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[大学]遺伝子治療に用いるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの効率の良い産生システムを開発
研究情報
概要
AAVベクターは、ウイルスベクター(※)の1種です。元となるAAVがヒトに対する病原性が非常に低いことやベクター由来のDNAがヒトのゲノムに組み込まれる頻度が比較的少ないことから、世界的に安全性の高いベクターとして遺伝子治療を中心に多数の臨床試験で用いられています。しかし、既に臨床応用がされている現行のAAVベクターにおいて、まだ数多くの問題点があることが指摘されていました。その中で、AAVベクターの産生時に非常に多く生じる中空粒子(ゲノムを持たない空の粒子; empty vector)は、不必要な免疫反応や副作用を誘発するため、臨床使用する前に取り除く必要があります。この工程が、製造コストの増加につながり、結果として非常に高額な薬価が設定される一因となっています。
自治医科大学分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部講師の大庭賢二 、瀬原吉英講師、小澤敬也客員教授、水上浩明教授とタカラバイオ株式会社の研究グループは、AAVのプロモーターで制御されてレプリケース(Replicase; Rep)/キャプシド(Capsid; Cap)遺伝子が発現するようになっている1つのプラスミドから、それぞれを分離し、Rep発現はCMVプロモーターで制御、Cap発現はテトラサイクリン依存性プロモーター(TetP)で制御できるように改変したAAVベクター産生法を開発しました(図 参照)(国際特許(PCT) 出願済)。
この改変によるCap遺伝子の発現タイミングの調節によって、広く市販されているAAVベクターシステムと比較して、効率よくAAVベクターが産生できるようになりました。さらに改変AAVベクター産生法は、殆どのAAVベクターのセロタイプに有効で、AAVベクターの細胞に対する感染性やマウスにおけるin vivoでの標的臓器に対する伝播能にも影響を与えずに、多様なセロタイプでAAVベクターの生産性を向上させることが可能となりました。
本研究成果は、権威ある米科学雑誌出版社Cell Pressが出版する「iScience」のオンライン版に公開されました。
(2023年3月23日Online Ahead of Print, 2023年4月21日号)
※ウイルスがもつ毒性をできるだけ取り除き、ウイルスを器(ベクター)として、目的の遺伝子を標的の細胞に届けるツールとして改変されたもの
図. 遺伝子治療に用いるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのこれまでの作製法と新たに開発した方法の違いについて
論文名、著者名など
雑誌名:iScience (Cell Press)
論文タイトル:Adeno-associated virus vector system controlling capsid expression improves viral quantity and quality
著者:Kenji Ohba#, Yoshihide Sehara, Tatsuji Enoki, Junichi Mineno, Keiya Ozawa, Hiroaki Mizukami
# Corresponding author
DOI番号: 10.1016/j.isci.2023.106487
リンク
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004223005643
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(23)00564-3