを目標に様々なことにチャレンジしていきたいと考えています。