医学部 School of Medicine

医学部

School of Medicine

教員VOICE

藤田 英雄

さいたま医療センター副センター長
総合医学第1講座

主任教授(循環器内科)藤田 英雄

1989年、東京大学医学部卒業。
1997年、同大学大学院医学系研究科を修了し医学博士に。2000年、北里大学医学部助手・救命救急センター診療講師などを経て、2014年に自治医科大学附属さいたま医療センター循環器内科教授に。2019年より現職。

研究内容

心臓カテーテル治療、および救命救急における心電図伝送システムの開発をはじめ、
臨床医療へのICTの活用、ビッグデータ

カテーテル治療とI C T 活用の
可能性を若い世代と広げたい

循環器内科に目覚めた時の、学生時代の衝撃は今も忘れていません。臨床実習の現場に運び込まれてきた心筋梗塞の患者さんは、顔面蒼白の状態。学生である私の目には、もう助からないと写りました。ところがカテーテル治療を施すと、その最中から顔色に赤みが差し、わずかな入院の後に自身の足で歩いて退院していったのです。生死の瀬戸際にあった患者さんを救った医学の力を目の当たりにし、以来、心臓カテーテルによる治療は、私にとって臨床における最大のテーマとなりました。
カテーテルは血管に挿入する導管。これを体内の患部まで導いた上で管内部にワイヤを通し、心筋梗塞や血栓に対しては、先端に付けたステントという金属製の網でふさがった血管を広げる、といった治療をします。開胸手術が不要なため患者さんの負担は軽減されますが、かつては職人技として捉えられていました。しかし今では材料を含めてデバイスとしてのカテーテルの進歩を含めて、治療法も確立され、予後も飛躍的に向上しました。しかも弁膜症の患者さんに人工弁を入れたり、かつては薬で抑えこむしかなかった不整脈の患部を焼いて治療したりと、カテーテル治療を適用できる疾患も増えています。
附属さいたま医療センターは、カテーテル治療で全国屈指の実績を誇ります。学生や若い医師には、この充実した環境で循環器を含めて総合医療を学んでほしいと考えています。循環器系の疾患は緊急を要し、生命に関わるケースが多く、医療設備が整わない地域で総合医療を提供する医師もカテーテル治療を理解していれば、診断後の治療に迷うことなく患者さんを中核病院に送ることを即決即断できるからです。
1分1秒を争う局面で威力を発揮する、臨床へのICT活用も私の研究テーマです。開発に携わった心電図の伝送システムは、搬送中の救急車内で取得したクラウドサーバーにアップした心電図を複数の医療人が同時に共有して、診断と搬送先の決定と病院前の治療を準備するもの。全国の救命救急の現場ですでに活用され始めていますが、ビッグデータ・AIとともにさらなる発展も必要であり、特にこうした分野では、ICTを当たり前として育ってきた若い世代に期待しています。

 間藤 卓

救命救急センター センター長
救急医学講座

教授間藤 卓

1987年、新潟大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院での内科研修医、リウマチ・アレルギー内科医師、救急部助手などを経て、2009年、埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センター准教授に。2016年より現職。

研究内容

栄養チューブを安全に挿入するための医療機器や、地元の農産物や食品を使った医療用教育機器の開発

かんぴょうを医療に転用した問題意識と注意深い視点

救命救急センターは、医療ドラマの舞台として映画やテレビにも数多く登場します。次々に搬送されてくる重症の急患に私事を捨てて不眠不休で対応し、奇跡のような医術で命を救うスーパーマンのような主人公と、脇を固める個性派の医師たち…。センター長である私が目指すことの一つには、救命救急センターが超人集団であるという、医療界にも根強いイメージを払拭し定着させることにあります。名付けて「ゆる救」のすすめ。医師にも当然、人生や生活があります。それらの犠牲を常に強いられていたのでは、救急救命体制の維持・継続は叶いません。救命救急センターが“普通の医師”にとって働きがいのある職場であり、ドラマで見るような超人的な医師が不在であっても、安定した医療を提供できるチームにしたいと考えています。
一方で救急救命の現場には、臨床研究に直結する課題があふれています。出産や臨終、生死の境をさまようような状態の時、生き物は生命の本質をあらわし、日常の感覚では不思議や神秘と思える現象を起こすことがあります。もともとは基礎研究の道に進もうと考えていた私が、縁あって救命救急に関わったのを機に現在に至るのは、そこに研究の種となる出来事があふれているからです。とはいえ、当たり前と思える風景にも注意深く意識的な視線を向けなければ、せっかくの種を見過ごしてしまいます。解決したい課題を常に蓄えておくことも必要です。メディアで大きく取り上げられた、地元産のかんぴょうを用いた縫合シミュレーターの開発も、縫合の手技を習得するための安価なトレーニング機器がないという教育現場の課題をあらかじめ意識していたからにほかなりません。
患者さんから診断や治療法の選択につながる多くの情報を取得できるのは、臨床経験を積んだ医師だと思います。しかし、ベテラン医師が当たり前と見過ごしてしまうようなことに疑問をはさむ初々しい感覚は、若い人のほうが勝るはず。医療の発展に貢献できる種は、目の前にいくらでもあるのです。

