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[医学部]日本IDDMネットワークと受託事業契約を締結したことのオンライン記者会見を行いました

研究情報

2021年8月23日(月)、日本IDDMネットワークが支援する1型糖尿病の克服に向けた研究開発への「循環型研究資金」による受託事業契約を締結したことに伴い、研究助成金贈呈式および研究発表のオンライン記者会見を行いました。

日本IDDMネットワークからは井上龍夫理事長、本学からは、永井良三学長、花園豊教授、谷原史倫准教授が出席いたしました。

全国の1型糖尿病患者・家族を支援する認定特定非営利活動法人日本IDDMネットワークと自治医科大学は1型糖尿病の克服に向けた研究開発への「循環型研究資金」による受託事業契約を締結いたしました。本研究助成は、研究成果により研究機関が対価を得た場合は、日本IDDMネットワークが提供した資金を上限にその研究資金が日本IDDMネットワークに還元される形態の助成金であり、本学が4例目となります。会見では本学の成り立ちや理念、糖尿病治療への取り組み、本学のブタ実験施設である先端医療技術開発センターの活動などを紹介し、本研究開発の詳細や日本IDDMネットワークとの連携について発表しました。

研究について 

  • 研究課題名:ゲノム編集技術を用いた自己免疫機能の改変による
          自然発症1型糖尿病モデルブタの開発
  • 研究者:先端医療技術開発センター 動物資源ラボラトリー 准教授 谷原史倫
  • 研究資金:400万円(200万円/年を2年間継続)
  • 研究概要:ブタは身体の大きさや特徴がヒトに近く、ヒトとマウスを橋渡しする優れた実験動物として注目されています。本研究ではゲノム編集という技術を用いてブタで自己免疫疾患を誘発し、1型糖尿病のモデルブタ研究へと展開します。方法としては、自己免疫に関連するPD-1遺伝子とPD-L1遺伝子が同時に完全破壊されたブタを、私たちが独自に開発したブタ受精卵へのゲノム編集法であるGEEP法により作出します。一般的にブタで複数の遺伝子を同時に破壊することは非常に困難とされてきましたが、最先端の技術を活用することによりその課題を克服します。その受精卵から生まれた子ブタは1型糖尿病を発症しやすくなることが予想され、1型糖尿病のOn/Offを自在に制御できるモデルブタの開発に繋がります。このモデルブタは1型糖尿病の発症機序を解明したり、治療薬を開発したりする研究を通じて、1型糖尿病の克服に貢献できると考えています。

用語解説

1型糖尿病とは

原因不明で突然、小児期に発症することが多く、現在の医学水準では発症すると生涯にわたって毎日4-5回の注射又はポンプによるインスリン補充が必要となります。インスリンの補充がないと数日で死に至る難病です。糖尿病患者の大半を占める生活習慣病と称される2型糖尿病に対し、国内での年間発症率は10万人当たり1-2人と稀少な疾患であり、患者と患者家族の精神的・経済的負担が非常に大きいのが現状です。

(疾患)モデルブタ

現在実験動物として多く用いられているのはマウスやラットなどの小型げっ歯類です。しかし、サイズの問題から必ずしもヒトと同等の処置ができるわけではなく、また得られた実験結果をヒトに当てはめるのが難しいことがあります。ブタはサイズがヒトに近く、ヒトと同じく雑食で夜行性ではない等、実験動物としてマウスやラットにはない性質を持ちます。外科的処置や遺伝子改変によりヒトの疾患を再現したモデルブタを作出し、新たな治療法や医薬品、医療機器等の開発で使用することで、精度の高い橋渡し研究が可能になると期待されています。 例えば本研究で作出を目指している糖尿病モデルブタでは、ヒト用に開発された医療機器を試用でき、マウスでは実施が難しい透析や網膜の治療なども可能であるため、糖尿病合併症の研究にも活用できると考えられます。

ゲノム編集

ゲノム編集核酸を細胞や受精卵に導入することで、DNAの任意の箇所を切断することができる技術です。切断されたDNAはその修復過程でエラーを起こすことがあり、遺伝子の破壊を誘発することができます。例えば、受精卵にゲノム編集核酸を注入し、その受精卵から子ブタを作ることで特定の遺伝子を破壊したノックアウトブタを作ることができます。 様々な種類のゲノム編集技術が開発されていますが、2020年にノーベル化学賞を受賞したCRISPR/Cas9システムが有名で、現在では多くの研究者が使用しています。

GEEP法

Genome Editing by Electroporation of Cas9 Proteinの略。エレクトロポレーションという電気パルスを用いる方法で、ブタの受精卵にゲノム編集核酸やタンパク質を導入することができます。受精卵に形態的損傷を与えることが少なく、一度に多数の受精卵に高効率にゲノム編集を行うことができます。 【自己免疫疾患とPD-1/PD-L1遺伝子】 PD-1はProgrammed cell death 1、PD-L1はProgrammed cell death 1 ligand 1の略。PD-L1はPD-1が結合する受容体として報告されています。PD-1は免疫機能を担うT細胞に発現しており、PD-L1が発現している細胞を自分の細胞と認識し、攻撃を加えることはありません。このPD-1とPD-L1の一方もしくは両方の働きが損なわれると、T細胞が自分の細胞を攻撃してしまい、自己免疫疾患となります。PD-1欠損マウスでは、マウスの系統(遺伝的背景)により拡張型心筋症や関節炎、1型糖尿病など様々な自己免疫疾患様の症状が出ることが知られています。