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[大学]脳内鉄蓄積神経変性症で知的・運動障害を伴うオートファジー病 SENDA/BPANの病態解明と治療開発

研究情報

脳に鉄が貯まる神経変性疾患で知的・運動障害を生じるオートファジー病
SENDA /BPANの病態を解明、治療開発の道を拓く

 SENDA /BPAN*1は、小児期から知的発達が停滞し、成人期になるとパーキンソン様症状など運動障害を呈し、数年で臥床状態となる遺伝性神経変性疾患です。脳内に鉄が蓄積する神経変性症(NBIA)の一つで、大脳基底核を中心に大脳に鉄が貯まることが特徴です。原因遺伝子のWDR45はオートファジー*2に重要な分子WIPI4をコードしています。しかし、他のオートファジー関連遺伝子変異による鉄代謝に関連した異常は知られていません。WDR45が鉄代謝にどのように関与しているかは全く不明で、SENDA /BPANに対する治療法もないため、WDR45と鉄代謝の関係を解明し、治療法の開発につなげることは重要な課題でした。

 自治医科大学小児科学講座の月田貴和子・学振特別研究員(PD)、村松一洋・准教授らは、SENDA /BPAN患者の線維芽細胞を用いた本研究において、WDR45変異がオートファジー機能を低下させることに加えて、NCOA4の発現低下を介して鉄代謝機構を障害することがSENDA /BPANの病態の本質であることを明らかにしました。さらに、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを利用してWDR45を患者細胞に遺伝子導入したところ、WIPI4だけでなくNCOA4やその他の鉄代謝関連分子の発現も健常状態に回復し、SENDA /BPANの病態が是正されることを示しました。

 鉄は二価鉄(Fe2+)と三価鉄(Fe3+)の2種類で体内に存在し、このうちFe2+は様々な生化学反応に利用されます。しかし、過剰なFe2+は活性酸素種を生じて細胞を傷害します。そのため、細胞内の鉄は厳格に管理されています。トランスフェリン受容体とdivalent metal transporter 1(二価金属トランスポーター1:DMT1)は細胞内に鉄を取り込み、フェロポルチン(FPN)は細胞から鉄を排出します。また、過剰なFe2+は酸化されて無害なFe3+となりフェリチン内部に貯蔵されます。そして、細胞が鉄を必要とする時にはフェリチンを分解し、内部のFe3+をFe2+にして利用します。フェリチンを特異的に分解するオートファジー機構はフェリチノファジーと呼ばれます。NCOA4はフェリチンに結合して、フェリチノファジーを誘導します。

 患者細胞では、WIPI4だけでなくNCOA4の発現が低下し、フェリチンとFe3+が増加、Fe2+が減少していました。これは、フェリチノファジーの障害により鉄がFe3+としてフェリチンに貯蔵された状態で細胞に蓄積し、Fe2+として利用できない状態になっていると考えられます。鉄の流出入に関わる分子のDMT1は増加、FPNは減少し、細胞内のFe2+を補おうとする状態になっていました。また、オートファジー活性自体も、健常者の半分程度に低下していました。患者細胞に、AAVベクターでWDR45遺伝子を導入したところ、WIPI4だけでなくNCOA4やその他の鉄代謝関連分子の発現も健常者と同じ状態に回復しました。以上のことから、SENDA /BPANでは鉄が利用できない状態で蓄積し、細胞が鉄不足に陥ることで機能不全となり、脳神経系への障害が生じているといえます。

 これまで、SENDA /BPANは鉄の過剰が病態の中心と考えられてきました。本研究は従来の説とは反対に、細胞の貯蔵鉄が過剰にも関わらず、フェリチンを分解できないために利用可能な鉄が不足して細胞が傷害されることが病態の本質であることを明らかにしました。さらに、AAVベクターによる遺伝子導入が治療の選択肢としてとても有用であることを示しました。

 本研究は日本医療研究開発機構(AMED)、文部科学省科学研究費、日本学術振興会特別研究員奨励費などによってサポートされました。

論文名、著者名など

本研究成果は、「Brain Communications」に2022年11月23日付け で公開されました。

論文名:WDR45 variants cause ferrous iron loss due to impaired ferritinophagy associated with NCOA4 and WIPI4 reduction
著者:Kiwako Tsukida, Shin-ichi Muramatsu, Hitoshi Osaka, Takanori Yamagata, Kazuhiro Muramatsu

その他

*1 SENDA /BPAN:static encephalopathy of childhood with neurodegeneration in adulthood / β-propeller protein associated neurodegeneration、オートファジー病(https://www.jichi.ac.jp/autophagy/)と、脳に鉄沈着をきたす神経変性疾患の特徴を有する。小児慢性特疾病対象疾患(https://www.shouman.jp/disease/details_next_2021/11_30_086/)にもなっている。

*2オートファジー:細胞内の不要なタンパクや古くなったオルガネラ(細胞小器官)などを、リソソーム酵素で分解する仕組み。分解対象物を隔離膜と呼ばれる脂質膜で包み、オートファゴソームを形成し、リソソームと融合することで内容物を分解する。