坂東 政司

臨床研究支援センター
内科学講座(呼吸器内科学部門)

教授坂東 政司

1989年、自治医科大学医学部卒業。徳島県内で地域医療に従事した後、1995年米国イリノイ大学シカゴ校留学、2006年、自治医科大学呼吸器内科准教授、2009年、附属病院卒後臨床研修センター長、2016年、医薬品医療機器総合機構(PMDA)などを経て、2018年より現職。

研究内容

全国の卒業生や附属病院の医師・医療従事者に向けて臨床研究の支援と推進を担当。
自身は間質性肺炎などの呼吸器難病に関する臨床研究を継続

日本の未来を先取りするへき地・地域医療における
疑問・課題を臨床研究により解決する

今から20年も前、郷里の徳島県でへき地医療に従事していた頃の話です。当時すでに高齢化率が40%を超える山村の診療所に一人医師として勤務していた時でした。呼吸不全の患者さんに対し在宅酸素療法を施していた私は、在宅医療の原点といえるこの治療法が、へき地の現場で当時どれくらい行われているのかを知りたくなり、アンケート調査を実施しました。四国の山中から発した問いに、全国から回答が寄せられました。卒業生が全国各地で地域医療に取り組む自治医大ならではのネットワークがあってこその調査研究であり、その連携・支援体制は現在私が取り組む臨床研究支援システムの価値ある資源として広く活用されています。
臨床研究は、毎日の診療の中で生まれた疑問から発します。私にとってその第一歩は、症例報告の作成でした。医師が記す体験記録のようなもので、考察には先行する臨床研究のデータを用います。大学院在籍中に基礎研究に従事していたこともあり、その後私もデータを提供する側に立ちたいと思うようになりました。それが、臨床研究を意識して医療に取り組むようになったきっかけといえます。臨床研究は、一人の患者さんや一つの症例から発見した疑問や課題とその解決法に科学的根拠(エビデンス)を与えます。その点で私は、臨床研究には、真実を深く追究するサイエンス(医の科学)と人間を対象としたアート(医の心)が共存しているように感じています。
私は「ピンチと思うな、チャンスと思え」という言葉を好んで使います。これは知人であるプロ野球選手から教えられたフレーズで、地域医療にも当てはまります。専門性を高めたい医師にとって、へき地で医療に従事することは「ピンチ」と感じるかもしれません。しかし超少子超高齢化や人口減少が進むへき地は、未来の日本の姿。そこで取り組む医療とは、この国に求められる未来の医療を先取りする「チャンス」であり、地域医療から発信する臨床研究には、これからの医療を物語る価値があると考えています。

新保 昌久

医療の質向上・安全推進センター センター長 内科学講座(循環器内科学部門)

教授新保 昌久

1991年、自治医科大学医学部卒業。栃木県内で地域医療に従事。義務年限を終了して以降は、自治医科大学救急医学講座助手、同大学内科学講座循環器内科学部門講師・准教授、同大学附属病院卒後臨床研修センター長などを経て、2017年より現職。

