医学部 School of news

ニュース&トピックス

News & Topics

[医学部]慢性移植片対宿主病における標的抗原の解明

研究情報

概要

 同種造血幹細胞移植は、造血器疾患に対する根治的な治療法の1つです。同種造血幹細胞移植では、ドナー由来の免疫細胞がレシピエントを異物とみなすことにより生じる移植片対宿主病 (Graft-versus-host disease: GVHD)の発症が問題となります。GVHDは発症時期によって急性と慢性に分かれますが、慢性GVHDは有効な治療法が限られ、新規治療法の開発が強く求められています。そのために病態解明が不可欠です。

 慢性GVHDはドナー由来のリンパ球やマクロファージが複雑に絡み合って自己免疫疾患様の症状と呈すると考えられていますが、これらの免疫細胞が一体何を標的にしているかはこれまで不明なままでした。

 そこで、自治医科大学内科学講座血液学部門病院助教の海野健斗、助教の森田薫、教授の神田善伸を中心とした研究チームは、慢性GVHDの強いリスク因子である男性ドナーから男性レシピエントへの同種造血幹細胞移植 (F-to-M移植)に注目し、慢性GVHDの標的の同定を試みました。

 まず、日本造血・免疫細胞療法学会が実施する国内レジストリデータを用いて、HLA一致血縁者間F-to-M移植で、慢性GVHDのリスクとなり得るHLA class IIアレルがあるかどうか解析しました。その結果、リスクを上げるものとしてHLA-DRB1*15:02を、リスクを下げるものとしてHLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*12:01を同定しました。

 次に、ネオ・セルフの形成についてin vitroで解析したところ、H-Y抗原の1つであるDBYタンパクが、ペプチドに分解されないままHLA class IIと複合体を形成し、細胞膜上に効率よく運ばれることがわかりました。DBY/HLA class II複合体に対する抗体が移植後早期に出現する症例では、有意に慢性GVHDの発症リスクが上がりました。さらに、慢性GVHDの皮膚病変では、血管内皮上にDBY/HLA class II複合体が出現し、血管内皮を中心として強い線維化が生じていました。以上より、慢性GVHDにおけるBリンパ球の標的部位は血管内皮であることが示唆されました。

 続いて、日本人に多いHLA-DRB1アレル 22種類全てに関して、DBYとのネオ・セルフの形成のしやすさに関して解析しました。その結果、DBYと最も複合体を形成しやすく、同種抗体とも親和性が最も高いネオ・セルフを形成するアレルはHLA-DRB1*15:02であり、逆にDBYと最も複合体を形成しにくく、同種抗体とも結合しにくいアレルはHLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*12:01であることが判明しました。このことは、HLA-DRアレルがDBYとネオ・セルフを形成しやすいかによって、慢性GVHDのリスクとなるかどうかが決定されることを意味し、DBY/HLA class II複合体の形成は慢性GVHDの発症に極めて重要であることが示唆されました。

 最後に、慢性GVHDが起きると、白血病細胞もドナーリンパ球の標的とされ、再発率が下がることが知られていますが、DBY/HLA class II複合体は、一部の白血病細胞株、白血病検体でも発現していました。つまり、DBY/HLA class II複合体は慢性GVHDと移植片対白血病効果 (Graft-versus leukemia)効果の共通抗原となりうることが示されました。

 私たちは国内のレジストリビックデータと患者検体の解析を通して、DBYとHLA class IIの複合体が血管内皮上に異所性に出現することで、B細胞の標的となり慢性GVHDを引き起こすことを明らかにしました。これらの発見は、今後の慢性GVHDにおける同種抗体や非免疫系細胞の解析だけでなく、GVL効果の新たな作用機序の解明にもつながると考えています。

 本研究は、JSPS科研費JP19K17841, JP22k16309(研究開発代表者 森田薫)、JSPS科研費JP21K07070(研究開発代表者 仲宗根秀樹),自治医科大学大学院医学研究科若手スタートアップ研究費/医学研究奨励賞(研究担当者 海野健斗)の支援を受け行なったものです。。

 本研究の成果は、科学雑誌「Blood」 (doi:10.1182/blood.2023019799)に表紙と共に掲載されました。

自治医大:慢性移植片対宿主病における標的抗原の解明

(上段、中段)
・HLA一致血縁者間F-to-M移植において、慢性GVHD発症を増加させる因子としてHLA-DRB1*15:02、発症を低下させる因子としてHLA-DRB1*09:01, HLA-DRB1*12:01が国内レジストリデータを用いて同定された。In vitroの実験で、HLA-DRB1*15:02は効率よくDBY/HLA class II複合体を形成したが、HLA-DRB1*09:01, HLA-DRB1*12:01ではDBY/HLA class II複合体はほとんど形成されなかった。
(下段)
・抗DBY/HLA class II複合体を認識する抗体の移植後3ヶ月時点での有無は、慢性GVHDの発症リスクとなった。DBY/HLA class II複合体は慢性GVHDの皮膚組織の血管内皮細胞だけではなく、男性白血病細胞に表出していた。

リンク先