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[医学研究科]ミニブタ血液透析モデルにおいてCPP吸着カラムが異所性石灰化発症を抑制~新規治療デバイスの開発~

研究情報

概要

 高齢化社会を迎えた現在、慢性腎臓病が急増しており、末期腎不全で血液透析を受けている方が本邦だけで30万人、世界では200万人を超えています。透析患者の予後悪化因子として高リン血症が同定されて以来、血中リン濃度を下げるために食事制限などのリン制限が行われています。しかし、リン制限の徹底には限界があり,その効果も不十分であるのが現状です。

 自治医科大学抗加齢医学研究部の黒尾誠教授らの研究グループは、自治医科大学腎臓内科、臨床検査医学、および(株)日本バイオリサーチセンターとの共同研究により、Calci-Protein Particle(CPP)が慢性腎臓病の異所性石灰化に関与することを,(株)カネカと共同で開発した「CPP吸着カラム」を用いた実験で明らかにしました。「CPP吸着カラム」が今後、透析医療の新規治療デバイスとなることが期待されます。

 黒尾誠教授らは、高リン血症が透析患者の予後を悪化させるメカニズムとして「CPP病原体説」を提唱してきました。CPPとは、リン酸カルシウム結晶を吸着した血清蛋白Fetuin-Aの凝集体で、慢性腎臓病の進行に伴って血中に増加してくるコロイド粒子であり、透析患者では血中CPP値が特に高いことが分かっています。CPPには、あたかも病原体のように自然免疫反応や細胞障害を誘導する活性があります。「CPPによる慢性炎症と血管石灰化などの異所性石灰化が慢性腎臓病の生命予後を悪化する」という仮説が「CPP病原体説」です。CPP病原体説を証明するため、CPP吸着カラムを血液透析回路に組み込み、血中からCPPを物理的に除去することで生命予後が改善するか否かをミニブタの血液透析モデルを使って検討しました。両腎を摘出して腎不全を導入したミニブタにリン負荷を行い、CPP吸着カラムを使用した血液透析で治療する「実験群」と、CPP吸着カラムを使用しない通常の血液透析で治療する「対照群」に割り振り、4週後に剖検して治療効果を判定しました。その結果、実験群は対照群よりも血管石灰化などの異所性石灰化が顕著に改善しており、透析開始後4週間の生存率も有意に改善していました。以上の結果は、CPP病原体説の概念実証が成功したことを意味すると同時に、CPP吸着カラムが透析医療の新規治療デバイスとして臨床応用である可能性を示唆しています。

本研究成果は「Scientific Reports」のオンライン版に2023年09月12日付けで公開されました。

論文名

雑誌名:Scientific Reports. 2023 Sep 12;13(1):15026.
論文タイトル:Removal of calciprotein particles from the blood using an adsorption column improves prognosis of hemodialysis miniature pigs
著者:Marina Miura, Yutaka Miura, Yoshitaka Iwazu, Hideyuki Mukai, Takahiro Sugiura, Yuji Suzuki, Masami Kato, Mayumi Kano, Daisuke Nagata, Kazuhiro Shiizaki, Hiroshi Kurosu, & Makoto Kuro-o (Corresponding author)

論文掲載先

https://www.nature.com/articles/s41598-023-42273-0