研究内容

臨床では動脈硬化症を中心に患者の予後に関する新規バイオマーカーなどの調査研究。
並行して医療の質的向上、安全性・信頼性の維持・改善に関する調査分析

基礎研究と臨床をつなげ新たな治療法に応用する

自治医大で学んだ大半の医師と同じく、私も義務年限中の関心は臨床に向いていました。へき地医療に従事する傍ら基礎研究に取り組んだのは、科学的・論理的思考への興味と、新たな視点も大切との先輩医師からのアドバイスによるものです。
とはいえ当時は、将来にわたり基礎研究を続けるつもりはありませんでした。自治医大の大学院で遺伝子を導入して血管を新生する研究に力を注いだのも、地域医療に取り組む中で多くの患者さんがいた心臓や血管の疾病に対する効果的な治療法を見いだしたかったため。その思いも、先輩医師が体現する「循環器の急変は、絶対に救わなければいけない」という厳しい診療姿勢に感化されたものです。しかしその後、留学先のハーバード大学で基礎研究と臨床を橋渡しするトランスレーショナル・リサーチを学び、研究と診療を両立させることの意義を理解しました。以後今日まで、臨床と研究の双方を大切にしています。循環器内科医としてキャリアを重ねた今は、後進の育成が最重要課題。学生や若手の医師に向けて強調していることは、エビデンスに基づき可能性と限界を十分に理解した医療を提供することと、その医療を患者さんと家族が納得し受け入れられるようコミュニケーションを徹底することの大切さです。これらは私自身が地域医療を通して得た実感であり、現在センター長を務める医療の質向上・安全推進センターのテーマでもあります。
同センターが追求する「医療の質と安全」は、医師を含めた医療チームが科学的根拠と十分な技能に基づく医療を提供することで、患者さんとその家族、さらにそれを取り巻く社会との間で信頼関係を築くことによって成り立ちます。特に自治医大生が卒業後に取り組む地域医療では、地域が持つ医療資源を最大限活用して安定した医療を提供するために、現場で接する全ての人と結ぶ信頼関係が前提となります。そうした意識を早い段階で養えるよう、同センターは3年生には医療安全に関する講義を、4年生にはBSL直前の実習を担当しています。将来、患者さんを第一に考えた安全な医療を提供するために、プロフェッショナルとして大切なことは何か、学生の間にぜひ理解してほしいと思います。

遠藤 俊輔

さいたま医療センター センター長
総合医学第2講座

教授(呼吸器外科)遠藤 俊輔

1984年、筑波大学医学部卒業。
筑波大学附属病院研修医、マギル大学(カナダ)実験医学研究部門研究員を経て、1992年に自治医科大学呼吸部外科学講座に。その後、同大学外科学講座主任教授・附属病院副院長などを経て、2020年より現職。

研究内容

早期に発見された肺がんに対する内視鏡を用いた手術で、全国有数の実績を持つ。
また、肺と心臓との血流に関する相互関係を研究テーマとする。

「専門の谷間」にも灯をともす
総合診療能力を身に付けてほしい

体中を巡り二酸化炭素を回収した血液は、各臓器の様子を写し取った状態で肺に集まります。そして二酸化炭素を放出し、生命活動のエネルギーとなる酸素を受け取って各臓器に運搬します。肺には全身の状態が現れ、肺の病気は全身に影響を与えます。「肺を制する者は全身を制する」といわれ、全身の疾患を知らなければ肺の病気を十分に治療できないこともあるのです。
私は呼吸器外科の医師として、がん患者の肺の切除や再建を行います。内視鏡や治療薬の進歩に伴い手術の成功率や患者さんの生存率は、かつてに比べて格段によくなりました。ただし、その背景には全身疾患を視野に肺の治療を考えることが重要です。もし肺だけを見て治療を進めた場合、肺の病気は治ったがその他の病気が悪化した、という事態を招くこともあり得ます。また、心臓の疾患や脳卒中、慢性関節リウマチなどの病気にかかると、それぞれの臓器だけでなく肺も傷むことがわかっています。肺が「全身を写す鏡」といわれるのは、そのためです。
現代の医学は診療科の分科が進み、しかもそれぞれが目覚ましい進歩を遂げています。その結果、医師は専門とする診療科のことで手一杯になりがちで、他の分野について関心を示すことができないこともあります。ところが現実には、専門診療科の領域を超えた病気が増えてきました。そうした患者さんを救うためには、いずれかの診療科に属しても総合的な見地で患者さんと向き合うことが必要です。診断においても検査部門から提供される画像だけに頼ることなく、例えば患者さんの顔色や息づかいをよく観察することで多くの情報を得られます。
複数の病気にかかっている患者さんの数は、高齢化により今後さらに増えることでしょう。自治医大の学生は卒業後、それぞれの出身地でそうした患者さんに医療を提供します。「地域医療の谷間に灯をともす」医師を育てることが本学における教育の目的ですが、それと併せて学生には「専門医療の谷間に灯をともす」知識と志をもって、地域医療に尽くすことができるような能力を身に付けてほしいと願っています。

