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[医学部]脂質ナノ粒子を用いた塩基編集により血友病Bの原因遺伝子変異をマウスで修復

研究情報

概要

 自治医科大学医学部病態生化学部門と北海道大学の研究グループは、新型コロナウイルスワクチンにも用いられている脂質ナノ粒子(LNP)*1を利用し、塩基編集*2(アデニン塩基編集:DNA中のAをGへ書き換える技術)用のmRNAとガイドRNAを肝臓へ送達することで、血友病Bの原因となるF9遺伝子のナンセンス変異*3を直接修復するゲノム編集治療技術を開発し、マウスでその効果を検証しました(図)。

 血友病Bは、肝臓で産生される血液凝固第IX因子(FIX)をコードするF9遺伝子の変異によって発症する遺伝性出血性疾患です。近年、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター*4を用いた遺伝子治療が実用化され、10年以上にわたりFIX発現を維持できることが示されています。しかし、この治療法は正常なF9遺伝子を体内へ追加する「遺伝子補充療法」であり、患者が本来持つ原因変異そのものを修復するものではありません。また、AAVに対する免疫応答や再投与が困難であること、また小児が適応にならない、などの課題も残されています。

 本研究では、脱アミノ化酵素を結合したCas9 mRNAとガイドRNAを組み合わせたゲノム編集システムを用い、塩基編集によって修復可能な6種類のF9ナンセンス変異について検証を行いました。その結果、培養細胞においてすべての変異で遺伝子修復を達成しました。さらに、患者変異を発現する血友病BマウスモデルにmRNAとガイドRNAを封入したLNPを静脈内投与したところ、F9遺伝子の病的変異が最大70%以上の効率で修復され、血中FIXレベルの回復と血液凝固能の改善が認められました。

 本成果は、従来の遺伝子補充療法とは異なり、疾患の原因となる遺伝子変異そのものを修復する「根治的ゲノム編集治療」の可能性を示したものです。また、LNPを用いた非ウイルス性送達技術を利用することで、再投与や小児期への応用も期待されます。今回確立した技術は、血友病Bのみならず、さまざまな単一遺伝子疾患に対する個別化ゲノム編集医療の実現につながることが期待されます。

 本研究は自治医科大学を令和7年に卒業した沖縄県出身の川口(肥谷)うちな 先生が筆頭著者であり、弊学のフリーコーススチューデントドクター制度を6年次に利用して行った研究成果です。

掲載論文

Hiya-Kawaguchi U, Kashiwakura Y, Baatartsogt N, Lodoi K, Togashi T, Sato T, Tsuchida K, Batjargal K, Hayakawa M, Sato R, Sato Y, Ohmori T. Non-viral delivery of a base editor enables personalized correction of hemophilia B nonsense variants in a mouse model. Journal of Thrombosis and Haemostasis 2026 Jun 11:S1538-7836(26)00382-X [Epub ahead of print].
https://www.jthjournal.org/article/S1538-7836(26)00382-X/fulltext
DOI: 10.1016/j.jtha.2026.06.003.

研究助成

 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)エイズ対策実用化研究事業「血友病が抱える課題の解決を目指した新規治療法・診療体制の創出」(研究代表者:大森 司)、AMED再生・細胞医療・遺伝子治療実現加速化プログラム(再生・細胞医療・遺伝子治療研究開発課題[非臨床PoC取得研究課題])「難治性肝疾患に対する画期的な小児ゲノム編集治療の創出」(研究代表者:大森 司)、AMED再生・細胞医療・遺伝子治療実現加速化プログラム(再生・細胞医療・遺伝子治療研究中核拠点)「次世代医療を目指した再生・細胞医療・遺伝子治療研究開発拠点」(研究開発担当者:大森 司)、科研費(Japan Society for the Promotion of Science [JSPS] KAKENHI [JP23K27510])(研究代表者:大森 司)、公益財団法人 内藤記念科学振興財団(研究代表者:大森 司)、などの支援により行われました。

用語解説

*1LNP:遺伝子治療やワクチンに使う遺伝情報を体内の細胞へ安全かつ効率よく届けるための、脂質でできたカプセル用の物質。
*2塩基編集:DNAの文字(塩基)を1文字だけ正確に書き換えることで、病気の原因となる遺伝子変異を修復する新しいゲノム編集技術。
*3ナンセンス変異:遺伝子の途中に『終わり』の信号が生じてしまい、本来必要なタンパク質が最後まで作れなくなる変異。
*4AAVベクター:必要な遺伝子を体内の細胞へ運ぶために利用される、病原性のないウイルスを改良した遺伝子の運び屋。様々な遺伝子治療に用いられる。

お問い合わせ先

〈研究に関する問合せ〉
自治医科大学 医学部 生化学講座 病態生化学部門
准教授 柏倉 裕志(かしわくら ゆうじ)、教授 大森 司(おおもり つかさ)
Tel:0285-58-7324 E-mail:[email protected]; [email protected]
〈報道に関する問合せ〉
自治医科大学 研究推進課
Tel:0285-58-7550 E-mail:[email protected]