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[医学部]成人T細胞性白血病患者のHTLV-1特異的な細胞傷害性T細胞の特徴~新規免疫療法開発に向けて~

研究情報

自治医科大学医学部総合医学Ⅰ(血液科)助教の楠田待子、分子病態治療研究センター幹細胞制御研究部 教授の 仲宗根秀樹、総合医学1(血液科)教授の神田善伸を中心としたグループは、成人T細胞性白血病患者(ATL)の実際の患者検体を用いて、ATL発症の原因ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)のタンパク質の一つであるTaxに着目し、Tax特異的なHLA-A02:01拘束性(注1)細胞傷害性T細胞のクローン同定と遺伝子発現プロファイル解析を行い、機能的特徴やその細胞傷害性の特性を明らかにしました。これらの新たな知見は、治療抵抗性をきたしやすく予後不良とされるATLに対する効果的な細胞療法の確立の一助となる可能性があります。

ポイント

・次世代シークセンサーを用いて、細胞傷害性T細胞のT細胞受容体α鎖およびβ鎖の超可変領域(CDR3)(注2)を調べたところ、Tax特異的細胞傷害性T細胞の受容体では、TCRα鎖についてはAV12-2(29.4%)、AV12-1(19.6%)、AV29/DV5(11.8%)とAJ24(40.0%)の組み合わせが多く認められ、β鎖についてはBV28(26.4%)、BV6-5(25.6%)、BV9(9.9%)に対しBJ2-1(24.8%)、BJ2-7(19.0%)、BJ2-5(12.4%)、BJ2-3(14.0%)の組み合わせに偏って遺伝子が利用されていました。また、そのCDR3のアミノ酸配列を調べたところ、α鎖で「DSWGK」、β鎖で「LAG」といった特徴的なアミノ酸モチーフが複数の患者で共通して認められました。

・一般的に、標的細胞のHLA上で提示された抗原ペプチドと攻撃細胞であるT細胞受容体との間の結合親和性が高いほど、T細胞の活性化と細胞傷害性の強度が強いことが知られています。 今回の解析では、TCRβ鎖にBV28遺伝子ファミリーとCDR3に「LAG」のアミノ酸モチーフを有する細胞が、Tax抗原ペプチドと高い結合力を示すことがわかりました。また、長期生存者では、高い結合力を有するTax特異的細胞傷害性T細胞が多く検出される傾向があることもわかりました。実際に「LAG」を持つT細胞クローンを樹立したところ、Tax抗原を提示する細胞に対して高い細胞傷害性を認めました。

・Tax特異的細胞傷害性T細胞遺伝子発現プロファイルの解析では、進行性の病態で早期死亡したATL患者群において、ウイルス感染細胞抑制に関わる分子群の発現の低下などが確認されました。こうしたことから、長期生存者の中のTax特異的細胞傷害性T細胞の中で、TCRβ鎖にBV28遺伝子ファミリーとCDR3に「LAG」をもつT細胞の受容体の全長を同定し、遺伝子導入T細胞を作成することで、新規の免疫療法につながる可能性が出てきました。

・日本人において最多のHLA-A24:02でのTax特異的細胞傷害性T細胞の研究では、すでに「PDR」配列を持つクローンが強い細胞障害性を有することが報告されており、細胞療法として実用化に向けた研究が進んでいます。今回A24:02の次に多いHLA-A02:01についても研究をすすめることで、A24:02とあわせると日本人の約7割のATL患者の治療に貢献できる可能性があります。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) JP21wm0325046(研究開発代表者 仲宗根秀樹)、JP22ck0106740(研究開発代表者 神田善伸)、JSPS科研費JP22K08463(研究開発代表者 神田善伸)、自治医科大学大学院医学研究科若手スタートアップ研究費(研究担当者 楠田待子)の支援を受け行なったものです。

本研究の成果は、科学雑誌「British Journal of Haematology(日本時間;2023年6月15日19:05 DOI:10.1111/bjh.18918)に掲載されました。

発表雑誌

雑誌名:British Journal of Haematology
論文タイトル:Gene expression and TCR amino acid sequences selected by HLA-A02:01-restricted CTLs specific to HTLV-1 in ATL patients
著者:Machiko Kusuda, Hideki Nakasone, Kazuki Yoshimura, Yosuke Okada, Masaharu Tamaki, Akari Matsuoka, Takuto Ishikawa, Tomohiro Meno, Yuhei Nakamura, Masakatsu Kawamura, Junko Takeshita, Shunto Kawamura, Nozomu Yoshino, Yukiko Misaki, Ayumi Gomyo, Aki Tanihara, Shun-Ichi Kimura, Shinichi Kako, Yoshinobu Kanda.
DOI:10.1111/bjh.18918

【図の説明】Circos Plot (右上円形図)で明らかなように、非常に限られたAV、AJ、BV、BJ遺伝子ファミリーが使用されていました。Weblogo(右下グラフ)ではT細胞受容体のα鎖では「DSWGK」、β鎖では「LAG」という特徴的なアミノ酸モチーフを認めました。さらに「LAG」とBV28遺伝子ファミリーの両方を有する場合、そうでない場合と比較すると高い結合力を有し、より長期の生存との関係を認めました(下中央グラフ)。

【用語解説】
注1, HLA(Human leukocyte antigen):白血球の血液型として発見されましたが、今ではほぼ全ての細胞に発現することがわかっている、自己と非自己を識別するための免疫分子。 注2, CDR3(complementarity determining region3):感染免疫に関わるリンパ球の一種である細胞傷害性T細胞は、T細胞受容体を介して、ウイルス感染細胞や腫瘍といった様々な抗原を認識し破壊します。そのためT細胞受容体の抗原結合部位は多様性を獲得しており、それを相補的決定領域(CDR)と呼び、特に超可変領域とされる部分がCDR3と言われています。このためCDR3領域を同定することは、T細胞クローンを同定することと同義であり、抗原との結合親和性の解析を行う上でも重要となっています。