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[医学研究科]気管支喘息などの慢性炎症の原因となるタンパク質を新たに特定
研究情報
背景
私たちの体の中には、一度侵入したウイルスや細菌を記憶し再感染時に素早くかつ強力に反応する「記憶T細胞(TRM細胞)」が存在する。その中でも組織常在性TRM細胞は、肺や腸などの臓器に常在し、迅速な免疫反応に寄与する。一方で、CD4+TRM細胞は難治性アレルギー疾患などの慢性炎症の悪化にも関与することが知られていた。しかしCD4+TRM細胞の組織内での分化や機能制御のメカニズムは不明であり、本研究ではその解明に取り組んだ。
結果
- アスペルギルス抗原吸入による慢性気道炎症マウスでは、炎症組織に炎症性サイトカインを高産生する炎症性CD4⁺TRM細胞が存在し、この細胞群特異的に転写因子であるHepatic Leukemia Factor(HLF)が発現していた。
- HLF欠損マウスではCD4⁺TRM細胞数が著しく減少し、その結果炎症および線維化が抑制された。
- HLFは、CD4⁺TRM細胞の組織への定着に関わる因子(CD69など)と、組織からの移動に関わる因子(S1PR1など)を直接制御し、組織常在性を制御していた(図説)
- ヒトの慢性炎症疾患においても、様々な組織でHLF陽性CD4⁺TRM細胞の浸潤が確認された。
上記1~4より、本研究では転写因子HLFが、炎症反応を担う免疫細胞であるCD4⁺TRM細胞を特定の組織に定着させる司令塔として機能することを世界で初めて解明した。

今後の展望
本研究によって、HLFが慢性炎症を悪化させる要因となるCD4⁺TRM細胞の分化と炎症亢進に関わるタンパク質であることが明らかになった。この発見により、気管支喘息や自己免疫疾患といった難治性炎症の病態を理解し、新たな治療法開発の可能性が拡がることとなる。今後は、HLFがどのような炎症シグナルで誘導されるのかをさらに明らかにし、臨床応用や創薬に役立てたい。
■用語解説
注1)組織常在性記憶CD4+T細胞(CD4+ TRM細胞): 慢性的な感染や炎症により、皮膚、肺、腸などの組織に誘導され、長期間組織内に定着するCD4+T細胞。病原体の再感染時に迅速かつ局所的な免疫応答を担っているが、炎症を慢性化させる一因となる。
注2)Hepatic Leukemia Factor(HLF): 特定の遺伝子の発現を制御するタンパク質を転写因子と呼ぶ。転写因子の一種であるHLFは、肝臓の細胞が正常に機能するのに重要な役割を担っている。また、従来は造血幹細胞でHLFの発現が知られていたが、本研究により組織常在性記憶CD4+T細胞の形成と炎症促進にも関わるタンパク質であることが明らかとなった。
論文情報
タイトル:Hepatic leukemia factor directs tissue residency of proinflammatory memory CD4⁺ T cells.
著者:Masahiro Kiuchi, Masahiro Nemoto, Hiroyuki Yagyu, Ami Aoki, Chiaki Iwamura, Hikaru Sugimoto, Yuki Masuo, Hajime Morita, Shuhe Ma, Yukiko Okuno, Takahisa Hishiya, Kaori Tsuji, Atsushi Sasaki, Kota Kokubo, Kanae Ohishi, Rie Shinmi, Yuri Sonobe, Tomohisa Iinuma, Syuji Yonekura, Tomomasa Yokomizo, Norio Komatsu, Atsushi Onodera, Shinya Okumura, Takashi Ito, Etsuro Hatano, Tatsuaki Tsuruyama, Yosuke Kurashima, Naoko Mato, Takuji Suzuki, Motoko Yagi Kimura, Shinichiro Motohashi, Eiryo Kawakami, Hideki Ueno, Damon J Tumes, Toyoyuki Hanazawa, Toshinori Nakayama, Kiyoshi Hirahara
雑誌名:Science
DOI:10.1126/science.adp0714
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