武田 憲彦

分子病態治療研究センター
循環病態・代謝学研究部
附属病院循環器センター内科部門

教授武田 憲彦

1996年、東京大学医学部卒業。
2005年、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。カルフォルニア大学サンディエゴ校生命科学分子生物学分野リサーチフェロー、東京大学医学部附属病院特任講師などを経て、2020年より現職。

研究内容

体内の低酸素状態に適応する生命維持システムにおいて、これを司るHIFという遺伝子の働きと心血管病の関係を明らかにし、心血管病の治療を目指す。

低酸素で働く細胞に着目し
心血管病の原因を解明する

酸素は生命活動を維持するエネルギーとなり、生きていくために不可欠です。一方で体内には、酸素が欠乏した状態で働きが活性化する細胞やシステムも存在します。私たちの研究は、そうした低酸素の環境で活性化する細胞や生命システムと、その働きを導く遺伝子を対象としています。
生命の維持に必要な酸素は、血液によって全身に運ばれます。ところが心筋梗塞や心不全などの心血管病にかかると血流が阻害され、酸欠状態となった臓器や細胞は機能が低下します。このような心臓の病気に対して、これまでは心臓の主な働きをする心筋細胞の研究と治療に多くの目が向けられてきました。心筋細胞は心臓における、いわば中心プレーヤー。実際に心筋細胞に対する治療は一定の効果を上げています。ところが、同じ治療が効果を発揮しないケースもあります。実は心臓には心筋細胞のほかに、線維芽細胞や炎症細胞といったサブプレーヤーも働いています。これらが低酸素状態で活性化する細胞であり、心臓が機能する上で重要な役割を果たしていることがわかってきました。しかし、それらの細胞に着目した心血管病の研究は、ほとんど手が付けられていないのが現状です。そこで私たちは低酸素状態で活性化する細胞とその働きを導く遺伝子に焦点を当て、酸素を切り口とした心血管病の研究を進めるとともに、治療法の開発につなげる基礎研究に取り組んでいます。
私が自治医科大学に着任したのは、2020年4月です。着任して早々に驚いたことは、教員や職員が在学生や卒業生の個人名を挙げて、それぞれが取り組む学修の進度や出身地での医療活動について会話を交わしていることでした。それぞれが所属する診療科や部局にとらわれないやり取りに、学生や卒業生を最優先に考える自治医大のDNAを感じました。現代医学の基礎研究は生命科学や医療工学などの知見を積極的に取り組み、その成果を臨床の現場に提供します。私たちの研究も、それぞれの出身地で地域医療に従事しながら自身のアップデートを図る卒業生に役立ててもらいたく、また基礎研究に興味を持った在学生には、研究室の見学や研究活動の参加を呼びかけたいと考えています。

益子 敏弘

脳神経外科講座
附属病院脳神経センター外科部門

教授益子 敏弘

1985年、自治医科大学医学部卒業。
栃木県内で地域医療に従事し義務年限終了後、1995年に自治医科大学脳神経外科に入局。脳神経外科の専門医を取得し、2003年にアメリカのアルベルト・アインシュタイン医科大学に留学。2020年に現職。

