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[医学部]脳障害からの回復を促進するメカニズムを解明-脳組織液中のカリウムイオン濃度の正常化が鍵-
研究情報
要旨
お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系の毛内拡 助教(理化学研究所(理研)脳神経科学研究センター 客員研究員)、神経グリア回路研究チームの平瀬肇 チームリーダー(研究当時、現コペンハーゲン大学教授)、自治医科大学の篠原良章 教授らの国際研究グループ※は、マウスを用いた研究により、高カリウムが誘発する急性脳機能不全(皮質拡延性抑制)からの回復が、アドレナリン受容体遮断薬[1]によって促進することを発見しました。皮質拡延性抑制は、脳卒中や片頭痛に代表されるさまざまな脳障害に伴う現象であり、本研究成果は、脳機能回復を支援する治療法の開発に貢献すると期待されます。
正常な脳活動には、脳組織液中のカリウムイオン(細胞外K+)濃度が、細胞内よりも数十倍低く保たれている必要があります。ところが、脳卒中などの脳障害によって急激な細胞外K+濃度の上昇が引き起こされると、障害部位からは次々と細胞外K+濃度上昇を誘発する異常興奮の波が発生し、やがて大脳皮質全体に伝播します。この波が去った後の脳組織では、長期にわたる脳機能不全が引き起こされます。脳には、このような機能不全から自力で回復する仕組みが備わっており、脳組織液中のK+濃度の正常化がその鍵を握っていると考えられます。しかしながら、薬剤投与などによって脳組織液中のK+濃度を正常化するという観点から、急性脳機能不全からの回復法を検討した研究はされていませんでした。
理研の神経グリア回路研究チームはこれまで、光血栓法[2]と呼ばれる方法で作製した脳卒中モデルマウスにおいて、アドレナリン受容体遮断薬が、脳損傷を軽減する現象を報告してきました注1)。また、そのメカニズムの一端として、細胞外K+の排出(クリアランス)機構の促進を指摘してきました。今回、国際共同研究グループは、アドレナリン受容体遮断薬が一般的な脳障害からの回復にも有効かどうかを検討するために、さまざまな脳障害に共通して生じる皮質拡延性抑制からの神経活動の回復を評価しました。神経活動の指標である脳の電気的な活動と同時に脳組織中の細胞外K+濃度を直接測定した結果、急上昇した細胞外K+濃度が徐々に正常化するにつれて、神経活動も回復していきました。一方、遮断薬の投与によって、細胞外K+濃度の正常化が促進し、それに伴い神経活動の回復も有意に早まることを見いだしました。さらに、神経活動の回復には、脳細胞の一種であるアストロサイト[3]の細胞内Ca2+上昇が、重要な働きを担うことを見いだしました。これらの結果から、アドレナリン受容体遮断薬による脳機能回復の促進が、アストロサイトのCa2+上昇とは独立している機序に基づくことが示唆されます。
研究成果は、英国の総合科学雑誌『Scientific Reports』のオンライン版(4月14日付)に掲載されました。
原著論文情報
Hiromu Monai, Shinnosuke Koketsu, Yoshiaki Shinohara, Takatoshi Ueki, Peter Kusk, Natalie L. Hauglund, Andrew J. Samson, Maiken Nedergaard & Hajime Hirase, Adrenergic inhibition facilitates normalization of extracellular potassium after cortical spreading depolarization. Sci Rep 11, 8150 (2021). https://doi.org/10.1038/s41598-021-87609-w
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