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[医学部]国内血友病患者を対象とした抗AAV中和抗体保有率を調査しました

研究情報

 自治医科大学生化学講座病態生化学部門、附属病院臨床研究センター、分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部、情報センターの研究グループは、国内の14箇所の血友病診療施設と連携し、日本人の血友病患者と健常人における抗アデノ随伴ウイルス(AAV)中和抗体の保有率、抗体力価を調査しました1) 。本研究成果は、国内における血友病に対するAAV遺伝子治療の候補患者の割合を推計するのに重要な情報であり、その研究成果が米国遺伝子細胞治療学会のMolecular Therapy-Methods and Clinical Developments誌に掲載されました。

 血友病は血液凝固第VIII因子や第IX因子が遺伝的に欠損する疾患です。第VIII因子の異常が血友病A、第IX因子の異常が血友病Bとして知られ、国内には血友病Aが5,657名、血友病Bが1,252名登録されています(令和3年度 血液凝固異常性全国調査)。血液を固める凝固因子が血中に不足するために、重症の患者では未治療の場合に関節出血を繰り返し、血友病関節症と呼ばれる関節障害をきたします。そのため、重症や重症に近い症例は定期補充療法と呼ばれる定期的な凝固因子製剤の投与を小児期から継続することが一般的です。治療によって関節障害が予防できるものの、繰り返す注射の必要性が患者さんの負担になることは想像に難しくありません。そこで現在は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる遺伝子治療法の開発が進んでいます。AAVベクターを用いた遺伝子治療は、1回の治療で少なくとも数年に渡って血中凝固因子活性の上昇が得られる画期的治療法として注目されています。

 2020年には、小児の難治性遺伝性疾患である脊髄性筋萎縮症(SMA)に対して、国内でもZOLGENSMA®というAAVベクターを用いた遺伝子治療薬が承認されました。しかし、AAVベクターを用いた静脈投与による遺伝子治療は、過去のAAV感染2)に伴う抗AAV抗体が血中に存在すると治療効果が減弱します。血友病に対する遺伝子治療の候補者を推計するためには、それぞれの地域において患者さんの抗AAV抗体の陽性率や力価を適切に評価することが重要です。

 今回の研究では、国内の主要な血友病診療施設の協力を得て、216名の血友病患者、および100名の健常人を対象に、9種類のAAV血清型に対する抗体陽性率、および抗体力価を測定しました。各AAV血清型に対する抗AAV中和抗体陽性率は20~30%で、各血清型間や血友病患者と健常人での差は認めませんでした。一方、血友病患者、健常人ともに60歳以上において中和抗体保有率や抗体力価が明らかに高くなりました。B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス感染との関係はありませんでした。60歳以上の方が保有する中和抗体は複数のAAV血清型に対して交差性を持ち、多変量解析で複数のAAVに対する中和抗体を保有する規定因子として年齢のみが抽出されました。我々の10年前の調査と比較すると、抗体陽性者のピークが明らかに年長者にシフトしており、60歳以上の方におけるAAVの感染は若年時に生じたものと考えられます。

 他国と比較しても、日本は抗AAV中和抗体の陽性率が低い地域と考えられ、日本における血友病患者の70%前後はAAV遺伝子治療の恩恵をうけることが期待されます。

1) 本研究はAMED(JP18pc0101030)の研究費により行いました。
2) アデノ随伴ウイルス(AAV)はアデノウイルスとは違うウイルスで病原性は明らかでなく、感染しても無症状。