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[医学部]造血幹細胞移植後の膵萎縮とその臨床的意義を明らかに

研究情報

同種造血幹細胞移植は血液疾患に対する根治的な治療方法ですが、合併症としてドナーリンパ球が患者の組織を攻撃する移植片対宿主病(graft-versus-host disease, GVHD)があります。GVHDは生活の質に影響を与えるだけでなく、重篤化して死に至ることもあります。移植から約3か月以降に発症する慢性GVHDでは、自己免疫疾患に類似した症状が多臓器・多部位に出現します。
これまで、症例報告などで、慢性GVHDに伴って膵臓の萎縮が起こることや、萎縮した膵臓が回復する可能性があることが報告されていました。しかし、多数症例を解析した研究がなく、その実態は不明のままで、どのような患者で膵臓が回復しやすいか、体重減少など膵萎縮に伴う症状は時間経過とともにどう変化するか、膵萎縮が生命予後にどのような影響を与えるかは分かっていませんでした。

自治医科大学総合医学第1講座(血液科)大学院生の岡田陽介、学内准教授の仲宗根秀樹、教授の神田善伸を中心とした研究チームは、自治医科大学附属さいたま医療センターで同種骨髄・末梢血幹細胞移植を行った170人の移植データと、これらの患者のCT画像を用いて、移植後に発症する膵萎縮の発症頻度やその臨床的意義について検討を行いました。

移植前と比較して、移植後に20%以上の膵萎縮が55人(32.4%)の患者に見られました。このうち、膵萎縮の回復が11人(20%)に認められました。これは3人に1人が膵萎縮を示し、そのうち5人に1人が回復したことになります。
これまでの報告と同様に、膵萎縮がみられた患者では、中等度から重症の慢性GVHDが多く見られました。膵臓の回復は、女性ドナーから男性患者に移植が行った場合に見られやすいことがわかりました。なお女性から男性への移植はGVHDが起こりやすい組み合わせと考えられていますが、GVHDの改善とともに膵萎縮も回復したと考えられます。一方、GVHD治療のために免疫抑制剤を長期に継続する必要のある患者の膵臓は、回復が見られにくいこともわかりました。まとめると、慢性GVHDのリスクが高い患者や、実際に慢性GVHDを発症してしまった患者で移植後に膵萎縮がみられやすいものの、免疫抑制剤を中止できる程度まで慢性GVHDが抑えられると膵臓の回復が期待できると考えられました。
また、膵萎縮のない患者は、移植後に一度落ちた体重は徐々にもとの体重近くまで回復しましたが、膵萎縮のある患者では体重がなかなか戻らず低下したままでした。生命予後に関しては、膵萎縮のある患者では、非再発死亡のリスクが上昇し(HR 8.75 [95% CI: 3.52 – 21.7])、全生存率の低下がみられました(HR 4.91 [95% CI: 2.92 – 8.24])。この結果は、移植後に膵臓サイズを経過観察することの重要性を示していると考えられました。

このように臨床現場における現象の輪郭をはっきりさせ、予後に与える影響を明確に示したことで、移植後合併症の一つとして、広く認知されることにつながります。移植に携わる血液内科医だけではなく、放射線科医、消化器内科医、管理栄養士などとの協力のもと、早期診断や治療など総合的な取り組みにつながることが期待されます。

この成果は、英文科学雑誌のJournal of Gastroenterologyに掲載されました。

DOI: https://doi.org/10.1007/s00535-022-01881-9