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[医学部]アティピカルRASファミリーNKIRASによる抗がん活性の解析

研究情報

自治医科大学生化学講座構造生化学部門、皮膚科学部門、幹細胞制御研究部、慶應義塾大学薬学部衛生化学講座、東京薬科大学生命科学部分子神経科学研究室、国立小児病院小児医療研究センターの研究グループは、遺伝子改変マウスを用いて皮膚幹細胞特異的に発現したアティピカルRASファミリーNKIRASが、がん抑制遺伝子産物として機能することを明らかにしました。本研究は、これまで不明であったがんの発症機構におけるNKIRASの役割を明らかにしたものであり、その研究成果は、英文専門誌であるScientific Reports誌に掲載されました。

低分子量Gタンパク質RASは、細胞の増殖を制御するシグナル分子で、その遺伝子変異は様々ながんの原因となることが知られています。一方で、RASと類似するアミノ酸配列を有するにも関わらず、機能が全く異なる分子種はアティピカルRASファミリーに分類され、これまで50種類近くが同定されています。その一つであるNKIRASは、NKIRAS1とNKIRAS2の二つの分子種が知られています。NKIRASは転写因子NF-Bを阻害するシグナル分子として同定され、その詳細な阻害機構が明らかにされてきました(Tago et al., J Biol Chem, 2010)。しかし一方で、NKIRASの細胞増殖やがん化における機能については、不明な点が多く残されていました。

本研究では、皮膚幹細胞特異的にNKIRAS2を発現するために、ケラチン15(K15)のプロモーターの下流に繋げたNKIRAS2遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(TGマウス)を樹立しました。このマウスでは、皮膚の毛包特異的なNKIRAS2の発現が確認されました。野生型のマウスと比較して、NKIRAS2 TGマウスでは大きな皮膚の異常は見出されませんでした。しかし、DMBAおよびTPAの処理による化学発がん実験を行いましたところ、NKIRAS2 TGマウスの皮膚における化学発がんは顕著に抑制されることが明らかになりました。DMBAは、RAS遺伝子に突然変異を誘導することが報告されているため、NKIRASはRASの発がんシグナルに対して抑制的に作用する新規のがん抑制遺伝子産物であることが示唆されました。一方、マウス線維芽細胞を用いてRAS変異体による細胞がん化(形質転換)に対するNKIRASの影響を検討したところ、NKIRASの高発現はRAS変異体による発がんシグナルを抑制する一方で、中程度の発現はむしろRAS変異体による細胞がん化を促進することが明らかになりました。

RAS遺伝子の変異は多くのがんの原因となることから、RASシグナルの制御機構の解明は抗がん剤の開発研究において重要な課題の一つです。本研究により、NKIRASの発がんシグナルにおける役割は、細胞種および発現量によって異なることが明らかになってきました。現在、その理由は不明ですが、一方でNKIRASが様々なタンパク質と相互作用し、シグナル複合体を形成していることが分かっています。NKIRASの相互作用分子に、その発がんシグナルにおける役割を紐解く鍵があると考え、現在解析を進めています。