研究内容

附属病院における脳神経外科の診療と併せて、脳神経外科の手術シミュレーションと教育を研究。
手術患者の3Dモデルの開発・製造で特許を取得している。

全国の臨床と教育現場で活用される
脳外科手術の3Dモデルを開発

本学附属病院の脳神経外科で、外来と病棟の患者さんを診ています。専門は脳血管障害としていますが、実際の診療からは脳神経外科の総合医といえると思います。本診療科では年間に約500件の手術を行います。内視鏡やカテーテルによる治療はこの分野でも進歩が著しく、かつてに比べれば患者さんの負担は軽減されました。それでも脳の病気は生命に直結するケースや緊急性を要する病状が多く、診療には確かな知識と技術、積み重ねた経験が求められます。そのため後進の指導も脳神経外科の重要な課題であり、私は脳神経外科手術のシミュレーションと研究を研究課題としています。手術患者の3Dモデルを開発・作製したのは十数年前のことでした。その後改良を重ね、今では若手医師の教育、手術前の検討と練習などに活用されています。また、患者さんや家族に対して事前に手術を説明する際にも用いられており、脳神経外科におけるインフォームドコンセントの推進にも貢献できています。もちろん、医師を目指す学生への指導にも用いられています。
私が自治医大を卒業してから、三十数年が経ちました。教育のための施設や設備はあの頃から格段に進歩し、学びの環境を充実させています。講義や実習を担当し、ハンドボール部の顧問でもあり、さらに2021年度からフリーコース・ステューデントドクター制度のメンターも務める私は、脳神経外科の中では最も学生と接する機会が多い医師だと思います。指導者として、あるいは本学の先輩として今の学生と交流すると、私が学生だった頃と比べて真面目であり勉強熱心であることがうかがえます。一方で「医療の谷間に灯をともす」という設立趣旨と教育理念が明確な自治医大に入学してきた若者の本質は、時代を経ても変わっていないと感じています。脳は未解明な点が多く、現代の医学では治すことができない病気があるのが現実です。しかし治療により助けられる患者さんと助けられない患者さんのどちらに対しても、自身が持つ知識と技術で最善を尽くせる医師になってほしいと、キャンパスでの交流を通じて学生に繰り返し伝えています。

熊谷 秀規

小児科学講座 小児医学部門
とちぎ子ども医療センター 小児科

教授熊谷 秀規

1991年、自治医科大学医学部卒業。。
岩手県内で地域医療に従事し、義務年限終了後はもりおかこども病院(当時)、岩手医科大学を経て、常陸大宮済生会病院の小児科部長に就任。2012年に自治医科大学小児科学講座の講師となり、2019年から現職。

研究内容

小児科学の中でも小児消化器病学を専門とする。
研究テーマのひとつに、小児期の腸内細菌叢の形成、腸管粘膜免疫の発達、および消化管と脳機能の相関関係がある。

未開拓の領域が広く
探究心が刺激される小児科学

小児科は、子どもを対象とする総合診療科です。学生時代からこの分野に関心を持った私は、出身地・岩手県での義務年限履行中も、小児科での勤務を希望しました。幸い県の配慮があって配属された医療機関では大なり小なり子どもを診る機会を得られたので、教室では学ぶことが難しい子どもとのコミュニケーションや親との接し方、”子どもファースト”の医療について、貴重な経験と学びを得ることができました。小児科のない病院では内科に所属しましたが、そこで獲得した成人患者を対象としたスキルを子ども向けに応用し、小児科の診療に活用することもできました。消化管内視鏡検査もその一つ。今では広く行われるようになった子どもへの内視鏡検査に、全国でも早い段階で取り組めたことになります。実は「暗黒の臓器」といわれる小腸の内視鏡検査を可能にした技術は、自治医科大学の卒業生が開発しました。これを継承する後進の一人に加われたことに、私は誇りに思っています。
小児科学の基礎研究に取り組むようになったのも義務年限中のことです。無菌状態で生まれてきた赤ちゃんの腸内に細菌叢が形成される過程や、形成に伴う腸内粘膜免疫の発達は、当時から取り組み今も続く研究テーマとなりました。また、腸と脳との相関関係にも関心を持っています。強いストレスを感じるとお腹の具合が悪くなり、悪化させると潰瘍になるなど、多くの人が腸と脳の状態が影響し合うことを体験的に知っていると思います。腸の細菌叢と、自閉スペクトラム症や肥満との関係も研究が進んでおり、「脳腸相関」と呼ばれる分野の研究も継続したいと思います。
少子化が進む現代、小児科は、開業して儲けようと考えている人には勧められる診療科ではないかもしれません。しかし小児科学の領域には、治療法どころか発症のメカニズムさえ明らかにされていない病気が数多く残されており、医科学への探究心を刺激するテーマに満ちています。何より生まれてきた赤ちゃんが成人になるまでの成長過程に、医師として長期間寄り添えることは、他の診療科にはない喜びになると確信しています。