原尾 美智子
乳腺科
平成11 年 熊本大学卒業

良性から悪性まで様々な乳腺疾患の診断、治療を中心に診療を行っています。特に癌の症例は多く、初発の手術や薬物療法、再発治療や緩和ケアも含めた多岐にわたった治療を行っております。他科や乳がん看護認定看護師とも連携し専門性の高い診療を心掛けております。

2022年4月現在大学病院勤務者は6名、関連病院勤務者が3名、非常勤が3名、大学院生1名の体制で診療を行っております。スタッフの多くは女医であり、多くの医師が産前産後休暇・育児休暇を取得しております。皆、様々なバックグラウンドをもち、それぞれのスタイルに合わせて仕事を続けているため、働きやすいシステムを構築するとともに、よくコミュニケーションをとり、お互いが協力しながら診療を行っています。特に子育てと仕事の両立に関しては様々なモデルケースがいるため、継続的に診療を行うことができる環境となっています。

 

<診療>

診断:各種画像診断のほか、細胞診や組織診を行っております。マンモグラフィ、超音波は、日本乳がん検診精度管理中央機構の読影認定医の資格を取得したものが読影しています。

  1. マンモグラフィ、トモシンセシス、超音波検査:年間2500件を超える検査を施行。主に自科でスクリーニングから精査まで行っています。
  2. 穿刺吸引細胞診、針生検、吸引式針生検(USガイド下、ステレオガイド下)
  3. 摘出生検:上記検査にて確定診断がつかない場合に局所麻酔下に摘出生検を行います。
  4. CT、MRI、PET:各画像の所見、臨床所見をもとにカンファレンスで検討し治療方針を決定しています。
  5. 各種カンファレンス:治療カンファ(週1回)、新患/再発カンファ(週1回)、病理カンファ(月1回)を行い、治療方針の検討、各種臨床試験、治験への症例検討、病理と画像の対比による詳細な症例の理解に努めております。

 

治療:現在、乳癌学会指導医1名、専門医5名、認定医2名が在籍しています。

(1) 手術:年間約300件の手術を行っており、温存手術が32.4%です。乳房切除では患者さんの希望に応じて形成外科と連携し再建手術も行っております。乳癌の手術は外科的侵襲を少なくするため縮小傾向にあり、短時間のものが多くなっている反面、高度に進行した症例も一定割合いるためしっかりした手術手技の獲得が必要です。まずは基本的な手技がマスターすることで多くの術者を早い段階から経験していきます。薬物療法後では剥離操作が困難な症例があったり、皮膚浸潤が高度な症例は広範囲な皮膚切除ともに植皮を必要としたり、整容性も問われる症例も増えています。患者さん一人一人で全く異なるため、いろいろなバランス感覚が必要であり、日々の経験を積み重ねていくことが大事です。

(2) 薬物療法:術前後の補助療法や再発治療に対し、内分泌療法、化学療法、分子標的治療薬、免疫療法を行います。近年乳癌の薬物療法は大きく変わってきております。治療方針は毎週行われているカンファレンスで検討します。特に再発治療は長期にわたって行われることが多く、個々の患者さんの背景を踏まえた治療が必要となっていきます。多職種でカンファを行うことでチーム治療を進めております。 

当科では標準治療をベースに行うとともに、多くの臨床試験や治験に参加しており、より患者さんにふさわしい治療は何かを常に追求しつつ日々の診療を行っております。

参加している治験・臨床試験(抜粋)

・進行癌に対する全身療法が未治療のエストロゲン受容体陽性HER2陰性進行乳癌患者を対象として、AZD9833(経口SERD)+パルボシクリブの併用療法とアナストロゾール+パルボシクリブの併用療法を比較する第III相ランダム化二重盲検多施設共同試験(SERENA4)

・ HER2 陽性進行・再発乳癌におけるトラスツズマブ、ぺルツズマブ、タキサン併用療法とトラスツズマブ、ぺルツズマブ、エリブリン併用療法を比較検討する第Ⅲ相臨床研究(JBCRG-M06:EMERALD)

・エストロゲン受容体陽性・低リスク非浸潤性乳管癌に対する非切除+内分泌療法の有用性に関する単群検証的試験(JCOG1505:LORETTA試験)

・薬物療法により臨床的完全奏効が得られたHR陰性HER2陽性原発乳癌に対する非切除療法の有用性に関する単群検証的試験(JCOG1806:AMATERAS-BC試験)

・高齢者HER2 陽性進行乳癌に対するT-DM1 療法とペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセル療法のランダム化比較第III 相試験(JCOG1607:HERB TEA試験)

・切除不能または再発乳がんにおけるT-DXd治療期間中のePROモニタリングの有用性を検討するランダム化比較試験(PRO-DUCE)

・トリプルネガティブ乳癌患者に対するアテゾリズマブの前向き観察研究(JBCRG-C08:ATTRIBUTE)

・切除不能進行がんおよび転移・再発固形がん患者に対するElectronic Patient-Reported Outcome (ePRO)モニタリングの有用性を検証する多施設共同非盲検ランダム化比較試験(PRO-MOTE)

 

(3) 放射線治療:術後補助療法や再発時の緩和照射として年間170例程度の放射線治療を放射線治療部で行っています。

 

(4) 緩和医療:がん診療では早期の緩和医療の導入が必要であるとされています。当院には緩和ケア科があり、連携して治療にあたっています。また、多臓器転移に伴う症状に対しそれぞれの臓器に対応した専門診療科との連携を取り、全人的な医療を行っています。

 

(5) 遺伝子検査、カウンセリング:遺伝性乳癌は全乳癌の約10%程度存在するといわれており、非遺伝性の乳がんと比較し治療法の選択や、術後のサーベイが異なります。また、本人や家族も含め多方面からのサポートが必要となります。保険適応の検査から、自費のパネルによる遺伝子検査まで、遺伝カウンセリング室と連携しカウンセリングを行っております。

 

 

<教育>

乳癌患者はいまだ増加の一途をたどっております。乳癌治療には外科も内科も知識として必要であり、また、病だけをみるではなくその人の背景や人生観を総合的に踏まえて患者さんと接していく必要があります。様々なことに興味があり、多くを学びたい先生に適した科だと思います。当科では各自がプロの乳腺科医として自律した医師を目指すために、臨床のみならず希望者は大学院進学や臨床研究も積極的行っております。さらに、乳癌学会専門医、がん薬物療法専門医、臨床遺伝専門医、遺伝性腫瘍学会専門医などが取得できる環境にあります。

目の前の症例を大切にするとともにアカデミックな職場を目指しています。ぜひ一緒に働きましょう。