笹沼 英紀
消化器一般移植外科 准教授
自治医科大学 平成6年卒業

肝胆膵グループは。肝臓、胆道、膵臓、脾臓、ヘルニア、後腹膜疾患等の診断から治療までを行っています。2019年4月からグループリーダーを務めております。働き方改革の影響もあり、これまで病棟は2チーム体制でしたが、ワンチーム体制となり2024年4月現在、病棟受け持ちはオーベン3名(肝胆膵スタッフ)、チューベン2名、ネーベン1名(レジデント)で行っています。

 手 術

High volume centerとして高難度手術を安全(Mortalityゼロ、Morbidityゼロ)に行うことを目標にしています。日本肝胆膵外科学会の高度技能専門医制度で定義された高難度手術症例数は、2023年は計85例(肝移植症例除く)、その主な内訳は表1の通りでした。高度技能手術総数は、既定の手術枠から80-90件で頭打ちとなっています(表2)。腹腔鏡を利用した手術は33例(38.8%)で、経時的に腹腔鏡手術の割合が増加しています(表2)。当科は日本肝胆膵外科学会の認定施設Aで、高度技能指導医(3名)・専門医(6名)のもとで修練医はトレーニングしています。2023年申請で田口昌延先生が高度技能専門医に合格しました。グループ内の高度技能専門医は、笹沼、遠藤先生、兼田先生、森嶋先生、青木先生の計6名となりました。

◆ 肝臓領域

2023年の腹腔鏡下肝切除の比率は、胆道再建を伴わない高難度肝切除21例中、腹腔鏡下肝右葉切除:1例、腹腔鏡下肝左葉切除:2例、外側区域切除を除く腹腔鏡下肝区域切除:4例、腹腔鏡下肝亜区域切除:4例の計14例(67%)でした。昨年度から肝細胞癌の診療においても膵癌同様に腫瘍学的切除可能性分類が開始されました。膵癌と異なる点は、Unresectableという定義はなく、Borderline resectable(BR)が、集学的治療の一貫として切除により予後が期待されるBR1とエビデンスはないが集学的治療の中で手術適応を慎重に判断すべきBR2に分けられているのが特徴です。当科では、Resectable HCCに対してLenvatinib+TACEのSequential therapy後に根治手術をするという新しい治療戦略を開始しています。毎週行われる肝臓カンファレンス(肝臓外科、肝臓内科、放射線科、緩和科)で、HCCに対する集学的治療に関する議論を行い治療方針を決定しています。今年度から、肝腫瘍に対するロボット支援手術を予定しています。

◆ 膵臓領域

Resectable膵癌に対する術前治療はGS(Gemcitabine,S-1)療法、Borderline膵癌とUnresectable膵癌に対してはGEM/nPTX(Gemcitabine,Nab-paclitaxel)療法またはFOLFIRINOX治療が行われ、近年、Borderlin~Unresectable膵癌からのConversion手術症例が出てくるなど、より複雑で難解な手術が増えています。2022年4月から局所進行切除不能膵癌に対して陽子線治療が保険適応となり、近県の粒子線治療センターと連携して集学的治療を行っています。膵臓に対する腹腔鏡手術は、IPMN、MCN、SPN、SCNなどの良悪性境界病変に対し2012年から腹腔鏡下膵体尾部切除を導入され、第7症例目から術後膵液瘻(POPF)ゼロを目標に膵離断の定型化(電動自動縫合器にBlackカートリッジを用いた「20分膵圧挫離断法」)を開始、現在POPFの発生は3.8%と減少しています。2019年から腹腔鏡下脾温存膵体尾部切除、2021年2月からは「膵悪性疾患に対する郭清を伴った腹腔鏡下膵切除」を開始しています。膵癌に対する膵体尾部切除術はRadical Antegrade Modular Pancreatosplenectomy(RAMPS)を標準術式としています。今年度から、膵体尾部腫瘍に対するロボット支援手術を予定しています。

 

研 究

現在、参加している臨床研究は以下の通りです。

  • 術前補助化学療法後の膵癌手術における至適リンパ節郭清範囲を決定するための前方視的介入研究
  • 低侵襲肝切除におけるインドシアニングリーン蛍光法を用いた解剖学的肝切除の実施状況と臨床的意義:アジア諸国における国際多施設研究(Implementation status of indocyanine green fluorescence-guided minimally invasive liver resection: an international multicenter study in Asian countries)
  • 初回切除可能大腸癌肝転移を対象とした、術前後化学療法+手術 手術先行+術後補助化学療法の治療効果の検討:多施設共同ランダム化比較試験
  • Intracholecystic papillary neoplasmの臨床生理学的/病理学的検討
  • JCOG1315C「切除可能肝細胞癌に対する陽子線治療と外科的切除の非ランダム化同時対照試験」
  • 腹膜転移を有する膵がんに対するS-1+パクリタキセル経静脈・腹腔内投与併用 療法の無作為化比較第Ⅲ相多施設共同臨床試験
  • 切除不能局所進行膵癌に対するConversion Surgery の新規化学療法導入後治療成績の再検討

大腸癌同時性肝転移の異時切除患者では、これまで原発切除を行い化学療法を挟んで肝転移手術を行っていましたが、原発切除を行う前に肝切除を先行するLiver first戦略を行い症例蓄積しています。また、消化器一般移植外科、臨床腫瘍科、乳腺外科、耳鼻科、泌尿器科などから臨床サンプルを収集し質量分析法による新規がん診断システムを開発することをテーマにした研究(研究責任者:北山丈二先生)が進行しています。さらに、外科日常診療で非常に重要な「腹部ヘルニアの生活の質」に関するテーマを課題に、自治医大外科の関連病院の先生方を中心に前向き調査を多施設共同研究で計画しています(研究責任者:渡部純先生)。

教 育

肝胆膵グループでは高難度手術をスタッフ修練医、高難度手術以外の手術をローテーション若手外科医が行うことを基本としています。様々な併存症を持ち、地域の病院では周術期管理の難しい胆嚢摘出術、鼠径ヘルニア手術、当院で行った手術による腹壁瘢痕ヘルニア、脂肪肉腫などの軟部組織悪性腫瘍など若手の先生方を中心に術者を行って頂いています。

今後もMortalityゼロ、Morbidityゼロをめざして新しいことにチャレンジしていきたいと考えています。