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[医学部]遺伝子を“修復”から“強化”へ ~塩基編集技術を用いた血友病Bに対する新しいゲノム編集治療~

研究情報

背景

 血友病Bは、血液凝固第IX因子(FIX)をコードする遺伝子の変化によって引き起こされる出血性疾患です。これまでの治療は、欠損している凝固因子を外部から補充する「タンパク質補充療法」が中心でしたが、近年では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬が欧米で上市され、新たな治療選択肢として期待されています。

 しかし、従来の遺伝子治療は「外来性に機能的な遺伝子を補う」いわば遺伝子補充療法であり、疾患の原因となるゲノムDNA上の変化そのものを修復するものではありません。一方、近年注目されているゲノム編集治療は、遺伝子の変化を直接修復できる技術ですが、患者ごとに異なる変異に対応するオーダーメイド治療の開発が必要であり、実用化には高いハードルがあります。

概要

 自治医科大学医学部生化学講座病態生化学部門、北海道大学、徳島大学、京都府立医科大学、東京大学の研究グループは、ヒト血液凝固第IX因子遺伝子に機能獲得型変異を導入する塩基編集技術を開発しました。

 本研究では、ヒト第IX因子遺伝子を有するマウスを用いて、AAVベクターまたは脂質ナノ粒子(LNP)を投与することで、肝臓細胞内のゲノム情報を改変し、生体内の第IX因子機能を強化することに成功しました。その結果、複数のヒト血友病B患者由来の変異をもつモデルマウスにおいて、血液凝固第IX因子活性の上昇と出血傾向の改善が確認されました。

 本研究は、疾患の原因となる遺伝子変化を「元に戻す」従来の遺伝子修復型ゲノム編集を超え、タンパク質の機能を意図的に強化する“機能獲得型”ゲノム編集治療という新しい治療パラダイムを提示したものです。この戦略は、血友病Bのみならず、他の遺伝性疾患にも応用可能であることが示唆されました。

論文情報

本研究内容は、米国血液学会誌 Bloodに掲載されました。
論文名:Therapeutic base editing to generate a gain-of-function F9 variant for hemophilia B
掲載誌:Blood
DOI: https://doi.org/10.1182/blood.2024027870

その他

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