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[医学部] 神経膠腫の網羅的メタボローム解析から脂肪酸代謝の役割を解明

研究情報

イソクエン酸脱水素酵素(IDH)に変異を認める神経膠腫は、変異のない神経膠腫よりも予後良好であると報告されています。しかしながら、何故IDHに変異を持つと予後が良いのか、その機序は十分解明されていませんでした。

今回、自治医科大学脳神経外科学講座 宮田五月、機能生化学部門 遠藤仁司、冨永薫、坂下英司らの研究グループは、神経膠腫患者サンプルの網羅的代謝物解析を行い、代謝の変化を確認し予後良好の機序を解明しました。

IDH変異を有する神経膠腫は、酵素活性を変化させ腫瘍代謝物2HGを産生し、様々な代謝変化をもたらします。その代謝変化を解明するために、神経膠腫患者サンプルと神経膠芽腫細胞株の網羅的代謝解析を行い、その代謝プロファイルを詳細に比較検討したところ、IDHに変異を持つ患者サンプル群でのカルニチンとアシルカルニチンの著減を明らかにしました。IDH変異群ではカルニチン合成系が抑制されることにより、脂肪酸代謝が抑制され、ATPが枯渇すると考えられました。その結果として、腫瘍細胞の増生が抑制されると考えられます。

この成果は、癌細胞の分子生物学的機序の一つを解明するとともに、IDH変異を有さない神経膠腫の治療標的になる可能性も示しています。また、神経膠腫以外の癌にも応用できる可能性があり、今後の発展が期待されます。

 

この成果はNature姉妹誌のScientific Reportsに掲載されました。

掲載論文

Comprehensive Metabolomic Analysis of IDH1R132H Clinical Glioma Samples Reveals Suppression of β-oxidation Due to Carnitine Deficiency

著者

Satsuki Miyata(宮田 五月), Kaoru Tominaga(冨永 薫), Eiji Sakashita(坂下 英司), Masashi Urabe(卜部 匡司), Yoshiyuki Onuki(大貫 良幸), Akira Gomi(五味 玲), Takashi Yamaguchi(山口 崇), Makiko Mieno(三重野 牧子), Hiroaki Mizukami(水上 浩明), Akihiro Kume(久米 晃啓), Keiya Ozawa(小澤 敬也), Eiju Watanabe(渡辺 英寿), Kensuke Kawai(川合 謙介), Hitoshi Endo(遠藤 仁司)

掲載雑誌: Scientific Reports

DOI: https://www.nature.com/articles/s41598-019-46217-5