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[医学部]重症血友病B患者由来iPS細胞の点変異を塩基編集ゲノム編集技術で修復

研究情報

自治医科大学生化学講座病態生化学部門、再生医学研究部、東京大学、東京医科大学の研究グループは、遺伝性出血性疾患である重症血友病B患者よりiPS細胞を樹立し、遺伝子配列を書き換える塩基編集という技術によって疾患の原因となる遺伝子異常(点変異)を修復させることに成功しました1) 。本研究は、個別の遺伝子疾患に対するテーラメード医療につながる可能性があり、その研究成果が英文専門誌のCommunications Medicine誌に掲載されました。

2020年のノーベル化学賞にゲノム編集ツール、CRISPR-Cas9の発見が選ばれました。CRISPR-Cas9は簡便にゲノム編集を可能にしたため、医学研究だけでなく、様々な領域での応用が進んでいます。実際に、ヒトを対象とした疾患ゲノム編集治療も行われつつあります。CRISPR-Cas9と呼ばれるゲノム編集ツールは標的とした遺伝子部位に二本鎖DNAの切断(DSB)を引き起こしますが、DSBがゲノム毒性につながる可能性が指摘されています。そのため、Cas9に脱アミノ化酵素を結合させ、特定のDNAを書き換える塩基編集(CからT、AからG)という技術が注目されています。

本研究は、塩基編集技術を用いて重症血友病B患者のiPS細胞の疾患点変異を修復しました。また、疾患点変異をもつ細胞株や遺伝子改変マウスを作成し、実際に疾患点変異の塩基編集治療によって、血友病Bで欠損する血液凝固第IX因子が上昇することを明らかにしました。血友病Bの多くは点変異によって生じ、塩基編集によって約60%の患者さんが治療可能であると予測されます。疾患変異を特異的に修復する塩基編集技術は将来的に、遺伝性疾患の究極の個別療法となる可能性があります。今後は、より効率的な塩基編集治療手法や他の遺伝子部位への影響、などの安全性を含め、詳細な検討を続けていくことで、実際の疾患治療に結びつくと期待しています。

1)血友病:血液凝固第VIII因子、または第IX因子の遺伝子異常による遺伝性疾患。国内に約7000名の患者が存在する。凝固因子は肝臓で作られるタンパク質で血中に存在し、血管に損傷がおきたときに血栓を形成し、止血反応を担う。血友病、特に重症例では出血予防のために、小児期から定期的な凝固因子製剤などの投与が行われている。