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[医学部]性別不一致造血細胞移植における男性患者血液腫瘍中のY染色体欠損の臨床的意義
研究情報
性別不一致造血細胞移植における男性患者血液腫瘍中のY染色体欠損の臨床的意義
～同種免疫の抗腫瘍効果からの回避～
同種造血幹細胞移植は血液腫瘍や造血不全などの根治を目的とした、きわめて強力な治療法です。しかしドナーリンパ球が正常臓器を攻撃することで移植片対宿主病（GHVD）を発症し、しばしば患者さんの重篤な後遺症および死亡につながることが課題となっています。一方でドナーリンパ球は腫瘍細胞に対しても免疫反応による攻撃を行い（移植片対白血病効果：GVL効果）、血液腫瘍の再発抑制に関与していると考えられています。
女性ドナー・男性レシピエントの性別不一致移植におけるGVHDのターゲットの一つとして、マイナー抗原の一つであるY染色体抗原が考えられております。造血細胞中のY染色体は加齢とともに欠損することが知られていますが、血液腫瘍細胞でもY染色体の欠損がみられることがあります。しかし、血液腫瘍におけるY染色体の欠損が、移植後のGVHDやGVLによる再発抑制にどのような影響を及ぼすかは分かっていませんでした。
自治医科大学総合医学第1講座（血液科）大学院生の玉置雅治、学内准教授の仲宗根秀樹を中心とした日本造血・免疫細胞療法学会（JSTCT）合併症ワーキンググループは、JSTCT/JDCHCTが実施する「造血細胞移植と細胞治療の全国調査」によるレジストリデータを用いて大規模症例解析を行い、同種造血細胞移植前の血液腫瘍中のY染色体欠損の意義について検討を行いました。
研究チームは女性ドナー・男性レシピエントの同種造血細胞移植において、移植前骨髄染色体検査でY染色体が欠損している症例と保たれている症例で予後の比較を行いました。その結果、Y染色体欠損症例では再発リスクが増加し（HR 1.40 [95% CI: 1.08 – 1.80]）、全生存率が不良となることが判明しました（HR 1.24 [95% CI: 1.00 – 1.53]）。この結果は、Y染色体抗原欠損によってGVL効果が減弱することに伴い、再発リスクが増加したことが原因ではないかと考えられました。マイナー抗原であるY染色体抗原欠失がGVL効果減弱・腫瘍免疫回避に関わる可能性を臨床的に初めて示したものであり、高く評価されました。 今後のGVHD、GVL効果の一端を担っていることからその病態生理の解明や治療開発に寄与するものであると考えられます。
この成果は、英文科学雑誌のBlood Advancesに掲載されました。
本研究は、JSPS KAKENHI (JP21K07070, 代表 仲宗根秀樹)のサポートを受け実施されました。
発表雑誌
雑誌名：Blood Adv. 2022 Mar 22;6(6):1895-1903.
論文タイトル：Deletion of Y-chromosome before allogeneic hematopoietic stem cell transplantation in male recipients with female donors.
著者：Masaharu Tamaki, Kazuaki Kameda, Shun-ichi Kimura, Naonori Harada, Naoyuki Uchida, Noriko Doki, Masatsugu Tanaka, Kazuhiro Ikegame, Masashi Sawa, Yuta Katayama, Shigesaburo Miyakoshi, Takahide Ara, Junya Kanda, Makoto Onizuka, Takahiro Fukuda, Yoshiko Atsuta, Yoshinobu Kanda, Kimukazu Yakushijin, Hideki Nakasone
DOI番号：10.1182/bloodadvances.2021006456.