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[医学部]国産血友病A遺伝子治療を一歩前へ −機能を強化した改変型第VIII因子の開発−

研究情報

背景

 血友病Aは、血液凝固第VIII因子(FVIII)をコードする遺伝子の変化によって引き起こされる出血性疾患です。これまでの治療は、血液中で不足している凝固因子を補う「タンパク質補充療法」が中心でしたが、FVIIIは半減期が短いため、患者さんは生涯にわたり頻回の注射を必要とします。

 近年、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬が欧米で承認・上市され、新たな治療法として期待されています。しかし、その効果は治療後1年をピークに徐々に減弱し、また血友病B(血液凝固第IX因子の異常)に対する遺伝子治療と比べて、はるかに大量のAAVベクターを必要とするという課題があります。

 このため、より少量のウイルスベクターで十分な治療効果を得られ、長期間にわたって持続する遺伝子治療の開発が強く求められています。

概要

 自治医科大学医学部生化学講座病態生化学部門、奈良県立医科大学、東京大学、Nezu Life Sciences、大阪大学、予防衛生協会の共同研究グループは、ヒト血液凝固第VIII因子(FVIII)の凝固活性および分泌効率を大幅に向上させた新規改変型FVIIIの開発に成功しました。

 本改変型FVIIIは、マウス実験において従来型の約8倍の凝固活性と約4倍の分泌効率を示し、細胞内でのタンパク質蓄積が減少するとともに、小胞体ストレス応答の軽減が確認されました。さらに、改変に伴う新たな免疫原性の上昇は認められず、生化学的および構造学的解析の結果から、活性化第IX因子との結合強化および新たな糖鎖修飾による分泌促進機構が示唆されました。また、カニクイザルを用いた前臨床試験では、既存のAAVベクター遺伝子治療薬の約30分の1の投与量で、基準値を上回るFVIII活性を達成しました。

 本研究成果は、血友病Aに対する低用量AAVベクター遺伝子治療を実現するものであり、長期的な治療効果と安全性の両立を可能にする新たな技術基盤を提供します。本技術により、国産の血友病A遺伝子治療薬の実用化が大きく前進することが期待されます。

論文情報

本研究内容は、米国血液学会誌 Bloodに掲載されました。
論文名:Engineered coagulation factor VIII with enhanced secretion and coagulation potential for hemophilia A gene therapy
掲載誌:Blood
DOI: https://doi.org/10.1182/blood.2025028481

その他

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