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[大学]2回目の同種造血細胞移植における移植前処置強度の選択の最適化を目指して

研究情報

 同種造血細胞移植(HCT)は造血器腫瘍を根治するための有効な治療法です。しかしながら、移植は日和見感染症や、移植片対宿主病(GVHD)といった、多くの合併症を引き起こす可能性があり諸刃の剣ともいわれる治療法になります。このような多くのイベントを乗り越えて移植されても、初回のHCT(HCT1)の後に造血器腫瘍が再発することは、残念ながら経験されます。このような移植後に再発された患者さんに対して、諸々の状況が許せば、2回目の造血幹細胞移植(HCT2)を行うことがあります。HCTは前処置と呼ばれる強力な抗癌剤や放射線照射を残存する腫瘍撲滅の目的に行いますが、合併症も引き起こすリスクがあります。こうした合併症による非再発死亡は、HCT2ではその頻度がHCT1と比べて高いということが知られています。そのため強度減弱前処置(RIC)と呼ばれる従来の骨髄破壊的前処置(MAC)と比較して弱い前処置が用いられることがあります。強度を弱めた前処置(RIC)は非再発死亡を減らす可能性がありますが 、一方で造血器腫瘍の再発を増やしてしまう可能性があるため、MACとRICをどのように使い分けるべきなのか、その最適な対象となる患者はどのような方なのか十分にわかってはいませんでした。

 自治医科大学総合医学第一講座(血液科) 大学院生の吉村一樹、分子病態治療研究センター 領域融合治療研究部 教授の仲宗根秀樹を中心とした日本造血・免疫細胞療法学会(JSTCT)合併症ワーキンググループは、JSTCT/JDCHCTが実施する「造血細胞移植と細胞治療の全国調査」によるレジストリデータを用いて大規模症例解析を行い、2回目同種移植に前処置の強度が移植後成績に与える影響に対して検討を行いました。

 本研究ではレジストリデータから、2004年から2018年にHCT2を受けた成人患者2478人を抽出して、HCT2でMACを受けた群(856人)とRICを受けた群(1622人)の比較を行いました。

 多変量解析の結果、RIC群はMAC群と比較して非再発死亡が有意に低いことが示されましたが(HR 0.83, 95% CI: 0.72-0.97, P = 0.018)、全生存率には全体では傾向はみられるものの有意な差までは見られませんでした(HR 0.91, 95% CI: 0.82-1.01, P = 0.075)。

 次に、患者背景をもとにしたサブグループ解析によりRICが予後に与える影響を解析したところ、HCT1後に広範型慢性GVHDを経験した患者さんにおいて、RICが極めて有効であることが分かりました 。この群では、RICはMACに比べて非再発死亡を大幅に低下させ(HR 0.44, 95% CI: 0.29-0.67, P < 0.001)、さらに全生存率も有意に改善させました(HR 0.66, 95% CI: 0.49-0.93, P = 0.015)。この生存改善効果は、広範型cGVHDの既往がない患者さんでは見られませんでした。広範型cGVHDの既往がある患者さんは、不可逆的な肝臓や肺などの臓器障害があり、強力な前処置(MAC)に耐えられず、減弱した前処置(RIC)によって、HCT2後の合併症リスクを減らすことで、臓器不全による死亡リスクが低減されたためと考えられました。

 本研究により、2回目の同種造血幹細胞移植における移植前治療強度を決定する際に、1回目の移植後の慢性GVHDの既往歴が重要な判断材料となることが示されました 。この治験により適切なHCT2における前処置の選択ができるようになると考えられます。

この成果はAmerican Journal of Hematology誌に受理されました。

論文情報

雑誌名:American Journal of Hematology
論文タイトル:Impact of conditioning intensity on clinical outcomes of second allogeneic hematopoietic cell transplantation for relapse after first transplantation
著者: Kazuki Yoshimura, Hideki Nakasone, Masaharu Tamaki, Hiroki Hosoi, Kazuaki Kameda, Naoyuki Uchida, Noriko Doki, Takahiro Fukuda, Satoshi Yoshihara, Yasuo Mori, Hirohisa Nakamae, Masatsugu Tanaka, Yuta Katayama, Tetsuya Eto, Yuta Hasegawa, Shuichi Ota, Satoshi Takahashi, Makoto Yoshimitsu, Fumihiko Ishimaru, Junya Kanda, Yoshiko Atsuta, Kimikazu Yakushijin
DOI: 10.1002/ajh.27709